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5 出生の秘密
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「え?……しかし、私は父の本当の」
若様はそこですぐに口を噤んだ。
「若様が旦那様の本当の子どもかどうかが大事なのではなく、旦那様が若様を大事に思っていることこそ、若様にとって知りたい大事なことではないですか?」
それは公然の秘密だ。
お亡くなりになった奥方様は、旦那様の従兄弟と姦通して若様を身籠った。
旦那様は、子ども相手だと感情の起伏が全くなく、表情筋の動きが乏しい方だ。
そのため若様は自分が旦那様から憎まれていると勘違いをしているのだが、旦那様が唯一デレデレになる私の母の前でだけ、ウチのコ凄い自慢が止まらなくなるのだ。
母もそれに負けじとウチのコ可愛い自慢をするので、似た者同士と言えよう。
「そうだったのか……今まで私はずっと父上とあの女、いやみよさんのことを誤解していて……もしこのまま何も知らなければ、とんでもない過ちを犯したかもしれない……」
若様はぐっと歯を食いしばって己を恥じた。
そんな若様を横目で見ながら、母が毒殺されずにすみそうだと胸を撫で下ろす。
「旦那様は、本当の息子でなくとも若様を愛しておりますし、私たち親子もずっと傍にいて若様を支えて参ります」
「……うん、ありがとう」
若様は綺麗な顔に、微笑を浮かべてくれた。
「では誤解が解けたところで、そろそろ戻りましょうか」
私がそう言ったとき、旦那様の「君に似て美しく育ち、本当に良かった」という声が聞こえてくる。
「しかしずっと不思議だったんだ。君はあの男に乱暴される前に私へ婚約破棄を申し出てきた。ならばあの悲劇を予見していた筈なのに、なぜ未来を変えなかったんだ?」
私たちは、二人してその場で固まる。
「今のはどういう――」
「しっ」
私は、説明を求める若様の口元を咄嗟に押さえた。少しの音も逃すまいと、自分の耳がまるで狐のように母と旦那様の会話に集中していることを他人事のように感じた。
「だって、視てしまったんですもの。あの男との気持ちの悪い行為に耐えた私が、みやという生涯の宝物を抱いて、心から笑っているところを」
「……それは、私との結婚よりも大事だったのか?」
「美貌の持ち腐れと言われて育った私が唯一誇れることは、みやを生む未来を選んだことです」
それに、こうして私は結局、貴方に囚われているではありませんか、と言いながら母は微笑む。
「みや、大丈夫か?」
その場でしゃがみこんだ私を、若様が支えた。
若様はそこですぐに口を噤んだ。
「若様が旦那様の本当の子どもかどうかが大事なのではなく、旦那様が若様を大事に思っていることこそ、若様にとって知りたい大事なことではないですか?」
それは公然の秘密だ。
お亡くなりになった奥方様は、旦那様の従兄弟と姦通して若様を身籠った。
旦那様は、子ども相手だと感情の起伏が全くなく、表情筋の動きが乏しい方だ。
そのため若様は自分が旦那様から憎まれていると勘違いをしているのだが、旦那様が唯一デレデレになる私の母の前でだけ、ウチのコ凄い自慢が止まらなくなるのだ。
母もそれに負けじとウチのコ可愛い自慢をするので、似た者同士と言えよう。
「そうだったのか……今まで私はずっと父上とあの女、いやみよさんのことを誤解していて……もしこのまま何も知らなければ、とんでもない過ちを犯したかもしれない……」
若様はぐっと歯を食いしばって己を恥じた。
そんな若様を横目で見ながら、母が毒殺されずにすみそうだと胸を撫で下ろす。
「旦那様は、本当の息子でなくとも若様を愛しておりますし、私たち親子もずっと傍にいて若様を支えて参ります」
「……うん、ありがとう」
若様は綺麗な顔に、微笑を浮かべてくれた。
「では誤解が解けたところで、そろそろ戻りましょうか」
私がそう言ったとき、旦那様の「君に似て美しく育ち、本当に良かった」という声が聞こえてくる。
「しかしずっと不思議だったんだ。君はあの男に乱暴される前に私へ婚約破棄を申し出てきた。ならばあの悲劇を予見していた筈なのに、なぜ未来を変えなかったんだ?」
私たちは、二人してその場で固まる。
「今のはどういう――」
「しっ」
私は、説明を求める若様の口元を咄嗟に押さえた。少しの音も逃すまいと、自分の耳がまるで狐のように母と旦那様の会話に集中していることを他人事のように感じた。
「だって、視てしまったんですもの。あの男との気持ちの悪い行為に耐えた私が、みやという生涯の宝物を抱いて、心から笑っているところを」
「……それは、私との結婚よりも大事だったのか?」
「美貌の持ち腐れと言われて育った私が唯一誇れることは、みやを生む未来を選んだことです」
それに、こうして私は結局、貴方に囚われているではありませんか、と言いながら母は微笑む。
「みや、大丈夫か?」
その場でしゃがみこんだ私を、若様が支えた。
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