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三章
百六十五話 事後承諾
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「という訳で、未踏遺跡の先行探索の依頼を受けることになりました」
「おぉー」
カインとの一対一での内緒話も終わり、開放された俺はチェリーさん達のもとに戻ってすぐ情報を共有した。
といってもパーティ会場でガッツリ話す内容ではないので、大ざっくりに未踏遺跡の依頼を受けることになったよ! という程度の内容だが。
「……いやまぁ、事情を聞いた感じ、断れる雰囲気ではあったみたいだけど、何で受ける気になったの?」
「旅に出るための軍資金が欲しかったんだよ。ハイナ村って拠点を手放す以上、金はいくらあっても困らないだろ? 優勝賞金は何かあった時の最後の砦として温存しておきたいんだよ」
「そっか。想定の倍くらい世知辛い理由だったけど、そういう事ならしょうがないね」
何をするにもまず金が必要というのは、現実でもゲームでも変わらない。確かに世知辛い話だ。
「もちろん、仕事の内容が後ろ暗いものなら断るつもりだったけどな。でも、そういうわけでも無さそうだし、これなら受けてもいいと判断した。受けるかどうかの判断を持ち帰りでチェリーさん達にも確認しようかとも一瞬だけ思ったけどな? でも多分持ち帰っても俺は受ける意思が固まってたし結論は変わらないと思って、受ける方に話を進めといた」
「なるほどねぇ。私はそれで良いと思うよ。私達のリーダはキョウくんなんだから、キョウくんの決めた方針に私達は従うよ。それにキョウくんの性格的に、本当に可否の判断が必要な時はちゃんとこっちに聞いてくれるって思ってるし」
「わたしもキョウに任せる!」
「ハティ も まかせる」
「丸投げかよ! ……まぁいいけど、判断に困る所はバンバン聞くからな!?」
「うんうん、困った時は頼ってくれたまへよ」
くそー、気楽に言いおってからに……
「まぁ最終的な決断は、協会から発行される依頼票の内容を確認してからっていう保険はかけてあるから、よっぽど大丈夫だとは思うよ」
「なら大丈夫だね。心配事の種が減ったことだし、食事してきたら? 食い貯めするんでしょ?」
「おっとそうだった。面倒くせぇ話ししてたせいですっかり忘れてた」
今日ここに来た最大の目的だからな。食いっぱぐれるわけにはいかない。
「わたしもエリスちゃんもも十分堪能したから、腹いっぱい食っといで」
「ん? ハティは?」
「ハティちゃんはあそこ」
指し示された先には貴族のご婦人方の人だかりが。
何事かと近づいてみれば、人の輪の中でハティが餌付けされていた。
貴族女性の差し出した料理をノータイムでモクモクと食い続けるハティと、それを見てホッコリしている御婦人方。
なんか変なアトラクションになってないか?
まぁ小さい子供が無心に何か食べてる姿って妙な可愛さが有るから、あのご婦人方の気持も判らんではない。
というかハティはハティで腹いっぱい食えるし、餌付けしている周りは可愛いものが見られてWINーWINの関係がそこにはあった。
つまり俺が変にツッコミを入れて場を乱す理由は皆無ということだ。
となれば、今度こそ俺は腹いっぱい飯を食うだけだ……!
◇◇◇
「食いすぎた……」
チェリーさんの肩を借りて何とかホテルまで戻ってきた俺は、出来るだけ腹に刺激を与えないように、随分と情けない格好で歩いていた。
「いくらなんでも無茶食いしすぎだって。どんだけ貧乏性なのよ……」
そうは言っても、長年の貧乏暮らしで染み付いた習性はそう簡単に治らないんだよなぁ。
我ながら物への執着は殆どないんだが、事食い物に関してだけはどうにもなぁ。
ガキの頃、施設側のミスで入金が滞った時があって、自分含めて16人のガキが約1週間を500円で乗り切るとかいう無茶を強いられたことがあった。そのせいで頭では大丈夫だと理解していても、つい食えるときに食うという思考に流れちまうんだよな。
ただしタダ飯に限る。
自分の金で暴飲暴食とかとんでもない。金が尽きたら飯が食えなくなるからな!
「キョウ、お腹パンパン」
「うぐ、ちょっとお腹ポンポンするのは勘弁してくれ。マジで苦しい」
「はーい」
「おなか、いっぱい、満足」
俺の何杯も食ってたはずのハティがケロッとしてるのが納得いかん。
というか、アレだけ貪り食っておいて、腹も全く膨らんでいないっていうのはどういう事だ? どう考えてもハティの腹には収まりきらないくらいの量を食っていたはずだが……
もしかして見た目は子供でも胃袋のサイズは狼の姿のままなのか?
