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三章

百六十九話 技

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「ここなら良いかしら?」
「だな。周りに人もいないし、初心者が狩るようなモンスターも見当たらない」

 どういう訳か、門を出てすぐ近くの広場には人が集まって妙に賑やかしていたので、仕方なく少し離れた場所まで歩く羽目になった。
 ここなら門からも適度に離れてるし、クエストの多い森からも距離があるから、誰かの邪魔になるという事もないはずだ。

「それじゃ、今から攻撃するから防御してみてね?」
「お、おう」
「別に変に受けにくい攻撃するわけじゃないから、普通に防いでもらって大丈夫だよ」

 そうは言っても、突きを受け止めるのってそう簡単なものでもないんだけどな! 点を線で受けるようなものなんだから。

「ソレじゃ行くよ~……せいっ!」
「ぐ、ぬ」

 相変わらず重い。めちゃくちゃ重い。訓練用にある程度手を抜いてるんだろうが、それでもガードの上からダメージが入るレベルのパワーだ。
 俺とチェリーさんのステータス差もあるが、そのステータス差以上に、以前に比べて明らかに攻撃が重くなっている。これは多分ガーヴさん効果だろう。俺も歩法一つでだいぶ変わったからなぁ。

「今のが私の本気攻撃ね」
「いや、本気かよ!? 訓練でする攻撃じゃなくねぇか!?」
「いやぁ、キョウくん相手ならそれくらいで丁度良いかなって」
「いや、チェリーさんの方がレベル高いからな? 条件無しで殴り合ったら俺とか勝ち目無いからな?」

 これだけのステータス差だと、普通に当たれば死にかねねぇんですけど?
 訓練でタマ獲りに来てどうするよ!?

「まぁまぁ、今のはただの前置きだから。本命はこの後!」
「えぇ……?」

 全力でぶん殴っておいて前置きってどういうことよ?

「次、同じ風にちょっと違う攻撃するから、もう一度防いでみて?」
「え、本気攻撃よりも厄介な攻撃するって事? 死ぬんじゃね? 俺」
「受けにくい攻撃するわけじゃないから! ほら、行くよ?」

 それさっきと同じセリフ……確かに受けにくくはないけど、防御してもクソ痛いから勘弁してほしいんだが。

「ほい!」
「ちょっ!? おわぁ!」

 いや、準備できたとか言ってなんだが!? 防御が間に合ったから良いものの、いきなりぶん殴るやつが……って?

「どう?」
「いや、どうじゃなくて……うぉぉぉ……腹に来た……」
「強さ的には全く同じ強さで攻撃したけど、防御貫通したでしょ?」
「ああうん。確かに貫通したけど、まずはソレを先に説明してほしかったんですけど? ぐ……クソ、マジで立てないんだが」
「そんな大げさな……」

 大げさでも何でもねぇよ、マジで。
 こっちではALPHAのような鮮明なダメージ表現がかなりフィルタ掛かってるのか鈍さには確かになってる。
 なってるが、ダメージが無い訳じゃぁない。今の一撃だって鳩尾にボディブロウぶち込まれたような「オエェ」と来る気持ち悪さがしっかり届いている。
 ダメージ感覚が鈍っているこのサーバでこれだけのダメージとか、向こうなら内蔵痛めて血反吐まき散らしてたかもしれんぞ。
 一体どれだけのダメージを受けたのかと久々にステータスを覗いてみれば……

キョウ
人間:男:クフタリアの強者
Lv2
HP   :39/782
SP   :72/72
空腹値  :80/100
疲労値  :11
STR  :32
VIT  :25
DEX  :29
AGE  :31
INT  :11
MND  :19

 やっぱり死にかけじゃねぇか!? 冗談じゃねぇぞ。
 こっちのサーバでも死んだときの復旧にまだ不安があるのに、味方に殺されて再起不能とか笑い話にもなりゃしねぇ。

「これが大げさなんですかねぇ?」

 流石にこれ以上やられると殺されかねんので、ステータスウィンドウを突き付ける。

「え? ……うっ!? マジで?」
「俺、もうこれ以上ないってくらい口を酸っぱくして言ってるよね? 俺とチェリーさんのレベル差について」
「いやぁ、今までいくら攻撃しても全く効かなかったからさー」
「効かないように必死に受け流してたんだよ! そういう勘違いしてると思ったから、事ある毎にレベル差、ステータス差について言い続けてきたんですけど? 俺、ゲーム内で死んだ時どうなるかわからないって何度も言ったよな!?」
「ご、ごめんね? ちょっと考えが甘かったっていうか、認識にズレがあったっていうか……これからはもうちょっと加減を考えるようにするから」

 頼むぜマジで。今ので死んでたら本気で洒落にならんぞ。いくらなんでも流石にキレるわ。

「ま、まぁそれはごめんなさいという事で、そんな事より今は技の方よ!」
「そんな事……?」
「ご、ごめんて……いえ、ごめんなさい。本当に悪いと思ってるから、まずは話を聞いて? ね?」

 ほんとに解ってるんか……?
 ちゃんと謝ったからこれ以上くどくど言わんけど……

「……はぁ……食らってみた感じ、防御を貫通する技って事だよな?」
「そ、そう! 正確には防御を貫通しているというよりもダメージ判定の一部をずらす技って感じかな?」
「なるほど、それで俺はチェリーさんの攻撃を食らっても即死しなかったという訳か」

