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第2章
第16話
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扉を開くと、その先にあるのは広大な大広間だ。
ただし今は、手前側だけが灯りで照らされていて、奥の方は真っ暗でよく見えない。
一行の先頭にいたユキが、その光景を見て少しだけ怯む。
俺はユキの横を通り抜け、大広間へと踏み込んでいく。
「こけおどしだ。行くぞ」
「は、はい、先輩……!」
ユキは慌てて、俺についてくる。
セシリーとルシアも、そのあとに続いた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ──
俺たちが大広間を進んでいくと、左右の壁に掛けられている燭台に、手前側から順に青い魔法の炎が灯っていく。
そして大広間の奥、いまだ灯りが届かぬ暗闇で、二つの赤い目がギラリと光った。
やがて燭台の明かりが大広間の奥まで届くと、そこにいるものの姿があらわになる。
そいつの姿は、牛頭巨人によく似ている。
筋骨隆々たるたくましい人型の体の上に、牛に似た頭部が乗っかっている。
だがその巨大さたるや、通常のミノタウロスの比ではない。
第一迷宮の地下四階に一般モンスターとして出現する通常のミノタウロスは、ツノを除いた頭頂までの背丈がせいぜい二メートル半ほどだ。
それでも人間の成人男性の五割増しで背丈があるのだから、見上げるほどの大きさなのだが。
今、俺たちの目の前にいるのは、その通常のミノタウロスをさらに倍の背丈にしたぐらいの途方もない巨体を持つ怪物だ。
こいつの前に立てば、通常のミノタウロスなどは子供のようなものだし、いわんや人間をやだ。
さらに通常のミノタウロスが褐色の体毛を持つのに対し、こいつは輝かしい金色の体毛に覆われているのが特徴的だ。
そういった姿の巨大な牛頭巨人が、同様に巨大な座椅子にふんぞり返り、待ち構えていたのだが──
大広間への侵入者、すなわち俺たちの姿を認めると、そいつは満を持した様子で悠然と立ち上がる。
その手には、体のサイズに見合った巨大な斧を携えていた。
俺は冒険者人生で二度目になるその姿を見上げながら、ユキたちに敵の情報を伝える。
「あれが第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロスだ。モンスターレベルは30。攻撃力と打たれ強さは桁違いだ。特にあの斧の直撃を受ければ、一撃で戦闘不能もありうる。全員、気を付けろよ」
「は、はい、先輩!」
ユキが元気よく返事をする。
セシリーとルシアもうなずいていた。
ちなみに「戦闘不能」というのは、文字通り、ダメージを受け過ぎて戦闘継続が不可能になった状態のことだ。
冒険者の職業適性を持つ者は、その時点で神々の加護によって守られていて、どんなに強力な攻撃を受けても一撃で即死はしないのだが。
それでもこの戦闘不能状態になると、もはや通常の治癒魔法は受け付けなくなり、戦線復帰には上級職【ハイプリースト】にしか使えない高度な治癒魔法が必要になってしまう。
また戦闘不能状態では、もはや神々の加護は働かないので、そこには命の危険が発生する。
俺がいるからパーティ全滅の心配はまずないとはいえ、ユキやセシリー、ルシアが戦闘不能になることはなるべく避けたいところだ。
とは言え、まあ──
今の俺にとっては、カイザーミノタウロスはそこまでカツカツの相手でもないのだが。
俺は三人に向かって、重ねて告げる。
「あいつは基本的には俺が片付ける。三人とも無理はするな。接近しての立ち回りが難しそうなら、距離を取って逃げ回っていればいい。この大広間から出さえしなければ、三人とも撃破パーティのメンバーとしてカウントされるはずだ」
「了解です、先輩!」
「分かったわ。私は遠距離からの魔法攻撃に徹するようにする」
「攻撃を食らわないよう、逃げ回っていればいいんすね! それなら大得意っすよ!」
「よし──じゃあ始めるぞ」
俺がそう、仲間たちの声をかけたときだ。
『──グォオオオオオオオッ!』
世界を震撼させるような激しい咆哮を、カイザーミノタウロスが放った。