「何でも良いけど明後日は対人イベントなんだから変に体調悪いの引きずらないでよ?」
「食中毒にあたったわけでもないし、流石に食い過ぎで何日も寝込むことはない……はず」
しばらくはウンウン唸る羽目になるかも知れないが、消化さえしちまえば元通りのハズだ。多分。
「明後日はみんなでまたあの街におでかけするんだよね? じゃあ明日はどうするの?」
「今日は俺もチェリーさんも割と全力で飛び跳ねまくったから、明日は休養日で良いんじゃないか? 何かあったらきっかり区切りをつけて休む癖つけとかないと、そのうち休むのが面倒臭いとか思うようになるからな」
「妙に実感籠もってるわね。まぁ言ってる意味は分からないでもないけど」
ゲーセン全盛時代の俺がまさにそんなだったからな。
食事も睡眠時間も削ってゲームして、意識が落ちたらそこで睡眠みたいな生活だったし。
10代だけに許される、若さ故の無茶だよなぁ……
「じゃあ、一日好きにして良い?」
「良いぞ? 明日一日は自由時間だ」
「わかった!」
「じゃあ、私もブログの更新作業でもしておこうかな。今回は色々良いネタが有ることだし」
そういやチェリーさんはその仕事があったんだったな。
きっと闘技大会のネタをブログにまとめるんだろう。PvPのアップデート直前で時事ネタにもなるしな。
「キョウくんはどうするの?」
「俺は、かなり身体にガタが来てるし、明日は一日寝て過ごすよ」
「あぁ、キルシュくん相手にかなり無茶してたからねぇ」
外傷なんかは闘技場の治癒術師の人に塞いでもらえたけど、未だに無茶した膝関節とか熱を持ってるように感じるしな。
本格的に壊す前にじっくりと休養を入れて万全の体調に戻したい。
「ふぅ、やっと部屋についたか。長く、苦しい道のりだった……」
「キョウくんだけね……」
だって貧乏性云々は置いておいても、昼間かなり体力使ってお腹がすいてたんですもの。食べ過ぎちまうのも仕方ないじゃないか。
というか、何のかんの言っても、ベッドまで担いでくれる辺りチェリーさんである。面倒見良いよな。
「ほら、寝かすよ? ほいっ」
「ぐはっ!?」
これで、優しく横たえてくれればベストだったんだが、払い腰の勢いでベッドに放り込まれた時は、流石に一瞬中身がはみ出るかと思った。
「変に明日に引きずらない様に今日はさっさと寝る事! OK?」
「お、OK。」
「それじゃ、明日一日は各人好きなように過ごすという事で! 今日はお疲れ様!」
そのままスパーンと扉を閉じていつぞやの様にチェリーさんは去っていった。
ほんと、良い人なんだけど行動が大雑把というかなんというか……
「ふぅ……」
横になると、だいぶ楽になるな。そこそこ歩いたし、多少は食った分の消化も出来たか。
それにしても、長い一日だった。
この間の王都襲撃の時もそうだったが、結構しんどいな。
RPGの主人公はこれに自分から飛び込んでいくってんだから、頭おかしいよなぁ。
俺はもうちょっと穏やかなくらいが良いんだが。少年漫画みたいに立て続けに強敵とぶつかって異次元進化するんじゃなくて、黙々とレベル上げしてるくらいで丁度良いだが。
やっぱり、強くなろうと思ったら地道な反復練習だよなぁ。
貧弱な今のままでは一発貰えばそれで終わる。エドワルトとの戦い……いやあのライノスの時からそれは全く変わっていない。
そうそう簡単に身体を強化できる訳もないし、となれば攻撃を受ける前に圧倒できる攻撃技術か、相手の攻撃を防ぎきる防御技術を強化するしかない。
それらはレベルを上げるだけでどうにかなるようなものではない。それは俺よりもレベルが高く、多種多様なスキルを持つ製品版のプレイヤー達とのPvPで十分理解した。
なら、ガーヴさん流のやりかた……純粋な戦闘訓練と反復練習で腕を磨くしかない。
幸い、俺が辿りつくべき場所はキルシュが示してくれた。アレが今の俺の目指す場所だ。
……手加減したキルシュが目標ってのも情けない話ではあるが、低レベルの俺の目指す位置としては、まぁ妥当なとこだろう。 俺は勇者でもヒーローでもないんだからな。
たった一日頑張っただけでヘトヘトだ。眠くて眠くて仕方がねぇ。
やっぱり……俺は、その他大勢の……ただのプレイヤーで……良いや……。
「おぉー」
