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第五章 姫達の郷帰りと今代の勇者達

#22 虎人族流ご挨拶

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 眼下には、今にも飛び掛かってきそうな二人の虎人。
 片や黄金と黒のコントラストが見事に映える耳と尻尾を持つ屈強な大男、片やアーネと同じ白黒模様の耳と尻尾を携えた、俊敏そうで小柄な女性。
 その二人がリオを見上げガチで構えを取ってる。

 …話に聞いてた通りでごさいました。


「………こ、れ……降りて、も……いい、の…?………」

 もう少しで着地という所で滞空したまま聞いてくるリオ。
 このまま降りたらまず確実にリオを倒しにくるだろう、あの二人…なんて怖いもの知らずな。
 着いて早々竜虎対決とか止めてほしいんですが。

「待ってリオ…。アーネ、あの人達アーネのご両親で間違い無いよな…」

「…やっぱなぁ。他人の領地でもお構い無しだったわ…。ったく、これだから獣闘士はヤなんだよっ。アレがアタイの親とかハズいってのっ」

 いやいや、この親にしてこの娘ありですけどね、まさしく。
 まぁ流石にドラゴン相手に怯まず向かって来るのはどうかと思うけど…アーネも初めてリオに会った時はそんな事しなかったし。

「…そっか。うん、分かった。それじゃちょっと説明して来るから、みんなここで待ってて」

「あー、アタイも行くわ。話聞かねぇなら腕ずくで聞かせてやらぁ」

 シータやマール、ラナもやっぱりなーみたいな顔してる。
 モリーなんか、やれやれっ相変わらずねっ、みたいな雰囲気出してるし。
 ここまで乗せてきてくれたリオに、あの二人の相手をさせるわけにはいかないから、俺とアーネで何とかしよう。
 もう展開が予想通りになるとしか思えないのはこの際諦めるとして。

 リオの背に乗ってからずっと黙って俺に抱っこされてたイアを降ろしたら、何も言わずテトテトとマールの所へ行った…オマエはアレだな、オッパイで選んでるだろう、それ。

 まだそれなりの高度、あの二人がまだ飛び掛かって来れないであろう所でリオが滞空してくれてるんだけど、この高さ─5階建マンションくらい─から飛び降りるにはちょっと勇気がいる、たとえこの身体なら大丈夫だと分かっていても。
 安全策取っておこう…えっと、スキル創造、浮遊レビテーションと。


[スキル:浮遊レビテーション作成・取得]


 これでよし、と。
 んじゃちょっと行ってきますか…戦闘になる覚悟を決めて。

「アーネ、行こう」

「おう…って、おいっ」

 傍に寄ってきたアーネを問答無用でお姫様抱っこしてさっさと飛び降りる俺。
 降下途中でさっき創った浮遊レビテーションを発動してふわっと着地、抱っこされてるアーネはわけも分からず俺にギューっとしがみついてる。
 お姫様抱っこでも抱き心地は抜群でした、流石は最高級抱き枕。
 どう頑張っても名残り惜しくなるのはどうしようもないとして、今はそんな場合じゃないから着地とほぼ同時にアーネを降ろしたんだけど、アーネが何故かすぐ離れてくれない。

「アーネ、着いたぞ」

「…え?あ、着いたのか……」

 って言ってるのに離れないアーネ。
 ちょっとご両親の前でこれはマズいと思うんですけど、アーネさん。
 すると案の定、予想展開通りイーナさんが俺達に特攻してきた…台詞は違ったけど。


「アタイの娘に何してくれてやがんだぁっ!クラァァアアっ!!」


 アーネがまだ俺にくっついてるにも関わらず、完全武装してると思われる三本の鉤爪付手甲を俺目掛けて思いっ切り振り抜こうとしてくるイーナさん。
 咄嗟にアーネを引き剥がし、背中から瞬間的に引き抜いたダルクブラウヴァーで受け止める。
 間髪入れず反対の手から同じ鉤爪が振り抜かれたけど、それはバックステップで交わした…あり得ないくらい本気なんですけどっ。

「ちょっ、オフクロぉ!なにやっ「お前の相手はこの俺だ」ハァっ!?何でだよっ!」

「問答など不要っ。いくぞっ!」

「うおっ!ちょっ、待てってオヤジっ!」

 俺がイーナさんの相手をしている内にそっちでも何故かアーネとお義父さん、確かダイガルドさんだったっけ、ゲシュト様の元恋敵…が戦闘し始めた。
 
 あ、これもしかしなくてもリオじゃなくて最初っから俺達相手にしようとしてたのかっ!?
 これが虎人族流の挨拶とかそういうやつ!?
 戦闘になる覚悟はしてたけど、流石にアーネまでとは思ってなかったよっ!

