ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百十七話 突然こうなると凹むというお話

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「…………?」

 あれ? 衝撃とかが何もない? 魔法の爆弾とかじゃなかったのか?
 ……というか、これってアレだよな?
 明らかに周囲の雰囲気が変わっているし、今まで一緒に居た連中が誰一人いないし。
 鈍感系主人公の素養の無い俺は、一瞬で気が付いてしまったんだが、コレ、俺だけワープしてるよね?
 いや、俺だけかどうかは分からんか。もしかしたらあの部屋に居た全員がそれぞれ別々にワープしたのかもしれない。ただ、現状完全に俺が一人ではぐれてるのは間違いない。
 ……というか、ここ正規のエリアなんだろうな?

「……」

 メインウィンドウが開けるって事はちゃんとゲームの中ではあるのか。だがステータス等は確認できるものの、ローディングとかを示す円周アイコンが回りっぱなしだ。何かを読み込み続けているのか……?
 オプション関連も操作は出来るが反応しない。回線不良か?
 ……違うな。回線の問題ならそもそもサーバへの応答が必要なステータスウィンドウを開くという行動そのものが出来なかったはずだ。だとしたらこの無限読み込み状態や中途半端な動作不良は一体……
 とりあえずGMに連絡を……って、メールシステムはまだ未完成だったか。イベント周りで忙しいだろうからって遅れていたのを急かさなかったのがこんな所で裏目に出たな。
 だが、ログアウト出来ない、通信方法も無いとなると、開発側が気付くまで放置されかねんな。
 というか、気付いていたとしてもここに飛ばされた事がシステム上の仕様に反していないのなら、そもそも異常と認識すらされていない可能性も高い。
 ただ、長期間連絡が取れないとなれば、もしかしたらチェリーさんがおかしいと感じて田辺さんに連絡を入れてくれるかもしれない。そうすれば、俺のアバターの座標とかを割り出して連絡をとりに動くかもしれないが……
 とはいえ、どっちもいい大人だ。一日やそこらでは何かあったのかな? 程度で済ましてしまうだろう。最低でも三日くらいは自力で生き延びる必要がある。三日であれば喰わなくても死にはしないかもしれないが、そんな空腹状態で、しかも一人で魔物にでも遭遇しては目も当てられない。
 ここで待機するにしろ、移動するにしろまずは状況整理をしてからだ。

 まずはそもそもの話、ここは何処だ? 周囲を見回してみても、近くに居たクソ坊主の姿すら見当たらない。ここに飛ばされたのは俺だけという訳だ。或いは全員がバラバラに飛ばされたか……どちらにしろ近くに味方はいないという事に違いは無いか。
 とりあえず、こういう時はアレだな。変な冒険心を出して歩き出す前に、周囲の状況の確認だな。まずこうなった原因の痕跡を探すべきだ。
 現状で分かってるのは、この部屋が光が全く差し込まない場所だという事だ。
 こんな窓の無い部屋の中で周囲の様子をある程度でも把握できるのは、このぼんやりと光ってる何かのおかげか。何だこれ? 水晶か? 何かピンク……いや、虹色? 何か微妙な色で光ってる。部屋全体を照らすほどの光量は無いが、あちこちで光ってるお陰で周囲の状況はある程度ながら把握できるな。
 どこかに部屋の入り口はあるのかもしれないが、光源は点々としており光の届かない所はまだ真っ暗にしか見えていない。廊下にも光がさしてないのか、壁なのか入り口なのかまだ闇に目が慣れていない今ではまだ見通せない。
 ファンタジーならこういう場面で光るといえば、うわさに聞くヒカリゴケとかかと思ったが、実際はもっと得体のしれない物だったな。
 まぁ、何にせよ周囲の状況を確認できるというのは助かる。現状把握がしやすいからな。

 ロケーションは古い遺跡といった感じだ。古い遺跡といっても、ついさっきまで居たような近代的なコンクリ遺跡ではなく、ファンタジーな……というか石材で組まれた苔むした壁という『遺跡』と言われて真っ先に頭に思い浮かぶようなスタンダードなやつだ。
 少なくともここは超文明がどうこうというのとは無関係っぽいな。だが相当古そうだというのは何となくわかる。あのコンクリだらけの遺跡とどっちが古いかとかまでは判らないが、明らかに人の手の入ってる建物? の部屋の中に、苔はともかく謎の光る水晶やらが生えてる時点で相当な時間が経ってると想像できる。
 ……あれ? 水晶が石壁や床を突き破ってこのサイズまで成長するのって相当時間かかるよな? ……って、今はそんな事より先に考えることがあるだろ。

 この場所がどういう所なのかはぼんやりとだが把握は出来た。そして次に考えるべきはこの部屋に来てしまった原因についてだ。
 何で飛ばされたかといえば、思いつくのはやっぱりあのクソ坊主が蹴りつけてきた水晶が原因だろう。
 つまり、アレは俺をどこぞに吹っ飛ばすアイテムだったと。
 一瞬、俺のアバターにバックドアプログラムを仕込んだっていう奴が……まぁ、理由は分からんがチートまがいの何らかの行為で俺を隔離したのかとも思った。
 だが自分やモンスターをどこかに飛ばすというアイテムや魔法のあるゲームというのは結構多い。やべーシステム外アイテムと決めつけるのは早計だ。というか、いつの間にかこっそり仕込まれたバックドアの時と違って、あれだけ多くの目のある中で仕掛けてきたというのは、やり口が大きく違うと感じる。
 頭のおかしなNPCが暴走して危険物投げつけてきて運悪く巻き込まれただけと考える方が自然か。
 ……最悪だ。

