ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百四十一話 RPGでよくある奴Ⅲ

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「で、俺が相手をするのがお望みのようだけど、どうするんだ?」
「んなもん、コレに決まってんだろうが」

 そう言って二の腕をたたく酔っ払い。
 つまりは殴り合いの喧嘩って事か。流石に武器を持ち出すほど熱くなってる訳ではないらしい。
 とはいえ、そもそもの発端が相手の暴言だし、実際言ってる事はかなり押し付けがましいわな。そもそも俺がこうして喧嘩を買ってる時点で大迷惑な訳だし。まぁそれについてはシアも同罪だがな……!

「わかった。それで、勝敗はどう決める? 一発良いのが入ったらって所か?」
「そんなもん、ぶちのめした方の勝ちに決まってんだろ」
「いや、決まってねぇよ。なんで最後までやる必要があるんだ」

 ここは普通、顔面とかに一発入れた方が勝ちとかそういう流れだろ。

「そんなもん、コレがテメェの性根を叩き直す為の授業だからに決まってんだろ!」
「いや、だから決まってねぇよ」

 というか、性根を叩き直すべきは酔っ払いの絡み酒で迷惑かけまくってるコイツなんじゃないですかねぇ?

「オラ、どこ見てやがる!」
「うぉっ!? お前マジか!?」

 いきなり店の中で始めやがった。どんだけ質の悪い客なんだコイツ! というか表へ出ろとか言ったのはコイツだろうが!? これだから酔っ払いは……!

「この……!」
「ぬぁ!?」

 大振りの拳を躱し、そのまま手首を取ると、小手返しの要領で質の悪い酔っ払いを入り口から外へ放り出す。これから飯を食おうって店にこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないからな。
 外に放り出してしまえばこっちのものだ。表通りだけあって広さは十分。これなら器物破損を気にせずにやれる。

「どうした、かかって来いよ悪質酔っ払い」
「テメェ!」

 流石酔っ払い。簡単に挑発に乗って元から赤かった顔をさらに真っ赤にして突っ込んできた。
 大振りの殴りかかりを往なして、もう一度投げ飛ばす。
 小手返しの要領……と言えば聞こえがいいが、実際に小手返しなんてガキの頃に学校で護身術の授業か何かで一度経験したきりのうろ覚えだ。ぶっちゃけ正しい小手返しなのかと言われるとかなり怪しいが、さっきのに引き続きそれっぽく決まってるからまぁよしだ。……それっぽくというか面白いように決まるな。うろ覚えなのに。
 まぁ、攻撃の受け流しや相手の重心崩しなんかは『こっち側』に来てから結構頑張って会得してるから、そういうのと組み合わせることで曖昧な記憶を補えてるんだろうけど、やっぱり付け焼刃。技は技でも力技って感じなんだよな。勢いを生かして流すとかいう綺麗な流れじゃなくて、相手の勢いを利用して、そのままぶん投げるような乱暴なやり方だ。それでも通じるのは相手が酔っ払いだからだろうな。多分エリスやチェリーさんには通用しないだろうし、シアなんて言わずもがなだ。

  あとは、この面白いようにきりきり舞いする酔っ払いをダウンしてやれば……

「このっ、そう何度も……!」
「む?」

 終わりだなっと投げ飛ばしてやろうとしたところで動きが止まった。ガッツリと踏ん張り投げ飛ばされることに耐えているらしい。
 ……小手返しって関節技みたいなもんで、耐えようとしても痛みで身体が曲がっちまってそうそう踏ん張れるような技じゃなかったよな? 普通に踏ん張って我慢されてい待っているあたり、やっぱり俺のはなんちゃって小手返しだったか。
 しっかし……

