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四章
二百七十三話 隣国事情
しおりを挟む「さて、集めてきた情報を聞かせてもらおうかの?」
情報収集の為、とヴォックスが俺達と分かれて数日後、俺たちが食事している所に戻ってきたヴォックスを招き入れ、食後の会話といった感じで打ち合わせが始まった。
「では、まず現在この街の置かれている状況からですが……正直に言うととても安心できるような状況では有りませんね」
「ふむ、ソレはどういう理由かの?」
「獣災害らしいですね。開拓のため大森林へ魔物討伐に出た軍が敗走、そのまま撤退中を野獣などに狙われ、何を考えたのかそのまま市街地へ野獣や魔物を引き入れてしまい大惨事……と言うことらしいです」
「軍を率いていた司令官はアホなんじゃないの?」
「詳しい情報まではてにはいりませんでしたが、そういった理由で首都が蹂躙され王族は遁走。アムスは実質崩壊しているようです」
「そもそも、たまに現れる獣相手にも俺たち冒険者の力を借りなきゃ対処もできないのに、よりにも寄って大森林なんて獣の巣に喧嘩を売るとか正気ッスか?」
エレク達が呆れるのも当然だ。
この国の正規軍の強さを直接見たことがないから断言はできんが、道中で会った騎士たちや、城の警備をしていた兵士たちの強さ。それと道中で出会った獣の群れやエレク達の強さなんかから考えて、この国の兵力というのは、こう言っては悪いがとても高いとは言いづらい。
歯に衣着せずハッキリ言うと弱兵だ。そして、そんな国を相手に良好とは言えない……どころか実質敵対してるのが隣国アムスだ。にもかかわらずこの国を攻め滅ぼせていないということは、戦力的に拮抗しているか、あるいは劣っているという事だろう。
その程度の兵力で、よりにも寄って野獣の巣である森に踏み込んであまつさえ敵対するなんて自殺志願としか思えん。
もし、それでも何かしら森を拓くに値する理由があったとしても、結局それも危険を犯して森を拓くメリットとデメリットが釣り合っているとは到底思わない。というか街一つ滅びかねないデメリットを帳消しにするようなメリットが思い当たらないというのが正しいか。
「ここは国境な街から少し離れているため影響はまだ少ないですが、実際の所、危機的状況と言っても過言ではないと言ったところですね」
まぁ、街を獣の群れが襲撃してるっていうんだからとんでもない非常事態だろうなぁ。
しかも、街道で戦った獣の群れは、本当に畜生かと思うほどに連携の良さや引き際が良かった。体力だけじゃなくて知恵の方でもこの土地の獣は侮れないと感じていたんだが、弱兵のこの国をそんな獣の大群が襲っているという。
国境の街とやら、詰んでるんじゃないのか?
「それ、どうにかなるんスか?」
「ハッキリ言ってしまうと、打つ手は有りません。幸い、外壁を破壊できるだけの大型獣はまだ見つかっていないので、時折壁を超えて侵入する身軽な獣さえ対処すれば、街が崩壊するような打撃を受けることはないと思うのですが、昼夜引っ切り無しに街を囲み吠えかけているので、散発的な侵入であっても中の住人たちはかなり参っているようです」
そしゃ、常に自分の命を狙っている獣達の唸り声が聞こえる生活なんて、ストレスでやってられないだろう。しかも少ないとは言え外に出れば獣に襲われる危険まであるんだ。戦う術のない一般人には溜まったもんじゃないだろう。
「あぁ……なんとなく違和感があったんだけど、そういう事ね」
「何がっスか?」
そういうことってどういう事さ?
