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学院初等部編
防疫体制準備
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記憶のすり合わせを終え、そこから起こるかもしれない事柄を推測していく。
「インフルエンザは流行るかもしれないって事?」
「貧民街では毎年のように発生しているようです。インフルエンザとは考えられてませんけど。酷い風邪で亡くなったという認識ですね。凍死者も含めて何百人と亡くなっています。貴族もインフルエンザを疑う症状で何人も亡くなっています」
「キャシーちゃん、淡々としているわね」
「だから殺されかけて捨てられたんですよ」
「え?」
「生まれてすぐ、たぶん2歳位には記憶が甦ってて、その前から極端に泣かなかったり、喜怒哀楽を出さなくて、人を見つめてたり、たぶん不気味だったんでしょうね。優しくしてくれたのは乳母だけでした。乳母も亡くなりましたけど」
「キャシーちゃんって……」
「毒味をしてくれた乳母が目の前で亡くなって、それを私の所為にされて、雪の日に追い出されました」
「雪の日に?」
「教会にたどり着いて、お義父様に保護されて王都に連れてきてもらいました。肺炎を起こしていたみたいです。なんとか回復してお義父様と話し合って、養女になりました」
「待って待って。それは何歳の時?」
「3歳です。5年前ですね」
「雪の日、教会、高位貴族との出会い……。キャシーちゃんが主人公って事?」
「誰だってその人の人生の主人公ですよ。たまたまキーワードが合っただけです」
「でも、それにしたって……」
「必要なのはブレシングアクアの配布ですね」
「……話が飛んだわね」
「これから起こるかもしれないインフルエンザの流行に備えて、ブレシングアクアの量産と、予防法の周知は絶対的に必要です」
「うん、分かってる。でもさ、それを発案したのがキャシーちゃんだって知られたら、いろいろと……」
「王家は前世の記憶を持つから私に固執してます。それなら王家に恩を売れば良いんです」
「あぁ、うん。そうだけど」
「ブレシングアクアは効果の違いはあれど、光魔法で作れます。予防法の周知は王家にやらせれば良いのです」
「予防法って、手洗いうがいマスク?」
「そうですね。それが基本です。手洗いの正しい方法の周知も必要ですね」
「それは大人を交えた方が良いんじゃ?」
「はい。お義父様に丸投げします」
「今さらだけど、キャシーちゃんのお義父様って?」
「宰相の役職を戴いているようです」
「宰相」
「君主の命を受けて宮廷で国政を補佐する者が宰相です。この国には宰相職が5人、その内の3番目だそうです」
「よく分かんないけど、権力者って事よね?」
「権力は有るでしょうけど、それに溺れない冷静さと、君主が間違っていると感じた時に諌める正義感、多少の清濁は合わせ飲める柔軟さが必要です」
「キャシーちゃん、本当に8歳よね?」
「本当に8歳ですよ。見えませんか?」
「外見は可愛くてフワフワでお砂糖で出来たお菓子みたいなのに、中身は切れ味鋭いったら。お義兄様方が溺愛するのも分かる気がするわ。ローレンス様のは行きすぎている気がするけど」
「ですよねぇ」
「ん?キャシーちゃんって前世含め、恋愛経験は?」
「ほぼ0です」
「なるほど」
「なんですか?その可哀想な子を見る目」
「そっちは私の方が経験豊富だな、って」
「勉学を疎かにして恋愛にうつつを抜かしてましたもんね」
「キャシーちゃん、もうちょっとオブラートに包んで?」
「現実を見ましょう。課題はどこまで進みました?」
「半分」
「おぉ!!」
「の半分の半分位……」
「……これから頑張りましょうね」
「キャシーちゃんは?」
「半分は終わらせましたよ」
