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しおりを挟むレオニーティは俺様王子様。
サリエルは僕っ子小悪魔。
アダムは始まりの一族の末裔。
ヴィクトルは星の天使様。
――乙女ゲームで言う攻略キャラクターもといメインキャラクターだ。
レオニーティとは婚約者同士で、純愛ストーリー。サリエルは聖女と悪魔の禁断の恋。アダムと
は世界の運命をかけた大恋愛。ヴィクトルは幼馴染の片想いストーリーが繰り広げられる。
グッドエンドとノーマルエンドがいくつもある中で、どうして、嫌われバッドエンドなんだ。思い出すのがもう少し早ければ、回避できたんじゃないだろうか。
小説や漫画で、いわゆる「嫌われジャンル」は読んだことあるけれど、こんなにも辛いだなんて思わなかった。
ヴィクトルがいなければ、ヴィクトルが支えてくれなければ、早々に諦めてしまっていただろう。
学年が違うからいつも一緒にはいられない。朝と、昼休憩と帰りぐらい。
ひとりになるのが心底嫌だった。
「本当は聖女サマですらないんだってな」
心がギリギリと悲鳴を上げる。
ぐっと奥歯を噛み締めて、声を我慢する。
腕をつかまれ、引っ張り込まれた使われていない教室内には数人の男子生徒がたむろしていた。
下卑た嗤いを浮かべる彼らに心臓が嫌な音を立てる。早鐘を打ち、冷や汗が背筋を伝った。
「――不敬だわ。わたしは、女神に選ばれた聖女よ」
「地に這いつくばった聖女サマを聖女様と呼べるのかァ?」
強引に、無理やり床に引き倒される。悲鳴を上げる隙もなく、口元を大きな手で塞がれる。
「んぅッ……! ん、ぐ、!」
パキパキ、とヒビの入る音が耳元で聞こえた。
制服のスカートがまくりあがり、黒いタイツに包まれた足が露出する。羞恥に涙が滲む。
いつもツンと澄ました聖女様の泣き顔に、彼らはさらに胸を高鳴らせ、獲物を前にした獣のように喉を鳴らした。
「いやッ、こんなっ、こんなことして、ただで済むと思っているの……!?」
震えた声はとても小さく、彼らは嘲笑を浮かべ、お構いなしに細い肢体に手を伸ばした。
胸もとを彩るリボンを取られ、ブチブチとボタンを飛ばしてブラウスを裂かれる。手足を数人の男に抑えられてしまえば、抵抗なんてできるはずない。
捕まれた手首が痛い。床に打ち付けた背中が痛い。頭が混乱して、舌が上手く回らない。呪文を紡げない。聖女なのに、聖女のはずなのに、こんな目にあっていいわけがない。
「や、イヤ……! ――弾けろ!」
無我夢中で、振り上げた手のひらから魔力を放出する。
高圧縮された魔力が文字通り教室内で弾ける様子は、花火が咲くようだった。
光と炎の魔法は天井にぶちあたり、男たちに降り注ぐ。目を焼く眩さに、肌を焼く火花。悲鳴と怒号で混乱した隙に、掴む手足を振り切って教室の出口へと駆ける。
机や壁に身体をぶつけながら、廊下へと這い出て、どこか、当てもなく足を動かした。
「――マリー、もう大丈夫だよ」
流れ星が降る瞳に、息を飲んだ。
「ヴィク、トル」
腕を広げられれば、自然と足は動いて、胸に飛び込んでいた。
爽やかな、冷たい夜の匂いのするヴィクトルに、目一杯抱きつく。
駄々をこねる幼子のように、ぐりぐりと額を押し付ける。
「もうイヤっ! ヴィクトル、わたし、もう、どうしてわたしがッ……」
溢れる涙を止められなかった。
堪えられるわけがなかった。聖女様と崇め奉られても、たったひとりの女の子なのだ。周りの同年代よりも大人びていろうが、十七歳の女の子が複数の男に襲われて堪えられるわけがない。
怖かった。聖女という肩書きがなければ、こんなにも無防備になってしまうなんて。
手が這ったあとが痒い。気持悪くてしかたない。
肌着が見え、淡い蒼色の下着がのぞいている。幸い人気はない。ジャケットを脱ぎ、細い肩にかけてやる。
「マリー、落ち着いて、大丈夫、僕がいる。僕だけは君の味方だ」
大きな手のひらが両頬を包んだ。冷たい、手のひらだ。
「マリーは、僕だけじゃ足りない?」
深く遠い、どこまでも広がる星空、吸い込まれそうな宇宙の瞳はキラキラと煌いてマリーを映し出す。
「足りなく、ない」
そう答えれば、嬉しそうに破顔して、額を付き合わせた。
「マリーには、僕だけがいればいいだろ。君を蔑み、穢そうとしてくる奴らなんていらないだろ。マリアのことを信じない婚約者も、マリーフィアのモノを奪っていく妹も。僕だけが君のことを信じる。君を守る。僕だけがマリーを愛するよ」
胸からこみ上げる感情に、止まったはずの涙がまた溢れた。
強く、華奢な彼女を抱きしめたヴィクトルの瞳がほの暗い闇を纏っていたとしても、マリーは彼に縋ることしかできなかった。
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