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【裏視点】

21、朗報

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 早朝から花を摘んでいたアルベティーナが、俺たちが二人で暮らす小屋に戻ってきた。

 まだ日は高くないので、扉を開けた彼女は扉を開けてすぐにあるダイニングに、爽やかな風をまとわせて入ってくる。

 編み込んだ金色の髪が、朝日を浴びて煌めいていた。出かけた時よりも、綺麗に髪が編んであるのは、パドマが編み直したのだろう。多分、見るに見かねて。

「ただいま。パンのいい匂いがするわ」
「そうだろ。焼き立てだ」

 意外に思われるだろうが、俺は炎熱を操る力で、島民のパンを焼いている。
 成形したパンの生地さえ持ち込めば、薪いらずで瞬時に焼けるのだ。この力は、たいそう重宝されている。

 そしてなぜか皆、捧げ物をするようにパンの生地を俺に差し出しては、深々と頭を下げる。
 
 あれは何だ。拝んでいるのか? それとも焦げませんようにと祈っているのか?

 もっとも焼けるだけで、俺にパンが作れるわけではない。

 まぁ、初めの頃は力の加減が出来ずに、黒焦げならまだしも、パン自体が消滅してしまったことも何度かあったが。
 誰でも最初は初心者だ。

「そうそう。朗報があるの」
「朗報? 新しい金儲けでも思いついたのか?」
「もう、そういうことじゃないのよ」
 
 アルベティーナは苦笑しながら、皿を用意した。
 薔薇摘みの後なので、彼女は芳しい香りをまとっている。

「神官長……ああ、わたしが子どもの頃にいらっしゃったおじいさんね。それに侍女長のハーンなんだけど。その二人が、近々島を訪れるらしいわ」

 懐かしい名前に、俺は火起こしの手を止めた。気を抜いて、台所を炭にしてはいけないからな。

 確かあの二人は、五年ほど前に退任して山を下りていた。俺達が国を去る時のアルベティーナの夢を見て、すぐに避難したのだろう。
 どうやら交易で大陸に渡った者が、イルデラ王国の生き残りの話がいると聞いて、会いに行ったらしい。
 それがハーン達だったというわけだ。

「パドマのご両親も一緒みたいなの。それに避難した人達が、また集まって暮らしているらしいわ」
「パドマも喜んでいただろう」

「ええ」と答えるアルベティーナは満面の笑顔で、まるで自分のことのようだった。

 昨夜、アルベティーナが作っておいたスープを、俺は温め直した。これは自生している芋と香草、山羊乳を使ったものだ。
 ちなみに山羊は野生だったのを、家畜化している。

 イルデラ王国でよく食べられていた平たいパンを見て、アルベティーナは目を細めた。

「そういえば、泥でパンの形を作るのは、難しかったわ」
「ままごとのことか? ん? あのひしゃげた泥団子は、単にアルベティーナが下手くそだったんじゃないのか」

「もう、失礼ね」と頬を膨らませるが。多分、パンだろうが肉団子だろうが、当時のアルベティーナが作ると同じ形になると思うぞ。
 ここは魚がよく捕れるので、たまに団子状にしてスープに入れるのだが。
 まぁ、独創的な形になるよな。彼女に任せると。
 人には向き不向きがあるということだ。
 

 薔薇の花を摘む時は、夜明け前に起きて薔薇園で作業をしなければならない。最初の頃は、棘で指を傷だらけにしていたアルベティーナも、今はもう慣れて無傷だ。

 だが早起きのせいか、パンをちぎりながらアルベティーナはうとうとしている。
 食べながら寝るとは……子どもか。
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