世界で唯一の探索系上級職になったけど、駆け出しを育てながらのんびりやろうと思う

いかぽん

文字の大きさ
16 / 22
第2章

第16話

しおりを挟む
 扉を開くと、その先にあるのは広大な大広間だ。

 ただし今は、手前側だけが灯りで照らされていて、奥の方は真っ暗でよく見えない。
 一行の先頭にいたユキが、その光景を見て少しだけ怯む。

 俺はユキの横を通り抜け、大広間へと踏み込んでいく。

「こけおどしだ。行くぞ」

「は、はい、先輩……!」

 ユキは慌てて、俺についてくる。
 セシリーとルシアも、そのあとに続いた。

 ボッ、ボッ、ボッ、ボッ──

 俺たちが大広間を進んでいくと、左右の壁に掛けられている燭台に、手前側から順に青い魔法の炎が灯っていく。

 そして大広間の奥、いまだ灯りが届かぬ暗闇で、二つの赤い目がギラリと光った。

 やがて燭台の明かりが大広間の奥まで届くと、そこにいるものの姿があらわになる。

 そいつの姿は、牛頭巨人ミノタウロスによく似ている。
 筋骨隆々たるたくましい人型の体の上に、牛に似た頭部が乗っかっている。

 だがその巨大さたるや、通常のミノタウロスの比ではない。

 第一迷宮の地下四階に一般モンスターとして出現する通常のミノタウロスは、ツノを除いた頭頂までの背丈がせいぜい二メートル半ほどだ。

 それでも人間の成人男性の五割増しで背丈があるのだから、見上げるほどの大きさなのだが。

 今、俺たちの目の前にいるのは、その通常のミノタウロスをさらに倍の背丈にしたぐらいの途方もない巨体を持つ怪物だ。

 こいつの前に立てば、通常のミノタウロスなどは子供のようなものだし、いわんや人間をやだ。

 さらに通常のミノタウロスが褐色の体毛を持つのに対し、こいつは輝かしい金色の体毛に覆われているのが特徴的だ。

 そういった姿の巨大な牛頭巨人が、同様に巨大な座椅子にふんぞり返り、待ち構えていたのだが──

 大広間への侵入者、すなわち俺たちの姿を認めると、そいつは満を持した様子で悠然と立ち上がる。

 その手には、体のサイズに見合った巨大な斧を携えていた。

 俺は冒険者人生で二度目になるその姿を見上げながら、ユキたちに敵の情報を伝える。

「あれが第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロスだ。モンスターレベルは30。攻撃力と打たれ強さは桁違いだ。特にあの斧の直撃を受ければ、一撃で戦闘不能もありうる。全員、気を付けろよ」

「は、はい、先輩!」

 ユキが元気よく返事をする。
 セシリーとルシアもうなずいていた。

 ちなみに「戦闘不能」というのは、文字通り、ダメージを受け過ぎて戦闘継続が不可能になった状態のことだ。

 冒険者の職業適性を持つ者は、その時点で神々の加護によって守られていて、どんなに強力な攻撃を受けても一撃で即死はしないのだが。

 それでもこの戦闘不能状態になると、もはや通常の治癒魔法は受け付けなくなり、戦線復帰には上級職【ハイプリースト】にしか使えない高度な治癒魔法が必要になってしまう。

 また戦闘不能状態では、もはや神々の加護は働かないので、そこには命の危険が発生する。

 俺がいるからパーティ全滅の心配はまずないとはいえ、ユキやセシリー、ルシアが戦闘不能になることはなるべく避けたいところだ。

 とは言え、まあ──
 今の俺にとっては、カイザーミノタウロスはそこまでカツカツの相手でもないのだが。

 俺は三人に向かって、重ねて告げる。

「あいつは基本的には俺が片付ける。三人とも無理はするな。接近しての立ち回りが難しそうなら、距離を取って逃げ回っていればいい。この大広間から出さえしなければ、三人とも撃破パーティのメンバーとしてカウントされるはずだ」