ユキ、セシリー、ルシアの三人は、突然襲い掛かってきた暴虐のごとき威圧に、耳を塞いでどうにか耐えようとする。
「うぐっ……! ぐぅぅっ……!」
「くっ……! な、なんて圧なのよ……!」
「お、圧し潰されそうっす……!」
だが俺は一人、腰から二本の【神獣のククリ】を引き抜き、地面を蹴る。
第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロス。
二年前は震えるほどの相手だったが、今は──
なかば止まったようにも見える時間の中で、俺だけが加速していく。
それに気付いた牛頭巨人がようやく斧を振り上げるが、あまりにも遅すぎる。
「──【パラライズブレード】!」
まずはカイザーミノタウロスの横を駆け抜けざま、両手の短剣をそれぞれ一閃、巨人の右脚に攻撃を叩き込む。
【神獣のククリ】は、皮膚や筋肉の多少の硬さなど何の意味もないというようにたやすく刃を潜り込ませ、牛頭巨人の太い脚を二撃、いずれも深々と切り裂いた。
噴き出す血をそのままの動きで回避しつつ、俺はカイザーミノタウロスの背後へと回る。
俺の姿を見失ったらしき牛頭巨人。
その動きは俺が放ったスキル攻撃の軽度の麻痺効果によって、さらに緩慢になっている。
ようはまったくの無防備状態なわけだが、何しろ相手は俺の背丈の三倍もある巨体であり、打たれ強さも尋常ではないから、一筋縄ではいかない。
俺は跳躍を活用しつつ、カイザーミノタウロスの背中や首筋、後頭部などに絶え間なく連続攻撃を叩き込んでいく。
「──【パラライズブレードⅡ】! 【ポイズンブレード】! 【ポイズンブレードⅡ】! 【サウザンドブレード】!」
『──グォオオオオオオオオッ!』
背中側を滅多切りにされたカイザーミノタウロスは怒り狂い、周囲すべてを薙ぎ払うかのように斧をぶん回してきた。
ゴウッと唸りを上げて、横薙ぎに襲い掛かってくる巨大斧の刃。
なるほど、これなら確かに、俺の姿を見失っていても攻撃が可能だな。
それが当たるかどうかは、また別の話だが。
俺は襲い掛かってくる巨大斧の刃を、縄跳びの要領で跳躍して回避、事なきを得る。
俺の今の跳躍力は、その気になれば三階建ての住居の屋根にも届くぐらいだから、このぐらいは造作もない。
そして俺は、さらにたて続けに【神獣のククリ】で連続攻撃を叩き込んでいく。
「援護はいらなさそうだけど、一応ね──【アイスジャベリン】!」
そのとき遠く離れたセシリーのほうから、大型の氷の槍が飛来、カイザーミノタウロスの胸板に直撃する。
威力はなかなかのもので、牛頭巨人はさらに苦悶の咆哮をあげる。
「……これは、ボクたちは近付かないほうがよさそうだね」
「そっすね。あの戦いに割り込んでも、うちは足手まといになる自信しかないっすよ。──にしてもユキっち、今のクリードの兄貴、めっちゃ格好良くないっすか?」
「分かる。すごく格好いいし、憧れるよ」
ユキとルシアの二人は、俺とカイザーミノタウロスの戦いを遠巻きに観戦していた。
まあ、それが正解だろうな。
遠隔攻撃手段を持っているセシリーはともかく、ユキとルシアは下手に近接戦闘に参加されてもリスクが増すだけだ。
もちろんユキたちも、レベルアップによる能力向上だけでなく戦闘経験も積んでおいたほうがいいとは思うのだが、まあそれは第二迷宮以降でいくらでもチャンスがあるだろう。
そんなことを考えながら俺が攻撃を繰り出し続けていると、さしものカイザーミノタウロスも、ついに生命力が尽きたようだ。
『グォオオオオオオオッ……!』
最後に一つ咆哮をあげたかと思うと、全身をずたずたに切り裂かれた巨体はふらりと前のめりに倒れ、地鳴りのような音を立てて撃沈した。
そしてびくびくとわずかに痙攣したかと思うと、やがてその動きもなくなり、完全に動かなくなった。
「ふぅっ……」
俺は手元で【神獣のククリ】をくるくるっと回してから、その二本の短剣を腰の鞘へと納める。
戦闘終了だ。
そんな俺のもとに、ユキ、セシリー、ルシアの三人が駆け寄ってくる。
「先輩、お疲れ様です! すごい戦いぶりで、ボク、見ていて感動しました!」
「まったく……普段から化け物だとは思っていたけど、こうして強敵相手の立ち回りを見るとひとしおね。同じ人間だとは思えないわ。これじゃあ嫉妬するのもおこがましいわね」
