ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百七十六話 竜ヶ峰Ⅱ

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「……」

 シアに別れを告げ、山頂を目指す俺とレン。その俺の心中はまさしく無だった。
 絶鋒 竜ヶ峰の景色を楽しむ心的余裕など皆無。ただ、無心で今の状況が終わるのを心待ちにしている。

『それじゃ、急いでるみたいだし少し飛ばすよ?』

 というレンの言葉。そして子供ながらシアと同じ時期を生きてきたという事実から、この子が見た目通りの存在ではないということは何となく察していた。
 そして、その子が飛ばすというのだ。俺なんかじゃ少しでも気を抜いたら置いて行かれかねないような、とんでもない強行軍をするんだろうという予感もあったし覚悟もしていた。
 だとしても、だ。

「コレは流石に想定外だろう」

 俺は、襟首掴まれて、宙ぶらりんで運ばれていた。足元には切り立った峰々が絶景を晒している。
 そう。今俺はとんでもない速度で空を運搬されている最中だ。完全にお荷物状態だ。足手まといの比喩でもなんでもなく文字通りの、だ。
 飛ばす、と言われてな? 飛行船も無しに、ほんとに空を飛ぶだなんて流石に思いつきはしねぇよ!
 おっと、あまりの状況への自己ツッコミで無の心がどっか行ってしまった。

「? ……なんか言った!?」
「……!!」

 返答しようにもこの暴風だ。まともに返事もできやしない。
 アクション映画とかでドアが吹っ飛んだ飛行機の中で決闘してる奴らは、こんな暴風荒れ狂う中で戦ってたのか。やべぇな主人公。
 ハティに初めて乗った時も大概だったが、アレはアレでハティが風よけの魔法を使ってくれてたから、あくまで我慢できる程度の暴風だった。というか、ハティの時は純粋に速度感がヤバかったんだよな。地面や周囲の風景が一瞬で後ろへ吹っ飛んでいく感じというか。
 それに比べて今の荷物状態は、風がとんでもなくやばいが、高い所を運ばれているせいか、スピード感による恐怖はあまり感じない。距離があるせいか、遠くの風景がゆっくり流れている程度だからかもしれない。まぁこの暴風だから、下手すりゃハティよりも速度出てるかもしれないんだけどな?
 まぁ、それとは別に落っことされないかヒヤヒヤするのが一番なんだけどな。コレ高所恐怖症の人なら一発で気絶してるんじゃないだろうか。
 そんなこんなで、ドナドナ気分を味わいながら、風を顔で受けないように後向きに足元を眺めていたところ、竜ヶ峰の中腹に大きな湖が見えた。此処がシアの言ってたなんちゃら湖か。名前なんだっけか……?
 しかし、てっきり山頂にあるもんだと思ったら、中腹にあるのな。なんか山のダンジョンって言うと、山道ダンジョンの後に頂上でもう一つ本命ダンジョン……みたいなアクションとかRPGだとお約束な印象を勝手に持っていたけど、どうやら違ったらしい。

「さ、着いたよ!」

 湖の中にある小島へ着率する直前、地面に放り出されたが、なんか無意識に受け身を取れていた。受け身をとった後でぶん投げられた事を理解して心臓飛び出すかと思ったわ。着地前にぶん投げるか普通? 受け身成功したのにかなりダメージ食らったんだが。コッチに飛ばされて以降で、一番でかいダメージだったんじゃ……? というかよく生きてたな俺。

「俺はシアみたいに頑丈じゃないから、いきなり空中から放り投げるような真似は勘弁してくれ……」
「あ、そうなの? ゴメンね? でももうそういう機会はないから多分大丈夫だよ」
「本当に無いなら良いんだけどな」

 2度あることは3度あるっていうしな。俺は特に変なジンクスに呪われてるし。
 何とか痛む体を引きずって、レンの後についていく。一応悪かったと思っているらしく、歩調は抑えていてくれている。
 そして、大して広くない島だ。すぐに目的地についたらしい。
 歩調を止めないまま、岩の壁の方に進むと、そのまま壁の中に消えていった。

「隠し通路か」

 ドットゲーム時代の定番。RPGおなじみの、壁に偽装された隠し通路ってやつだな。
 最近の3DのRPGなんかだと、何故かイベントフラグがないと隠し通路のハズなのに通り抜けられないとか色々あるけどな。
 レンを追って俺も壁を通っていく。隠し通路だと判っていても先に手をかざしてしまうのは小心者ゆえ致し方なし。万が一通り過ぎられなくて顔面岩にぶつけるの怖いし。

 通り抜けた先にあったのは、シアの眠っていた遺跡や、クフタリアの地下にあった遺跡によく似た、ファンタジーには似つかわしくないSFちっくな未来施設だ。
 まぁ、最近のファンタジーゲームは機械要素とかもあって当たり前な風潮があるから、そこまで意外性はないといえば無いんだが、それにしても……

「随分大規模な秘密基地だな」
「まぁね。元々あった施設を流用してるんだけど、此処は本来なにかの工場だったみたいでさ、工場部分はご覧の通り滅茶苦茶になってるからら稼働してないし、デカイ施設に見えて実際に父さんが使ってるのは生き残っていた一区画だけなんだけどね」
「あぁ、自分達で作ったわけじゃないのか」
「こんな大きな施設、わたしと父さんだけで作ったら一体どれだけ時間かかるのさ」
「ま、そりゃそうだわな」

 ゲームなんかだと4~5人程度の敵役が、とんでもない規模の悪のアジトとか作ってる事もあるからなぁ。
 そんな超技術があれば裏でコソコソ悪事働いたりせずに面で堂々と経済支配出来るんじゃねーのって突っ込んだ事が一体何度あったことか。
 今回もその手の話かと思ったが、どうやら違うらしい。

 しかし、この世界の過去の文明って一体どうなってたんだろうな。
 とんでもない超文明が栄えていたのは間違いないだろうけど、それが何故滅んだ?
 王道なら、世紀末的な最終核戦争でもやらかした? それにしては原型を残した施設が遺跡として多く残ってるのはなぜだ?
 多くの遺跡が地下に埋もれているというが、この前クフタリアで調べた遺跡は完全に地中に埋没していた。地下都市形と言うわけではないだろう。地下都市であったのなら、インフラなり、地下での生活を可能とする空間が確保されているはずだ。
 たとえ何らかの理由でその空間が崩落したとしても、施設が発見されるよりもまず先に、地下空間を支える柱や壁の残骸にぶつかるはず。なのに、それが見当たらなかった。地中に突然の入り口が露出しているような感じだったからな。
 つまり、遺跡にあるような建物は、地上にあった可能性が高い。それが何らかの理由で地中に埋まった。だが、文明が滅びるような大戦争をやらかしたとしたら、そんな地上に建てられた施設が無事に残るだろうか?
 中性子爆弾的な、生物絶対殺す兵器が大炸裂した? でもアレって建物を壊しにくくて施設内の生き物だけを殺すみたいな触れ込みだけど、実際にはシェルターみたいなガチガチ防御だと中性子線は透過できないからただの威力の低い核爆弾になる的な事をどっかの漫画で読んだ気もする。
 初実戦投入だった第二次大戦の日本なら兎も角、そんな物騒な兵器で世界大戦するような時代に、核シェルターが存在しなかったとは思えない。
 或いはそんな戦争なんて無かった? 純粋に出生率低下なんかで種を保存できなくなったとか? であれば、この世界に人類が残っているのはおかしいか。
 クフタリアの遺跡の中にはオートメーションでパワードスーツ的なものを生産する施設もあった。つまり、住人に専門知識がなくても施設が勝手に必要なものを作ってくれるだけの便利環境だった訳だ。そして、地中に埋もれ廃墟と化していても、遺跡は完全に死んでいなかった。つまりそれだけの強度があったのだから、旧時代で人よりさきに施設が駄目になったとも考えにくいよな。

 ……うーんわからん。何でこんな高度な文明が滅んだことになってるんだ?
 妙にリアリティにこだわるこのゲームが、この辺の設定を蔑ろにしているとはとても思えないんだけどな。

 それに……

「さ、着いたよ。此処が目的地」

 レンの言葉で思考の奥から意識が引っ張り上げられた。
 設定厨として色々考えてるうちに、いつの間にか目的の場所に到着してしまっていたらしい。
 最後の扉の前でセーブポイント……とかいう問題ではなく、普通に部屋に入ってしまっていた。我ながら迂闊すぎる……

「父さん! お客さんだよ!」

 レンはそのまま奥に走っていってしまった。此処は俺も追いかけたほうが良いんだろうか?
 でも、なんか色々と此処のことを無闇に知ってしまうと、あまり良くないような気もしないでもない。知らなくても良い秘密を知ってしまったな……とか言って口封じされてもたまらんし。
 ここはやはり、呼ばれるまでは待ちが利口だろう。

「何そんなところで立ち止まってるのさ! 早くおいでよ!」
「お、おう……」

 まぁ、家の人に呼ばれたなら、行くしか無いよな?

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