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第二幕の始まり

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「ユーディア、そろそろ行こうか」
「うん」

伸ばされたベリアルの手に自分のそれを乗せれば、馬の上にぐいと引っ張り上げられた。
ベリアルと初めて想いを通わせてから、2年経った。これから私は、5年程住んだ街を後にする──




私とベリアルは、ベリアルが悪魔で戸籍がない為、入籍などは出来ない。
しかし、何故か私達が結ばれた事を知っていた子供達と、ルゴールデン一家、ラッザロ様と竜姫様、そして領土を越えてわざわざヴェルーリヤ様とオーナーが皆一同に集まり、全く予定していなかった私達二人の結婚式をサプライズで取り仕切ってくれた。

派手な事が苦手な私にあわせ、お気に入りのカフェを貸し切って行われた小さな式は、とても心地良い空間で。
私が黒持ちであるが故に一人になるのではと心配して下さっていたお師匠に、是非とも見て頂き、安心させたい光景が広がっていた。

──友達もおらず、素顔をフードで隠して生きていた貴女の弟子は、今、こんなに優しい友人達に囲まれ、愛する人と、幸せに生きています──

きっと、お師匠は空から見てくれているだろうと見上げれば、一羽のカラスが旋回しているのに気付き、ベリアルと一緒に小さく手を振る。

隣にスラリと姿勢良く立つベリアルは、褐色の肌に似合うシルバーの正礼装を身に纏っていた。黄金の癖っ毛が風にそよぎ、黒い瞳が優しくこちらを見ていた。
惚れた欲目もあり、とても格好良い。そう思っていたら、
「ユーディアはいつも可愛いが、今日は特別、可愛い」
と耳元で囁かれて、顔が赤くなる。


ベリアルと初めて対面した竜姫様は、「私が、死んだお前をユーディアに頼まれて運んでやったんだぞ」と、恩を売っていた。
式場がカフェでは身体が大きすぎて参加出来ないと知った竜姫様が、竜族に伝わる方法で式の間だけ人型をとっていたのは驚き過ぎて声も出なかったが、背丈の長さがある銀色に輝く髪と燃える様な瞳は何処にいても大層目立ち、ラッザロ様も街に入ってからカフェにたどり着く迄の短い距離で、散々男達を威嚇する必要があったと言うのに笑ってしまった。
「竜姫が誰か殺したらややこしくなるしな!」と言いながら、独占欲が全く隠しきれていないのだ。
そんな二人に、私とベリアルは感謝を送る。


ジュリアマリア様とジョン様の間には、二人の可愛い天使達が産まれていて、その成長を見守るのも私の楽しみの一つだ。子供達に好かれるベリアルは、よく子供達を両腕にぶら下げてブランコをしてあげていた。


ヴェルーリヤ様と、高級娼館のオーナーはご夫婦だったらしく、二人の子供達は自宅に預けて参加して下さっていた。そして、ベリアルが悪魔だと聞いたヴェルーリヤ様は、「私も淫魔なんですよ」とさらりと告白して下さり、驚きながらも親近感が沸く。
出会った時に、女性なのに妙にドキドキしてしまったのは、淫魔という種族だったからなのかと納得した。


私の弟子達は、三人の弟子達がそれぞれ国選調剤師の資格を取っており、自分と同じ境遇の孤児や、やる気のある子供達を弟子にしていた。
「ベリアルさん!良かったっすねぇ~!」
「本当に、長かった……こっちが一体、どれ程ヤキモキした事か」
「イチャイチャしたいのはわかりますが、仕事もきちんとして下さいね?」
何故か師匠である私より、ベリアルを応援する?のは納得いかなかったのだが、彼らがキューピッドだった事をこの時知った。


私の、愛すべき弟子達。
これからこの子達は、私の手元を離れて様々な経験を積み、そして困難に立ち向かっていくのだろう。
年が近い事もあって、弟や妹の様な感覚でいたが、お師匠は私に……もしかしたら、孫の成長を見守る感覚だったのかもしれないな、と思った。


後にこの結婚式の話を聞いたベアトリーチェ様は、私も参加したかった!と非常に悔しがり、私とベリアルを王宮に呼ぶ事となる。
その時、陛下とベリアルは記憶を失ってから、初めての対面を果たすのだが……彼らは、何も言わずにただ一度だけ抱き合い、肩を叩きあった。
陛下にするには恐れ多い事だが、陛下は自分そっくりなベリアルの顔と黒眼を見れば、自分が何かしらベリアルの前世に「まさる」として関わりがあった事には気付いていらっしゃっている様だった。
また一方で、黒猫ベリアルの記憶を失くしたベリアルも、「守りたい人」が、私と陛下であった事に直ぐ様気付いた様だった。