「ぐっおぉぉ……」

 今かけてるのはなんちゃって小手返しではなく、ハイナ村で教わった、手首から肘、肩と極めて相手を押し伏せる割とガチめの対人鎮圧用の関節技だ。
 関節を捻じって強引に相手の身体を這いつくばらせるような技だ。痛みは半端ない筈だし、ただ痛みに我慢すればいいという単純な技じゃない。なのに、耐えてやがる。
 これは根性で我慢するとかそういったものじゃないな。体重移動や重心移動で極力関節のねじりを軽減して、なんとか俺に引きずり倒されないように耐えているんだ。
 攻撃はずいぶん雑だが、なかなかどうして侮れないバランス感覚を持っているらしい。これだけのバランスを維持できるなら、素面の時であればもしかしたら最初の投げも成功しなかったかもしれないな。

「でもまぁ、耐えてるだけじゃどうにもならないんだけどな」
「ぐぁっ!?」

 腰を跳ね上げて自分の身体を捻じる事で関節の負担を軽減しようとしていた様だが、その足を払い地に立てなくしてやれば……

「いだだだだ!?」

 バランスを崩し、両ひざをついてしまった時点で、蒙古の酔っ払いは身体をよじって頬を地につけ這いつくばるしかなくなってしまう訳だ。

「参ったか?」
「ふざけるな! この程度の痛み……」
「そうかそうか」
「あがぁっ!?」

 こうなってしまえば、もう身体が反射的に身を捩って痛みから逃れるために身体を地に伏せるしかない。これを脱するには捻じりを入れている方向にそれ以上に自分の身体を捻じるか、関節が破壊されるのを承知で無理やりホールドを解くかの二択くらいしかないはずだ。
 映画や漫画と違って脱臼や関節炎なんてのは、そうそう我慢できるような痛みではない。自分の命がかかっている状況とかでもない限りはな。そして今後の戦士生命にもかかわる利き腕の関節破壊なんて認められるハズがない。
 ……と思うんだが。

「舐めんなァ!」
「む……」

 この手の極め技の経験は無かったのか力技で強引に極められた腕を開放しようともがいている。いくらバランス感覚に優れていようと、こんな腕力に任せた無茶な抜け方じゃ肩関節に相当痛みが走ってる筈。関節が壊れるかもしれない危険性くらいは酔っぱらっているとは言ってもむしろ野性的な直感の方でわかりそうなもんなんだが……
 流石に商売道具を破壊するほどやってはやりすぎだよなぁ。
 だが、さっきの小手返しもどきのやり取りを考えると、投げ技はすぐに対応されてしまいそうな気もする。……となると、打撃技になる訳だが。

「シッ!」
「グッ!?……この……!」

 結構強めに殴ってる筈なんだが、よほど殴られ慣れてるのか全く問題にせずに突っ込んできやがるのよな。
 しかも、これも根性で耐えてるように見えて当たる瞬間きっちり首や体を捻ってダメージを殺してるんだよな。これだけ酔っぱらってるくせに。
 ほとんど無意識でもこういう動きが出来るくらいに修羅場を越えて来てるって事なんだと思うが、やりにくいなチクショウ。
 手を変え品を変え攻めて見たが、やはり極め技で制圧でもしないと簡単に止められる方法が思い当たらない。

 それにしても……アレだな。かなりテクニカルな事をやっているにも拘らず傍から見れば根性でただの酔っ払いが何とか耐え忍んでいるだけにしか見えん。今はたまたま酔っぱらってるからこんな風になっているのか、素面の時からこうなのかはわからないが、立ち居振る舞いで大分損してるんじゃなかろうか……?
 まぁ、立ち居振る舞いについては俺が他人様の事をどうこう言えるほど立派じゃねぇんだけどな。

「うぅむ……」

 このまま酔っ払いの勢いのまま暴れさせて疲れさせるって方法も無くは無いが、流石にそんなに長々と戦うのも嫌だな。というか腹が減ってるからさっさとこんなのは終わらせて飯が食いたいんだ俺は。
 そもそも、この争いに俺が関わる理由がないのに勝手に絡まれて戦わされてるって時点で十分理不尽なのに何で相手の事をおもんばかる必要があるってんだ?
 ……なんだか考えてきたら余計腹立ってきたぞ……?