カインとの一対一での内緒話も終わり、開放された俺はチェリーさん達のもとに戻ってすぐ情報を共有した。
といってもパーティ会場でガッツリ話す内容ではないので、大ざっくりに未踏遺跡の依頼を受けることになったよ! という程度の内容だが。
「……いやまぁ、事情を聞いた感じ、断れる雰囲気ではあったみたいだけど、何で受ける気になったの?」
「旅に出るための軍資金が欲しかったんだよ。ハイナ村って拠点を手放す以上、金はいくらあっても困らないだろ? 優勝賞金は何かあった時の最後の砦として温存しておきたいんだよ」
「そっか。想定の倍くらい世知辛い理由だったけど、そういう事ならしょうがないね」
何をするにもまず金が必要というのは、現実でもゲームでも変わらない。確かに世知辛い話だ。
「もちろん、仕事の内容が後ろ暗いものなら断るつもりだったけどな。でも、そういうわけでも無さそうだし、これなら受けてもいいと判断した。受けるかどうかの判断を持ち帰りでチェリーさん達にも確認しようかとも一瞬だけ思ったけどな? でも多分持ち帰っても俺は受ける意思が固まってたし結論は変わらないと思って、受ける方に話を進めといた」
「なるほどねぇ。私はそれで良いと思うよ。私達のリーダはキョウくんなんだから、キョウくんの決めた方針に私達は従うよ。それにキョウくんの性格的に、本当に可否の判断が必要な時はちゃんとこっちに聞いてくれるって思ってるし」
「わたしもキョウに任せる!」
「ハティ も まかせる」
「丸投げかよ! ……まぁいいけど、判断に困る所はバンバン聞くからな!?」
「うんうん、困った時は頼ってくれたまへよ」
くそー、気楽に言いおってからに……
「まぁ最終的な決断は、協会から発行される依頼票の内容を確認してからっていう保険はかけてあるから、よっぽど大丈夫だとは思うよ」
「なら大丈夫だね。心配事の種が減ったことだし、食事してきたら? 食い貯めするんでしょ?」
「おっとそうだった。面倒くせぇ話ししてたせいですっかり忘れてた」
今日ここに来た最大の目的だからな。食いっぱぐれるわけにはいかない。
「わたしもエリスちゃんもも十分堪能したから、腹いっぱい食っといで」
「ん? ハティは?」
「ハティちゃんはあそこ」
指し示された先には貴族のご婦人方の人だかりが。
何事かと近づいてみれば、人の輪の中でハティが餌付けされていた。
貴族女性の差し出した料理をノータイムでモクモクと食い続けるハティと、それを見てホッコリしている御婦人方。
なんか変なアトラクションになってないか?
まぁ小さい子供が無心に何か食べてる姿って妙な可愛さが有るから、あのご婦人方の気持も判らんではない。
というかハティはハティで腹いっぱい食えるし、餌付けしている周りは可愛いものが見られてWINーWINの関係がそこにはあった。
つまり俺が変にツッコミを入れて場を乱す理由は皆無ということだ。
となれば、今度こそ俺は腹いっぱい飯を食うだけだ……!
◇◇◇
「食いすぎた……」
チェリーさんの肩を借りて何とかホテルまで戻ってきた俺は、出来るだけ腹に刺激を与えないように、随分と情けない格好で歩いていた。
「いくらなんでも無茶食いしすぎだって。どんだけ貧乏性なのよ……」
そうは言っても、長年の貧乏暮らしで染み付いた習性はそう簡単に治らないんだよなぁ。
我ながら物への執着は殆どないんだが、事食い物に関してだけはどうにもなぁ。
ガキの頃、施設側のミスで入金が滞った時があって、自分含めて16人のガキが約1週間を500円で乗り切るとかいう無茶を強いられたことがあった。そのせいで頭では大丈夫だと理解していても、つい食えるときに食うという思考に流れちまうんだよな。
ただしタダ飯に限る。
自分の金で暴飲暴食とかとんでもない。金が尽きたら飯が食えなくなるからな!
「キョウ、お腹パンパン」
「うぐ、ちょっとお腹ポンポンするのは勘弁してくれ。マジで苦しい」
「はーい」
「おなか、いっぱい、満足」
俺の何杯も食ってたはずのハティがケロッとしてるのが納得いかん。
というか、アレだけ貪り食っておいて、腹も全く膨らんでいないっていうのはどういう事だ? どう考えてもハティの腹には収まりきらないくらいの量を食っていたはずだが……
もしかして見た目は子供でも胃袋のサイズは狼の姿のままなのか?
