ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百六十六話 三度、始まりの街へⅠ

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 相変わらずの真っ暗なローディングを抜けてみれば……お、見慣れた景色が。どうやら正しく移動できたみたいだな。
 というか、前回とは違う場所からポータルを開いたのに全く同じ場所に出るのな。
 サーバ間移動というよりも純粋なテレポートアイテムに近いのか。
 まぁ相対位置へのサーバ間移動だと、壁の中にテレポートしたりとか普通に起こるだろうから無理か。
 それにしても……

「おぉう……この感覚も久しぶりだな……」

 製品版のサーバ特有の、この感覚が薄れていく感はどうにも慣れないな。
 身体が膜で覆われているような、そんな異物感があって妙に落ち着かない。
 といっても、どうせすぐ慣れるんだろうが。前回もそうだったし。

「あ、やっと来た」
「うん? やっとも何も、同じポータルに一緒に入らなかったか?」

 今回はハイナ村の時と違って変なアリバイ作りは必要ないので、チェリーさんのポータルを使って宿の部屋から一緒にこっち側に飛んできた訳だが……

「そうだと思うんだけど、私がこっち着いてから、結構タイムラグあったよ? 30秒くらい」
「え、そんなにズレた? ほぼ同時にポータル入ったと思ったけど」
「やっぱ、特殊環境からの接続だからなのかな?」
「どうなんだろう?」

 その辺りの詳しい知識は残念ながら俺にはないからなぁ。
 まぁ、ローディングが長くても、実際こっちに着いてからは処理落ちとかラグとかは感じないから、プレイングには特に支障はないはず。
 というか支障が出るようならすぐ運営に報告すればいいだけだ。
 今から向かうのは、その運営側との待ち合わせ場所だしな。

「っと、エリス達もちゃんと来てるか?」
「きてるー」
「ワン!」

 よしよし、二人共ちゃんと…………うん?

「あれ、ハティはまたその姿なのか」

 向こうでは人間型になっていたから、てっきりこっちに来るときも人型で来るのかと思ったら、前回と同じ子犬姿なのな。
 まぁこれはこれで可愛いから全然かまわないんだが。

「そうみたい。こっちだと姿を変えられないんだって」
「最初にこっちにログインした時の姿で固定されたのか?」

 まぁ、せっかくトラブルにならないようにと見た目を子犬型にしあるのに、街中で自由にあの狼形態にれたりしたら意味ないもんな。
 こっちのサーバ内でのトラブルのもとになりそうな、変身能力とかその辺りは運営側が縛ってるんだろう。

「まぁ、それで何が困る訳でもないし、別に良いか。その他には何かトラブルとかはあるか?」
「特に無いと思う」
「なにもなーい」
「わん」

 俺の方も特にこれと言って……問題ないな。

「よし、それじゃちょっと早いが集合場所に行くか」
「はーい」


 ◇◇◇


「それにしても人が多いな……」

 大通りには相変わらず休日の池袋の歩行者天国並に人が溢れている。
 人の波に飲まれるって程は居ないが、普通に歩くとぶつかりかねない程度には人がいるといった塩梅だ。

「普通、初期の街って時間が経つによって人が減っていくもんじゃないか?」

 ゲームによってはゲームスタート時の街とかガラガラでゴーストタウンと化しかねないんだが。
 まぁこのゲームの場合NPCがかなり思考して動く訳だから、ゴーストタウン化する事は無いと思うが……

「単純にイベントだから戻ってきてるんじゃない? 私達は便利なポータルなんて物があるけど、まだ一般プレイヤーにはテレポート系は魔法もアイテムもまだ見つかってない筈だし」
「あ、そうなのか。それなら確かにこの混雑ぶりも仕方ないのか」
「乗合馬車を使っても、一番近い西の街からここまで1日、歩けば二日はかかるからねぇ」
「そういや俺達もチェリーさんとの事が無ければ、宿を引き払って西の街目指そうとしてたんだっけか」
「あ、そうなんだ?」
「わたしとキョウでれべる上げしてたの」
「ワン!」