「あのっ!ちょっと待っ「ウラァァアアっ!」うわっ!?」

 叫び声を上げながら怒涛の如く攻めてくるイーナさん…こっちの話を聞く気なんか全然無い。
 口開くより手ぇ出せやオラァ!と言わんばかりに右から左から鉤爪が斬りつけられてくる…どうしたらいいか分からず防戦一方な俺。
 イーナさんの手数が多過ぎて、腰の絶刹那まで抜かされたし。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 一方で始まったアーネとダイガルドの闘い。
 何故こんな事になっているのかも分からず、ただこうなったからにはやるしかないと腹を決めたアーネ。


「くっそ!何が何だか分かんねぇけどやってやらぁ!〔リターニング・アサルト・ダガー〕ぁっ!」


 アーネがミスリルダガーを抜いてダイガルド目掛けて投げ付ける。
 ダイガルドはそれを難無く両手の鉤爪で叩き落とすが、アーネのダガーはそうされても手元に戻って来て、それを絶え間なくダイガルドに向け投射する。

「なるほど、そういう類のスキルか」

 ダイガルドはそう言って自分に向かい飛んできたダガーを、さっきのように叩き落とさず刃の部分を指と指の間に挟み受け止めた…これも難無く。
 が、やはりそれでも止まる事は無く、指の間から抜け出してまたアーネの手元に。

「ふむ。ならば」

 弾かれ、止められてもなお投射することを止めないアーネと、それに応えるようダイガルドに向かい飛んでいくダガー。
 その8本のダガーの内、先に届いた2本を今度は柄の部分を握り掴み押さえる。
 そうなってもダガーは当然アーネの手元に戻ろうとするが、それに合わせてダイガルドも一緒になってアーネの元へ飛んでいく。

「げっ!」

 残りの6本はダイガルドがその場から動き出して標的を失い、そのまま真っ直ぐすり抜けていった。
 アーネの手元に戻って来たのは2本のダガー、そして…ダイガルド。
 アーネが予想外なことで集中を切らしたせいか、スキルの効果が止まったらしく、ダイガルドは掴んでいたダガーを捨てるように脇へ放り投げ、自分はアーネの懐で攻撃態勢を取った。


「獣虎爪呀流…表門技〔虎肘穿〕」

「がはっ!?」


 右脚でドンっ、と地面へ踏み込み、それに合わせて肘を下から突き上げるようにしてアーネのお腹を穿つ。
 まさか戻って来るダガーと一緒に突っ込んでくるとは思いもせず、焦ったんであろうアーネはそれをモロに喰らい、そして後方へ吹っ飛ばされた…。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


 イーナさんの猛攻を刀剣で防ぎつつ、アーネが気になってイーナさんの攻めの隙を一瞬見つけてアーネの方に目をやったら…ダイガルドさんの技を喰らって後方に吹っ飛ばされたところだった。
 見た事のあるような技…確か八極拳の裡門頂肘ってやつだったか、格ゲーとかでもよく見る技で。

「っ!?アーネっ!!」

「余所見とは余裕じゃねぇかっテメェっ!」

 娘が吹っ飛ばされたのもお構い無しで俺への攻撃の手を休めないイーナさん。
 けど、いくら親相手でもさ…可愛い嫁吹っ飛ばされて黙ってられる程、人間出来ちゃいないんですよっ俺はぁっ!

「おぉっ!?なんだやりゃ出来んじゃねーかっ!」

 今まで防ぐだけだった刀剣に力を込めてイーナさんの鉤爪を押し返し、距離を取った…これで決めて早くアーネの所へっ!


「絶・乱瞑舞 裏技乱舞〔下剋上しもかちのぼり〕ぃっ!」


 取った間合いを一気に詰め刀剣両方、絶刹那は刃を返して峰で上段から斬り掛かる…技名叫んでるのなんか知ったことかっ!
 イーナさんはそれ交わさず鉤爪で受けようとしたが、これは端っからダミー、イーナさんが受け止めた瞬間刀剣を手放し、突進の勢いをそのまま利用して肩から体当たりを喰らわす虚刀剣実格闘技。
 身体を少し捻ってるから、これも八極拳の鉄山靠ってやつに見えるだろう…正確には違うけど。

「虎爪覇っ!」

「なっ!?くうっ!」

 イーナさんに俺の攻撃が当たる直前、横から衝撃を喰らってその場から押し出されるような感じで突き飛ばされた俺。
 倒れもしなかったしダメージも無いけどイーナさんへの攻撃は完全に不発だった。
 衝撃が来た方向を見ると、ダイガルドさんがどうやら鉤爪で斬撃を飛ばしたらしい。
 確かに三本の棒で押された感じだったけど、俺じゃなかったら斬れてるんじゃないかっそれっ!


