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ダルクとシラム

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 今の日本が貴族制かどうか、と聞かれれば『いいえ』と答えざるを得ない。
 冨岡が貴族に対して緊張しないのは異世界人だからなのだが、全てを説明するのは面倒なのでダルクの納得に合わせる。
 そもそもだが、異世界人であると話すのは色んな意味でリスクが高い。ましてや世界間を自由に行き来が可能である、となれば余計だ。
 運び人として利用される可能性は大いにある。
 大前提、ホースやダルクに対して警戒心を抱いているわけではないが、噂というものはどこから広がるかわからない。
 誰に話して誰に話していないと考えるよりも、全員に話さない方が確実なのだ。そんな理由からアメリアにも話していない。
 決して面倒だから、という理由だけではない。決して。

「そう、決して!」

 思わず心の声を漏らしていた冨岡にダルクが疑問符を投げかける。

「決して?」
「ああ、こっちの話です」

 冨岡は何とか誤魔化して苦笑を浮かべた。
 揺れる車内で二人の会話は続く。

「それにしても、トミオカ様は何でも知っておりますね。私も世界中を巡ったことがございますが、トミオカ様のお作りになった料理やお話しになったことについては目から鱗が落ちる思いでした」

 こちらの世界にも『目から鱗が落ちる』という表現はあるんだな、と感心しながら冨岡は再び苦笑した。
 あまり深く問いかけられるとボロが出る可能性がある。何とか話を逸らそうと冨岡は逆に問いかけてみた。

「へぇ、ダルクさんは世界中を巡っていたんですか?」
「ええ、若い頃の話ですが。元々、私の家系は代々執事をしておりまして、執事としての教養をつけるため、見識を広げるために旅をするしきたりがあるのです。私は弟と共に世界中を巡っておりました」
「代々執事を・・・・・・執事って受け継いでいくものなんですか?」

 冨岡がそう問いかけるとダルクは優しい表情で答える。

「固定の家に仕える執事が父から子へ、という話は聞きますが、仕える家が決まっていない状態で『執事』を受け継ぐのは珍しいかと。執事は職人というわけでもありませんので」
「そうですよね。そっか、執事になるための勉強で世界中を巡っていたんですね。それじゃあ、弟さんも執事に?」

「はい、弟も執事に。とは言っても弟は別の国にいるので、話を聞くだけですが」

 執事として生きる家系に生まれ、別の国で別の家に仕える兄弟。生きていくための仕事として執事を選ぶのではない。執事として生きていくのだ、という矜持のようなものが感じられた。
 
「弟さんは別の国で執事を」

 ある種の感動を覚えた冨岡は言葉を繰り返す。
 するとダルクは更に情報を付け足した。

「弟のシラムはエスエ帝国にて伯爵家に仕えております」

 そんな『皆さんご存じの!』と言わんばかりに紹介されても、冨岡には何もわからない。エスエ帝国という国は説明を省くほど、誰もが知っている国なのだと察し頷く。
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