ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百十六話 聖鎧Ⅳ

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 そりゃね。迷わずこの子を呼ぶさ。
 なんせ、コイツはぶっ壊れたこの遺跡の鎧の腕パーツを使って一度あの絶対的な防御の上から殴り倒して地に膝をつかせたんだ。
 さっきと違いバリアが残ってない今なら問題なく行けるはず。

「行けそうか?」
「ん」

 ハティがクローで無理やり装甲を引っぺがしにかかる。
 行けるとは思っていたが、やたらデカイクローでこれまたデカイ鎧の装甲をべりべりと引っぺがしているこのビジュアルは……って、コイツ素手でも引っぺがしてやがんな。クロー関係ねぇじゃねーか。
 新しく手に入れた装備をとりあえず使ってみたかった感じか? 気持ちはよく判るから特に何も言うつもりは無いが。結果引っぺがしには成功してるしな。
 というかこの剛力でぶん殴ったのに、稼働中の聖鎧には表面がひしゃげる程度のダメージしか与えられなかったって事の方が驚きだな。何度も思うがとんでもない防御強化だ。

「居た。……けど」

 ハティの呟きに覗き込んでみれば、例の腐れ坊主の姿が見えてきた。
 それにしても……

「なんか、予想した数倍はズタボロだな……何でこれだけ完璧な防御を固めていたのに血達磨になってるんだ? 完全密封されてた筈なのに法衣とか血まみれじゃねーか」
「うわっ、こりゃ酷い……けど何で? 集中砲撃でも鎧の表層をズタボロにしていただけで中には届いて無くない?」

 よこから覗き込んできたチェリーさんも俺と同じ疑問を持ったらしい。
 というか普通そう思うよな、機能停止しても、中から引きずり出すのにこれだけ装甲引っぺがさなきゃならないほど厳重にラッピングされていたコイツがこんな重症を負う理由が思い当たらんし。
 この聖鎧に乗り込む時だって、こんな瀕死にはなってなかったはずだ。

「これは反動ですな」

 とりあえず血達磨の坊主を引きずり出してライラール伯達の前に引っ張り出すと、横から覗いていた爺さんが答えを口にした……んだが。

「反動って、もしかして鎧自体は超絶頑丈でも、衝撃とかは全部中に伝わってるとか?」

 だとすれば、あれだけの集中砲撃を食らったんだ。跳弾よろしく鎧の中を衝撃で跳ねまわって血達磨になったというのも納得はできる。

「いえ、外部からの衝撃は殆ど吸収されてしまいます。反動というのは、この聖鎧を超過稼働させた事による搭乗者へ過負荷の事です」

 ……と思ったら速攻で否定されてやんの。

「超過稼働の過負荷?」
「聖鎧というのは、その高い性能に対して所有者がかなり限られています。法国騎士団の中でもごく限られた一部の者のみが所属を許される神殿騎士団。その中でも一握りの者しか所有が認められていません。様々な理由がありますが、その理由の一つはそこまで鍛え上げられた強者でなければ聖鎧の力を引き出せないからです」

 そういやロボットものにはよくある奴だな。超性能だけどあまりにピーキー過ぎて、乗ってるだけでボロボロになるって奴。

「つまり、無理に引き出しちまったらこのクソ坊主みたいに血達磨になると」
「その通りです」

 無理な加速で急激なGが掛かって潰れたか、或いは人間の間接的に無理な動きをして身体がひしゃげたか、まぁそんなところだろうか。
 そういや、特にこっちはダメージ与えてた訳でもないのにやたら叫んでたけど、今になって考えてみるとテンション上がりまくってハイになってた訳じゃなくて、動くたびに身体が壊れる痛みで叫んでたのか。
 というかそこまでなっても正気に戻らないとかどれだけヤバいんだよ。洗脳ってレベルじゃねーぞ。

「しっかし、辛うじて息はあるようだけど、ここまでぶっ壊れちまってると流石に事情聴取とか無理っぽいな」
「いや、生きてさえいればやりようはいくらでもある。まずはこ奴を連れ帰ってからだな。ヨアヒム殿、想定していた最悪の事態が起こってしまったようだ。死者も出ているようであるしこちらも今は遺跡の探索どころではない。今回は諦めてくれ」
「こうなってしまっては致し方ありますまい。ライラール伯の言葉に従いましょう」

 よく判らんが、あの爺さんと伯爵の間でなんかの取り決めでもあんのか? どうやらクソ坊主とは別の思惑で動いてるっぽいが……仲間だったんじゃ?
 というか、生きてさえいればとか、あの伯爵もしれっと空恐ろしい事を言うな。ある意味ですごく思い描く貴族っぽくはあるんだが、あの伯爵はちょっとそういうのとは違う感じがしたんだがなぁ。やっぱり人を見る目がねぇわ俺。

「では、3隊はこの男の移送を。2隊と4隊は行方不明者の捜索。一隊と5隊以降は我々と共に撤収だ」

 随分と色々あったが、今度こそこれで今回のクエストは終わりか。これでやっとひと段落だ。

「キョウ、これで終わり?」
「だな」

 エリスも戻ってきたし、これでうちのパーティは全員無事にクエストクリアだ。

「キョウくん、クエストは家に帰るまでがクエストだぜ?」
「クエストは遠足と同じかよ」
「えんそく?」
「ん? ああ、普段行かない所に歩いて行ってくる……旅のプチサイズ版ってところだな」
「へー」

