世界で唯一の探索系上級職になったけど、駆け出しを育てながらのんびりやろうと思う

いかぽん

文字の大きさ
9 / 22
第2章

第9話

しおりを挟む
 俺が宿屋の一階の食堂で朝食を取っていると、一人の後輩ワンコが二階から慌てて下りてきた。

「お、おはようございます、クリード先輩!」

「ん、おはようユキ。よく眠れたか?」

 俺がパンにかじりつきつつ返事をすると、ユキは俺の前でびしっと背筋を伸ばす。

「は、はいっ! おかげさまで、この不肖の後輩ユキ、ぐっすり眠ることができました! ……と、ところであの、クリード先輩……?」

「なんだ」

「いえ、その……ボクって昨日、ひょっとして先輩に、すごく失礼なこととかしました……? 昨日は、その……飲み会を始めたあたりから記憶が飛んでいるんですけど、セシリーとルシアが、自分が何をしたか先輩に聞いてこいって……」

「あー……。ったく、あいつら」

 面倒事を俺に押し付けやがって。

 ちなみにだが、今のユキの服装は武闘着ではなく、どう見ても寝間着だ。
 寝起き姿そのままのようで、やたらと男心をくすぐる色気がある。

 着替えるよりも先に慌てて下りてきたってことなんだろうが、俺はともかく、ほかの客もいる共有スペースでお前はそれでいいのかと問いたい。

 ともあれ俺は──

「ユキ、お手」

「わんっ!」

 俺がユキの前に手を出すと、後輩ワンコは俺の手にぽんと自分の手を置いてきた。

 彼女は一瞬のちにハッとした表情になり、慌てて手を引っ込める。
 その手を胸に抱くようにして、恥ずかしそうに身を引くユキ。

「ボ、ボクは、いったい何を……」

「ま、そういうわけだ」

「そういうわけって、どういうわけですか!?」

「ちなみに、昨日のユキがやった一番とんでもないことは、何かというとだ──」

 俺は席から立ち上がり、ユキの前に立つ。
 たじろぐユキ。

 俺とユキとだと、男である俺のほうが、当然に身長は上なのだが──

 俺はそんなユキの頭部を、両腕で自分の胸に抱き寄せた。

「ふぇっ……!? ク、クリード先輩!?」

「俺は昨晩、お前からこんなことをされた」

「えっ……えぇえええええっ!?」

 俺はすぐにユキを解放してやる。
 後輩ワンコはこれ以上ないというほどに茹で上がっていた。

 俺は席に戻り、オレンジジュースを口にする。

「え、あ……ボ、ボクが……先輩の頭を、胸に抱いて……ぎゅーってしたって、そういうことですか……?」

「ああ、そうだ」

「う、嘘ですよね……?」

「残念ながら本当だ」

「え、えと……というと、やっぱり……ベッドの上で、ですか……?」

「ぶーっ!」

 俺はオレンジジュースを盛大に吹いた。

 記憶がないからって、なんという勘違いをしているんだこいつは。

「げほっ、げほっ! そ、そんなわけあるか。ここでだ、ここで」

「ここで!?」

「あー、待て待て。お前は多分、何か間違った想像をしている。そうじゃない、そうじゃないんだ」

 ちょっとからかうつもりが、こっちまでダメージを受けてしまった。
 なんてこった。

 と、そこに──

「ふわぁあああっ……! いやぁ、朝からお熱いっすねー、ご両人」

「ユキ、どうでもいいけどあなた、まずは顔を洗って着替えてきなさいよ。殿方の前に出ていい格好をしていないわよ」

 ルシアとセシリーが、二階から降りてきた。
 こちらはきちんと身なりを整えている。

「へっ……? あぁあああああっ、そうだった! ボ、ボクはいったん失礼します、クリード先輩!」

 セシリーに言われてようやく自分の格好に気付いたユキは、慌てて二階へと駆け上がっていった。
 やれやれ……。

「おはようございますっす、クリードの兄貴」

「おはよう、クリード」

 ルシアとセシリーが挨拶をしつつ、俺と同じテーブルにつく。
 注文を聞きにきたウェイトレスに、セシリーは俺と同じ朝食セットを頼む。

 ちなみにルシアは、昨晩食い溜めたから朝食はいらないらしい。
 逆にみじめな気がするんだが、いいのかそれで。

 俺は二人に挨拶と、ちょっとした苦情を返す。

「おはよう、セシリー、ルシア。……ていうかお前ら、朝から妙なもんをけしかけるなよ」

「あら、その様子だと、ユキへの対応でそれなりに苦労をしたみたいね。ふふっ、少し溜飲が下がったわ」

 セシリーはそう言って、楽しそうにくすくすと笑う。
 俺としてはバツが悪く、ぽりぽりと後ろ首をかくしかない。

「あのなぁ……。セシリー、なんでお前はそう、俺を目の敵にするんだ」

「あなたが私のことをからかうからでしょ。お返しよ」

「ちっ、覚えてろよ」

