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目標とやりがい

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 これでもう想定などでなくなった。
 リオは魔王が残した息子である。

「そうですか。リオは・・・・・・」

 アメリアがそう呟くと、ノルマンが腕を組んで問いかける。

「恐ろしくなったか? 無理もない。アメリア、お前さんはこの国の人間じゃろう。魔王は畏怖すべき存在として知られておる。その息子を自分の手で育ててはいかん、というのは相当な覚悟が必要じゃ」
「そんなことはありません。私が言い淀んでしまったのは、少しほっとしたからなんです」

 どうやらアメリアの答えはノルマンにとって意外なものだったらしく、不思議そうに首を傾げた。

「安心した、と? この国においては前後百年超えることはないだろう大罪人を親に持つことにか?」
「いえ、そうじゃなくて・・・・・・教会で育った者のほとんどは、自分に親がいることすら知りません。自分に親がいる、という事実だけで救われることもあるでしょう。私自身、親がいないことを寂しく思い、悩み苦しんだ時期もありましたから。まぁ、子どもの頃の話ですけど」
「・・・・・なるほどのう。相手が誰であっても、リオの親が分かり安心したということか。それで、話すのかの? リオにこの話を」
「それは・・・・・・」

 それについてはずっと悩んでいた。
 リオ自身、魔王については簡単に知っているだろう。教会に拾われたのが『魔王の終焉』と同日なのだから、自然と耳に入るはずだ。
 知るべきこと。知らなくていいこと。知らせる義務。知る権利。
 様々な要素を総合して考えなければならない。
 アメリアが俯き気味に言葉を止める。すると冨岡がアメリアの肩を優しく叩いた。

「今は知らせなくても良いんじゃないでしょうか」
「トミオカさん」
「リオくんにとって、今必要なものは過去じゃないと思うんです。この瞬間そばにいてくれる人。それはアメリアさんです。俺やレボルさんもいますしね。それでも、リオくんが自分の本当の親について知りたいと言った時、包み隠さず教えてあげましょう。なんならノルマンさんも、協力してくれますよ。リオくんの未来を作るために、ね?」

 冨岡がしたり顔でノルマンに視線を送ると、彼は思わず笑みを浮かべる。

「ほっほっほ、ああ、この老体でよければなんでもしよう」
「じゃあ、長生きしてもらわないと。リオくんが大人になって親について知りたいってなった時、一番伝えられるのはノルマンさんでしょ?」
「爺に厳しいことを言うな。まぁ、そうじゃのう、今日みたいな飯を食っていれば長生きできるかもしれんな」
「だったら、暇があればいつでも教会に来てくださいよ。人が集まった方がご飯は美味しい。ついでに子どもたちの勉強を見てください。研究者だったなら、それくらい簡単でしょう? 俺に国では『立っている者は親でもつかえ』って言うんです。せっかくの縁ですからね」

 人が生きるために必要なものはいくつもある。
 水、食料、金。そのうちの一つが目標。そしてやりがいだ。
 ノルマンは喜びを隠しきれない呆れ顔を見せる。

「これは忙しくなってしまうのう。死んでおる暇などない」
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