ささげ名を

兎守 優

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死合わせな邂逅

黒いお家

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 シノと歩いた道を思い出しながら、僕はシノにもらったお守りを持ってお‪やしろに行った。川を飛び越えたら、お風呂に入ったときみたいに、たくさんの水が頭に降ってきた。びっくりした。冷たかったから。
 前が見えないし、足元はぬるぬるしていて進むのがたいへんだった。息をするのもつらく、胸が苦しい。でも、僕は行かないと。シノのあの顔がまた見たい。シノによろこんでほしいから。
 急に空が晴れた。空気がひんやりと冷たく、水のいい匂いがする。でも、冷たい水は降っていない、不思議な場所。
 声がした。──またダメだって言われた。それきり、声はしなくなった。悲しい気持ちでお‪やしろにバイバイした。
 シノがまたあんな顔になっちゃう。僕はわからないことがいっぱいで、みーんな雨でびちょびちょで嫌な気持ちになった。お守りがよれよれで、もっと悲しくなった。大切なものなのに。
「あれ! この前も会ったよな!?」
 雨が止んだ。僕の回りだけ。少し、嫌な気持ちはなくなった。
「うん……」
 この人は前に会ったけど、お腹いっぱいで苦しくなった夢を見てから、その人には嫌な気持ちがしていた。でも、この人は僕に食べるものをくれたし、あんまりお話をしてくれないシノとちがって、いっぱいお話をしてくれる。話すのが速いのがたいへんだけど。
「そうそう、今から俺の家に案内したいんだ。それでね、おれはカミオ。君はなににする?」
「なににするってなに?」
「名前だ、名前! おれの名前はカミオ。君の名前はなににするかってこと!」
「名前は話しちゃダメ……って言われた」
 マナはシノからもらった、とっても好きなものだった。お守りと同じで大切なものだから、教えたくなくて、ちょっと嘘をついた。
「そうだな。大事な人からもらった名前はダメだ。じゃあ、おれが二つ目の名前を決めてあげるよ!」
 僕がどういうこと? と聞く間もなく、カミオはもう先を言っていた。
「ミズキにしよう!」
「イ、ズ、ミ?」
「ミ・ズ・キ!」
 カミオがくれた僕の名前だという音を繰り返しながら、カミオについて行った先は、シノと僕が居るところよりは小さい家だった。外から見ると、黒焦げのお家で、入りにくいなと思ったのに、カミオが引っ張るから、あっという間にお家に吸い込まれた。
 カミオはショウコウグチというところで、傘を畳んで、びちょびちょのかっぱも脱いだ。黒い家の中は、水と木のにおいでいっぱいだった。
「おはよーございまーす!」
 カミオはトントンをしないでドアを開けた。僕は慌てて「ダメだよ」って言おうとしたけど、中からたくさんの声が上がって、びっくりして言えなくなってしまった。
「カミオだ~」
「まーた、"友だち"を勝手に連れてきたのか?」
「うん! 紹介します! 彼はミズキ」
 緑の壁に、白くて細い棒をカミオはトンっと立てた。そして、なにか書き始めた。変な感じだ。壁に白い線が伸びて、どんどん文字が現れていくのだ。
「じゃあミズキ君はカミオ君の隣の席にしようか」
「ここでなにするの?」
「ここは勉強する場所だ。先生が色々教えてくれるんだ」
 センセイという人を見上げた。先生は目をぱたぱたさせている。ぽたりぽたりと音がするので、だんだんと僕の足の方に、先生の目が向いていった。
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