3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部編

救民院見学

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 ララ様のご両親との話し合いはすんなりとはいかなかったらしい。それでもなんとか魔法属性の再検査をもぎ取ったサミュエル先生が、ララ様と私を教会に連れていってくれた。

「それじゃあ頼んだよ」

「かしこまりました」

 ララ様とサミュエル先生が聖堂に入っていく。お義父様は神殿長様とお話があるらしい。私は当然のように付いてきてくれたローレンスお義兄様と救民院の見学に行く事にした。案内してくれるのは救民院担当の神官であるガラハッド様。光魔法使いで医師の資格も持っているらしい。

「フェルナー侯爵様にはお世話になっております」

「お世話になります。勉強させてください」

「お嬢様は光魔法の使い手と伺っております。なんなりとご質問ください」

 ガラハッド様は軽症者の部屋から案内してくれた。20人程が長椅子に座って順番を待っている。貧困層の住民が主なようで、汚れた格好をしている。中にはつぎはぎだらけで何年前から着ているのか分からないような服の人もいた。

「おねえちゃんのおようふく、きれい」

 不意にスカートが引っ張られた。3歳位の女の子が私のスカートを握っている。母親らしき女性がペコペコと謝った。

「すみません、すみません」

「いいえ。大丈夫ですよ。お嬢さんはおいくつですか?」

 土下座をしそうな勢いの女性を立ち上がらせる。清潔は保たれてないようで手がベトついた。

「お嬢様、そのような……」

「少し話をさせていただけますか?」

 ガラハッド様が何かを言いかけたけど、話をさせてほしいと頼んだ。ローレンスお義兄様は渋い顔をしたけど、反対はしなかった。

「お話を伺っても良いですか」

「はっ、はいっ」

「今日は救民院にはどのような症状で?」

「この子が熱湯を浴びてしまいまして」

 見ると女の子の左腕が真っ赤になっていた。

「お義兄様、水を出してください。この子の腕を冷やさないと」

「水を?」

 水疱すいほうは出来ているけど皮膚は白色になっていないから、浅達Ⅱ度熱傷せんたつにどねっしょうだと思う。

「水をどうすれば?」

「女の子の腕に纏わせてください。冷やしたいんです」

 本当は流水の方がいいんだけど、水浸しになる可能性がある。お義兄様が魔法で水を女の子の腕に纏わせてくれた。

「熱湯って、どうして?」

 答えてくれなくなった。

「お貴族様には分からないんだろうけどね、追い払われたのさ」

 一緒に座っていたおじさんが言う。その一言に察する事が出来た。

「ガラハッド様、治癒をかけても?」

「お嬢様にそんな事を……」

「お願いします」

「妹の言う通りに。責任は問わない」

 お義兄様が口添えしてくれて、救民院担当の医師の許可も取り、状態をメモしながら治療していく。女の子だけという訳にいかないから、その場に居た患者を次々と治療していった。

「お嬢様、その……」

「はい」

「この奥には、その……」

「重症者ですか?」

 向かおうとすると、お義兄様に引き留められた。

「キャシー、その奥は見ない方がいい」

「大丈夫です。状況の把握をさせてください」

「しかし……」

「私は元看護師です。酷い状態には慣れています」

 声を潜めて耳打ちする。最終的にお義兄様が折れてくれた。

 重症者部屋に入ると、膿の臭いが漂っていた。

「お嬢様にはキツい臭いでしょう」

「そうですね。でも、苦しんでいる人を前に、そんな事は言っていられません」

 ガラハッド様が黙ってしまった。

 奥には主に重病人が寝かされていた。この人達は私のブレシングアクア聖恵水の順番待ちだそうだ。その手前に居た重症の怪我人さん達も待っているらしい。さらにその奥は回復の見込み無しと判断された人達。私のブレシングアクア聖恵水の効果も少なかった人達らしい。最奥の部屋は清潔に保たれていて、寝ている人達も穏やかだった。