 まぁ、これからは遠足どころか国境も飛び越えて色々な所を旅する事になるんだけどな。
 この間の大会の賞金と合わせて、今回のクエストの報酬で大分旅の為の資金に余裕が出てくる。
 元々このダンジョンアタックは初めての事だし、何があるか判らないからと休息期間もキッチリとってある。この傷を治してからでもほぼ予定通りこの街を出発することが出来るはずだ。

「…………は、……ら……い」
「!? 意識を取り戻した!?」

 おおぅ? あれだけ血達磨になったのに意識が戻ったのか。あの坊主も大概頑丈だな……
 といっても、アレじゃ完治しても障害が残りそうな勢いでズタボロさだし、その上で色々な尋問が待っている。あの頭のネジの飛んだ坊主がまともに尋問に応じるとは思えない。尋問からもしかしたら拷問に切り替わる可能性だってある。となると助かったのが救いとは限らねぇんだよなぁ。

「ヨア……ヒム……様、私は……か……」
「ハインリヒ。この後、お前には厳しい取り調べが待っています。今は休みなさい」
「…………? な……を、っ……て……?」


「あれ、俺のかばんは……」
「あれ、キョウくん荷物確保してなかったの?」

 しまった、普段はハティの身体に括り付けてるから、ついいつもの癖でそのつもりになってた。
 宝探しに出たときにばらけたせいで、俺の荷物は俺が確保してたんだ。それであの坊主の襲撃があったから、休憩していた所に荷物全部置きっぱなしだ。

「ちょっと、荷物取ってくるわ」
「無事だといいねぇ」
「勘弁してくれよ! あえて考えないようにしてたのに」

 チェリーさんたちの輪から離れて荷物の回収へ。
 俺の休んでた所は、ずばりあの鎧で大暴れしていた所だ。
 つまり場合によっては俺の荷物は踏みつぶされて、グチャグチャになってる可能性も……って駄目だ。良くないこと考える前に、さっさと探そう。
 確かこの辺に……ってあの鎧が飛び込んできた時の衝撃で床の上がぐっちゃぐちゃだし。
 おいおいおいおい、マジでやめてくれよ? 今後も使うものだからって結構奮発したんだぞ。一回で全滅とか割とシャレにならない……って、おや、アレはもしかして。

「セーフ……!」

 よかった、吹っ飛ばされて埃まみれだけど無事だ。

「キョウくーん?」
「あったあった、すぐ戻る!」

 一瞬ヒヤッとしたが、見つかって良かった。買ったばかりの実用品がいきなり壊れたりするとショックがでかいんだよな。貧乏性だから。
 もし実際に荷物が潰されていたらあのクソ坊主に負わされたダメージよりも、よっぽどダメージがでかかっただろうなぁ。精神的に。

「ああ、ああ……神……のぉ……」
「おい、薬で眠らせろ。これ以上暴れれば本気で死ぬぞ。いくら死んでも構わないとはいえ、正確な情報を聞き出すなら生きていた方がやりやすいんだ」
「了解」

 あんなになっても迷惑かけるとかホント、最後まで……

「神の愛をぉぉぉぉおおおおおおお!!!」
「何っ!?」
「お、おい!」

 おいおいおい、逃げ出してんじゃねぇか! しっかり拘束しとけよ!? 
 っていう両手両足が潰れてるんだろ? 痛み止めも無しに、何であんな大暴れできるんだ……って。

「おおおぁあああああ!!!!」
「ちょっ……!?」

 狙いはこっちかよ!? この場所には遺跡関係の最高権利者でもある伯爵までいるんだぞ? どんだけ恨みをかってるんだ俺。確かに煽りはしたが、俺等の接点って一度会ったあの時だけだろ。
 つか、動きがキメェ!
 へし折れた四肢がおかしな方向に曲がってるのも気にせず、あり得ない速度で突っ込んでくる。
 だが、あのレザライも聖鎧もないズタボロの無手相手なら流石に脅威にならない。この坊主が格闘家なら話は別だが、これまでの動きで戦闘を得意とする人間の動きではない事はバレバレだからな。
 間合いに入った瞬間、迎撃すればそれで……いや、胸元が光ってる。宜しくない手札を何か仕込んでるのか? 何があるか分からん以上は警戒はするべきか。
 取るべき対処は……とりあえず胸元に手を伸ばした瞬間に腕を切り飛ばす、でいいか。奇襲は怖いがあそこまであからさまに光ってれば、集中するべき点が分かりやすい分対応はしやすい。
 
「いけない、彼から離れて!」

 迎撃しようとしたところに聞こえてきた叫び声は、あの爺さんの?
 理由は判らないが、その切羽詰まった声に嫌な予感がして、反射的に距離を取ろうと下がろうとして――

「光をおおおおおお!!!!」
「くっ……何だよ!?」

 胸元に手を伸ばす動きを警戒していたのが悪かった。胸元から転がり落ちた光る水晶のようなソレを、へし折れた足でこちらに向かって蹴り飛ばしてくるというのは流石に想定外できなかった。
 辛うじて身体をひねって直撃は避けた。
 避けたところまでは覚えているんだが、何故か背後に飛んで行ったはずの水晶のような何かが弾け、視界の外だった筈のそれの光に呑み込まれ――
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