ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

文字の大きさ
190 / 330
三章

百八十話 準決勝Ⅱ

しおりを挟む
  ◇◇◇

 こう来るだろうとは思っていた。
 こういった状況に追い込まれれば、俺だってこれ以外の手は思いつかない。
 こちらは耐久型で体力も余裕がある。
 相手はスピード型で体力に余裕がない。
 こちらは体力で勝っているが、位置取りはステージの端を背負うという最悪の形だ。

 この状況で相手が取る戦法なんて、正々堂々とか言い出して舐めプでも始めない限りはリングアウト狙い一択だろう。
 俺なら間違いなくそうする。
 なら相手だってそう考えるだろう。
 そして実際、このラッシュだ。
 正直もう少し時間を消費してから、残り三十秒くらいで勝負をかけに来ると思っていた。
 こんな早くからラストスパートをかけて、体力が持つものなのか?
 攻撃の中にはほとんど威力のない突きも混ざっているから、ある程度抜ける所で手は抜いてるんだろう。だが……

「ぐっ……」

 時折くる本命と思われる一撃には全体重を載せたかのような重さがある。
 ダメージ蓄積は大したことはないが、コレを迂闊に貰えばリングアウトさせられる危険は十分にある。これでは迂闊に手を出すことができん。
 ステージ端を脱しようと試みては見たが、流石に上手い。俺が鈍亀だというのもあるが、足さばきと攻撃を駆使して橋からの脱出は許してくれない。こういう時は重装甲の欠点を思い知らされる。
 いや、この状況ではもう攻めを捨てて守りを固めての持久戦にシフトするべきか。
 相手も俺を落とすことに全力を傾けてるようだし、その危険さえ排除すれば俺が倒される心配はない。
 このペースで削られ続けても、時間切れまで俺の体力を削り切ることはできないだろう。
 正直な所、倒して勝ちたかったが、タイムアップだって重要な戦術だ。
 相手もそれが判ってるからこそのこの猛攻だろう。

 ――それにしても、なかなかに嫌らしい攻撃をしてくる。
 本命の一撃を感じさせつつ、フェイントを行ってきたり、不意に強い攻撃を混ぜてきたりと、一瞬たりとも油断できない。
 コレは確かに、攻撃偏重気味なこの今のゲームの風潮では、並のプレイヤーじゃ捌き切ることは難しいだろう。
 つか、これが本当に怪我で引退した引きこもり元ゲーマーの動きなのか!?
 リアルの試合でもここまで捌きにくい攻め方する相手はなかなか出会わないぞ。
 ゲームしかやってない奴に出来る動きじゃ……いや、このゲームに没頭していれば自然に身体が動きを覚えるというのはあるのか?

 クレイドルは筋肉の電気信号を受け取ってアバターを動かしてる。
 なら実際にリアルで体を動かさなくても、クレイドルの中での擬似的運動によってこのゲームに特化した身体の動かし方を身につける奴が出てきてもおかしくない……のか?
 レバーを動かすのだけが得意な奴が、化け物じみた反応速度と対応力を身につけるのがゲームと言うやつだ。なら、クレイドルでのアバター操作に特化したら、どこまでの事が出来るようになるのか。
 そして、この眼の前の相手は恐らくそっち側のプレイヤーだろう。
 SADは……アイツは打倒キョウとかいってスポーツジムで運動はじめたクチだからチョット違うか。

 多分、噛み合っちまったんだろうな。プレイスタイルと才能が変なふうにガッチリと。
 それはもう、一般プレイヤーには理解できないような領域で。
 だがまぁ……

「残り三十秒……!」

 そろそろ仕留めに来るはず。この三十秒はもうパリィングも放棄して体制維持に注力だ。
 掴みとプッシュへの警戒に全力を傾けて耐えきれば、俺の勝ちだ。

「……っ!」

 俺のつぶやきが聞こえたのか、一気に雰囲気とともに攻めの質が変わった。
 ここからが本命のラッシュか。手数が減り、代わりに一発一発のが本命の攻撃に切り替わった。
 だが、この残り時間では俺の体力を削り切ることはできない。
 残り十五秒、落ちさえしなければ俺の――

「くぁっ!?」

 咄嗟に頭を避けて避けた俺の頭上を、鋭い一撃が通り抜けていった。それも後ろから前へだ。
 危なかった、咄嗟の判断で身体が勝手に動いてくれた。今のは、相手の武器の横刃の部分で後頭部を刈り取ろうと狙った一撃か!?
 この土壇場で見せた恐らく隠し玉。
 前へ意識を集中させておいての、たった一撃の体制崩しの後頭部狙いか。マジでえげつない。
 だが、凌いだ。
 これで、手は残っていない…………なんて考える訳ないわな!