すり合わせは終わったから、話をしながらドアを開ける。
「盗み聞きですか?ローレンスお義兄様、ランベルトお義兄様、サミュエル先生」
ドアを開けると、お義兄様達が中腰になっていた。
「キャシー、なんともないかい?」
「ありません」
「キャシーちゃん、何かする事は?」
「サミュエル先生、頼みたい事があります」
「インフルエンザって何?」
「やっぱり盗み聞きですか。お話しします。頼みたい事もありますし」
私の部屋に全員入れる訳にいかないので、サロンへ移動する。途中でお義母様に会った。
「あら?どうしたの?キャシーちゃん」
「お義母様も聞いていただけますか?」
インフルエンザの流行の恐れについて話すと、全員が考え込んだ。
「対応策は必要だと思うね。王家に話してみるよ」
「そうね。旦那様にお話ししないとね」
「キャシー、私達に出来る事は?」
「今の話をお義兄様達のご学友に広めてもらえますか?」
「キャシーちっ……様、流行って冬じゃなかったの……ですか?」
「インフルエンザは夏でも流行る時があります。冬は空気の乾燥と夏ほど水分をとらないなどの理由から、流行りやすい傾向にはありますけど」
「それと、ブレシングアクアだけど、内臓疾患に効くのは今のところキャシーちゃんのだけだからね」
「分かってます」
「それって私が水魔法を覚えれば良いのかしら?」
「覚えられるかどうかだね。魔法属性は決まってて、それ以外は覚えられない物だから」
魔法は未知だ。どういう仕組みか分からないし、解き明かされてもいない。ただ、魔法の練習を始めた時、明確なイメージを持てと何度も言われた。
「イメージ、魔法はイメージ……」
「ん?」
「ララ様、火の付く原理は?」
「原理ったって……。えっと、摩擦熱?」
「可燃物と酸素の結合による反応です。物質と酸素が結びつく事を酸化と言いますが、この酸化反応がある条件で起こる時に熱と光を発します。この時私達が感じる光と熱の正体が火・炎と呼ばれるものです。摩擦熱はその一歩手前ですね」
「科学の授業になってきちゃった」
「私とララ様はその現象の仕組みを、何となくでも理解出来ています」
「ちょっと待ってくれるかな?キャシーちゃん。つまりその仕組みを理解出来れば、あるいは、って事かな?」
「はい」
「考えたことがなかったな」
「転生者独自の考えじゃないでしょうか」
「たぶんキャシーちゃんの頭が良いからだよぉ」
力なくララ様が呟く。
「その件はひとまず置いておこうか。インフル……とやらが流行るのは間違いないの?」
「分かりません。ララ様の記憶にある世界とは違ってきていますし。どっちにしても対策はしておいた方が良いです」
その日の夜、帰ってきたお義父様に話をする。
「確かに重要な事だ。貧困層は今のところ拡大の気配はないが、王宮としても頭を悩ませている」
「私には仕事の斡旋位しか思い付きませんが」
「それを考えるのは大人の役目だ。前世の記憶があるとはいえ、キャスリーンはまだ8歳なんだ。ゆっくり大人になっていいんだよ」
「はい。ありがとうございます」
「必要な物を纏めておきなさい」
「分かりました」
お義父様との話し合いを終えて執務室を出ると、ローレンスお義兄様が居た。
「お義兄様、お義父様にご用ですか?」
「キャシーを待っていた。部屋まで送るよ」
「屋敷内ですのに。でもありがとうございます」
お義兄様に手を繋がれて、部屋に戻る。
「私にはキャシーの言っていた事の理解は、全て出来ているとは思わないけど、それでも大切なんだろう事は分かる。私に出来る事なら何でもするからね」
「ありがとうございます。その時はお願いします」
部屋に着くと、ぎゅっと抱き締められた。
「おやすみ、愛しいキャシー」
「おやすみなさいませ、お義兄様」
頬にキスをしてお義兄様は戻っていった。