「了解です、先輩!」

「分かったわ。私は遠距離からの魔法攻撃に徹するようにする」

「攻撃を食らわないよう、逃げ回っていればいいんすね! それなら大得意っすよ!」

「よし──じゃあ始めるぞ」

 俺がそう、仲間たちの声をかけたときだ。

『──グォオオオオオオオッ!』

 世界を震撼させるような激しい咆哮を、カイザーミノタウロスが放った。

 ユキ、セシリー、ルシアの三人は、突然襲い掛かってきた暴虐のごとき威圧に、耳を塞いでどうにか耐えようとする。

「うぐっ……! ぐぅぅっ……!」

「くっ……! な、なんて圧なのよ……!」

「お、圧し潰されそうっす……!」

 だが俺は一人、腰から二本の【神獣のククリ】を引き抜き、地面を蹴る。

 第一迷宮のゲートキーパー、カイザーミノタウロス。
 二年前は震えるほどの相手だったが、今は──

 なかば止まったようにも見える時間の中で、俺だけが加速していく。

 それに気付いた牛頭巨人がようやく斧を振り上げるが、あまりにも遅すぎる。

「──【パラライズブレード】!」

 まずはカイザーミノタウロスの横を駆け抜けざま、両手の短剣をそれぞれ一閃、巨人の右脚に攻撃を叩き込む。

【神獣のククリ】は、皮膚や筋肉の多少の硬さなど何の意味もないというようにたやすく刃を潜り込ませ、牛頭巨人の太い脚を二撃、いずれも深々と切り裂いた。

 噴き出す血をそのままの動きで回避しつつ、俺はカイザーミノタウロスの背後へと回る。

 俺の姿を見失ったらしき牛頭巨人。
 その動きは俺が放ったスキル攻撃の軽度の麻痺効果によって、さらに緩慢になっている。

 ようはまったくの無防備状態なわけだが、何しろ相手は俺の背丈の三倍もある巨体であり、打たれ強さも尋常ではないから、一筋縄ではいかない。

 俺は跳躍を活用しつつ、カイザーミノタウロスの背中や首筋、後頭部などに絶え間なく連続攻撃を叩き込んでいく。

「──【パラライズブレードⅡ】! 【ポイズンブレード】! 【ポイズンブレードⅡ】! 【サウザンドブレード】!」

『──グォオオオオオオオオッ!』

 背中側を滅多切りにされたカイザーミノタウロスは怒り狂い、周囲すべてを薙ぎ払うかのように斧をぶん回してきた。

 ゴウッと唸りを上げて、横薙ぎに襲い掛かってくる巨大斧の刃。
 なるほど、これなら確かに、俺の姿を見失っていても攻撃が可能だな。

 それが当たるかどうかは、また別の話だが。

 俺は襲い掛かってくる巨大斧の刃を、縄跳びの要領で跳躍して回避、事なきを得る。

 俺の今の跳躍力は、その気になれば三階建ての住居の屋根にも届くぐらいだから、このぐらいは造作もない。

 そして俺は、さらにたて続けに【神獣のククリ】で連続攻撃を叩き込んでいく。

「援護はいらなさそうだけど、一応ね──【アイスジャベリン】!」

 そのとき遠く離れたセシリーのほうから、大型の氷の槍が飛来、カイザーミノタウロスの胸板に直撃する。

 威力はなかなかのもので、牛頭巨人はさらに苦悶の咆哮をあげる。

「……これは、ボクたちは近付かないほうがよさそうだね」

「そっすね。あの戦いに割り込んでも、うちは足手まといになる自信しかないっすよ。──にしてもユキっち、今のクリードの兄貴、めっちゃ格好良くないっすか?」

「分かる。すごく格好いいし、憧れるよ」

 ユキとルシアの二人は、俺とカイザーミノタウロスの戦いを遠巻きに観戦していた。

 まあ、それが正解だろうな。

 遠隔攻撃手段を持っているセシリーはともかく、ユキとルシアは下手に近接戦闘に参加されてもリスクが増すだけだ。