「はいはいそこまでよっ!イーナ、もういいでしょっ?」

「ダイもその辺にしておけって」

 
 この場に二人の男女がやって来て俺達の戦いを止めに入った。
 多分あの二人はラナの両親、つまりここの領主ってことだろう。
 男の人の方はシベリアンハスキーみたいなカッコいい耳、女の人はラナと似た感じのタレ耳だし。
 いや、そんな事より…っ。

「アーネっ!」

 俺はその場からすぐアーネの所へ駆け寄り無事を確かめようとした。
 すると、遅い動きながらも上半身を起こしてきた…どうやら無事らしい、よかった。
 っていや、よくないっ、いくら親でもやり過ぎだろうっ。

「痛つっ…あー、モロ喰らっちまった……」

「大丈夫かっアーネっ」

「あぁ、何とかな…。昔のアタイならこれで気ぃ失ってただろうけどよ…そう考えるとちったぁ強くなったか?」

 お腹を擦りながら俺が差し出した手を掴み立ち上がるアーネ。
 派手に吹っ飛んだ割には本当に何でもなさそうだ、腹以外は。
 念の為後でマールにでもヒールかけてもらおう。


「スキルに頼り過ぎだ。お前には合ってるがな。だが対人には向かん」

 アーネを起こしてあげたところで吹っ飛ばした張本人も近寄って来た。
 近くで見ると俺よりデカい…ディモルのおっさんと同じくらいか。
 それと、威圧感がスゴい…さっき斬撃飛ばしてたし、漫画とかでよくある闘気とかそういうの纏ってるのが見えるように出来たりするんじゃないか?っていうくらい。
 これが…アーネの父親か。

「対人で使うつもりなんか無ぇわ。オヤジだから使っちまったけどよ」

「位階は上がったようだが、まだまだだな」

「うっせーなっ、オヤジ基準で言うんじゃねぇっ。それより何でいきなり突っ掛かってくんだよっ!」

 そう、それ、何でいきなりこんな事になったのか教えてほしい。
 俺は何となく分かるけど、何でアーネまでこうなったのかと。

「決まっているだろう、お前が選んだ男を見定めるためだ」

「やっぱ知っててやったのかよっ。しかも何でアタイまでっ」

「アーネ、アンタもちゃんと冒険者出来てるのか確認するために決まってるでしょーがっ」

「オフクロっ!アタイのナオトに何してくれてんだよっ!」

 俺と一戦交えてたイーナさんも寄って来て理由を説明してくれた。
 アーネよりちょっとだけ背が高いのと、胸がちょっとだけあるくらいで、ホントそっくりだ。
 アーネと闘ってるみたいでやり辛かったし。
 
「アンタのじゃなくて、アンタらのでしょーが」

「あの、やっぱりロゼさんから聞いてます…?」

「あぁ、聞いてるよっ。ナオトっつったっけ、アンタやるねぇ。ダンナが手出してくれなきゃ負けるとこだったわ」

「うむ、すまんな、ナオトとやら。想定以上の強さだった。まさかアーネがここまでの男を捕まえてくるとは思わなくてな」

「ふざけんなオヤジっ!アタイだって男見る目くらいあるわっ!」

「ま、そこは良くやったって褒めてやるってば。さっすがアタイの娘だっ!アッハッハっ」

「んだよっ、ったく調子いいなぁ…」

「えっと、とりあえずもういいですかね?みんな上で待ってるんですけど…」

 俺達が闘ってる間、ずっと上空で待機してくれてたリオ達を早く降ろしてやりたい。
 あのままだとツラいよな、きっと…。

「だとよっ、いいか?ルドっ」

「いいも何も、ダイとイーナが邪魔してたんだろうが…」

「そうよイーナ。私だって早く娘や相手に会いたかったっていうのに、自分だけ先にしちゃって」

「ワリぃワリぃ。こればっかはどうにもならなくてよぉ」

「うむ、虎人族の血がな」

「いやそれ二人だけだからな」

「なに虎人族のみんな巻き込んでるのよ、まったくもう…。あ、ナオトくんだっけ?早くみんな降ろしてあげて?」

「ここの領主として歓迎するよ」

「あ、はい、ありがとうごさいます」

 ラナの両親、ルドさんって言うのか、それとロゼさんも来てくれて、リオの着陸許可を貰えた。
 ふぅ…着いて早々これだ、皆揃ったら益々どうなることやら…。


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