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学院初等部編
お茶会
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お茶会当日。朝からテーブルをセッティングしてお茶やお茶菓子の準備をする。子供だけのお茶会とはいえ、準備の指揮を執るのはお義母様。私はその横で将来の為にお茶会準備の勉強をしていた。
お茶会ひとつとっても、その目的でセッティングも変わる。淑女のお茶会と夫人達のお茶会では、準備に差が生まれるらしい。夫人達のお茶会は各地の最先端の情報や政治的な思惑も絡んでくるから、より気を使うんだって。未婚のご令嬢達ならこの先の婚姻でより強固な繋がりを持てるように、根回しが行われたりするらしい。
「キャシーちゃんはもう少し先だと思うけど、覚えておいて損はないわよ」
季節毎にも決まりがあったり、本当に大変。
今日は私だけが参加するお茶会で、ローレンスお義兄様が一緒にと言ってくださったんだけど、お義母様に笑顔で却下されていた。
通常のお茶会はお昼から。だけどこの日は学院の課題の勉強を一緒にという趣旨も織り込んでいたから、午前中にみんなが到着した。
「本日はお招きいただき、ありがとう存じます」
「ようこそお越しくださいました」
ちょっと気取って挨拶をする。子供だけのお茶会とはいえ、子供達だけで来る事はあり得ない。たいていは侍女が付いてくるし、母親も一緒にという事も珍しくはない。
集まった5人の内、母親が付いてきたのは3人。後から2人来て、全員集合するそうだ。お義母様達の名目は教会バザーに出す作品の作成。ほぼ出来上がっているから本当に名目だけだとお義母様は笑っていた。
お義母様達とは別に、私達も教会バザーに出す作品を持ち寄った。刺繍だけでなくレース編みも小物類もあって、庶民でも使いやすい品を心がけた。布は良いものだから、長く使ってもらえると思うし、レースが付いた物は富裕層向けだ。
私は先日の救民院の話をした。
「救民院って貧困層の為の施設ですわよね?」
「光魔法使いでないと行ってはいけないと思っていましたわ」
「私は恐ろしくて。キャシーちゃんはよく平気でしたわね」
「生半可な覚悟じゃいけない場所だと思いましたわ。だからこそ何とかしなければと思いましたけれど」
「ご協力させていただきたいわ」
「私も。出来る事はありませんの?」
「まだ具体的に決まっていませんの。ですから皆様にお願いがあるのです」
手洗いうがいの話をして、みんなに話を広めてもらうようお願いした。
「分かりましたわ。実践が大切ですのね」
「実践が大切」というのは学院の担任のミレィナ先生の口癖だ。覚えるだけではダメ、実践出来るようになさいと常日頃から口煩く言われている。
「バザーの作品はたくさんありますわね」
「買ってくださるかしら」
「そうだわ。バザーの日に教会に行きませんこと?お手伝いなら出来ますわ」
「良い考えですわ」
「お母様とお父様に相談してみます」
おほほほほ、なんて笑いあっていても、私達はまだ8歳。お嬢様ぶりっこに疲れてきた。
「ねぇ、お母様が居ない所では普通に話さない?」
「会話の訓練にはなるけどね」
「そういえば感情制御の訓練を始めるって、言われちゃった」
「まだだったの?」
リジーちゃんが聞く。リジーちゃんは侯爵令嬢だから、感情制御の訓練は早くから始まっている。私も同様だ。ブーランシュ先生が教えてくれた。
「感情制御の訓練って怖いんだけど」
「あら、楽しかったわよ?私は家庭教師の先生がいろんなお話をしてくださったわ。面白いお話とか怖いお話のご本を読んでくださったの。あからさまな感情を出さずに控えめに表情を作るのが、1番難しかったわ」
「私はお父様が、大道芸の方を呼んでくださいましたわ。あの方達、私を笑わせようとするんですもの。笑うなら上品に、と言われていたから大変だったわ」
「私、そんな訓練受けてないわ」
唯一の子爵令嬢、リリス様が言う。リリス様はシーケリア子爵様の長女で、努力家で勤勉だ。最初は私達が高位貴族だからと遠慮していたけど、次第に打ち解けてくれた。声をかけたのはリジーちゃん。成績は張り出されたりする事はないけれど、良い成績を取れば当然褒められる。リリス様が何度も褒められていて、興味を持ったらしい。
「感情制御の訓練は、外交時や貴族同士の駆け引きには必要だからって言われたわ。上位貴族には必須だからって事らしいから、リリス様は受けられてないのかしら?」
「お家の方針とか?」
分からない事は聞いた方が早いけど、誰に聞けば良いのか分からない。お義母様達は大人だけで情報交換をしているだろうし、邪魔は出来ない。どうしようかとみんなで考えていたら、昼食だとローレンスお義兄様が呼びに来てくれた。
「ローレンスお義兄様、お聞きしたい事がございます」
「なにかな?」
6人の8歳女児にぐいっと詰め寄られて、ちょっとタジタジとなっているローレンスお義兄様。
