黒の解呪録 ~呪いの果ての少女~

蒼井 くじら

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救い

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「ねえ、宗介君! ねえってば! ちょっと、待ってよ!」
 

 宗介が正門に向かって歩いていると、ようやく光が追いついてきた。


「……何だよ?」
 

 宗介が足を止めて振り返ると、光は形容しがたい複雑な表情を浮かべていた。おそらく、頭の中で様々な疑問が渦巻いているのだろう。


「ほ、本当にこれで帰るつもりなの?」
「当たり前だろ。もうここに用はねえよ」
 

 宗介が再び足を動かすと、光は慌ててついてきた。


「ま、待ってってば! 私には分からないことだらけだよ。乃恵ちゃんが凶巫で、美守ちゃんに呪いをかけていて、しかも佐々村家の血を引いていて、そ、それに宗介君は乃恵ちゃんに、あ、あんなことするし……もう何がなんだか……」
「安心しろよ。俺の中では、今回の除霊はもう全部終わって――」
 

 正門が見えてきたところで、宗介は立ち止まる
 
 門の陰から一人の男――源一郎が出てきたからだ。


「除霊は……終わったのかね?」
 

 源一郎は静かに尋ねてきた。


「ああ、呪いは解いた。だから、美守のことはもう心配いらない。しばらくすれば、元通りの元気な姿に戻る。でも……あんたがこうしてここで待っていたってことは……やっぱりあんたは知ってたんだな? 下山乃恵が自分の孫娘だってこと」
「え? ど、どういうこと?」
 

 また一つ疑問が増えたらしく、光は困惑した目を宗介に向けてきた。
 
 源一郎は少し間を置き、「……いかにも」と答える。
 
 いくら裕福だといっても、善意だけで他人の子を引き取るとは、やはり考えにくい。だが、源一郎が息子の大和から『乃恵が自分の孫であること』を聞いていた場合は事情が変わってくる。宗介が「下山乃恵は、ひょっとすると佐々村家と血が繋がっているのでは?」と考えた理由の一つだ。
 
 だが、実の孫娘といえど、立場上は妾の子。世間体もあり真実を明かすことはできなかった、といったところだろう。


「ということは……やはりあの子が呪いの原因だったということか。いや、あの子に罪はないな。全ては私の息子が起こした不祥事が原因。乃恵もまた被害者なのだろう」
「確かに元を辿れば、あんたの息子が原因だ。でも、こんな事になる前に、止めることはできたとも思うけどな。特に、事情に精通していたあんたなら、さ」
 

 宗介が少し皮肉っぽく言うと、源一郎は渋い顔を見せた。


「私も苦しかったのだ。乃恵は私の孫娘。だが、その事実を知ったところで、猛も涼子も美守も誰も幸せにはならん」
「俺は別にあんたを咎めるつもりなんてないさ。あんたは息子の頼みを聞き入れて、乃恵を引き取っただけ。でもな……今この家の中で、純粋にあの子を愛してやれる人間はあんたしかいないと俺は思うぜ」
 

 その言葉を聞いた源一郎の目が、大きく見開かれた。

 宗介は頭を掻きながら続ける。


「あの子は愛を知らないだけなんだ。誰かが一度でも彼女を抱きしめてやっていれば、きっと今回の呪いは起きなかった。どうせ老い先短い人生だろ? 愛を知らない哀れな孫娘に優しさを注いでやるのも悪くないんじゃないか?」
「私は……」
「これ以上は余計なお節介だな。こっから先は、あんたたち佐々村家の問題だ。じゃあ、俺たちはこれで行くよ。あっ、除霊料の支払いだけは忘れんなよ!」
 

 ビシっと人差し指を立ててから、宗介は無言で立ち尽くしている源一郎の横を通り抜ける。
 
 光も源一郎に深々と頭を下げ、宗介に続いた。
 
 正門を抜けたところで振り返ると、ちょうど源一郎が背を向けて屋敷の方へと戻っていく。
 
 だが、彼の足は玄関ではなく、乃恵のいる離れへと向かっていた。
 
 その後ろ姿を見て、宗介は今回の除霊が本当に完了したことを確信する。



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