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『魔法少女という存在』⑧

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『魔法少女という存在』⑧
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「ねぇ、先輩」

「ひゃい!」

 思考を中断し、声をかける。

 油断していたのか、僕の声に反応して肩をビクッと跳ねさせる。
 驚き方がまんま小動物だ。
 マスコットを思い出すから辞めてほしい。

「僕の言う事に素直に従うか、この場で死ぬか、どっちがいい?」

「い、言うことって……、たとえばどんな?」

「気になる?」

「は、はい」

「マスコットの言いなりになって殺人にすら手を出したのに、内容によっては聞けない命令があると?」

「え、そんな……」

 我ながら無茶苦茶言ってる自覚はある。
 でも、

「僕を殺そうとしたんだし、それぐらい仕方ないよね?」

「……」

 そもそも、この娘は元々マスコットの言いなりだった訳だし。
 別に主人が変わるだけだ。
 そう迷うことでも無いと思うのだけど。

 それに、選択肢なんて与えるつもりもない。
 マスコットがこの社会にどこまで食い込んでいるか、現状としては全くの不明瞭。
 つまりだ、味方がいないどころか敵だらけの可能性が高いってことだ。

 自分の手札を増やさないといけない。
 別に全部をどうこうしようってわけではないが、生きるだけでも少なくない困難があるのは予想に難くない。
 僕はすでに魔法少女になってしまっていて、その上でマスコットを手にかけたのだから。

 否というなら殺す。
 それだけだ。
 まぁ、死を選べるようには見えないけどね。

「……わ、分かりました。従います」

「僕の言うことなんでも聞いてくれる?」

「はい」

「つまり、僕の奴隷になってくれるってことね」

「え、奴隷……」

「ん?」

「い、いえ。なんでもないです。うちを、……奴隷に、してください」

 メイスに流していた魔力の量を少し増やす。
 それだけ。
 さっきの光景がトラウマになっているのか、悩みを振り切って一瞬で媚びを選んだ。

 よほど死にたくないのだろう。
 まぁ、分かっていたことではあるが。
 この娘は自分の為に人を殺せる人間なのだから、自分の死を天秤にかけられて仕舞えばなんでもやる。

 しかし、なかなか弱者が板に付いているじゃないか。
 魔法少女になって浅いのか、それ以前の性質が染み付いているのか。
 とてもヴィラン相手に人々を守る存在には見えないな。

 まぁ、だからマスコットに利用されていたのだろう。
 僕にはあんな話持ちかけられていないし。

「よし分かった。先輩は僕の奴隷一号ね」

「……はい」

「先輩ができるのは、まず遠距離からの狙撃だよね。後は?」

「魔力を目に流すと他の魔法少女より遠くを見れます。他には、気配を消すのが得意です」

 スキルツリーが完全に狙撃に偏っているのか……

 僕の目は望遠よりは動体視力に偏っている気がする。
 少なくとも、ここから僕がさっきいた場所への正確な射撃は無理だ。
 街灯がある分向こうから雑木林を見るよりはマシだが。

 きっと、魔法少女ごとに初めから想定されている戦闘スタイルというものがあるのだろう。
 マジック・ウェポンもそうだし。
 それが僕とこの娘では真逆なのだろうな。

 本来なら、前衛の僕に後衛のこの娘の追加で随分な強化になるのだが。

「それで全部?」

「た、多分全部です。うちの他の能力は、普通の魔法少女と大差ないと思います。」

「そっか」

 しかし、これは……
 使えないな。
 全くもって、使えない。

 いや、能力としては強力だと思う。
 遠距離攻撃は強力だ。
 この能力なら、ヴィランの前に姿を現さず仕留め切れることも多いはず。

 実際、交換できるなら僕はこの能力が欲しいし。

 ただ、能力とは別の問題として、この娘に自分の後ろを任せられるほど僕の頭はお花畑ではない。
 そんなことをしたら当たり前に裏切られる。
 後ろからズドンと、今度はレーザーの予兆を感じ取ることすら叶わず一撃である。

 いや、奴隷根性の染み付いてるこの娘は裏切らないかもしれないが、それは裏切らない可能性もあるというだけの話に過ぎない。
 裏切らないかもしれないが、裏切るかもしれない。
 少なくとも、そんな信用出来ないスナイパーを後ろに置くぐらいなら1人で戦った方がマシである。

 というか、仮に信用出来たとしてもだ。
 一点からしか撃たない後衛なんて、逆に弱点になる。
 見捨てればそうとも限らないが、せっかく手に入れた奴隷をなんの理もなく手放すのは惜しい。

 ……そう言えば。

 この娘、妹ほどでは無いけど結構容姿は整っている。
 魔法少女ってのも付加価値だろ。
 少なくとも、JCとかJKとかより値は付くと見た。

 もう、あれでいいか。

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