ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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三章

百八十二話 実際に聞いてみた

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「あのさ、もしかして、エルロイってタムズ使いのLROY?」
「えぇ……今頃かよ」
「あぁ、やっぱりそうなのか」
「名前変えてないし、バトルスタイルも変えてないんだから流石に気づけよ。SADはすぐに気付いてたし、俺だって一瞬でアンタとSADは判ったぞ」
「あー……すまん。俺そういうので気づくの、ホント苦手なんだわ」

 中学時代の連中と同窓会やった時、たった五年でクラスの半分以上の顔と名前が一致しなかったという、非常に駄目な実績が俺にはある。そんな奴が名前とプレイスタイルだけで、特定個人を絞り当てるなんてまぁ無理な話なわけですよ。
 というかよくみんな覚えてるよな。俺なんてさも気付いてる風に話を合わせるのに精一杯だったってのに。
 っと、また思考が明後日の方に……いかんいかん、最近妙に多いなコレ。

「まぁ、俺も人の名前覚えるのとか苦手だから、気持ちは判らんでもないが、会ったのは一度や二度じゃないんだから流石に思い出してほしかったぞ」
「そりゃ本人に出会ってれば気付いたかもしれんが、そのアバターもともと使ってたキャラとも全くイメージ違うし、アバターの顔も妙にイケオジになってるし……それで気付けって方が無理があるだろ」

 LROYが使っていたタムズというキャラは、カウンターメインの防御系なのに何故か露出度が全キャラ一な妖艶系女キャラだ。しかも曲剣使い。間違ってもこんなゴツいおっさんの槍使いじゃない。
 こんなの気付けって方が難しいだろ。

「そりゃ、自分の使うアバターをブサイクにしたくねぇし……。というかSADだって似てないだろ。そこまで自分の顔に似せてアバター作ってるアンタのほうが間違いなく少数派だからな?」
「作った時は、まさかこんな表に出るとか思ってなかったんだよ……」

 テストサーバでひっそりと仮想生活満喫する気満々だったからな!

「というか、LROYって2D格ゲー専門じゃなかったっけ? こういうゲームもやってたんだな」
「俺、幾つもゲーム掛け持って結果出せるほど器用じゃねぇし、普段はネトゲとかやらないんだが、体感型VRってのに惹かれてどんなゲームが有るのかと公式放送見てみたら、アンタ等が映っててな。アバター名とアンタの顔でピンときていろいろ調べてみたんだよ。で、自分のハマったゲームのTOP二人がやってるなら……ってんで高い金出して買ってみた訳だ」
「で、ハマったと」
「もともと格闘技やってるからな。相性は良かったと思う」
「あぁ、妙に技術高いからスポーツか格闘技辺りやってると思ってたが、やっぱりか」

 そりゃ、ゲームをゲームとしてやってるプレイヤーとは動きの質が違うわな。
 既に敗退してる、動きの良かったプレイヤーもそういうタイプだったりするんだろうな。多分だが。

「SADから何となくの事情は聞いてるが、寧ろ寝たきりの引きこもりが短期間であの動きを実現する事に驚くけどな」
「俺の場合はアレだよ。身体の動かし方は下手くそでも、このゲーム内のアバターの動かし方の方に慣れてる感じ。なんせ一日の内二十四時間ログインだからな。多分ログアウトしたら自分の体の動かし方忘れてるぜ? きっと」
「それでも一月も経ってないのにここまで動けるってハッキリ言って異常だと思うぞ? 運動初めて一ヶ月で全国大会決勝行けましたとか、漫画に出てくる天才系ライバルキャラかよ」
「そうはいっても、俺だって初日はネズミ相手に手こずって、ヤギ相手に殺されかけてと、かなりグダグダだったし。というかこちとら初めて数日でバケモンみたいなサイに襲われてんだぞ? 出来なきゃ生きていけないともなれば、必要に駆られて自然と身につくもんなんだよ」

 多分、俺が健康で、こんな痛みを感じるようなアバターもなく、このゲームを趣味としてプレイしていたとしたら、こんなに動きが上達することはなかったと思う。
 もしかしたら、心底このゲームにハマっていい動きが出来るようになるかもしれないが、それでももっと時間がかかってただろうな。

 この世界で暮らしていくために、色々な動きや技術を手に入れる必要があったし、ライノスなんかの襲撃に対して生き残るために、強敵と戦って生き抜くための技術を磨くことになった。
 やっぱり、必要に駆られて今の俺の操作技術ってのがある。 
 というか、技術と言うならむしろ俺よりエルロイの方だ。

「動きといえば、よくあそこまで攻撃捌ききれるな。特に最後のラッシュ直前の仕込みの時とかさ。俺だってそれなりに受けや捌きには自身があるが、あの状況になれば俺なら諦めて回避方法を模索する所なんだが、俺の攻撃を全部受けきってたろ? なんかコツでもあったりするのか?」
「うーんあるにはあるんだが……内緒。勝てなくなるからな」
「えぇ……」