「戦いの最中に何他所事考えてんだコラァ!?」
「うぉ……!?」

 目潰しか!
 蹴り上げた砂を避けそこなった。
 くそ、集中力が切れて来ていたのか、考え事に没頭しすぎた!

「ペッペッ……! クソ、いよいよ何でもありかよ!」
「喧嘩なんてそんなもんだろうが!」

 あぁ、もう何か……キレそう。
 相手はこんだけ好き放題してるんだから、こっちが気遣いする必要なんてないよな?
 無いな。うん無い。

「オラァ、喰らっと……」
「うるせぇ、いい加減黙ってろ!」

 目潰しにひるんで下がった俺に畳みかけようとしたのか、大振りで決めに来た酔っ払いの腹へ一撃。
 普通の打撃じゃなく、ここしばらく使ってなかった浸透打撃の一撃だ。

「……ごぁっ!?」

 腹筋締めて耐えようとしていたんだろうが、いくら体感に優れていようが初見でこの攻撃を受けて耐えられそうなやつは――俺の知る限り数人しかいない。
 目の前の酔っ払いも例に漏れず、凄まじい形相で膝をついていた。
 腹筋を貫いて腹の奥に届いた衝撃で、今頃アイツの腹の中はしっちゃかめっちゃかに揺さぶられているだろうな。自分がぶっ放しておいてなんだが、正直絶対に食らいたくない技だコレ。
 これで勝負あったか……なんて考えたのが何かのフラグだったのか、目の前の酔っ払いが千鳥足ながら立ち上がろうとしていた。
 コレでも駄目となると、流石に手段を選んでられなくなるんだが……

 シアの方に視線を向けると、笑顔で親指を立て首をかっ切るポーズ。あのジェスチャーってこんな世界にも存在するんだな……
 酔っ払いの仲間たちの方に視線を向けると、困った表情を返された。流石にここまでのやり取りを横からみて、力量差は理解できているものの、戦っているのが自分たちのリーダーである手前こちらを応援するのも違うし……ってところだろうか。
 ただまぁ、ここまでやってまだ向かってくるとなるといい加減……なぁ?

「ぜぇ……ぜぇ……オラ、続きを……」

 やろうぜ、とでも言おうとしたんだろうか?
 こちらを向いた酔っ払いの腹の下に滑り込むようにして、二度目の浸透打。しかも今回は威力よりも衝撃をより広げる様な打ち方だ。
 ダメージはさっきほどじゃあない筈だが……

「うぐっ……」

 衝撃にこらえ、なおもこちらに反撃を加えようとした酔っ払いの動きが止まる。
 そして、そのままフラフラとした足取りで道のわきに向かい……

「ゴエエェェェ……」

 盛大にゲロをぶちまけた。
 というかそのまま力尽きたのかゲロの中に顔を突っ込んで動きを止めていた。
 うむ。想定通り。
 暴れるほど酔っぱらってるって事は、飯も酒もたらふくため込んでる筈。最初の一撃で腹の中をかき回してやった上で再度、今度は腹の中をかき回すためだけの衝撃をぶち込んでやったんだ。胃袋の方は大変なことになってるだろう。
 いくら腹筋を鍛えようが、生理的なゲロの衝動には耐えられまいとぶち込んでやったが、珍しく狙い通りの成果を得られたな。
 結果はかなり汚い事になったが、制圧という目的は叶ったし、介抱は向こうの仲間に任せればいい。
 これでようやく俺も飯にありつけるという訳だ。

 ……というか、アレだけ酔っぱらって猛り狂って『他人の迷惑顧みず』な暴れ方していたくせに、往来のど真ん中でゲロを吐くのを避けるくらいの理性は残っていたのか。本当に酔っ払いの思考は予測不能だな。


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更新間隔が大幅に開いてしまい申し訳ありません。
仕事を辞めてフリーランスになった事でやる事が増え、一つの事に時間を割くことが難しくなっており以前の様に更新できなくなっていますが少しずつでも進めていくつもりなので今後ともよろしくお願いします。
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