「何でも良いけど明後日は対人イベントなんだから変に体調悪いの引きずらないでよ?」
「食中毒にあたったわけでもないし、流石に食い過ぎで何日も寝込むことはない……はず」
しばらくはウンウン唸る羽目になるかも知れないが、消化さえしちまえば元通りのハズだ。多分。
「明後日はみんなでまたあの街におでかけするんだよね? じゃあ明日はどうするの?」
「今日は俺もチェリーさんも割と全力で飛び跳ねまくったから、明日は休養日で良いんじゃないか? 何かあったらきっかり区切りをつけて休む癖つけとかないと、そのうち休むのが面倒臭いとか思うようになるからな」
「妙に実感籠もってるわね。まぁ言ってる意味は分からないでもないけど」
ゲーセン全盛時代の俺がまさにそんなだったからな。
食事も睡眠時間も削ってゲームして、意識が落ちたらそこで睡眠みたいな生活だったし。
10代だけに許される、若さ故の無茶だよなぁ……
「じゃあ、一日好きにして良い?」
「良いぞ? 明日一日は自由時間だ」
「わかった!」
「じゃあ、私もブログの更新作業でもしておこうかな。今回は色々良いネタが有ることだし」
そういやチェリーさんはその仕事があったんだったな。
きっと闘技大会のネタをブログにまとめるんだろう。PvPのアップデート直前で時事ネタにもなるしな。
「キョウくんはどうするの?」
「俺は、かなり身体にガタが来てるし、明日は一日寝て過ごすよ」
「あぁ、キルシュくん相手にかなり無茶してたからねぇ」
外傷なんかは闘技場の治癒術師の人に塞いでもらえたけど、未だに無茶した膝関節とか熱を持ってるように感じるしな。
本格的に壊す前にじっくりと休養を入れて万全の体調に戻したい。
「ふぅ、やっと部屋についたか。長く、苦しい道のりだった……」
「キョウくんだけね……」
だって貧乏性云々は置いておいても、昼間かなり体力使ってお腹がすいてたんですもの。食べ過ぎちまうのも仕方ないじゃないか。
というか、何のかんの言っても、ベッドまで担いでくれる辺りチェリーさんである。面倒見良いよな。
「ほら、寝かすよ? ほいっ」
「ぐはっ!?」
これで、優しく横たえてくれればベストだったんだが、払い腰の勢いでベッドに放り込まれた時は、流石に一瞬中身がはみ出るかと思った。
「変に明日に引きずらない様に今日はさっさと寝る事! OK?」
「お、OK。」
「それじゃ、明日一日は各人好きなように過ごすという事で! 今日はお疲れ様!」
そのままスパーンと扉を閉じていつぞやの様にチェリーさんは去っていった。
ほんと、良い人なんだけど行動が大雑把というかなんというか……
「ふぅ……」
横になると、だいぶ楽になるな。そこそこ歩いたし、多少は食った分の消化も出来たか。
それにしても、長い一日だった。
この間の王都襲撃の時もそうだったが、結構しんどいな。
RPGの主人公はこれに自分から飛び込んでいくってんだから、頭おかしいよなぁ。
俺はもうちょっと穏やかなくらいが良いんだが。少年漫画みたいに立て続けに強敵とぶつかって異次元進化するんじゃなくて、黙々とレベル上げしてるくらいで丁度良いだが。
やっぱり、強くなろうと思ったら地道な反復練習だよなぁ。
貧弱な今のままでは一発貰えばそれで終わる。エドワルトとの戦い……いやあのライノスの時からそれは全く変わっていない。
そうそう簡単に身体を強化できる訳もないし、となれば攻撃を受ける前に圧倒できる攻撃技術か、相手の攻撃を防ぎきる防御技術を強化するしかない。
それらはレベルを上げるだけでどうにかなるようなものではない。それは俺よりもレベルが高く、多種多様なスキルを持つ製品版のプレイヤー達とのPvPで十分理解した。
なら、ガーヴさん流のやりかた……純粋な戦闘訓練と反復練習で腕を磨くしかない。
幸い、俺が辿りつくべき場所はキルシュが示してくれた。アレが今の俺の目指す場所だ。
……手加減したキルシュが目標ってのも情けない話ではあるが、低レベルの俺の目指す位置としては、まぁ妥当なとこだろう。 俺は勇者でもヒーローでもないんだからな。
たった一日頑張っただけでヘトヘトだ。眠くて眠くて仕方がねぇ。
やっぱり……俺は、その他大勢の……ただのプレイヤーで……良いや……。
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