「キャスリーンお嬢様、いつものハーブティーでございます」
「ありがとう、フラン」
ハーブティーを飲んで、その夜は就寝した。
「インフルエンザは流行るかもしれないって事?」
「貧民街では毎年のように発生しているようです。インフルエンザとは考えられてませんけど。酷い風邪で亡くなったという認識ですね。凍死者も含めて何百人と亡くなっています。貴族もインフルエンザを疑う症状で何人も亡くなっています」
「キャシーちゃん、淡々としているわね」
「だから殺されかけて捨てられたんですよ」
「え?」
「生まれてすぐ、たぶん2歳位には記憶が甦ってて、その前から極端に泣かなかったり、喜怒哀楽を出さなくて、人を見つめてたり、たぶん不気味だったんでしょうね。優しくしてくれたのは乳母だけでした。乳母も亡くなりましたけど」
「キャシーちゃんって……」
「毒味をしてくれた乳母が目の前で亡くなって、それを私の所為にされて、雪の日に追い出されました」
「雪の日に?」
「教会にたどり着いて、お義父様に保護されて王都に連れてきてもらいました。肺炎を起こしていたみたいです。なんとか回復してお義父様と話し合って、養女になりました」
「待って待って。それは何歳の時?」
「3歳です。5年前ですね」
「雪の日、教会、高位貴族との出会い……。キャシーちゃんが主人公って事?」
「誰だってその人の人生の主人公ですよ。たまたまキーワードが合っただけです」
「でも、それにしたって……」
「必要なのはブレシングアクアの配布ですね」
「……話が飛んだわね」
「これから起こるかもしれないインフルエンザの流行に備えて、ブレシングアクアの量産と、予防法の周知は絶対的に必要です」
「うん、分かってる。でもさ、それを発案したのがキャシーちゃんだって知られたら、いろいろと……」
「王家は前世の記憶を持つから私に固執してます。それなら王家に恩を売れば良いんです」
「あぁ、うん。そうだけど」
「ブレシングアクアは効果の違いはあれど、光魔法で作れます。予防法の周知は王家にやらせれば良いのです」
「予防法って、手洗いうがいマスク?」
「そうですね。それが基本です。手洗いの正しい方法の周知も必要ですね」
「それは大人を交えた方が良いんじゃ?」
「はい。お義父様に丸投げします」
「今さらだけど、キャシーちゃんのお義父様って?」
「宰相の役職を戴いているようです」
「宰相」
「君主の命を受けて宮廷で国政を補佐する者が宰相です。この国には宰相職が5人、その内の3番目だそうです」
「よく分かんないけど、権力者って事よね?」
「権力は有るでしょうけど、それに溺れない冷静さと、君主が間違っていると感じた時に諌める正義感、多少の清濁は合わせ飲める柔軟さが必要です」
「キャシーちゃん、本当に8歳よね?」
「本当に8歳ですよ。見えませんか?」
「外見は可愛くてフワフワでお砂糖で出来たお菓子みたいなのに、中身は切れ味鋭いったら。お義兄様方が溺愛するのも分かる気がするわ。ローレンス様のは行きすぎている気がするけど」
「ですよねぇ」
「ん?キャシーちゃんって前世含め、恋愛経験は?」
「ほぼ0です」
「なるほど」
「なんですか?その可哀想な子を見る目」
「そっちは私の方が経験豊富だな、って」
「勉学を疎かにして恋愛にうつつを抜かしてましたもんね」
「キャシーちゃん、もうちょっとオブラートに包んで?」
「現実を見ましょう。課題はどこまで進みました?」
「半分」
「おぉ!!」
「の半分の半分位……」
「……これから頑張りましょうね」
「キャシーちゃんは?」
「半分は終わらせましたよ」
すり合わせは終わったから、話をしながらドアを開ける。
「盗み聞きですか?ローレンスお義兄様、ランベルトお義兄様、サミュエル先生」
ドアを開けると、お義兄様達が中腰になっていた。
「キャシー、なんともないかい?」