「感情制御の訓練って、上位貴族には必要だと言われますけれど、下位貴族には必要無いのでしょうか?」
「感情制御の訓練?必要無いって事はないと思うけど。淑女教育にも多少は含まれてるって聞いてるよ」
「そうなんですの?」
「聞いただけだよ。感情制御って言うけど無表情では意味がないし、感情を出しすぎるのも侮られたりするから。キャシーもやっていただろう?」
「私も?」
「感情を読ませないように相手を客観視したり、感情を抑える方法を考えたり。カードゲームやボードゲームはその手段のひとつだ。さらに発展させると感情制御の訓練になる」
「あのゲームってそんな目的があったの?」
「もちろんだよ。キャシーが気付いていないとは思わなかった」
さりげなく昼食場所に私達を誘導して、ローレンスお義兄様が部屋を出る。昼食は庭の見えるホワイエに用意されていた。
「素敵。お庭が見えるのね」
「噴水も見えて涼しげだわ」
はしゃぐ私達を嗜めて、お義母様達が席に着く。子供組と母親組に分かれて昼食が始まった。昼食はこの後のお茶会があるから、量は控えめ。あらかじめみんなに言ってあるし、控えめといっても色鮮やかな野菜を使った目に楽しい料理ばかりで、子供達にも好評だった。
少し休んで同じくホワイエに、お茶会のセッティングが終わったとメイドが呼びに来た。
「素敵。3段重ねなのね」
侯爵家のお茶会では、3段重ねのティースタンドを使っている。省スペースにもなるし、1人分が分かりやすいとお義母様達のお茶会でも好評だ。1段目には小さなサンドウィッチ、2段目にはスコーン、3段目にはケーキ。2段目はスコーンが冷めないように温熱プレートになっている。
お茶会ではリリス様の領、シーケリア領特産のアランチュアというオレンジによく似た果実を使ったケーキの話題になった。アランチュアの果実を皮ごと薄く切り甘く煮て、バラの花のように飾り付けてあった。
「こんなに綺麗なケーキになるなんて」
「このアランチュア、美味しいですわね」
「この紅茶もアランチュアの香りがしますわ」
「こちらの紅茶はシーケリア領から取り寄せましたの」
「まぁ!!」
おほほほほ、なんて再びお嬢様ぶりっこで話をする。その様子をお義母様達が少し離れて見ていた。
「キャシーちゃん、楽しめたかしら?」
お茶会が終わってみんなのお見送りも終わってから、お義母様に尋ねられた。
「はい。楽しかったです。勉強にもなりましたし」
「見てたけど、ちゃんとホステスの役割をこなせてたわね」
「本当ですか?」
「えぇ。立派でしたよ」
お義母様に褒められて、その日はルンルンしていたらしい。自分ではいつも通りだと思ったんだけどな。
お茶会ひとつとっても、その目的でセッティングも変わる。淑女のお茶会と夫人達のお茶会では、準備に差が生まれるらしい。夫人達のお茶会は各地の最先端の情報や政治的な思惑も絡んでくるから、より気を使うんだって。未婚のご令嬢達ならこの先の婚姻でより強固な繋がりを持てるように、根回しが行われたりするらしい。
「キャシーちゃんはもう少し先だと思うけど、覚えておいて損はないわよ」
季節毎にも決まりがあったり、本当に大変。
今日は私だけが参加するお茶会で、ローレンスお義兄様が一緒にと言ってくださったんだけど、お義母様に笑顔で却下されていた。
通常のお茶会はお昼から。だけどこの日は学院の課題の勉強を一緒にという趣旨も織り込んでいたから、午前中にみんなが到着した。
「本日はお招きいただき、ありがとう存じます」
「ようこそお越しくださいました」
ちょっと気取って挨拶をする。子供だけのお茶会とはいえ、子供達だけで来る事はあり得ない。たいていは侍女が付いてくるし、母親も一緒にという事も珍しくはない。
集まった5人の内、母親が付いてきたのは3人。後から2人来て、全員集合するそうだ。お義母様達の名目は教会バザーに出す作品の作成。ほぼ出来上がっているから本当に名目だけだとお義母様は笑っていた。
お義母様達とは別に、私達も教会バザーに出す作品を持ち寄った。刺繍だけでなくレース編みも小物類もあって、庶民でも使いやすい品を心がけた。布は良いものだから、長く使ってもらえると思うし、レースが付いた物は富裕層向けだ。
私は先日の救民院の話をした。
「救民院って貧困層の為の施設ですわよね?」
「光魔法使いでないと行ってはいけないと思っていましたわ」
「私は恐ろしくて。キャシーちゃんはよく平気でしたわね」
「生半可な覚悟じゃいけない場所だと思いましたわ。だからこそ何とかしなければと思いましたけれど」
「ご協力させていただきたいわ」
「私も。出来る事はありませんの?」
「まだ具体的に決まっていませんの。ですから皆様にお願いがあるのです」
手洗いうがいの話をして、みんなに話を広めてもらうようお願いした。
「分かりましたわ。実践が大切ですのね」
「実践が大切」というのは学院の担任のミレィナ先生の口癖だ。覚えるだけではダメ、実践出来るようになさいと常日頃から口煩く言われている。
