3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部編

ララの罪と謝罪

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 体調は一晩寝たら治った。ガビーちゃんに心配されながら一緒に朝食を食べて、部屋を出る。教室では昨日の事を知ったリジーちゃんイザベラ嬢達に心配されていろいろとお世話をされてしまった。

「キャシーちゃん、お客様なんだけど」

 ランチの時間にクラスメイトに呼ばれた。今日はお義兄様達とは約束してないんだけどな?

 教室の入口にはサミュエル先生が立っていた。

「サミュエル先生?」

「キャシーちゃん、ちょっといいかな?」

「はい」

 サミュエル先生の後を付いていく。教員棟の廊下を慣れたように進むサミュエル先生は一言も話さなかった。奥まった一室の鍵を開けて、先に入るように仕草で促す。ちょっと危険かなと思ったけど、サミュエル先生を信頼して中に入った。

「さてと、キャシーちゃん。体調不良で倒れたって聞いたけど?」

 紅茶とお茶菓子を出しながら、サミュエル先生が聞く。

「ダニエル様から連絡が行ったんですよね?」

「まぁね。でもさ、直接知りたいんだよ。あぁ、原因となった出来事は言わなくていいから」

「ララ・ノックス様からの呼び出しがあったんです」

「ん?呼び出し?」

「その前に、お義兄様達とランチを食べていると乱入してきて、私を睨んだりしてて、それで授業外交流の時間にララ様がどんな方なのか聞いたんです」

「情報収集したんだ」

「そうしたら去年までは王子殿下達も追いかけてたって聞いて、先輩方のご友人が『アクヤクレイジョウ』とか『コウリャクタイショウ』とか言っているのを聞いたって教えてくださって。呼び出されたからお義兄様達に連絡して、見守ってもらう事にしたんです」

「見守りって事は隠れてた?」

「実際には私とララ様の後ろに居たみたいです。それでララ様も転生者だって聞き出して、そうしたら前世の死因の話に、なって……」

「あぁ、あぁ。もう良いよ。話さなくていいから。ランチ、ここで食べていきなさい」

「酷い顔色ですか?」

「血の気ってこんなに引くんだって感じだからね」

 ランチをダニエル様が持ってきてくれた。食べやすいようにランチボックスに入れてくれてある。

「お嬢ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫です」

 自分では分からないけど、顔色は相当悪いらしい。サミュエル先生やお義父様達によると「自分の最期の瞬間を思い出して、平気な人間は居ない」という事になる。

 ランチを食べ終えて、サミュエル先生が再び話し始める。

「キャシーちゃんとララ嬢だっけ?その2人の光魔法は私が見るからね」

「先生が?」

「それと同時にララ嬢の聴取だね。ララ嬢がどの程度まで光魔法を使いこなせているか分からないから、その確認からになるね」

わたくしの光魔法を見本に、という感じでしょうか?」

「そうなるかな?」

「亡くなった時高校生だったと言っておられましたから、少し不安ですが、イメージ力はわたくしよりも上だと思います」

「どうしてそう思うの?」

「小説やマンガ、アニメやゲームが好きと言った印象でしたから」

「小説は物語だよね?マンガ?アニメ?ゲームは遊戯だよね?」

「マンガは小説を絵で表した物です。アニメはマンガの絵が動いている感じですね」

 非常にざっくりした説明だけど、分かってくれたかな?

 少し休んで教室に戻ると、クラスメイト達に心配された。サミュエル先生がどんな人物か分からなくて、お義兄様達にも連絡が行ったらしい。ダニエル様が説明してくれたから部屋に来る事は無かったけど、当然のようにその日の授業後に、教室にローレンスお義兄様が来てくれた。

「キャシー、大丈夫かい?」

「お義兄様」

「サミュエル様がいらっしゃったらしいね」

「魔法の先生になってくださるようです」

「わざわざ?仕方がないか」

 学院のサロンに移動しながら、お義兄様と話をする。ララ様と一緒の光魔法の授業には少し難色を示されたけど、最終的には納得してくれた。でもね、その条件がお膝抱っこってダメだと思う。