「へっへっへ……クリードの兄貴、さすがっす。うちは一生兄貴についていくって、あらためて心に決めたっすよ」
そう三人がかりで褒め称えられれば、俺も悪い気はしないというもので。
「おう。麗しき美女たちから賛辞を賜れて、俺も光栄だよ」
俺がそう答えると、少女たちは三者三様、恥じらうように、あるいは嬉しそうにその頬を赤く染める。
「せ、先輩……! 麗しき美女とか、そういうのやめてくださいよ……は、恥ずかしいです……」
「よくもまあ、そんな歯の浮くようなセリフを平然と……」
「えへへーっ、うちはいつでも大歓迎っすよ♪ 容姿でも性格でも、どんどんほめてほしいっす♪」
性格は難しいなー、などと思いつつ。
「つってもまあ、俺のほうも武具の力あってだけどな」
そう付け加える。
俺は今回の戦闘であらためて、自身の装備品の異常なまでの性能を思い知っていた。
【神獣のククリ】ももちろんそうだが、【常闇の外套】と【神速のブーツ】による身体能力上昇効果も並外れていて、体の動きが装備以前とは比べ物にならない鋭さだ。
これらの装備がなければ、あのカイザーミノタウロスを相手に、これほど簡単には勝てなかっただろう。
もっと延々と攻撃を続けなければ倒せなかっただろうし、あの巨大斧による攻撃も一発や二発は被弾していたはずだ。
と、そんな話をしていると──
唐突にユキ、セシリー、ルシアの全身に、キラキラとした淡い輝きが宿った。
その輝きはすぐに、少女たちの体に吸い込まれるようにして消えたが、三人は驚きを隠せない様子だ。
「先輩、これって……」
「ああ。ゲートキーパーを倒して、第一迷宮の突破を認められた証だな。これで全員、第二迷宮に挑むことが可能になったわけだ」
「へぇ……。こんな感じなのね」
「クリードの兄貴に頼り切りだったから、いいのかなーって気がしないでもないっすけど、まあ気にしたら負けっすよね」
「そういうことだ。──よし、これで目的達成だ。帰るぞ」
その頃には、カイザーミノタウロスの姿も巨大斧ごと消え去り、素材として二本の大きなツノだけが、大広間の地面に残っていた。
俺はそれを回収してから、少女たちを連れて、ボス部屋の奥にあった女神像と石の足場を使って第一迷宮の最深層をあとにした。
ただし今は、手前側だけが灯りで照らされていて、奥の方は真っ暗でよく見えない。
一行の先頭にいたユキが、その光景を見て少しだけ怯む。
俺はユキの横を通り抜け、大広間へと踏み込んでいく。
「こけおどしだ。行くぞ」
「は、はい、先輩……!」
ユキは慌てて、俺についてくる。
セシリーとルシアも、そのあとに続いた。
ボッ、ボッ、ボッ、ボッ──
俺たちが大広間を進んでいくと、左右の壁に掛けられている燭台に、手前側から順に青い魔法の炎が灯っていく。
そして大広間の奥、いまだ灯りが届かぬ暗闇で、二つの赤い目がギラリと光った。
やがて燭台の明かりが大広間の奥まで届くと、そこにいるものの姿があらわになる。
そいつの姿は、牛頭巨人によく似ている。
筋骨隆々たるたくましい人型の体の上に、牛に似た頭部が乗っかっている。
だがその巨大さたるや、通常のミノタウロスの比ではない。
第一迷宮の地下四階に一般モンスターとして出現する通常のミノタウロスは、ツノを除いた頭頂までの背丈がせいぜい二メートル半ほどだ。
それでも人間の成人男性の五割増しで背丈があるのだから、見上げるほどの大きさなのだが。
今、俺たちの目の前にいるのは、その通常のミノタウロスをさらに倍の背丈にしたぐらいの途方もない巨体を持つ怪物だ。
こいつの前に立てば、通常のミノタウロスなどは子供のようなものだし、いわんや人間をやだ。
さらに通常のミノタウロスが褐色の体毛を持つのに対し、こいつは輝かしい金色の体毛に覆われているのが特徴的だ。
そういった姿の巨大な牛頭巨人が、同様に巨大な座椅子にふんぞり返り、待ち構えていたのだが──
大広間への侵入者、すなわち俺たちの姿を認めると、そいつは満を持した様子で悠然と立ち上がる。
その手には、体のサイズに見合った巨大な斧を携えていた。
俺は冒険者人生で二度目になるその姿を見上げながら、ユキたちに敵の情報を伝える。
