再び大地(フィールド)に立つために 〜中学二年、病との闘いを〜

長岡更紗

文字の大きさ
13 / 92

13.白血病仲間

しおりを挟む
 リナの移植は無事終了したようだった。
 移植後は部屋から出てはいけないらしく、俺はリナに会っていない。病室に入って良いのは母親だけで、提供した拓真兄ちゃんすらも入れて貰えずに病室の外から中を覗いていた。扉には縦に長い小窓みたいなものが付いてるけど、目の前にはアイソレーターっていう大きな空調設備があって中は見えない。
 清潔室の中にさらにこの機械を置く事で、準無菌室状態にしているんだそうだ。つまりリナは回復するまでそこで過ごさなきゃならない。室内はある程度自由に動けるみたいだけど、今までみたいに清潔区域だからってその辺を歩けなくなった。

「うぉ~い、リーナー」

 拓真兄ちゃんがリナの病室の前で怪しげな声を出している。「お兄ちゃんだ!」と声がして、病室の小窓からリナが顔を覗かせる。

「お兄ちゃん!!」
「大丈夫か、リナ。どっか気持ち悪いところないか?」
「うん、大丈夫だよ! お兄ちゃんが骨髄くれたんだから、絶対元気になるもん!」
「おう、でも無理するなよ。ほれ、ベッドに戻れ」
「えー、もう~?」
「ほら早く行けって」
「はぁ~い……」

 拓真兄ちゃんはリナの顔を見て満足したみたいに振り向いた。
 病室から顔を出して覗いていた俺と目が会う。

「おう、ハヤト」
「拓真兄ちゃん、退院?」
「ああ。明日っから学校だ」
「ドナーって、大変だった?」
「そうだなぁ。事前に採血したり検査したりが面倒だし、三泊四日の入院だしな。全身麻酔なんて初めてしたよ。あれ、ストーンって意識なくなるんだな」
「痛みとかはないの?」
「うーん、終わった後しばらくはちょっと痛かったけど、言う程酷くはないな。やっぱ絶飲食と、しばらく動いちゃ駄目って言われた事の方がキツかった」
「そっか」
「あとはあれだな、風邪とか引かないようにすんのは気ぃつかった。リナが放射線治療とかの前処置も頑張ってここまで来れたのに、肝心のドナーが体調不良で骨髄液取れないとか、シャレにならねーからな。とりあえず肩の荷が下りたよ、ホントに」

 拓真兄ちゃんは本当にホッと息を吐いて安堵している。リナにとってはここからが闘いだけどな。本当に上手く行って欲しいと心から願う。



 リナが骨髄移植をして数日後、二人の男の子が立て続けに入院して来た。
 プレイルームで勉強していると、保育士の志保美先生が応対している。

「お母さん達、ここに入った時はそこで先に手を洗って下さいね。まもるくんと祐介ゆうすけくんは手を出して。消毒するね~」

 二人の母親が俺の前を通り過ぎようとしたので、俺は「こんにちは!」と大きな声で挨拶をした。すると守と呼ばれた方のお母さんは驚いたように「こんにちは」と言い、祐介と呼ばれた子の母親はニッコリと笑って会釈してくれた。
 守と祐介は、香苗やリナよりももう少し小さい。俺は勉強していた教科書を閉じて、守と祐介の方に行った。

「あ、ハヤトくん。この子達ね、入院したばかりの斎藤守くんと木下祐介くん。仲良くしてあげてね~」
「俺は颯斗、よろしくな。守と祐介は何歳だ?」
「ぼくは四歳! もうちょっとで五歳になる~」
「ユウくんもよんさい~」
「あら、同い年ですか?」

 手を洗い終えた二人の母親が顔を見合わせている。

「祐介は早生まれで、来年の二月の誕生日で五歳なんですよ」
「あ、じゃあうちの守と同じ学年です~っ」

 木下さんと斎藤さんは、子供が同学年というだけでキャッキャと楽しそうだ。

「なんか、私たちも年が近そうな感じですね~。木下さん、おいくつですか? 私は三十二歳ですけど」
「ええっ! 私もですっ」
「やっぱり! 近いと思ったんですよね~! ちなみにうちの主人は五歳年上なんですが」
「う、うちも主人は五つ年上ですっ」
「本当ですか!? まさかもう一人、二歳の男の子が居たりしませんよね?」
「い、居ます、二歳の息子が……」

 うわ、すごい被ってんな。本当の話?
 斎藤さんと木下さんは驚きでポカンとなっている。

「失礼でなければ……祐介君の病気、急性リンパ性白血病じゃないですよ、ね……?」
「そうです! まさか、守君の病気も同じなんですか!?」
「同じですよ~っ」

 うわー、すっごい偶然。こんな事ってあるんだなぁ。
 家族全員同い年、更に同じ病気を同じタイミングで発症して、同じ時期に入院してくるとか……
 なんか神様が面倒臭くって人の人生をコピペしたみたいな、そんな感じを受けてしまう。
 にしても、二人とも白血病かぁ。意外に白血病患者って多いんだな。県内の白血病患者の殆どがこの病院に来てるから、そう思うだけかもしれないけど。

「守も祐介も、俺と同じ白血病だな。長い闘いになるけど、頑張ろうなっ」

 そう言うと、守と祐介は「うんっ!」と返事をした。多分よく分かっていなさそうだけど。

「あら、あなたも……」
「颯斗です」
「ハヤトくんも、白血病なの?」
「急性骨髄性の方だけど」
「じゃあ皆、白血病と闘う仲間だね」

 長くて黒いストレートの髪の持ち主、木下さんが微笑む。

「絶対に元気に退院しよう~っ」

 茶色くゆるいウェーブのかかった、やっぱり髪の長い斎藤さんがニーッと笑う。

 二人とも入ってきた時は不安そうだったけど、仲間が居ると思うと力強さを感じたんだろう。俺も同じだ。
 守と祐介、それに俺。
 絶対に病気に打ち勝って退院してやる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

医者兄と病院脱出の妹(フリー台本)

ライト文芸
生まれて初めて大病を患い入院中の妹 退院が決まり、試しの外出と称して病院を抜け出し友達と脱走 行きたかったカフェへ それが、主治医の兄に見つかり、その後体調急変

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

処理中です...