 まあいい、原因の次は状況だな。
 ええと、ワープ……というか、テレポート? 何か知らんが、俺からしてみれば唐突にこんな所に飛ばされたわけだが、こういう状況にも一応お約束みたいなものはあったりする。
 例えば入り口と出口が決まっているゲートタイプ。SFとかで出てくる、遠くにある基地と基地の間を一瞬で移動する奴だ。丸い輪っかの機械をくぐったり、壇上に乗ると転送されたりする奴な。他にはポータルタイプ。入口はどこからでも行けるけど、出口は決まっているやつだ。ネトゲとかでの復活場所指定とか、スキップトラベルとかの形でよく見るやつ。
 最期にテレポーテーションタイプ。これはもう入り口も出口も自由で、所構わず自由自在にワープしまくる奴だ。超能力主人公タイプの漫画とかでよく見るやつだな。
 そして、周囲をくまなく探してみても、出口になるような見当たらない。機械的なものも魔方陣的なものも、そういった痕跡は全くない、ただの苔や蔦で覆われたただの古い部屋だ。つまりここは出口に設定されていたわけではなく、偶然ここに飛ばされただけという可能性が高い。
 こんな何の関連性も見当たらない場所にぶっ飛ばされた事を見ると、飛ばす先は完全ランダムだろうなぁ。
 ……完全ランダムのワープか。もしかしたら壁の中に飛んで即死もあり得た訳か。恐ろしい……
 運が良かった? いや、ランダムワープ食らってボッチになった時点でどこも運が良いとは言えないな。

「えぇ……マジかよ……」

 しかし、一人でこんな所に放り出されてみると、何だな……滅茶苦茶ヘコむ。想定外だ。
 寂しい……というのとはちょっと違うと思うが、何だろう? ガッカリ感……とも違う、言葉で表しにくいが知らない場所に飛ばされた事への焦りよりも、皆と切り離された事にものっそいヘコんでいるのだ。
 今まで三人と一匹で居るのが普通になっていて、突然一人に……しかも再開方法が即座に思いつかないというのがまたキツイ。
 俺ってこんなに孤独耐性低かったっけ……?

 この世界の広さだ。国内であればまだいいが、最悪国外にまで飛ばされていたら打つ手無しだ。俺からも、チェリーさん側からも合流するのは至難の業だろう。
 だからと言って、本来ネトゲであれば真っ先に試す状況リセット方法である死に戻り何ぞ、俺の場合はもってのほかだしな。
 もしかしたら死に戻りできる可能性もあるかもしれない。だが、その『かもしれない』に掛けた結果、俺が死に耐えられず本当にポックリ逝ってしまったら万に一つの合流の可能性すら摘んでしまう。
 ……いい加減、死に戻りを最後の手段として考慮するのはやめておこう。無意味だ。

「はぁ……」

 いやいや、ヘコんでいる場合じゃねぇ。頭を動かさねぇと。
 ランダムワープの可能性が高いというのは、現状考えうる中でも最悪な部類の一つだ。
 この場に何の目印も無い以上、ここで待っていても助けが来る可能性がほぼないって事だ。こうなると流石に自力で動き回る必要が出てくる。
 こういう状況で最初に行動を起こすのはゲームであれば主人公的な行動なんだが、映画とかだと第一犠牲者待った無しなんだよなぁ。リアルでも遭難したらあまり動き回らない方が良いんだが、でもこの状況で待ってても状況は動かんし食料も手荷物分しかないから心もとない。動かざるをえんか……

 とりあえず、近場の光ってる石を基準に、かの有名なダンジョン左手法で試してみるか。
 ……と、その前に、石に包帯の一部を巻き付けておこう。建物の構造によっては出口に出られずぐるっと一周してしまう場合もある。そういう時にこの暗さじゃ微妙な違いが判らないし、複雑な構造だった場合一周してもその事に気が付けない可能性もある。もしこの包帯の場所にたどり着いてしまった場合は、その対面の壁を使って右手法を試す。地味だが今取りえる一番確実な方法だ。
 右も左も一周するようなら、面倒だがマッピングしながら構造を把握していくしかないが、まずは一つずつ試すところからだな。
 幸い、あの状況で武器を手放してはいなかったのは我ながらグッジョブだ。こんな得体のしれない場所を武器無しでうろつくとか自殺行為だ。
 エリスが居ないせいで、モンスターの接近に今まで程早く気が付けない。遭遇戦ならまだ良い。最悪思わぬ不意打ちを受けるかもしれない事を考えれば、戦うための手段は一つでも多いに越したことは無いからな。
 というか、チェリーさんとハティが付いているとはいえ、エリスはまだ子供なんだが大丈夫だろうか。流石にずっと一緒に居た分心配になる。ここで俺が心配したところで何が変わるかという話なんだが、心配になるものは仕方ない。理屈じゃないからな。
 とはいえ、心配でも動かなきゃ俺の行く末が心配になってしまう。

「さて、行きますかね……」

 まずは信頼と実績のダンジョン左手法に頼ってみるとしよう。



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