 そこでケチるのかよ。
 いや確かに、対人戦での情報の有る無しは勝敗につながる大事な要素だけどさ。

「……なんてな、実際は隠すまでもなく割と知られてる初歩的なテクだよ」
「そうなんか?」
「攻撃の時に、穂先じゃなくて肩口の動きを見てるんだよ。格闘技なんかでもそうだけど、拳なんて見てから反応なんてそうそう出来ないけど、その動きの起点である肩口の動きを確認してれば、少なくとも攻撃が来るタイミングはつかめる。腕を使う以上まず最初に動くのが肩だからな。特にアンタみたいに長物武器を使う相手ならより早く相手の攻撃を察知できるって訳。格闘技とか護身術とかやってると結構知られてるテクだな」
「そうなのか……全然知らなかった」

 ゲーセン通いの毎日で、ボクシングジムとか空手道場とかそういうのは昔から全く興味なかったからなぁ。

「路上で暴漢なんかに襲われた時の護身術としては結構有効なんだぜ、これ。事前に知識さえあれば素人の大ぶりパンチとかは肩みて頭下げるだけで、素人でも被弾をかなり抑えれる。外れればラッキー、避けきれずに頭に当たっても、チンピラの拳と硬い頭蓋骨だ。ぶつかって痛いのはどっちだって話だな」
「はぁー……」

 さすがガチの格闘家は言うことが違うな。
 というか頭殴られても良いのか。普通頭を守ると思ってたんだが。でも、頭突きだって攻撃の一つだし、実は俺が思ってる以上に頭って防御力高いのかね。

「ボクシングとかでよくスイスイ避けれるなとか思ってたけど、アレもそういう所みて避けてるのか?」
「まぁ、確かに見てはるだろうがプロ同士となるとまた話は変わってくるだろうな。今言ったのはあくまで素人の大ぶり攻撃に対しての対処な。それを理解した後にプロの使う最短距離を真っ直ぐ打つジャブやストレートを実際に見ると、その怖さが分かるんだわ。きれいなジャブは正面からじゃマジで見えないからな」

 そういうもんなのか。
 俺なんて、違いが分かる以前の問題だからな。あんな小刻みにシュッシュと打たれるパンチなんて真っ直ぐだろうが曲がってようが、まるで避けられる気がしないんだがな。

「俺は基本ゲーム一本だったから格闘技のことは全然知らなかったわ。何気にこういう形の体感型? のゲームをやることになるとは思ってなかったから、そういう知識は貴重だわ」

 今の俺はネットで検索もできないしな。

「今後も公式戦でるならこういう知識はきっと必要になってくると思うぞ。時間が立って普及度が上がれば、俺みたいな『経験者』も増えていくだろうし」
「それは確かに」

 というか、そうなるべきなんだよな。
 クレイドルが高価なこともあって普及には時間がかかる……と思う。でも大抵どのハードも出たばかりは高いと感じても、しばらくすれば競合品の値段競争で価格の着地点をプレイヤー側も理解して普及が広がるもんだ。
 新しい風ってのはどんなジャンルのゲームにだって重要だ。
 新規層が流入すれば、それだけゲーム人口が増えてゲーム自体が活性化するし、開発側は金が入ってさらなる開発費を稼げるっていう訳だ。
 開発費といえば、クレイドルのシステム上、割られる心配が無いってのもデカイよな。ソフトをいくら違法コピーされてもクレイドル本体が無きゃ動かねーし、そのソフトもダウンロードとアカウント発行が本体紐付けでセットになってるから殆ど意味がないらしいし。
 こういうのはニューハード先駆者の強みだよなぁ。まぁそれなりにリスクも背負ってるんだろうけど。

「っと、何時までも入り口で駄弁ってる訳にも行かないな。アンタも次の試合有るだろ?」
「おっと、確かに。……というか普通に中で座って話しとけばよかったな。SADも居るんだし」
「ま、席離れてるから座りながらは無理があるかもしれんけどな」

 それもそうか。
 まぁ何にせよさっさと入ってしまおう。また行方不明だなんだとスタッフに迷惑かけるのは気が引けるからな。

「あ、キョウ。おかえりなさーい」
「あれ?」

 観戦席に戻ってみると、人の数が少ない。
 俺らと、ちょうど反対側の席に座ったエルロイを含めて4人しか居ない。チェリーさんは実況席にいるとして、後三人は?
 トイレ休憩か? いや、そんなのログインしっぱなしで行ってこれば良いだけだし……
 SADも見当たらねぇな?

「なぁエリス、ここに居ない人たちは?」
「あっちー」

 エリスの指差す方には実況席。そこに何人かのプレイヤーが座っている。

「さっきうんえい? の人が来て、試合が終わった人達が解説で何人か来られないかって」
「あぁ、なる程。そういう事ね」

 番組の盛り上げも兼ねて、今回参加した有力プレイヤーに実況解説任せたのか。

「あれ、でもSADはまだ試合終わってないし、何処行ったんだ?」
「キョウの試合が終わってすぐに何処かに行っちゃったよ?」
「ふぅん?」

 今の俺とエルロイとの試合を見て、何処かでイメトレでもしてるのか?
 昔から試合の前にメモ書きして確認を怠らないやつだったからな。まぁ、それだけ本気って事なんだろう。
 決勝戦、こりゃこっちも気が抜けねぇな。
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