 重症者の部屋に戻り、医師の指示にしたがって治療する。

「キャシーちゃん、何やってるの?」

「サミュエル先生、何ってもちろん治療行為です」

「今日は見学だけだったよね?」

「この状態を見て、放っておけません」

 ララ様も手伝い始めた。

「仕方がないね。ガラハッド、いいよ。このお嬢様はこういうのを見過ごせない性格だから」

「すみません」

「思ってないよね?それって」

 サミュエル先生とガラハッド様も加わって、お医者様を含めた5人で治療する。サミュエル先生は30人、私は35人、ガラハッド様は25人で魔力切れの症状が出てきた。お医者様は50人で魔力切れを起こすそうだ。

 ただ、ララ様に聞いていた通り少し休むと回復する。全回復には人によって違いがあり、私は30分以上かかった。

「お疲れだったね」

「お疲れさまでした」

 軽症者も含め次々に訪れる300人以上を治療し、その日の見学兼体験は終わった。

「お嬢様がここまでされるとは思いませんでした」

 ガラハッド様に謝られた。貴族のお嬢様は見学すると言って来ても、1人2人の軽症者を見て逃げる人が多いそうだ。それはそうだろう。救民院に来る患者は貧困層の住民が多い。9割がそうだ。綺麗な物に囲まれ、絹とレースの世界に生きてきたお嬢様方にとってみれば、全く逆の世界。私は前世の記憶からこういった世界がある事を知っていたし、あらかじめ覚悟も出来ていたから治療出来ただけだ。

「それでどうだったんですか?」

 教会から帰る途中の馬車の中で聞いてみた。今日はララ様の魔法属性の再検査が主な目的だったから。

「水魔法が出現していたよ。後は火魔法が使えるかもしれない」

「使えるかもしれない?」

「神父によると、チラチラと出現したり隠れたりの状態だそうだ。この先の努力次第だろうという結論になった」

「ララ様、頑張りましょうね」

「水魔法は頑張るわ。キャシーちゃんの負担を減らしたいし。でもそれ以上って難しい気がする」

「やっぱり原理を知っているか否かなのでしょうか?」

「他の『テンセイシャ』がどうかによるね。侯爵殿が調整中だから、もう少し待とうか」

「はい」

 侯爵邸に帰ると、先に浴室に案内された。一応全員に浄化はかけたけど、なんとなくこのままでお義母様達に会うのは憚られたから。出発する前に頼んでおいた。

 ララ様と一緒に大きな湯船に浸かる。

「あぁぁぁぁ。気持ちいいわぁ」

 ララ様が淑女らしくない大声で唸った。

「ララ様、お気持ちは分かりますけれど、もう少しお気をつけくださいませ」

「分かってる。ごめんね」

 髪の毛を洗ってもらい、軽いマッサージを受ける。ララ様が「ひゃあ」とか「うきゃっ」とか声を出すから、笑わないように浴室担当のメイドが必死で声を抑えていた。

 髪を乾かしてもらって、室内用のサマードレスに着替える。私はブルーのグラデーション、ララ様はミントグリーンのドレスを選んだ。

「キャシーちゃんもこういう色の方が良いんじゃない?」

「そうでしょうか?」

 この色はお義兄様達の瞳の色っぽくて好きなんだけど。

「あ、でもその色も良いかもね。キャシーちゃんってお砂糖菓子みたいだけど、そういう色も似合うわぁ」

 ララ様の言葉に少し安心する。

 髪を緩く結ってもらって、サロンに行くと、サッとローレンスお義兄様が立ってきてエスコートしてくれた。ララ様はそれを見て笑って、サミュエル先生のエスコートを断っていた。

「よく似合うよ」

「ありがとうございます」

「贈ったリボン、使ってくれたんだね」

「はい。この季節にはぴったりですし。ドレスにも合ってますから」

「嬉しいよ」

 お義兄様が蕩けるような笑顔を見せた。

 夕食の後で、お茶会の日程がお義母様から伝えられた。ガビーちゃんは領地に帰ってしまうらしく、夏期長期休暇の終わり頃になるそうだ。最初はイザベラ様達が来てくださる。子供だけのお茶会だから、形式張った物ではないとお茶会の場所もホワイエ娯楽室が選ばれた。

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