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ゲロイン

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「ねえ、宗介君。昨晩のことだけど」
 

 二日目の朝食時。
 
 隣に座る光が昨晩のことを話題に出してきた。
 
 昨晩のことを思い出すだけで腹が立ってしまう宗介は、彼女の言葉を無視して、ただ黙々と箸を動かす。


「私、確か宗介君にお願いして一緒にトイレに行ってもらったよね?」
「……」
「でね、不思議なんだけど、その後の記憶がないの」
「……」
「トイレから出たところまでは覚えているんだけど、気付いたら部屋の布団で寝てて……」
「……」
 

 そんな光の言葉を聞いていると、昨晩の出来事が怒りと共に蘇ってくる。
 
 昨晩、寝ゲロした光を部屋へ運び、口元を拭って布団に寝かせてやったのは宗介だ。その後、宗介自身はもう一度風呂に入り直し、再び床についたのは深夜二時近く。宗介にしてみれば何があったのかを事細かに説明して、嫌味の一つでも言ってやりたいところである。
 
 だが、光もこれで年頃の女だ。気絶して寝ゲロした挙句、年下の男に介抱されたと知れば、流石にプライドが傷つくだろう。故に、宗介はこうして怒りを堪え黙っているわけである。それなのに……。


「ねえ、さっきからどうして黙ってるの?」
「……」
「宗介君は何か知ってるの?」
「……」
「ま、まさか……宗介君、私に、その……エッチなことしてないよね?」
 

 宗介の中で、何かがプッツンと音を立てて切れた。


「てめえ! こっちが気を遣ってやってりゃ好き勝手言いやがって! そんなに知りたきゃ教えてやるよ!」
 

 それから宗介は、昨晩のことを克明に聞かせてやった。


「う、嘘よ! わ、私がそんなはしたないこと……」
「してんだよ! この、ゲロ女!」
「ゲ、ゲロ女!? い、いくら何でもその呼び方はあんまりじゃ……」
「吐いてばかりいるお前にはぴったり……痛っつ!!」
 

 その時突然、右肩に刺すような痛みが走った。
 
 宗介は思わず肩を押さえる。


「どうしたの? 寝違えちゃった?」
「……昨晩お前を部屋まで運んだせいだ。びっくりするくらい重かったからな」
「心配してあげてるのにどうしてそういうこと言うかな~。宗介君は女性と目上の人に対する口の利き方を改めた方がいいと思うよ」
「お前が夜一人で用を足せるようになったら考えてやるよ」
「うぅ……宗介君って本当に口が悪いよね……」
 

 光はぶすっとした顔で食事に戻った。
 
 宗介はそんな光の目を盗んで、服をずらして痛みが走った右肩を確認する。
 
 すると、昨晩少女の亡霊に噛まれた部分が黒い痣になっていた。


(……この痣、美守の身体に現れていた症状と酷似している……。つまり、俺も――)
 

 そこで宗介は不機嫌な顔で味噌汁をすすっている光に視線を移す。


(……まあいい。こうなったのも見方によっては悪くない。それに俺のやるべきことが変わるわけでもないからな)
 

 宗介は服を戻し、残っていた朝食を片付けた。



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