 もちろんユキたちも、レベルアップによる能力向上だけでなく戦闘経験も積んでおいたほうがいいとは思うのだが、まあそれは第二迷宮以降でいくらでもチャンスがあるだろう。

 そんなことを考えながら俺が攻撃を繰り出し続けていると、さしものカイザーミノタウロスも、ついに生命力が尽きたようだ。

『グォオオオオオオオッ……!』

 最後に一つ咆哮をあげたかと思うと、全身をずたずたに切り裂かれた巨体はふらりと前のめりに倒れ、地鳴りのような音を立てて撃沈した。

 そしてびくびくとわずかに痙攣したかと思うと、やがてその動きもなくなり、完全に動かなくなった。

「ふぅっ……」

 俺は手元で【神獣のククリ】をくるくるっと回してから、その二本の短剣を腰の鞘へと納める。
 戦闘終了だ。

 そんな俺のもとに、ユキ、セシリー、ルシアの三人が駆け寄ってくる。

「先輩、お疲れ様です! すごい戦いぶりで、ボク、見ていて感動しました!」

「まったく……普段から化け物だとは思っていたけど、こうして強敵相手の立ち回りを見るとひとしおね。同じ人間だとは思えないわ。これじゃあ嫉妬するのもおこがましいわね」

「へっへっへ……クリードの兄貴、さすがっす。うちは一生兄貴についていくって、あらためて心に決めたっすよ」

 そう三人がかりで褒め称えられれば、俺も悪い気はしないというもので。

「おう。麗しき美女たちから賛辞を賜れて、俺も光栄だよ」

 俺がそう答えると、少女たちは三者三様、恥じらうように、あるいは嬉しそうにその頬を赤く染める。

「せ、先輩……! 麗しき美女とか、そういうのやめてくださいよ……は、恥ずかしいです……」

「よくもまあ、そんな歯の浮くようなセリフを平然と……」

「えへへーっ、うちはいつでも大歓迎っすよ♪ 容姿でも性格でも、どんどんほめてほしいっす♪」

 性格は難しいなー、などと思いつつ。

「つってもまあ、俺のほうも武具の力あってだけどな」

 そう付け加える。

 俺は今回の戦闘であらためて、自身の装備品の異常なまでの性能を思い知っていた。

【神獣のククリ】ももちろんそうだが、【常闇の外套】と【神速のブーツ】による身体能力上昇効果も並外れていて、体の動きが装備以前とは比べ物にならない鋭さだ。

 これらの装備がなければ、あのカイザーミノタウロスを相手に、これほど簡単には勝てなかっただろう。

 もっと延々と攻撃を続けなければ倒せなかっただろうし、あの巨大斧による攻撃も一発や二発は被弾していたはずだ。

 と、そんな話をしていると──

 唐突にユキ、セシリー、ルシアの全身に、キラキラとした淡い輝きが宿った。

 その輝きはすぐに、少女たちの体に吸い込まれるようにして消えたが、三人は驚きを隠せない様子だ。

「先輩、これって……」

「ああ。ゲートキーパーを倒して、第一迷宮の突破を認められた証だな。これで全員、第二迷宮に挑むことが可能になったわけだ」

「へぇ……。こんな感じなのね」

「クリードの兄貴に頼り切りだったから、いいのかなーって気がしないでもないっすけど、まあ気にしたら負けっすよね」

「そういうことだ。──よし、これで目的達成だ。帰るぞ」

 その頃には、カイザーミノタウロスの姿も巨大斧ごと消え去り、素材として二本の大きなツノだけが、大広間の地面に残っていた。

 俺はそれを回収してから、少女たちを連れて、ボス部屋の奥にあった女神像と石の足場を使って第一迷宮の最深層をあとにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...