「そっちこそね」

 セシリーとそんな風に言い合ってから、互いに顔を見合わせて吹き出してしまう。

 それを見たルシアが、「クリードの兄貴は、今日も誑しオーラ全開っすねぇ……」などとジト目でつぶやいていた。

 しばらくするとユキも朝の支度を終えて下りてきたので、食事を終えてから四人で宿を出る。

 そして街中を、第一迷宮のある北門方面へと歩き始めた。

「今日は地下二階だな。地下一階よりもモンスターは強くなるが、お前たちも昨日より強くなっているから、普通にいけるはずだ」

「ううっ……またあの地獄の特訓のごとき、迷宮探索が始まるんすね……」

 ルシアがしょんぼりと肩を落とす。
 昨日の俺ペースの探索が、トラウマになっているらしい。

「何ならもっとゆっくりペースで探索してもいいけどな。そのほうがいいか?」

 俺がそう聞くと、ルシアの顔にぱああっと希望の光が宿った。

「も、もちろ──」

「もちろん、昨日と同じくビシバシお願いします、先輩! ボクたち、ちゃんとついていきますから!」

 ユキがルシアを遮って、元気よく返事をしてくる。
 ルシアの顔が再び絶望色に染まった。

「私も昨日と同じでお願いしたいわ、クリード。それになんだか、今日は昨日よりも頑張れる気がするの。体が軽いみたい。魔力も体からあふれ出しそうなほどよ」

 セシリーもユキに同意する。
 ルシアはこの世の終わりという顔をした。

 まあルシアの悲哀はさておき。

「体が軽く感じたりするあたりは、レベルアップの効果だろうな。俺も二年前、冒険者を始めたばかりの頃は、日ごとに成長を実感したもんだ」

「ということは、今はそうでもないの?」

「まあな。レベルアップは低レベルのうちは急速だが、高レベルになってくると、なかなかそうもいかなくなってくる。例えば、俺が29レベルから30レベルにアップするのには、だいたい三ヶ月かかった。日々、第三迷宮の強敵を相手にしていたにも関わらずだ」

「そうなんだ……。じゃあ、私たちが昨日のチンピラどもに勝てるようになるのも、そんなに容易い話じゃないわけね……」

「あー、いや。昨日のあいつら程度なら──」

 と、セシリーとそんな話をしていたときだ。
 交差点で横手に視線を向けたユキが、何かに気付いて、俺のそばに寄って耳打ちをしてきた。

「……クリード先輩、噂をすればなんとやらです」

 昨日、冒険者ギルドで出会ったチンピラ冒険者三人組が、向こうから歩いてきたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった

仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界転移したら、神の力と無敵の天使軍団を授かったんだが。

猫正宗
ファンタジー
白羽明星は気付けば異世界転移しており、背に純白の六翼を生やした熾天使となっていた。 もともと現世に未練などなかった明星は、大喜びで異世界の大空を飛び回る。 すると遥か空の彼方、誰も到達できないほどの高度に存在する、巨大な空獣に守られた天空城にたどり着く。 主人不在らしきその城に入ると頭の中にダイレクトに声が流れてきた。 ――霊子力パターン、熾天使《セラフ》と認識。天界の座マスター登録します。……ああ、お帰りなさいルシフェル様。お戻りをお待ち申し上げておりました―― 風景が目まぐるしく移り変わる。 天空城に封じられていた七つの天国が解放されていく。 移り変わる景色こそは、 第一天 ヴィロン。 第二天 ラキア。 第三天 シャハクィム。 第四天 ゼブル。 第五天 マオン。 第六天 マコン。 それらはかつて天界を構成していた七つの天国を再現したものだ。 気付けば明星は、玉座に座っていた。 そこは天の最高位。 第七天 アラボト。 そして玉座の前には、明星に絶対の忠誠を誓う超常なる存在《七元徳の守護天使たち》が膝をついていたのだった。 ――これは異世界で神なる権能と無敵の天使軍団を手にした明星が、調子に乗ったエセ強者を相手に無双したり、のんびりスローライフを満喫したりする物語。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

至れり尽くせり!僕専用メイドの全員が溺愛してくる件

こうたろ
青春
普通の大学生・佐藤健太は目覚めると、自宅が豪華な洋館に変わり10人の美人メイドたちに「お目覚めですか、ご主人様?」と一斉に迎えられる。いつの間にか彼らの“専属主人”になっていた健太は戸惑う間もなく、朝から晩までメイドたちの超至れり尽くせりな奉仕を受け始める。

処理中です...