 オープニングイベントでのエキシビジョンマッチは俺もリアルタイムで見ていたし、録画も何度も繰り返し見て対策を練ってきた。
 だから、この相手が未だ出してきていない本当の奥の手を見落としたりしない。

 ――残り十秒――

 来た! スキルエフェクトの輝き!
 そうだ、コイツは派手なスキル技を殆ど使わない事で知られているが、使えないわけじゃない。
 ほんの1~2度だけスキル技を使ったことがある。
 片手剣技最下位の『ピアース』。
 『スラスト』と並ぶ片手剣で最初に覚える技の一つだが、特性として突き属性の武器であれば片手剣に限らず、槍や細剣でも使えるマルチスキル。
 攻撃補正1.0倍という数値に当初は「意味あるのかこの技?」と言われていたが、蓋を開けてみれば何のことはない。
 この1.0倍は、プレイヤーのSTRで行える全力攻撃に対する1.0倍補正。つまり低SP消費かつ短いモーションで隙無く全力攻撃を繰り返せる便利ワザだった。
 それを未だ一度もこの大会では見せていない。ならその溜まりに溜まったSPは何処で使う?

「こういう、最後の最後でだよな!」

 ピアースの滅多打ち。
 威力補正がないため、全部食らっても体力的には問題ない。問題なのはノックバックだ。一発でも受けそこねればリングアウト確実。
 昔使っていたキャラが耐える系のキャラだったからだろうか。本当にやられたら嫌な詰めどころをよく判っている。
 だが……

 ――残り五秒――

 攻撃を捨てて防御に徹したタワーシールドの防御範囲は正面をほぼシャットアウトする。

 ――残り三秒――

 いくら激しく攻め立てようと、盾の上から削り取れるようなSTR極振りでもない限り、このまもりを突破することは不可の……!?

「ぐっ……!?」

 ――残り二秒――

 何……だ? 今のは?
 スラストの衝撃じゃない……!? 明らかに質が違う、芯に響くような一撃。
 一体どうやって? いや、だがしかし、俺を押し切るには――
 
 ――残り……

『試合終ーー了ーーーー! ここに来てなんと今大会初のタイムアップ試合です!』

 耐えきった、最後かなり危なかったが、俺はステージ上に立っている。コレが結果だ。
 それにしても、守りを固めてただけでここまで消耗させられるとは……
 強敵だとは判っていたが、本当にとんでもない相手だった。だが勝ったのは。

『準決勝第二試合、十分間の死闘を超え決勝に駒を進めるのは――』

 上がった息を整える。

『勝者、キョウ!』

 …………は?

 いやいや待て、待てって。
 何だそれ?
 どういう事だ? 最後まで俺はステージ上に残っていたぞ!?
 そうだ、俺はさっきから一歩も動いてない。今もリングの上にいる。リングアウトしなかったんだから勝ったのは俺だろ?
 なのに、何でだよ!?

「おかしいだろ!?」
「まぁ、あの決着じゃそう言いたくなるのは分からんでもないけど、何もおかしくはないんだよな、コレが」
「……どういう事だ? お互い倒れてないなら勝敗は体力差で……」
「だからその体力差だよ。自分の体力ゲージ、よく見てみな?」
「は?」

 体力差ぁ? 体力管理はダメージ計算でしっかりと……

「いや、待てって……何でだ!?」

 なんで俺の体力が三割切ってるんだ!?
 残り五秒の時点では五割残していたはずだぞ! あのままピアースをすべて受けてもキョウの四割を下回ることなんて無かったはず。だったら一体……いや、まさか!

「あの最後の一撃か!?」

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

処理中です...