ささげ名を

兎守 優

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死合わせな邂逅

ガキ

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「あれ、君。びしょ濡れじゃないか」
 僕の着ていた服の脱け殻が目の前に吊されている。変な気持ちだった。先生が服をちがうのにしてくれたけど、ソワソワして落ち着かなかった。
「大丈夫。乾かしとけばまた着られるようになるから!」
 カミオはそう言うけど、あんなに濡れてぐちゃぐちゃになったお洋服が大丈夫になるのか、不思議だった。僕の家では、脱いだ服はササガキが持っていくから、その後の姿を見たことがなかった。いつも朝起きたら、隣に新しい大丈夫なお洋服が置いてあったから、気にしたことがなかったのだ。
 この家にはキョウシツがあって、そのお部屋では、みんな集まってお勉強をするそうだ。ササガキが僕にいつも教えてくれていたのは、お勉強だったので、すぐなんのことだかわかった。
「ねえねえ、ミズキ」
「なあに?」
「今度、ホタルを見に行こうよ!」
「ホタルってなに?」
 ホウカゴという、お勉強が終わったあとの自由に過ごしていい時間になったら、カミオが僕にそう言ってきた。ホタル……初めて聞く響きだったが、とても楽しそうな気がした。
「ぴかぴか、きらきらしてるのが、いーっぱい空に向かって飛んでいくやつ!」
「そうなんだ。すごい」
「おう。すっげえ、きれいなんだぜ」
 ぴかぴか、きらきら。いっぱいお空を飛ぶ。カミオの言うホタルを考えてみたが、想像できなかった。
「雨ばっかの梅雨が終わる頃に見えるんだぜ。この森の上の方からぱーっと飛んでいくんだ」
「うん。シノに聞いてみ……」
「ほー、ここに居るとはねえ」
 「坊ちゃん、大誤算」と笑うササガキの隣に、こわいシノがいた。水のにおいがパチパチと弾ける感じがする。
「咲麻。なにをしている」
「み、道野樹様……」
 センセイがなにか言った。聞き取れなかった。
「帰るぞ」
 シノが背を向けた。待って、行かないで。
 「カミオ、また転校生、連れてきたの?」と笑い声が上がる。
「待て! 行かせないからな!」
 僕がシノのところに走っていったら、急にカミオとぶつかった。ササガキがカミオを横に置いて、悪い顔をした。
「ヘイヘイ、ガキはそこまでにしとけ。来るんなら俺が相手いたしやすよ?」
 よくないことになりそうな気がしたので、僕は後ろを向いてカミオに言った。
「カミオ。ボク、行く。帰る。バイバイ」
「また、ぜったい、来いよ!」
 ササガキがカミオから手を離した。よかった。大丈夫、また会えるもん。
 ホタルのこと、シノに聞いてみよう。シノも見たいって言うかもしれない。
「あんなゴミ溜め、さっさと掃除しちゃえばいいのに」
 ササガキが怒ってる。僕が雨の中で遊んでいたときよりも、こわい声だった。
「止めろ。それ以上、あの学級のことをなにか言えば、お前を座敷牢に入れるからな」
 シノも怒ってる。皮膚がピリピリしてきて、息が詰まって苦しくなる。
「おこらないで、ごごめんなさい、シノさまっ」
 シノの背中をつかもうとした。でも、ササガキに止められた。いつも止めてくる。すごく嫌だった。
「坊ちゃんは傷ついてるんですよ。そんなのも分かんないのかなあ、これだから無神経なガキは困る」
 ガキ……それはササガキがよく言う言葉。僕はその響きが嫌だった。
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