「ありません」
「キャシーちゃん、何かする事は?」
「サミュエル先生、頼みたい事があります」
「インフルエンザって何?」
「やっぱり盗み聞きですか。お話しします。頼みたい事もありますし」
私の部屋に全員入れる訳にいかないので、サロンへ移動する。途中でお義母様に会った。
「あら?どうしたの?キャシーちゃん」
「お義母様も聞いていただけますか?」
インフルエンザの流行の恐れについて話すと、全員が考え込んだ。
「対応策は必要だと思うね。王家に話してみるよ」
「そうね。旦那様にお話ししないとね」
「キャシー、私達に出来る事は?」
「今の話をお義兄様達のご学友に広めてもらえますか?」
「キャシーちっ……様、流行って冬じゃなかったの……ですか?」
「インフルエンザは夏でも流行る時があります。冬は空気の乾燥と夏ほど水分をとらないなどの理由から、流行りやすい傾向にはありますけど」
「それと、ブレシングアクアだけど、内臓疾患に効くのは今のところキャシーちゃんのだけだからね」
「分かってます」
「それって私が水魔法を覚えれば良いのかしら?」
「覚えられるかどうかだね。魔法属性は決まってて、それ以外は覚えられない物だから」
魔法は未知だ。どういう仕組みか分からないし、解き明かされてもいない。ただ、魔法の練習を始めた時、明確なイメージを持てと何度も言われた。
「イメージ、魔法はイメージ……」
「ん?」
「ララ様、火の付く原理は?」
「原理ったって……。えっと、摩擦熱?」
「可燃物と酸素の結合による反応です。物質と酸素が結びつく事を酸化と言いますが、この酸化反応がある条件で起こる時に熱と光を発します。この時私達が感じる光と熱の正体が火・炎と呼ばれるものです。摩擦熱はその一歩手前ですね」
「科学の授業になってきちゃった」
「私とララ様はその現象の仕組みを、何となくでも理解出来ています」
「ちょっと待ってくれるかな?キャシーちゃん。つまりその仕組みを理解出来れば、あるいは、って事かな?」
「はい」
「考えたことがなかったな」
「転生者独自の考えじゃないでしょうか」
「たぶんキャシーちゃんの頭が良いからだよぉ」
力なくララ様が呟く。
「その件はひとまず置いておこうか。インフル……とやらが流行るのは間違いないの?」
「分かりません。ララ様の記憶にある世界とは違ってきていますし。どっちにしても対策はしておいた方が良いです」
その日の夜、帰ってきたお義父様に話をする。
「確かに重要な事だ。貧困層は今のところ拡大の気配はないが、王宮としても頭を悩ませている」
「私には仕事の斡旋位しか思い付きませんが」
「それを考えるのは大人の役目だ。前世の記憶があるとはいえ、キャスリーンはまだ8歳なんだ。ゆっくり大人になっていいんだよ」
「はい。ありがとうございます」
「必要な物を纏めておきなさい」
「分かりました」
お義父様との話し合いを終えて執務室を出ると、ローレンスお義兄様が居た。
「お義兄様、お義父様にご用ですか?」
「キャシーを待っていた。部屋まで送るよ」
「屋敷内ですのに。でもありがとうございます」
お義兄様に手を繋がれて、部屋に戻る。
「私にはキャシーの言っていた事の理解は、全て出来ているとは思わないけど、それでも大切なんだろう事は分かる。私に出来る事なら何でもするからね」
「ありがとうございます。その時はお願いします」
部屋に着くと、ぎゅっと抱き締められた。
「おやすみ、愛しいキャシー」
「おやすみなさいませ、お義兄様」
頬にキスをしてお義兄様は戻っていった。
「キャスリーンお嬢様、いつものハーブティーでございます」
「ありがとう、フラン」
ハーブティーを飲んで、その夜は就寝した。
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