「お義兄様、この距離は兄妹の距離ではありませんわ?」

「キャシー、それは今は関係無いんだよ」

「関係ありますって。それにお義父様にも何か言われておりましたでしょう?」

「キャシーは私の事は嫌い?」

「嫌いではありませんけれど、わたくし達は義理とはいえ兄妹ですわよ?」

「そうだね。兄妹だ。そんな縛りは要らなかったよね」

「よね?って言われましても」

 お義父様が私を養女にしたのは、私を守る為だ。元の家族からもだけど、変わった子供扱いをされていたから、あの周辺の住人からという思惑もあったと思う。特に乳母が亡くなったのは私の所為せいにされてしまっていたし、あそこに居ても良い事は無かっただろう。

「兄貴、いい加減にしたら?」

 ランベルトお義兄様がサロンに入ってきて、お膝抱っこされている私を見て、呆れた声をあげた。私も必死に抵抗してるんですよ?力で敵わないけど。

 ランベルトお義兄様に続いて入ってきたのは、ララ様と3人の先輩方。

「ローレンス様、妹様にそのように、その……」

「妹様が困っていらっしゃいますわ」

 先輩方に言われてローレンスお義兄様がしぶしぶ私を解放してくれた。でも手はしっかりと握られている。

「ララ・ノックス、なぜここに連れてこられたか分かるかな?」

「えっと、ご迷惑をかけてしまいましたから、その……」

 この状況でララ様の糾弾を始めるの?先輩方の目が繋がれた手を見ているんですけど。そんな視線の中で1人掛けのソファーに座って長い足を組んでいるローレンスお義兄様。格好良いとは思うけど、いろいろとツッコミどころが……。

「そちらの事情は聞いた。王家から事情を聴かれると思うが、その前にする事はしておかないとね」

「謝罪ですか?」

 私が口を挟むと、お義兄様が私を見た。

「それもあるけど、風紀を乱す言動が多すぎる。生徒会執行部としては見過ごせないほどにね。会長からその対処を任されたんだよ」

「先輩方は生徒会の?」

「ララ・ノックスに対しての抗議を寄せた生徒達。事情を説明して来てもらった」

わたくしがここにいる必要性は?」

「キャシーにも関係してくるからね」

わたくしにも?」

 光魔法の事か、転生者関連の事か。

「ララ様、わたくしに仰いましたわよね?自分は特別だから逆らえばどうなるかと。細々とした嫌がらせはこの際飲み込みますわ。それでもこの前奪われたのはお祖母様の形見でしたの。返してくださいませ」

「この前って、この手鏡?ごめんなさい」

わたくしは万年筆を、分不相応だと言われましたわね」

わたくしはハンカチを。自分で刺繍したものですから、欲しいのでしたら差し上げましたのに」

「それにさぁ、そのブローチ、家の家門の男爵家令嬢から奪った物だよね?お母上が母上からもらった物だって真っ青になってたんだよね」

 ララ様って……。

「だってこれは……」

「盗みは元の世界では犯罪じゃなかったのかい?」

「犯罪です。窃盗罪ですね」

 問い掛けられた私が答えると、ララ様の真っ青な顔がこちらを向いた。

「せっとう……」

「お義兄様、この場におられる方々は、わたくしの事を知っているという認識で良いのでしょうか?」

「そうだね。全員知っているし理解してくれている」

「分かりました。ララ様、わたくしはこの世界では貴女よりも年下です。しかしながら前世の世界ではわたくしの方が年上でした。その事を踏まえてご忠告申し上げます。窃盗はどの世界でも犯罪です。強引に自分の物にして、良かった事は無いのではないですか?」

「はい……」

「もしかしてラッキーアイテムとかでした?」

「……はい。手鏡はローレンス様から返していただく事によって、友人が無くした物を探し出したと、優しいと思ってもらえ……て……」

「その時点で矛盾が生じてますわよね?」

「はい。冷静になった今なら分かります。盗んだ物が力を貸してくれる訳がないです」

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