14 / 36
鬼上司は簡単に人をときめかせてくる(side千夏)1
しおりを挟む
久世さんと前より話が出来るようになったのは仕事を振られるようになってからだ。仕事を通じて話す機会が増えたし、残業すると雑談だってたまにした。
最初のころは確かに怖いこともあったし取っ付きにくいというか、話しかけにくいオーラがひしひしと伝わってきたけど、踏み込んでみたらそうでもない。くだけた話もしてくれるし言い方はそっけなくてもいつも気にかけた言葉をくれる。
態度よりずっと優しい人……今ではもうそれがわかっている。
思わず掴んでしまった服の裾。離れようとされて咄嗟に力が入った。
「ぁ……や……」
(行っちゃやだ)
その思いは飲み込めた。
頭では離さないととわかっているのに、掴む手は言うことを聞いてくれなくて久世さんを困らせた。
「……あー、ちょっとドア確認行く……けど、待てる?」
(待てます)
頭の中ではちゃんと返事が出来ている。なのに、手の震えを止められない。それに焦った。
「ごめん。ちょっと、触る」
(え?)
暖かい大きな手に手首を掴まれて、グイッと引っ張られて驚いた。なにに驚いたって、触れられて何も嫌な気にならなかったことだ。
あたたかい手。あの、長い指が手首に触れて巻き付いている。それを見て胸が締め付けられた。
ドアの前で頭を抱えた久世さんの気持ちとは裏腹に、私はただ掴まれた腕のことだけが気になってどうしようもなかった。
決して強い力じゃない。でも、ギュッと掴むその手が熱くて、胸が苦しくなるばかり。
体に力が入って思わず身じろぎすると、痛かった?と、熱が離された。
(そんなんじゃない)
それも言葉にはならない、咄嗟に頭を振った。離されたら途端に不安になった。暗闇がどうとかそんなことじゃなく、自分の気持ちにだ。
こんなに近寄ってしまってどうしたらいいんだ。手を伸ばせば触れられる距離に今さら気づいて焦り出す。
私はなにを久世さんにしでかしてしまったんだろう、その思いにただ焦った。
「ごめんなさい」
とにかく謝った。
迷惑をかけた、なにより久世さんを困らせたことが嫌だった。でも、久世さんは私の恐怖心を笑ったりもしない。しかも、「一人にさせなくてよかった」そんなセリフまで吐いてくる。
(そんなの言ったらダメじゃないですか?)
心の中でそうつぶやいた。
久世さんが無意識に発した言葉に胸を高鳴らせた自分がいて、どこか勘違いをしてしまったのかもしれない。
「すみません…これ以上近づかないので…も、持たせてもらっていいですか?」
言ってから後悔したけど、もう遅い。久世さんの了解も得ずに制服の裾をまた掴んでしまう。
(困らせたくないなんてどの口が言うの)
離さなきゃ、わかってる。でも――離せなかった。掴んでいたかった。
この距離から――離れたくなかった。
最初のころは確かに怖いこともあったし取っ付きにくいというか、話しかけにくいオーラがひしひしと伝わってきたけど、踏み込んでみたらそうでもない。くだけた話もしてくれるし言い方はそっけなくてもいつも気にかけた言葉をくれる。
態度よりずっと優しい人……今ではもうそれがわかっている。
思わず掴んでしまった服の裾。離れようとされて咄嗟に力が入った。
「ぁ……や……」
(行っちゃやだ)
その思いは飲み込めた。
頭では離さないととわかっているのに、掴む手は言うことを聞いてくれなくて久世さんを困らせた。
「……あー、ちょっとドア確認行く……けど、待てる?」
(待てます)
頭の中ではちゃんと返事が出来ている。なのに、手の震えを止められない。それに焦った。
「ごめん。ちょっと、触る」
(え?)
暖かい大きな手に手首を掴まれて、グイッと引っ張られて驚いた。なにに驚いたって、触れられて何も嫌な気にならなかったことだ。
あたたかい手。あの、長い指が手首に触れて巻き付いている。それを見て胸が締め付けられた。
ドアの前で頭を抱えた久世さんの気持ちとは裏腹に、私はただ掴まれた腕のことだけが気になってどうしようもなかった。
決して強い力じゃない。でも、ギュッと掴むその手が熱くて、胸が苦しくなるばかり。
体に力が入って思わず身じろぎすると、痛かった?と、熱が離された。
(そんなんじゃない)
それも言葉にはならない、咄嗟に頭を振った。離されたら途端に不安になった。暗闇がどうとかそんなことじゃなく、自分の気持ちにだ。
こんなに近寄ってしまってどうしたらいいんだ。手を伸ばせば触れられる距離に今さら気づいて焦り出す。
私はなにを久世さんにしでかしてしまったんだろう、その思いにただ焦った。
「ごめんなさい」
とにかく謝った。
迷惑をかけた、なにより久世さんを困らせたことが嫌だった。でも、久世さんは私の恐怖心を笑ったりもしない。しかも、「一人にさせなくてよかった」そんなセリフまで吐いてくる。
(そんなの言ったらダメじゃないですか?)
心の中でそうつぶやいた。
久世さんが無意識に発した言葉に胸を高鳴らせた自分がいて、どこか勘違いをしてしまったのかもしれない。
「すみません…これ以上近づかないので…も、持たせてもらっていいですか?」
言ってから後悔したけど、もう遅い。久世さんの了解も得ずに制服の裾をまた掴んでしまう。
(困らせたくないなんてどの口が言うの)
離さなきゃ、わかってる。でも――離せなかった。掴んでいたかった。
この距離から――離れたくなかった。
28
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛想笑いの課長は甘い俺様
吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる
坂井 菜緒
×
愛想笑いが得意の俺様課長
堤 将暉
**********
「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」
「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」
あることがきっかけで社畜と罵られる日々。
私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。
そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
会社のイケメン先輩がなぜか夜な夜な私のアパートにやって来る件について(※付き合っていません)
久留茶
恋愛
地味で陰キャでぽっちゃり体型の小森菜乃(24)は、会社の飲み会で女子一番人気のイケメン社員・五十嵐大和(26)を、ひょんなことから自分のアパートに泊めることに。
しかし五十嵐は表の顔とは別に、腹黒でひと癖もふた癖もある男だった。
「お前は俺の恋愛対象外。ヤル気も全く起きない安全地帯」
――酷い言葉に、菜乃は呆然。二度と関わるまいと決める。
なのに、それを境に彼は夜な夜な菜乃のもとへ現れるようになり……?
溺愛×性格に難ありの執着男子 × 冴えない自分から変身する健気ヒロイン。
王道と刺激が詰まったオフィスラブコメディ!
*全28話完結
*辛口で過激な発言あり。苦手な方はご注意ください。
*他誌にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる