ν - World! ――事故っても転生なんてしなかった――

ムラチョー

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四章

二百九十四話 魔物討伐隊帰還Ⅲ

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『まぁ、ここに居ないアレのことは置いておくとして、この国やその周辺で道中あるじ様が恐れるようなことはあまりないかと思います。私は今までコチラに来たことがないので、周辺国の情報等はあるじ様の記憶頼りになりますから、国を出てどうなるかは今の所はあるじ様の記憶と直感頼みではありますが』

 そっか。
 まぁ、それなりに警戒しつつ、この国を離れた分だけ少しずつ対策を強化していけばいいか。

『むしろこの国を出るまで……いえ、この街を出るまでを注意したほうがよろしいかもしれませんわね』

 ? その心は?

『我々は明らかにこの国基準の金ランクの傭兵としては逸脱した強さを持っていることを知られてしまいました。であれば、傭兵組合が何かしらの手段で引き抜き、囲い込みに動く可能性はありますわ』

 えぇ……自惚れすぎとか諌めた直後にそれ?
 というかそんなの無視すりゃいいんじゃねぇの? 確かに傭兵登録はしたけど、国だの何だのに拘束されるのはもっと上位の傭兵団からのはずだ。この国の国民でもない俺が、この国の傭兵組合のためになにかする義務はないはずだが。

『義務はありませんわね。ただ、向こうにもメンツというものがあります。場合によっては無茶な手段を取られることを考慮しておくべきです……などと言いはしましたが、役所の動きは遅いのが常ですからね。問題なのは場合によっては道理を覆してでも動く王宮の方ですが、そちらへ話が届く前に我々は恐らく街を出てしまう事になると思うので、今回に関してはそこまで警戒するほどではないとは思いますわ』

 そんなもんかねぇ。素人考えにはそんな強引な方法で規約だ何だを無視して強引に事を運ぶ方が、よっぽどメンツが傷つくんじゃないかと思うんだが……まぁ忠告は判ったよ。

 それにしても、引き抜きねぇ?
 確かに俺はプレイヤー基準としては結構強い方の筈だ。自惚れとかではなく、対人の大会で優勝できるくらいだしな。それはALPHAサーバでも同じだ。クフタリアの小大会で準優勝できるくらいだから、決して弱い方ではないんだろう。
 だけど、それは一般人と比べた場合だ。
 ハイナを襲った野獣使いは、今なら解らないが当時の俺では太刀打ちできない相手だった。アルヴァストのクーデター騒ぎの時も、俺達に夜襲をかけてきた暗殺職と近接戦闘職の俺が正面から戦っておいて、得意な状況で押し切ることが出来なかった。
 主戦場に至っては騎士団の精鋭や傭兵団の精鋭達は、シアにしごかれた今の俺よりもレベルはかなり上だと思う。
 俺が優勝したそのクフタリアの大会の決勝で俺を倒したのも傭兵の少年だった。
 少し思い出しただけでもコレだ。

 傭兵や騎士たちと比べてみれば、俺の強さなんてすぐに埋もれてしまう程度でしかないだろう。レベルを上げれば変わってくるかもしれないが、その辺はレベル3を超えてくるとあげようと思ってすぐに上がるようなものでもないって話だし地道にやるしかねぇんだよな。

『その辺りはあるじ様の不運だとは思うのですけど』

 不運か? 開始直後にハティみたいなクソつよペット……いや人型になれて普通に喋れる相手をペットは拙いか。まぁ仲間が入ったし、シアみたいな反則キャラに修行付き合ったりしてもらってるから、色々トラブルと差し引きしても幸運寄りの方だと俺は思ってるんだがなぁ。

『あるじ様がそう思っておられるなら、私の方から特に言うことはありませんけど』

 ともかく、今後の方針はだいたい決まったな。
 報酬受け取って準備し次第、変に声をかけられる前にこの街を発って、南側から法国を迂回するようにしてダンガードにある港町を目指すと。
 最低限を並べて書けば、実に単純な話だ。

 国境を二度も跨ぐ必要があるから、結構な長旅になるだろうな。一月か二月くらいで済めば良いんだが……こう言うときこそ地図欲しくなるんだけど、今回は街で見かけた地図はスルーする事にした。
 勿論あったほうが旅が楽になるのは間違いない。
 アルヴァストではクーデター関連の報酬でそこそこ精度の地図をもらっていたから、クフタリアまでの旅に関してはわざと脇道にそれるなんて事をしながらでも迷わず問題なく旅を続けられた。
 それでもハイナ村からアルヴァストの王都までの旅で、移動にかかった日数を基準に単純な縮尺を割り出せたおかげで、もらった地図を有効活用することが出来た。

 リュエラの街でも実は地図は売っていたが、ちらりと見せてもらったその地図は子供の落書きのような物で、大雑把な陸の形と街の位置がわかる程度のものでしか無かった。それでも金貨一枚とかなりぼったくられる。
 だが、ここで無理して高い金を払ってあの粗末な地図を買った所で、距離が分からないのでは意味がない。未開の地であるならその程度の情報でも重要かもしれんが……目的地が南にあると判っていて、さらに国と国をつなぐ街道があるのなら、道なりに行けばいいだけの話だ。
 せめてランドマークになるような物が書き込まれていれば、今自分がどの辺りを歩いているのか、そこまでの道のりから逆算して現在位置から目的地までの距離がどの程度あるかといった事を測ることも出来るんだが、それすら出来ないような代物に高い金出してまで買う気になれなかった。

 地理的な情報が他国に渡ると戦争とかで不利になるから地図の普及に後ろ向きになるというのは、ファンタジーモノのノベルなんかで時折見かける設定だったから精度の低さは理解できる。値段に関しても同じ理由に加えて皮紙自体が高価なのもあって……って、王都で買い込んだ紙とか調味料も置き去りだったな。エリスかチェリーさん、ちゃんと回収してくれてっかな?

『まぁ、地図が必要ないのは判りましたけど、どれくらいの旅路だと見立ててますの?』

 それが何とも言えないんだよなぁ。一応街でそれなりに聴き込んでみたんだが、どうにも人によって期間がバラバラでなぁ。
 中継するオシュラスとの国境までの距離ですら最短の人は7日、足腰弱そうな老人は除いて最長だと20日程と、倍以上の差があるんだよな。
 とりあえず間を取って2週間……14~5日程度を見積もってるけどな。

『随分悠長にしてますわね? 急いで合流したいのではありませんの?』

 そりゃ早く逢いたいさ。
 ただ、早く逢いたくあっても、特別急がなければならない理由は特にない。なのに急ぎすぎて体壊したりしたら本末転倒だろ? だから、計画は余裕を持って考える。そこをどれだけ無理せず短縮できるかどうかは実際の旅次第って感じだな。

『普通、早く逢いたいというのは急がなければならない理由というのに当てはまると思うのですけど?』

 オレ一人なら多少は無茶したかもしれないけど、今は二人旅だろう? ただでさえ馬車や竜車は使わない歩き旅なんだ。相方に無理させるような予定は組まねぇよ。

『よろしかったんですの? 確かに徒歩を提案したのは私ですけど』

 エレク達と行動してたときと違って二人旅だ。いざ実際に襲撃を受けた時に荷台や牽引する生き物を守る手間が増えるし、狼のような群れで攻められると二人で荷馬車を守りきれるかかなり怪しい所なんかを考えると、確かに疲れはするけど徒歩のほうがリスクがなさそうだって判ったからな。野獣に野盗と下手すると野生動物が徘徊する現代サバンナ以上のエンカウント率と考えれば、流石に……といった感じだ。
 それに数日働いた程度で手に入る荷馬車なんてたかが知れている。流石にボロ馬車を船に持ち込む訳にもいかないから、目的地に着いたら処分することになる。ボロでは流石に買い手は付かないだろうし実質使い捨てと考えると、そんな所に大金は使いたくなかったってのが本音だ。
 大抵のゲームで手に入るライドアイテムみたいに、一度手に入れたらいつでもずっと使える便利アイテムってなら迷わず手に入れたいと思うところなんだがな。

『無駄遣いは稼ぎ直すだけの時間のロスですものね』

 そういう事。アルヴァストくらいに街道が整備されているなら話は別だが、街を出てすぐに野獣と遭遇するような土地だ。荷馬車なんて狙いやすい獲物、まず間違いなく襲撃されるだろうしな。そんなものに時間も金もかけられるか。
 この手の旅なら、安く、早く、リスク少なくが鉄板だろう。

『私の場合は、今までの契約者は旅をする人が居なかったのもあって、旅の知識はそこまでありません。あるじ様の意見に全面的に従いますわ』

 といっても、俺もこれから旅を始めようって所で飛ばされたから、実質旅らしい旅って王都からクフタリアまでの二回しか無いんだよなぁ。
 ハイナから王都までは兵士に守られながら荷台で揺られてただけだし、オシュラスでの旅は殆どシアに連れ回されてたり後半は竜車で運ばれてただけだし、アレは自分で旅したとは到底言い難いものだったからなぁ

『なら二人共初心者ということで、やはりあるじ様の意向に従いますわ』

 ……なんか丸投げしてない?

『気づいたことや明らかにおかしいと思ったことはちゃんと指摘させていただきますわ』

 だったら良いんだけど。俺なんてサバイバル初心者みたいなもんだからな。流石にまだ自分の行動に対して責任を負いきれん。
 旅自体は気楽に行こうか。
 
『あら、お客様が我々に何か御用の様ですよ?』

 お客様?
 イブリスの言葉に振り向いてみれば――

「ちょっと良いか?」

 うん? あぁ、あの討伐隊のリーダーか。もうじき街に着くタイミングで何かあるのか?
 流石にこのタイミングで何かトラブルってのは考えにくいんだが……

「少し話したいことがある。ちょっとこの後付き合ってもらえねぇか?」

 うぅん?

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