 判定の一部をずらす……つまり、防御を突破してくるのは実際のダメージの一部だけという事だ。
 一発目の攻撃は本気だと言ってたし、2発目も同じだけの威力は乗っていたと思う。その攻撃がもろに決まっていれば、俺のHPは今頃全部消し飛んでいただろうからな。

「攻撃を受けた柄の所に伝わる筈の衝撃の一部を、キョウくんの腹の位置にズラした訳。実際はずらすというよりも、遠くまで衝撃が届くようにブチ込むって感じなんだけどね」
「あれか、遠当てとか浸透勁とかみたいな奴。漫画とかで見た覚えがある」
「多分その認識で間違ってないと思う。まぁ、遠当てとかは私も漫画で知ってるけど、本物の技の理屈はサッパリ知らないから、これが本当に同一の技かどうかは判らないけどね。でもイメージ的には間違ってないと思うよ」

 拳法家って訳じゃないから、技の術理なんて一介のゲーマーに判る訳はないわな。

「剣と魔法のファンタジーなだけあって、そんなバトル漫画みたいな必殺技も覚えれるのか。しかもエフェクトが出なかったって事はスキルじゃないよなこれ」

 システムからアクティブスキル扱いとして判定された場合、スキル専用のエフェクトが発生する。これはバレたら効果半減の暗殺系の必殺技であっても、視認しにくいというだけでエフェクト表示のルールからは逃れられない。
 なので、エフェクト有無を見てスキルの発動を認識する事が出来る。
 チェリーさんの技は一見必殺技のような強力な威力を持っているが、エフェクトが一切なかった。という事はアクティブ系の必殺技スキルではない通常行動であると判断できる訳だ。

「そう! かなり強力な技だけど、必殺技扱いじゃないからSPとかも消費しないし、超便利なの!」
「まぁ、確かに便利な技だな。でも、チェリーさんの全力攻撃で俺が即死しなかったってことは威力自体は分散するってことだよな?」
「あー……それは私が使いこなせてないからだと思う。私も覚えたてで完璧とは程遠いから。ガーヴさんのデモンストレーションだと衝撃がそのまま貫通してる感じだったし」
「技量によっては防御自体は貫通するけどダメージのすべてが貫通するとは限らないって事か。なら俺が覚えてもしばらくはそうなるだろうな」

 とはいえ、これだけの技をスキル無しで、しかも数日程度習っただけで、訓練したからとホイホイ覚えられるとは思えない。
 という事は、エフェクト表示のされない身体操作系のパッシブスキルを組み合わせた複合的な攻撃方法ということだろう。俺のフェイント歩法の攻撃版といった所か。
 つか、こんな重要な技を、何でハイナ村を出てから今まで、タイミングはあった筈なのに黙ってたのか。
 ……最初は単に伝え忘れてたけど、チェリーさんの性格的に、闘技大会以降は思い出していても俺を倒すために隠してたとかなんだろうなぁ。
 まぁ、俺が習得のチャンスを逃してたんだから、そこに文句言うつもりはないけど。

「なるほど、たしかにこの技は覚えて損は無さそうだ。チェリーさんが大会終わるまで隠してた理由も分かるわ」

 文句は言わないが、この技があればもうちょっとキルシュとマシに張り合えた可能性が無きにしもあらずなので、嫌味くらいは言うけどな!

「あ、あはは……バレてる?」
「モロバレ。むしろバレないと思ってた事に驚きだわ」

 あれ? そもそもチェリーさんはガーヴさんから俺に伝えるように言われてたのに、それを隠して今まで黙ってたんだから文句言う筋合いも十分にあるんじゃ……?

「ごめんなさいって~。今からはちゃんとガーヴさんに教わったの全て伝えるからさぁ」
「一撃ぶちかましてネタバラシまで済んだ状態で、まだ隠し通せるならそれはそれである種の才能だと思うけどな。……まぁ、この期に及んでまだ渋るようなら今後の付き合い方を考える必要があるけど」

 俺の体に直接ブチ込んでデモンストレーションまでしてくれたんだ。これでやっぱりナシとか言い出したら、流石の俺もキレるわ。

「大丈夫! もう手取り足取り教えちゃうから!」

 そう言うと表情を引き締めて槍を構え直す。
 真面目モードで誤魔化すつもりだな? 誤魔化しているつもりかもしれんが、目元がヒクヒクしてんぞ。
 まぁ、これ以上いじめても話が進まんし、ここは流れに乗ってやるか。

「じゃあ、まずはこの槍を全力で……」

 そこから2~3時間ほどチェリーさんの指導を受けて、色々な訓練をしてみた。
 練り上げた力をロス無く攻撃に転化させるための身体の使い方、その力を衝撃として相手にぶつける為の重心移動や攻撃方法等、基本的な事は全て詰め込んでの短期集中特訓だ。

 ――でまぁ、結論から言うと、とても3時間じゃ物に出来るような技術じゃ無いよねという話だ。
 練り上げた力の操作の段階で躓いてしまい、思ったように訓練が進まなかった。
 相手に触れていれば、その練り上げた衝撃を伝えることまでは出来たが、その打点をズラすといった真似は全く出来る気がしなかったんだよなぁ。
 それでも、思ったのとはだいぶ違う……というか、完全に技の不発や暴発の類なんだが、中々面白げな技を思いついたので、試し打ち出来る明日がちょっと楽しみになった。


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