「バザーの作品はたくさんありますわね」
「買ってくださるかしら」
「そうだわ。バザーの日に教会に行きませんこと?お手伝いなら出来ますわ」
「良い考えですわ」
「お母様とお父様に相談してみます」
おほほほほ、なんて笑いあっていても、私達はまだ8歳。お嬢様ぶりっこに疲れてきた。
「ねぇ、お母様が居ない所では普通に話さない?」
「会話の訓練にはなるけどね」
「そういえば感情制御の訓練を始めるって、言われちゃった」
「まだだったの?」
リジーちゃんが聞く。リジーちゃんは侯爵令嬢だから、感情制御の訓練は早くから始まっている。私も同様だ。ブーランシュ先生が教えてくれた。
「感情制御の訓練って怖いんだけど」
「あら、楽しかったわよ?私は家庭教師の先生がいろんなお話をしてくださったわ。面白いお話とか怖いお話のご本を読んでくださったの。あからさまな感情を出さずに控えめに表情を作るのが、1番難しかったわ」
「私はお父様が、大道芸の方を呼んでくださいましたわ。あの方達、私を笑わせようとするんですもの。笑うなら上品に、と言われていたから大変だったわ」
「私、そんな訓練受けてないわ」
唯一の子爵令嬢、リリス様が言う。リリス様はシーケリア子爵様の長女で、努力家で勤勉だ。最初は私達が高位貴族だからと遠慮していたけど、次第に打ち解けてくれた。声をかけたのはリジーちゃん。成績は張り出されたりする事はないけれど、良い成績を取れば当然褒められる。リリス様が何度も褒められていて、興味を持ったらしい。
「感情制御の訓練は、外交時や貴族同士の駆け引きには必要だからって言われたわ。上位貴族には必須だからって事らしいから、リリス様は受けられてないのかしら?」
「お家の方針とか?」
分からない事は聞いた方が早いけど、誰に聞けば良いのか分からない。お義母様達は大人だけで情報交換をしているだろうし、邪魔は出来ない。どうしようかとみんなで考えていたら、昼食だとローレンスお義兄様が呼びに来てくれた。
「ローレンスお義兄様、お聞きしたい事がございます」
「なにかな?」
6人の8歳女児にぐいっと詰め寄られて、ちょっとタジタジとなっているローレンスお義兄様。
「感情制御の訓練って、上位貴族には必要だと言われますけれど、下位貴族には必要無いのでしょうか?」
「感情制御の訓練?必要無いって事はないと思うけど。淑女教育にも多少は含まれてるって聞いてるよ」
「そうなんですの?」
「聞いただけだよ。感情制御って言うけど無表情では意味がないし、感情を出しすぎるのも侮られたりするから。キャシーもやっていただろう?」
「私も?」
「感情を読ませないように相手を客観視したり、感情を抑える方法を考えたり。カードゲームやボードゲームはその手段のひとつだ。さらに発展させると感情制御の訓練になる」
「あのゲームってそんな目的があったの?」
「もちろんだよ。キャシーが気付いていないとは思わなかった」
さりげなく昼食場所に私達を誘導して、ローレンスお義兄様が部屋を出る。昼食は庭の見えるホワイエに用意されていた。
「素敵。お庭が見えるのね」
「噴水も見えて涼しげだわ」
はしゃぐ私達を嗜めて、お義母様達が席に着く。子供組と母親組に分かれて昼食が始まった。昼食はこの後のお茶会があるから、量は控えめ。あらかじめみんなに言ってあるし、控えめといっても色鮮やかな野菜を使った目に楽しい料理ばかりで、子供達にも好評だった。
少し休んで同じくホワイエに、お茶会のセッティングが終わったとメイドが呼びに来た。
「素敵。3段重ねなのね」
侯爵家のお茶会では、3段重ねのティースタンドを使っている。省スペースにもなるし、1人分が分かりやすいとお義母様達のお茶会でも好評だ。1段目には小さなサンドウィッチ、2段目にはスコーン、3段目にはケーキ。2段目はスコーンが冷めないように温熱プレートになっている。
お茶会ではリリス様の領、シーケリア領特産のアランチュアというオレンジによく似た果実を使ったケーキの話題になった。アランチュアの果実を皮ごと薄く切り甘く煮て、バラの花のように飾り付けてあった。
「こんなに綺麗なケーキになるなんて」
「このアランチュア、美味しいですわね」
「この紅茶もアランチュアの香りがしますわ」
「こちらの紅茶はシーケリア領から取り寄せましたの」
「まぁ!!」
おほほほほ、なんて再びお嬢様ぶりっこで話をする。その様子をお義母様達が少し離れて見ていた。
「キャシーちゃん、楽しめたかしら?」
お茶会が終わってみんなのお見送りも終わってから、お義母様に尋ねられた。
「はい。楽しかったです。勉強にもなりましたし」
「見てたけど、ちゃんとホステスの役割をこなせてたわね」
「本当ですか?」
「えぇ。立派でしたよ」
お義母様に褒められて、その日はルンルンしていたらしい。自分ではいつも通りだと思ったんだけどな。
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