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しおりを挟む子は親を見て育つ。
村に数人いる子供たちは、親のリージュに対する対応を見て、「あぁ、リージュにはああいう対応をしていいんだ」と思ってしまう。悪意なき、心無い言葉は鋭いナイフと同義だった。
にゃぁん。
石が飛んでこなくなって、しばらく蹲っていたリージュの足に擦り寄る黒猫は、放し飼いにしているメスのミリーだ。
「……ミリー」
「にゃぁん」
「うん、わたしは、だいじょうぶだから」
「……にゃぁご」
「へいきよ。がまん、しなくちゃいけないんだもの」
「にゃっ、んなぁっ」
「心配してくれてありがとう。……家に戻りましょう」
また、いつ子ども達が戻ってくるかわからない。
ミリーを腕の中に出来上げて、ふらつく身体で村の端っこにあるあばら家に向かう。
リージュとミリーの、まるで会話をしているかのような様子に、近くにいた老人たちが白い目を向けてくる。
近くにいたのに、子供たちが石を投げるのを止めなかったのだ
「んにゃぁ、」
「だいじょうぶ、だいじょうぶよ。いい子だから、」
腕の中から飛び出そうとするミリーを宥めて、さっさと横を通り過ぎる。
ミリーは、リージュの現状に納得していなかった。我慢するのも、口を閉ざして、心に鍵をかけてしまうのも、おばあさんだけを生きがいにしているのも、ふとした瞬間にピンと張った糸が切れてしまいそうで心配だった。
ほかの人間はどうでもいいけど、リージュは違う。言葉を交わし、優しくしてくれた人間だ。黒は不吉だ、と捨てられたわたしを、拾ってご飯を与えて育ててくれた。
リージュは、動物と会話ができる。
当たり前のようにミリーと会話をして、朝は小鳥と挨拶を交わし、他の人間には聞こえていないとわかっていながらも、動物たちを無視することはリージュにはできなかった。
時には怪我をした動物たちがリージュの元を訪れ、癒しの力で傷を治してやる。異端な力を発揮すればするほど、リージュは「魔女」と言われ罵られ、居場所がどんどん狭くなっていく。
「ミリー、今日はおばあちゃんがパイを焼いてくれるんだって。一緒に食べようね」
あばら家からは、バターのいい香りがする。
家に入る前に、癒しの力を自身にかけて、服の汚れはどうにもならないけど、家を出る前の怪我のないリージュに元通りだ。
癒しの力を使う際、ほのかに白く光輝く。それを遠目に見た村人が、また「魔女だ!!」と騒ぎ立てるのだ。
リージュにとって、小さな村はとても生き辛い、小さな牢獄だった。
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