俺とエレクが揃って首を傾げる。
「何か雰囲気が違うと思ったら、寂れているのは見ての通りなんだけど、この街、以前はこんなに人が居なかったと思うのよね。なのに寂れているように感じるのは、以前来た時よりも雰囲気が荒んでいると言うか……」
「実際、そのとおりです。この街はまだ国境から少し距離があるため違和感程度で済んでいますが、国境沿いの街は難民で溢れている状況だそうです。今が雪の季節でなければ、この街にも人が押し寄せていただろうと言う話です」
「というか、獣達が襲ったのは隣国の首都なんだろう? なんで国境を超えたこんな所までそんな事になってるんだ?」
地図を見た感じ、獣の大森林はアムスの首都の南東側に広がっている。位置関係上、真反対とまでは言わないが方向が逆な上、距離もかなり開いているこの街にまで影響が来るようには思えないんだが……
「どうやら、獣たちに逐われたアムスの民達が、獣たちを引き連れて駆け込んだらしいです。そのせいで国境の街が巻き込まれて獣達の襲撃を受けているようです」
敵対国家にまで逃げ込むとは……命がかかっては、そんな事気にする余裕もなかったか、或いはわかってて嫌がらせで獣たちを押し付けたか。
なりふり構わないという意味だと、普通に後者を選びそうだと思ってしまうのはなんか嫌だなぁ。
「学ばないのかしら……と言いたい所だけど、いきなり獣に襲われた一般住人にそんな事はわからないわね」
「そもそも、何で大森林に手を出したのやら。あそこは魔境だと国外にも知れ渡っている難所ッスよ。たとえ、街を拡張したかったのだととしても、あの国は山を背後に背負っていても街の前には広大な雪原が広がっていたはず。土地が余っているのに森を拓く意味がわからねぇ。森に手を出すなんてどう考えても悪手ッス」
「その上、その尻拭いをこちらに押し付けてくるとか迷惑極まりないっしょ」
ホントソレだ。
トレインで首都巻き込んで国壊滅とか笑い話にもならん。しかも隣国まで被害が飛び火とか迷惑まさにここに極まれりといった感じだな。
「竜ヶ峰へのルートは、大森林の直ぐ側を迂回して向かうのが最短ルートだったんですが、コレではすこし進み方を考える必要があると思います」
その進言に少し悩む素振りを見せたシアは……
「いや、最短ルートで行く。もちろん大森林は迂回するがな。儂等が彼奴らの領域である森の縦断して襲われるというのならまだしも、森の外で儂等を襲うような獣を処理しても問題なかろう」
いや、俺等が全然良くないというか、群れを相手にするのは格下相手でも結構しんどいのに、ソレを道中ずっと繰り返す可能性があるというのは流石にゾッとしないぞ。
「何故か、お聞きしても?」
「こんな事にならんよう、儂等が目指す先に居る者が管理しておったはずじゃ。じゃがこの様子では何か問題が起こっておるらしい。ソレを確認するためにも、この獣騒ぎを収めるためにも先を急ぐ必要がある」
「なるほど……」
つまりはアレか? シアが目指す先にはダンジョンボスと言うかエリアの主みたいなのが居て、目的はそいつに会うことだった。
だのに、そいつが管理しているはずの獣が暴れているのはおかしく感じるから、以上が起きているかどうか確認するためにも先を急ぐ必要が出てきたと。
いやまぁ、ボスとかじゃなくNPCの可能性もあるが、どちらにしろそういう奴に顔をつなぐ予定だったと。
シアがわざわざ自分で足を運んで会おうとするということは、只者じゃないだろう。それに俺を合わせようとしていたということは、このゲームのシステムに関する権限みたいなものをかなり持ってるんじゃないのか?
例えば、エリア移動だとか……!
「シアが北に向かっていたのは、そいつに会うため……ということで良いんだな?」
「その通りじゃ。儂が確認したかったことを問いただすためじゃが、確証はないがお主の今の状況を改善させる手を持っておる可能性が高い」
やっぱりそうか。となると面倒くさい行軍にはなりそうだが、シアの提案は断る理由がないな。
獣達の暴走が起きているとは言え、元々その物騒な大森林とやらを掠めて進む予定だったんだ。どうせ戦闘が起こっていた可能性は高い。『戦闘が起こるかもしれない』と言う状況から『ほぼ確実に戦闘が発生する』にイベント内容が変わっただけだ。
このゲームの今までの傾向として、戦闘を匂わすような内容が少しでもある場合、ほぼ確実に戦闘になってきたんだから、俺としては『かもしれない』も『確実に』も意味的には何も変わらない。
「わかった。俺はソレで構わない」
「ほ、本気っすか!?」
まぁさっきだった獣がうろついている領域、しかもその本拠地のすぐ近くを通るというのだから、エレク達が怖気づくのはまぁ、わからんでもない。
わからんでもないんだが……
「よく考えてみろよ。正直な話、獣共を相手にするよりもシアとの組手のほうが数倍難易度高い気がするぞ?」
「え……? あっ!」
「確かに……」
「言われてみれば……」
「うむ、正にその通りですな」
確かに獣共を相手にするのは命がけだ。油断すれば命を落とす危険もある。だが、シアとの訓練がいくら加減してくれているとは言え獣共との戦いよりも楽かと言えば答えはノーだ。たとえ命の危険が高かろうと、そうして獣狩で国内有数の冒険者と認められているのがエレク達だ。そのエレク達が4人がかりでもシアを相手にするとまるで手も足も出ないのだから。
そのことを思い出したのか、エレク達は少しだけ余裕を取り戻したようだ。
「そういう事であれば。俺たちもお供するっス」
「お前達はここに残っても良いのじゃぞ?」
「せっかく腹くくったのに、そりゃ無いっスよ師匠!?」
まぁ、なんのかんのあったが、コレで目的地までまっすぐ目指す方針は固まったわけだ。
……それにしても、エレクのあのとってつけたような『ッス』って口癖、普段丁寧語とか使わないエレクがなんとかして丁寧っぽく言っているツモリらしいけど、最初は何か部活の生徒っぽさを感じてたんだが、最近言い慣れてきたせいなのか妙に三下感がにじみ出てるような気がするんだが気のせいだろうか……?
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