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お金で買えない価値がある

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 とは言ってもビエンナが紹介すると言っているのは貴族だ。今すぐ会えるというわけでもないらしく、ビエンナは説明と提案を続ける。

「今すぐ紹介してやりたいところだがね、相手にも立場ってもんがある。そう気軽に紹介できるもんでもないのさ。一旦、私が話を持っていき商談の場を設けなきゃならん。もちろんそれまでこの指輪はあんたが持ってていいよ。実物がなくても私の目利きを信用してくれる相手なもんでね。ああ、そうさねぇ、この話が嘘や冗談じゃないって証拠に幾らか先払いしておこうか。あんたが貴族からお金を貰ったらその分だけ私に払ってくれればいい。正しい意味ではないが手付金みたいなもんさ」

 ビエンナはそう言ってから金の指輪と合わせて金貨を一枚冨岡に手渡した。

「あ、え、いいんですか?」
「相手の信用を得るのなら、まずは自分が腹を見せるしかない。それにわざわざその子に案内させて来たってことはある程度のお金が必要だったんだろ? 気にせず受け取っておくれ。あんたが本当にその指輪を売るつもりなら私に損はないよ」

 冨岡との信頼関係を築くため指輪を預らない上に、金貨一枚を先に払ったビエンナ。そんな彼女の気持ちに応えるべく、冨岡は指輪をビエンナに握らせる。

「ビエンナさんが俺を信頼してくれるのなら、俺もビエンナさんを信頼します。確かに今すぐお金が必要だったので金貨はお借りしますが、指輪はビエンナさんが持っていてください。実物があった方が相手との交渉も早いでしょうし」
「相手を信頼するってことは裏切られてもいいってことだよ。私が指輪を持って逃げたらどうするつもりだい?」

 これまでになく真剣な表情で問いかけるビエンナだったが、冨岡の気持ちは変わらなかった。

「そしたら人を見る目がなかったと自分を恥じるだけです」

 冨岡の答えを聞いたビエンナは嬉しそうに笑う。

「ひっひっひ、なんだい。人が良いだけの甘ったれかと思ったら商売ってもんをわかってるじゃないか。今、あんたはお金で買えないものを得たよ」

 そう言われた冨岡だが、言葉の意味がわからず首を傾げた。しかしビエンナはやけに嬉しそうである。
 指輪について話が決まったところでフィーネが冨岡の手を引っ張った。

「ねぇねぇ」
「ん、どうしたんだい、フィーネちゃん」
「ご飯食べないの?」

 問いかけるフィーネ。その会話を聞いていたビエンナは再び笑う。

「ひっひっひ、今すぐお金が必要ってその子の食事代かね。まぁいい、あんたしばらくはアメリアのところにいるんだろう? 話が決まったら訪ねるから今日のところはもう帰りな」
「はい、わかりました。それではお願いします」

 最後に頭を下げてから冨岡とフィーネはビエンナの店を出た。
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