私とベアトリーチェ様、ベリアルと陛下は穏やかに話し合い、部屋に戻らなければならない頃には、二人は無二の親友の様な、本当の兄弟の様な関係になっていて、その絆に胸があたたかくなった。



それからしばらく、私達はお互いの仕事をしながらかけがえのない大事な時間を共有していたが、つい先日、陛下とベアトリーチェ様に呼ばれ、話を聞いて、その話をお受けして、私達は街を離れる事を決心をした。

国選調剤師の認定師の仕事は他に信用の置ける調剤師にお願いし、私は国の使者として他の国々を行き渡り、医療や医学の見聞や知識を広めたり深めたりして、最終的に自国の更なる発展へと繋げる仕事を選んだ為である。

こうしてベリアルと2年3ヶ月程住んだ家は、私のいる街に残っていた弟子の一人に譲ったのだった。



***



馬の上で揺られながら、「黒の魔女」について考えていた。

全ては、ベアトリーチェ様による「惚れ薬の精製」の依頼から始まったのだ。その依頼により、私は日本からの転生者であり、今生きているこの世界は前世で従姉妹が話していた乙女ゲームの世界である事に気付いた。
その乙女ゲームはヒロインを選択する事の出来るゲームで、実は「黒の魔女」と呼ばれる私が誰の味方につくかで結末が分かれる。

重要なポジションに責任が持てずにストーリーとは無関係でいたかったが、様々な事が重なって巻き込まれてしまった私が取った行動は、最終的に黒猫ベリアルとの暮らしに幕を閉じる事へと繋がってしまった。

従姉妹のプレイしていた乙女ゲームでは、黒の魔女のその後は言及されていなかったのだろうか?
それとも……黒の魔女にも、ヒロイン達のエンディング毎に、それぞれ違った道筋が示されていたのだろうか?


今となってはわかる筈もない、そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていたが、ベリアルが「どうした?ユーディア」と優しく問うのに「何でもないよ」と答えて、それからは考えるのをやめた。



──これからは、私の傍にはいつもベリアルがいて、二人で様々な国々を巡る。「黒の魔女」には、そんな第二の幕が開けるのであった──
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みんなの感想(5件)

2023.03.17 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

イセヤ レキ
2023.03.17 イセヤ レキ

お読み頂き、ご感想までありがとうございます!
ざまぁはお好みではなかったとのこと、申し訳ありません💦
ベリアルとは出来そうですね〜🎶
竜姫とラッザロもラブラブしそうですがこどもは…卵❓(笑)
こちらR15でのお届けですが、正直R15レベルがよくわかってない作者……どこまで書いて良いのかわからず、怪しい描写は全てカットしております🤣
らぶらぶちゅっちゅなくてすみませんー❗リクエストは嬉しいです、ありがとうございました🎶

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さぁーちゃん

エリカの思い通りにならなくて良かった!罪に相応しいくらいもっと苦しんで欲しかったですね。

ハッピーエンドありがとうございました!!
きっと乙女ゲームで決められてたどのルートよりも幸せな結末だと思います( ´艸`)

イセヤ レキ
2020.11.21 イセヤ レキ

コメント頂きありがとうございました☺️

ざまぁ描写は、R15に助けられてあの辺りになっております……が、ちょっと物足りなかったですかね、すみません❗私もちょっと物足りなかった……(笑)

ハッピーエンドは譲れません🎵
どのルートよりも幸せな結末だなんて、嬉しいご感想ありがとうございます❗
少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。

解除
2020.11.20 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

イセヤ レキ
2020.11.20 イセヤ レキ

コメント頂きありがとうございます!
こちらもお読み頂き感謝しております~☺️

こちらのざまぁも、そう言えばR15にしてたな、と思い出して細切れになる寸前までの描写となりました(笑)

そうなんですよー、ヴェルーリヤは実はあのヴェルーリヤです。ゲスト出演しておりました。
オーナーが本性隠しての出演なので、わかりにくくなっています。気付いた方だけムフフして下さいな仕様という事で👌

これからもお楽しみ頂ける作品作り、頑張ります🎵

解除
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