ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百五十三話 御宅訪問Ⅱ

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 そろそろ侵入してから一刻ほどになるか。
 結構慎重に進んできたが、今の所一度も見つかっていない。
 途中で3度ほど巡回していた兵士に出くわしたが、すべて察知はこちらのほうが早く、闇の中から奇襲をかけて無力化してある。勿論殺しては居ない。変な所で恨みを買う理由はないからな。

 うん。やっぱり思ったとおりだなコレ。
 リアリティを追求しているとはいっても、現実で実際に城に忍び込むのと比べても滅茶苦茶難易度がヌルいわ。
 勿論、警戒は必要だ。見張りに発覚するまでは良いが、その後仲間を呼ばれるのは流石にまずい。とはいえ……だ。
 人手が足りないのか、城の明かりは限られた区画にしか点いていない。つまり、侵入する側有利で、場内に潜むのも楽。どれだけ城が広くても、これだけ稼働している区画が絞られていればいくらでもやりようがあるってものだ。
 可動範囲が狭いのなら、そこの人口密度も高いんじゃないか? と思いもしたが、緊急時なら兎も角クーデターも成功し首都の制圧も成功した今、勝った側としては戦で失った金を無駄遣いしたくないはず。だから守護する範囲が狭ければ、そこを守る兵士も数は少ないものだとシアから言われて、確かにそういうものかと納得した。
 そんな訳で、エレク達くらい実力があるなら、そこまで緊張する必要はないと思うんだが……

 そういや決行前の話し合いの時もエレクたち城に潜入する事に割と肯定的だった俺に対してドン引きしてたっけか。


   ◇◇◇


「アレ? これ実は楽勝なんじゃ……?」
「えぇ!? 兄貴まで何を!?」

 いや、そんな理解しがたいものを見るかのような目で俺を見ないでくれよ。
 でも、冷静に考えてみると実際そうなんだわ。
 現実的に考えれば、兵士や役人、貴族たちの詰めている城へ侵入してのミッションなんて、スニーキングスキルを備えた特殊部隊みたいな人でもなければまず無理だ。発見されてあっという間に包囲されちまうだろう。
 だがしかし……だ。

 ここはゲーマーらしくわかりやすくRPGに置き換えてみよう。
 今から攻略するのは格下の雑魚がpopするダンジョンだ。
 しかもランダムエンカウントではなくシンボルエンカウント。スニーキングミッションなので戦いたくなければ全てと言わずとも回避は可能。もし接敵してしまっても相手の強さはたかが知れている。
 そう、兵士に最悪発見されてしまっても倒してしまえるのだ。
 そしてボスを倒す必要もない。俺達の目的はあくまで城への侵入とシアの求める情報のみだ。クーデターの首謀者を倒すとかそういう目的ではないし、この国の支配者がどうなろうが正直どうでもいいからな。

 うん、やっぱりそう難しいものとは思えんな。
 もちろんこのゲームのことだ。システマティックではないからこその偶発的トラブルとかが起きる可能性は十分あるし、油断は当然出来はしない。油断できないんだが、今まで遭遇してきたトラブル何かと比較すると、相手が格下というだけで、かなりのイージーモードではないだろうか?

 それこそ俺達の求める情報をピンポイントで守る強敵ボスなんかが居ない限り、クエスト難易度としてみた場合、楽勝な内容だ。ゲームのクエストと見た場合の話だけどな。
 ……まぁ、何だかんだでそういうのが居るのがゲームなんだけど、このゲームの場合は良い意味でも悪い意味でも、そういうお約束とは少しかけ離れているんだよな。
 
 そうなると、現実的に考えて難しいんじゃないか? ……となるかも知れないが、そこで現実とは違う身体的なポテンシャルや、近代兵器や科学的なセンサーの有無とかの要素が加わると、途端に難易度が激変する。

 なんせ、スパイ映画のような潜入作戦にヒーロー映画の主人公が挑むようなものなんだ。 
 見つかってもゴリ押せる潜入なんてイージーモードが過ぎるだろう。
 勿論、ビデオゲームと違って体力的な問題もあるし、無双ゲームほどステータスに隔絶した差がある訳ではないので、発覚して城中の兵士によって数押しされればエラい事になるだろう。
 でも、潜入ミッションとして考えれば、どれほど楽なものかはゲーマーであればある程度は共感してもらえると思う。

 ……まぁ、この場にはゲーマーなんて俺しか居ないから、共感してくれる奴なんて居ないんだけどな。

「まぁ、そこまで深く考える必要はないと思うぞ? エレク達くらいの実力者なら、やり方次第で多分どうとでもなるんじゃないかな?」
「正気っスか!?」
「もちろん。まぁ、城に詰めている兵士の練度が、伝え聞く程度の弱兵なら……って条件はつくけどな」
「そこについては、まぁ俺らが保証するッスけど。情けない話ですがね」

 まぁ国の人間としては時刻の兵士が弱兵だって認めるのはたしかに情けない話なんだろうが、侵入する予定の俺らにとっては、まぁいい話だわな。

「それにしても……ッスよ。いくら弱兵だと言っても兵士は兵士。戦い方を知っている連中が数に物を言わせて守りを固めてるんスよ? いくら個人戦力が高くても数の暴力には抗えない」

 まぁ、エレクたちは名の知れた冒険者だと言うし、もしかしたら戦場の経験もあるのかも知れない。
 確かに敵味方入り乱れて戦う戦場では、個の戦力は数の暴力で飲み込まれてしまうことは多い。ソレは間違いないだろう。GvG型の攻城戦ゲームなんかで、乱戦中にびっくりするほど格下相手にkillを取られることなんていくらでもあったし、俺にもそこを懸念することは理解できる。
 だが、それはあくまで乱戦に巻き込まれた場合だ。