「あれが第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロスだ。モンスターレベルは30。攻撃力と打たれ強さは桁違いだ。特にあの斧の直撃を受ければ、一撃で戦闘不能もありうる。全員、気を付けろよ」
「は、はい、先輩!」
ユキが元気よく返事をする。
セシリーとルシアもうなずいていた。
ちなみに「戦闘不能」というのは、文字通り、ダメージを受け過ぎて戦闘継続が不可能になった状態のことだ。
冒険者の職業適性を持つ者は、その時点で神々の加護によって守られていて、どんなに強力な攻撃を受けても一撃で即死はしないのだが。
それでもこの戦闘不能状態になると、もはや通常の治癒魔法は受け付けなくなり、戦線復帰には上級職【ハイプリースト】にしか使えない高度な治癒魔法が必要になってしまう。
また戦闘不能状態では、もはや神々の加護は働かないので、そこには命の危険が発生する。
俺がいるからパーティ全滅の心配はまずないとはいえ、ユキやセシリー、ルシアが戦闘不能になることはなるべく避けたいところだ。
とは言え、まあ──
今の俺にとっては、カイザーミノタウロスはそこまでカツカツの相手でもないのだが。
俺は三人に向かって、重ねて告げる。
「あいつは基本的には俺が片付ける。三人とも無理はするな。接近しての立ち回りが難しそうなら、距離を取って逃げ回っていればいい。この大広間から出さえしなければ、三人とも撃破パーティのメンバーとしてカウントされるはずだ」
「了解です、先輩!」
「分かったわ。私は遠距離からの魔法攻撃に徹するようにする」
「攻撃を食らわないよう、逃げ回っていればいいんすね! それなら大得意っすよ!」
「よし──じゃあ始めるぞ」
俺がそう、仲間たちの声をかけたときだ。
『──グォオオオオオオオッ!』
世界を震撼させるような激しい咆哮を、カイザーミノタウロスが放った。
ユキ、セシリー、ルシアの三人は、突然襲い掛かってきた暴虐のごとき威圧に、耳を塞いでどうにか耐えようとする。
「うぐっ……! ぐぅぅっ……!」
「くっ……! な、なんて圧なのよ……!」
「お、圧し潰されそうっす……!」
だが俺は一人、腰から二本の【神獣のククリ】を引き抜き、地面を蹴る。
第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロス。
二年前は震えるほどの相手だったが、今は──
なかば止まったようにも見える時間の中で、俺だけが加速していく。
それに気付いた牛頭巨人がようやく斧を振り上げるが、あまりにも遅すぎる。
「──【パラライズブレード】!」
まずはカイザーミノタウロスの横を駆け抜けざま、両手の短剣をそれぞれ一閃、巨人の右脚に攻撃を叩き込む。
【神獣のククリ】は、皮膚や筋肉の多少の硬さなど何の意味もないというようにたやすく刃を潜り込ませ、牛頭巨人の太い脚を二撃、いずれも深々と切り裂いた。
噴き出す血をそのままの動きで回避しつつ、俺はカイザーミノタウロスの背後へと回る。
俺の姿を見失ったらしき牛頭巨人。
その動きは俺が放ったスキル攻撃の軽度の麻痺効果によって、さらに緩慢になっている。
ようはまったくの無防備状態なわけだが、何しろ相手は俺の背丈の三倍もある巨体であり、打たれ強さも尋常ではないから、一筋縄ではいかない。
俺は跳躍を活用しつつ、カイザーミノタウロスの背中や首筋、後頭部などに絶え間なく連続攻撃を叩き込んでいく。
「──【パラライズブレードⅡ】! 【ポイズンブレード】! 【ポイズンブレードⅡ】! 【サウザンドブレード】!」
『──グォオオオオオオオオッ!』
背中側を滅多切りにされたカイザーミノタウロスは怒り狂い、周囲すべてを薙ぎ払うかのように斧をぶん回してきた。
ゴウッと唸りを上げて、横薙ぎに襲い掛かってくる巨大斧の刃。
なるほど、これなら確かに、俺の姿を見失っていても攻撃が可能だな。
それが当たるかどうかは、また別の話だが。
俺は襲い掛かってくる巨大斧の刃を、縄跳びの要領で跳躍して回避、事なきを得る。
俺の今の跳躍力は、その気になれば三階建ての住居の屋根にも届くぐらいだから、このぐらいは造作もない。
