輪廻を周り、恨みを払う刃となれ

桜桃-サクランボ-

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恨力

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「おいおい、君達。そんな怖い殺意を向けないでくれよ」

 手をヒラヒラと振り、不気味な笑みを浮かべながら男性は軽い口調で言ってる。
 強いのか疑ってしまうけど、纏っている空気がそれを物語っているな。

 この人を敵に回すのはまずい。

 今は妖裁級が二人いるけど、それでも勝てるか分からない。幡羅さんは怪我してしまっているから思うように動けないだろうし……。

「なぁ、話し合えばわかる。話し合わないかぁ?」
「話し合いか、それなら此方としても助かる。代表として俺が話を聞いてやるよ」

 鋭く光る眼光。髪の隙間から覗き見えるその目は隙を一切見せない。逆に、相手が隙を見せればすぐにでも仕掛けるだろうな。

「良かった良かった。話を聞いてくれる余裕はあるらしい。安心したよ」
「御託は良い。要件だけ話してここを去れ」
「冷たいなぁ。それじゃ、要件だけ伝えさせてもらうかなぁ。君達の後ろにいるお嬢さんの首を渡してくれないかい?」

 …………ん? え、そんな。そこのコップを取ってほしい見たいな言い方で人の首を要求しなっ────首?
 え、今あの人私の首を渡してとか言ってなかった? 嘘でしょ。は? くくくくくく首は渡せませんが?! 普通は『そこにいる綺麗で可愛く愛らしいお嬢さんを渡してくれないか?」じゃないの?!
 驚きすぎて何も口にできない。何を口にすればいいんだ。え、嫌ですごめんなさい。

 ん? 幡羅さんと目が合った? それに、なんで考える素振りを見せるのですか? っていや、嘘でしょ。渡す気? 渡す気ですか幡羅さん?!?!

「────悪いが。こいつの首は渡せない。腕とかなら話は別だけどな」

 よ、良かった。首を渡すとか言うのかと思ったよ。いや、腕も渡したくはないけどさ。

「それは残念だ。なら───力尽くで貰うしかないらしぃ」

 ────ビクッ

 い、いやだ。この人の笑み、なんか怖い。人を陥れようとしているのがビシビシと伝わる。この人は人をなんとも思っていない。自分のためなら簡単に人を殺してしまう。そんな人だ。

 咥えていた煙草を手に持ち替え、それで私達を指してきた。

「これが最後の忠告だよ。後ろに居るお嬢さんを、おじさんにくれない?」
「ことわっ──」

 幡羅さんが再度断ると口にしようとした時、何が起きたのか。目の前には土埃が舞い、視界が悪くなった。

「ゴホッゴホッ。な、なにっ?!」

 何が起きたの、周りが見えない。どうすればいいの?!

「…………え?」

 やっと視界が開けてきたかと思ったのに。何がどうしてそうなったの?

 男性が余裕な笑みを浮かべ、さっきまで幡羅さんが居たところに立ってる。手には先程までなかった大鎌。地面に深く突き刺さって、そこから蜘蛛の巣のようにヒビが広がっている。
 あんなの、まともに食らったら一溜りもないんじゃ………。

 でも、良かった。幡羅さんはしっかりと避けれたらしい。少し私達と距離が空いてしまったけ――……

「いいいいいつの間にぃぃぃいいいい首が締まるぅぅぅぅうう!!!!」

 急に首根っこを捕まれ引っ張られてるぅぅぅうう!! ぐ、ぐるじぃぃぃいい!!!

「ふぎゃっ!!!」

 と、思ったら地面におしりから落とされた!! ものすごく痛いよなんなのさ!!

「怪我はないか京夜」
「今回の攻撃での怪我はないな」

 私のことはガン無視ですか美輝さん……。

 ……あ、なるほど。私の首根っこを掴み、男性と距離を置いてくれたのか。ありがとうございます。でも、もう少し優しいやり方が良かったのですが……。
 いや、贅沢は言えない状況だから仕方がないか。

「妖裁級は名前だけではないようだねぇ。安心したよ」

 男性は懐から煙草を取り出しまたしても咥えて、普通にライターで火をつけ煙を吹かす。余裕だな。ヘビースモーカーってやつか。煙草がないと生きていけない人。

「あれ、さっきまで咥えてた煙草ってどこに──」
「油断するな!!!」
「ふぇっ?!?」

 いきなり目の前に男性?! それに、私に向かって大鎌を振るってきた?!

「──っ?! 美輝さん?!」

 と、咄嗟に後ろへ避けようとすると、私より先に気配に気づいたであろう美輝さんが、私の前に立ち両手剣で大鎌を防いでくれた。

 ギリギリと、大鎌と両手剣がぶつかりあう。力は五分五分。お互いに一歩も引かない。

 その隙をつき、幡羅さんが動き出し男性の後ろへと回った。やべ、私追いつけない。ただ、立っているしか出来ないんだが?!

「あ、あれ。なんでここに幡羅さんの刀が……」

 私の隣に幡羅さんの刀が地面に落ちてる? あ、近くで見ると結構刃こぼれしているのがわかるな。切れ味が悪くなっている。
 もしかしたら、最初の一発は刀で防いだのかな。その時にこの刀はもう使い物にならなくなった。

 幡羅さんの武器はワイヤー銃と刀。ワイヤー銃だけ持っても意味なんてないんじゃ……。

 これ、刃こぼれしているけどないよりはマシなんじゃないの? 届けた方がいいのかな。でも、今は戦闘中。いつの間に男性の後ろに回った幡羅さんにどうやって届けっ──あ、私の心配は不要だったみたい。

 幡羅さんは背中に大きな傷を負っているとは思えないほど、先程とは変わらないスピードで男性を傷付けていた。何で傷付けているんだ? 武器はここにあるし……。

「あ、あれって。短剣を持ってない?」

 そうか。幡羅さんの正規の武器は刀じゃなくて短剣だったのか!!!

 幡羅さんは一瞬のうちにワイヤーを巡らせ、それを足場にして短剣を手にし駆け回っている。美輝さんはワイヤーの位置を全て把握しているのかな。両手剣を大きく振り回し、幡羅さんの援護しつつも一発、大きいのを食らわせようとしていた。

 幡羅さんが動きを封じ、美輝さんが斬る。この方法は今咄嗟にやって出来ることではないだろう。今までの経験や信頼。相手の事を知り、また自分のことを知ってもらう。

 あの二人は見えない何かで繋がっている。そう思える光景だ。

「凄い……」

 今の私は、邪魔にならないように見ているしか出来なかった。
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