 本来ならこっちのサーバで一般プレイヤーに交じって遊ぶという依頼だったからな。
 そういえば、あの後チェリーさんのテストサーバー生活ブログの優先度の方が上という事で、すぐにALPHAに戻ったから未だに俺達はこの始まりの街以外の街を見た事がないんだよな。

「キョウくん達なら初日から他の街行っても良かったんじゃない?」
「そうはいっても、俺達こっちの敵の強さ知らないから手探り感覚だったんだよ。エリスのレベル上げも最初は安全にやりたかったし」
「あ、そっか。ネット検索もできないんだったね。確かに情報源ゼロならそりゃ仕方ないわ」
「れべる上げのピクニック楽しかった!」
「ワン!」

 いやピクニックじゃないんだけどな? 確かにお弁当(干し肉)持って森に出かけたけど、目的は森の動物をバッサバッサと倒す事だからな?
 アレがピクニックだとしたら、随分と殺伐としたピクニックもあったもんだな……

「というか、私が合流する前でしょ? ちゃんとレベル上げしてたのね。てっきり裁縫とか料理スキル上げばかりしてるもんだと」
「いや、俺の事を何だと……」
「だってキョウくん、私と合流してからは朝夕の鍛錬以外は、ずっとおばちゃん達から裁縫習ってたじゃない」
「む……」

 そうでした。
 ちなみに合流する前はアラマキさんから木工建築習ってたな。
 夕飯作るのもずっと俺だったし、確かにチェリーさん達がガーヴさんに絞られて居る中で、俺はまともに戦闘関連の特訓とか何もしてなかったな……
 チェリーさん合流以降、俺がまともにレベル上のつもりで敵と戦ったのってクフタリアに入る前の森からだわ。
 これは確かに勘違いされても文句言えねぇ……

「まぁ、そんな事もあったという事で……」
「流したよ……」

 だってこれ以上話しても俺が不利になるだけだし。

「今日は何処へ行くの?」
「前回の場所はもうギルドの建物として稼働してるから、今回は高級宿を借り切ってるみたいよ」
「へぇ~」

 前回はギルド実装前の建物を使ってたけど、あの広い建物に結構な人数詰め込んでたからな。アレと同じような人数を収容するとなると、確かに宿を丸ごと借り切るとかしか方法はないか。
 ……というか運営なんだから、イベント専用施設を作ればよかったんじゃないか?
 でも実際問題、この街の住民視線でいえば、普段誰も居ないのに不定期で突然人が集まる建物とか不審過ぎるしな。変に住民に不信感与えるよりは多少不便でもあり物の施設を使う方が良いのかもしれない。

「そういえば今回って俺やチェリーさん以外だと誰が参加するんだ?」
「テスターはSADさんの所のチーム全員と、前回参加者だと半分くらい。あと前回見なかった人が数人って感じかしら」
「結構出るんだなぁ。やっぱりメインはSAD達のチームか。1on1だから全員バラバラで出るんだろ?」
「そこまでは聞いてないけど、多分そうじゃない? 予選は今日やるみたいだけど、ALPHAと違ってこっちのアリーナはインスタンスエリアだし、人数が多くても並行でやれるだろうから」

 そういや、俺達がアリーナ放り込まれたときもポータルで移動してたけど、アレは単なる移動な訳じゃなくて、インスタンスエリア間移動だったのか。
 そんな事ができるなら、イベントスタッフの待合室用のインスタンス作れば……って、結局ステージに移動するときとかに全員街エリアの何処かに出ないといけないから、結局大勢が安全に移動できるだけのスペースのある場所が必要になるか。街の外ならスペースは幾らでもあるが、外に出てから中央広場まで移動とか結構距離あるしな。
 となると、最初からこっちでスペース確保しておくほうがやっぱり楽なのか……?

「一般プレイヤーはどれくらい参加するんだろ?」
「それはドタキャンとかで揉めないように、当日会場受付らしいから私は知らないわよ? 受付締め切りはもう過ぎてるから、集合場所行けば分かるでしょ」
「それもそうか。なら寄り道せずにさっさと行こうか」
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