そして俺は、さらにたて続けに【神獣のククリ】で連続攻撃を叩き込んでいく。
「援護はいらなさそうだけど、一応ね──【アイスジャベリン】!」
そのとき遠く離れたセシリーのほうから、大型の氷の槍が飛来、カイザーミノタウロスの胸板に直撃する。
威力はなかなかのもので、牛頭巨人はさらに苦悶の咆哮をあげる。
「……これは、ボクたちは近付かないほうがよさそうだね」
「そっすね。あの戦いに割り込んでも、うちは足手まといになる自信しかないっすよ。──にしてもユキっち、今のクリードの兄貴、めっちゃ格好良くないっすか?」
「分かる。すごく格好いいし、憧れるよ」
ユキとルシアの二人は、俺とカイザーミノタウロスの戦いを遠巻きに観戦していた。
まあ、それが正解だろうな。
遠隔攻撃手段を持っているセシリーはともかく、ユキとルシアは下手に近接戦闘に参加されてもリスクが増すだけだ。
もちろんユキたちも、レベルアップによる能力向上だけでなく戦闘経験も積んでおいたほうがいいとは思うのだが、まあそれは第二迷宮以降でいくらでもチャンスがあるだろう。
そんなことを考えながら俺が攻撃を繰り出し続けていると、さしものカイザーミノタウロスも、ついに生命力が尽きたようだ。
『グォオオオオオオオッ……!』
最後に一つ咆哮をあげたかと思うと、全身をずたずたに切り裂かれた巨体はふらりと前のめりに倒れ、地鳴りのような音を立てて撃沈した。
そしてびくびくとわずかに痙攣したかと思うと、やがてその動きもなくなり、完全に動かなくなった。
「ふぅっ……」
俺は手元で【神獣のククリ】をくるくるっと回してから、その二本の短剣を腰の鞘へと納める。
戦闘終了だ。
そんな俺のもとに、ユキ、セシリー、ルシアの三人が駆け寄ってくる。
「先輩、お疲れ様です! すごい戦いぶりで、ボク、見ていて感動しました!」
「まったく……普段から化け物だとは思っていたけど、こうして強敵相手の立ち回りを見るとひとしおね。同じ人間だとは思えないわ。これじゃあ嫉妬するのもおこがましいわね」
「へっへっへ……クリードの兄貴、さすがっす。うちは一生兄貴についていくって、あらためて心に決めたっすよ」
そう三人がかりで褒め称えられれば、俺も悪い気はしないというもので。
「おう。麗しき美女たちから賛辞を賜れて、俺も光栄だよ」
俺がそう答えると、少女たちは三者三様、恥じらうように、あるいは嬉しそうにその頬を赤く染める。
「せ、先輩……! 麗しき美女とか、そういうのやめてくださいよ……は、恥ずかしいです……」
「よくもまあ、そんな歯の浮くようなセリフを平然と……」
「えへへーっ、うちはいつでも大歓迎っすよ♪ 容姿でも性格でも、どんどんほめてほしいっす♪」
性格は難しいなー、などと思いつつ。
「つってもまあ、俺のほうも武具の力あってだけどな」
そう付け加える。
俺は今回の戦闘であらためて、自身の装備品の異常なまでの性能を思い知っていた。
【神獣のククリ】ももちろんそうだが、【常闇の外套】と【神速のブーツ】による身体能力上昇効果も並外れていて、体の動きが装備以前とは比べ物にならない鋭さだ。
これらの装備がなければ、あのカイザーミノタウロスを相手に、これほど簡単には勝てなかっただろう。
もっと延々と攻撃を続けなければ倒せなかっただろうし、あの巨大斧による攻撃も一発や二発は被弾していたはずだ。
と、そんな話をしていると──
唐突にユキ、セシリー、ルシアの全身に、キラキラとした淡い輝きが宿った。
その輝きはすぐに、少女たちの体に吸い込まれるようにして消えたが、三人は驚きを隠せない様子だ。
「先輩、これって……」
「ああ。ゲートキーパーを倒して、第一迷宮の突破を認められた証だな。これで全員、第二迷宮に挑むことが可能になったわけだ」
「へぇ……。こんな感じなのね」
「クリードの兄貴に頼り切りだったから、いいのかなーって気がしないでもないっすけど、まあ気にしたら負けっすよね」
「そういうことだ。──よし、これで目的達成だ。帰るぞ」
その頃には、カイザーミノタウロスの姿も巨大斧ごと消え去り、素材として二本の大きなツノだけが、大広間の地面に残っていた。
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