「これからやるのは潜入だ。もし戦闘が起こったとしてもそれは歩哨相手の遭遇戦くらいだろう。となると単純に個の戦力が物を言う状況なんだよ」

 歩哨の数がどれくらいで巡回しているかはわからない。でも、街道警備ではあるまいし、城の中の巡回警備に10人だとか20人が固まって回るということは流石にないだろう。

「……なるほど。一度に遭遇する相手の数は多くて私達と同数かそれ以下って事ね」

 シーマが俺の言っていることを理解したらしい。ヴォックスも何かに気づいたのか考え込んでいる。

「あ~……一度も敵に見つかってはいけないと言うわけじゃない。要は見つかっても仲間を呼ばれる前に制圧しちまえっていう事っしょ?」

 最後にジリンも俺の言わんとしたいた事に気がついたらしい。
 正直こういうのは俺よりも実戦経験のあるコイツラのほうがすぐに気付くもんだと思ったが……まぁ少数で城攻めなんて普通考えんか。
 そういうのをゲームでとはいえ経験している俺のほうがむしろ理解しやすかったって事かな。

「そういう事。俺たちが注意するべきは発見されることじゃなく、発見された後に助けを呼ばせない事だ」

 勿論発見されないのが一番ラクなんだがな。
 さて、頭ン中ではどうして大丈夫なのか理由は明白なんだが、どうしてもゲーム知識前提でこの世界の住人達には伝わらない表現ばかりになってるんだよな。これをエレク達に解るように説明すると……

「堂々と正面突破で敵の首魁を目指すわけじゃない。人の居ない場所をコソコソと隠れ進むだけなんだから、城中の兵士を敵に回す必要は欠片もないんだよ」

 まぁコレくらいシンプルな説明になっちまうか。説明下手だからな俺。でもまぁシンプルな方が伝わりやすくはあるんじゃないか?

「まぁ、兄貴の言いたいことは解ったっス。それでも、そう簡単に行くとは俺には思えないんスけどね……」

 うぅむ。まだ半信半疑……というか殆ど懐疑的って感じか。
 それでもまぁ、無理と決め付けてた今しがたよりはだいぶマシか。コレ以上は実際にやってみて納得してもらうしか無いかなぁ。


   ◇◇◇


 ……なんてやり取りがあったわけだが、そのエレクたちを見てみると、俺の言った通りに事が運んで、それでもどうにも釈然としていない感じだ。
 まぁ、納得できようが出来まいが、結果はご覧のとおりだ。
 さて、上手く言っているのは良いことだ。このままの勢いでさっさと目的日たどり着きたい。急ぐ用事でもないが、シアを待たせると後で何言われるかわかったもんじゃないからな。

 ヴォックスの集めてきた情報で、王族の居室は玉座の間の奥……なんていうRPGでよくある構造ではなくて、普通に城壁の中に居住専用の建物があるらしい。
 まぁ、城の中って生活するには不便っぽいしな。
 ただ、そこにたどり着くには城の中を通り、周囲を城に囲まれた庭のような場所に出る必要がある。なので結局は城壁と城への侵入と突破は必要なんだよな。面倒くさい事に。
 そんな訳で、今俺達は城壁を突破して現在城の西側、消灯された区画を絶賛進行中という訳だ。

 先頭は本職スカウトのヴォックスに任せ、俺達は後からついて行っているだけなので、ぶっちゃけ何も苦労していない。
 楽ちんにもほどがある。俺らに出来ることといえば、せいぜいヴォックスの足を引っ張らないように、音を立てないように注意を払うくらいのものだ。
 一応発覚した場合の戦力ではあるんだが、ヴォックスが優秀なのか、この城の兵士が無能なのかはわからないが、相手の接近に先に気づくのは常にヴォックスだった。なので接敵時も足音を立てないように闇に紛れてヴォックスが一人で処理してるから。今の俺らはヴォックスに引率されてるだけだ。

 ヴォックスの手信号……というかジェスチャーに従うこと暫く。念の為通ってきた道順だけは覚えつつも、先導されるがままに進んだ所でヴォックスが足を止めた。
 どうやら庭へたどり着いたらしい。
 周囲に明かりはついていないが視界が開けていて、流石にこのまま庭に踏み込むのは危険かと思いきや、ヴォックスはそのまま庭へ踏み込んでいってしまった。
 大丈夫なのか? と、少し焦ったが、エレクたちも迷いなくついていく辺り、ヴォックスのスカウトとしての仕事を信頼しているんだろう。
 ここで怖気づくほど空気が読めないつもりはないので、俺も何食わぬ顔であとに続く。

 そして、たどり着いた如何にも『金持ちの別荘』然とした建物の生け垣を潜り、先行して中の様子を伺っていたヴォックスが建物の中ではなく裏手の庭の方へと足を向ける。
 出来るだけ音を立てないように慎重に後に続いていたんだが……

「コソコソせんで良い。さっさと出てこい」
「!!?」

 と、突然裏庭側から呼びかけられ、正直心臓破裂するかと思った。
 まぁ、俺だけじゃなく、エレクやヴォックス達も同じ様に肩をビクッとさせていたからセーフだ。何気セーフなのかはしらんが。
 というか、特に潜んでいた様子もなく、しれっと一流スカウトの索敵掻い潜るのはどうなんだ?
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