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第4話 三界の主張
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その後2人の刑事はマンションを出て、駐車場に戻る。次の目的は三界の家だ。彼は最近まで重石同様都内のタワマンに住んでたが多額の借金を抱えたため売り払い、埼玉県内の実家に引き払っていた。実家は2階建ての一軒家だ。
門の前に一旦正子が車を停車。運転席から降りてインターホンのボタンを彼女が押した。1分ぐらいしてから、年配の女の声が流れ出る。
「どなたです?」
「全国警察の研川です。三界学さんに、先日の事件でお話しを伺いに参ったのですが」
「それなら、こないだ別の刑事さんにお話しさせていただきましたわ」
「恐縮ですが亡くなられた重石さんも、容疑者の城間さんも大変有名な方ですので、所轄の警察だけでなく日本版FBIの全国警察でも、別の角度から捜査する話になったんです」
「ちょっとお待ちくださいね」
女の声がインターホンの向こうで、誰か男と話す声が聞こえてくる。しばらくすると、再び女が話しかけた。
「学はこちらでお話しします。門を開けますので車ごと中に入ってください。自動車は、空いてる所に止めてください」
正子はインターホンを離れ、運転席に戻った。やがて門がするすると横へ開いてゆく。正子は車を敷地内に入れ、中に駐車した。2人の刑事は車を降りる。見はからったように、ゲートが閉まりはじめた。
刑事達が玄関に向かうと高そうな着物を着た年配の女性が待ち受けている。
「ご苦労様です」
女性が深くお辞儀をして、刑事達をねぎらった。
「全国警察の日置です」
「日本版のFBIですってね。数年前創設されたのはテレビで観たけど、まさかうちにいらっしゃるなんて。いくら息子が推理小説を書いてるからって、こんな形で警察にご厄介になるなんて思いませんでしたわ。わたしは親友を殺された学が本当に不憫で不憫で……」
「失礼ですが、学さんのお母様ですか」
「そうですよ。三界京子(きょうこ)と申します」
京子は多分七〇代ぐらいである。育ちの良さそうな上品な雰囲気を醸しだしていた。
「ともかく入ってくださいまし。学が中で待ってますから」
二人は応接間に通された。そこにはすでに三界学の姿がある。
「三界です。本日は、遠くからお疲れ様です」
耳に心地よく響くやわらかな声で学がそう挨拶した。長身で、俳優のような美男子だ。
「全国警察の日置です」
手帳を見せながら、警部補があいさつした。
「こちらは同じく研川です」
正子も手帳を見せた。彼女の目は、明らかに学に見とれている。学がソファーを2人に勧める。刑事達は、その通りにした。
「単刀直入に伺います」
日置は話を切り出した。
「三界さんは、逮捕された城間さんが本当に犯人と考えてますか?」
三界は顔を固くして黙りこんでしまったが、やがて重々しく口を開いた。
「ぼくが丸島に行った時重石は殺されており、島には城間しかいませんでした。島にはカメラがあり、外から接近する船がいないか常時監視されてます。死角はありません。ぼくは城間と録画された動画を調べましたが重石が島に降り、その後城間がモーターボートを自分で操縦して島に来るまで、島への人の出入りは全くなかったんです」
「承知してます」
「そうですよね。その後沖縄県警さんも、動画を確認してますから。ぼくが呼んだので警察の方達が島中を調べましたが、ぼくと城間以外の人間は見つかりませんでした。警察が来るまでカメラのモニターを城間と一緒に観てましたが、誰かが丸島から出てく事はなかったです。なので重石が来る前に別の者が丸島に来たというのもありえないです」
「なるほどね」
「城間が東京へ行くため島を出て、3日後の月曜重石が丸島に来るまでの動画も調べましたが、侵入者は映ってませんでした。画像のデータは県警に提供して、そちらでも確認してます」
「沖縄県警にも質問されたと思いますが、当時の状況を最初からお話しいただきたいです。そもそもあなた方3人は、どうして丸島に集まったんです」
「次回作の打ち合わせです。執筆担当の城間は極端な人間嫌いで、以前は横浜の自宅で仕事してたんですが、たまに熱心なファンが家をつきとめて押しかけてくるのに嫌気がさし、都内のホテルで書くようになったんです。でもそれも不満で、突然離島に住むと言いだしたんです」
「城間さんは前々日の土曜開催されたパーティーに出るため東京に行ったんですよね?」
「普段あいつはその手の集まりに出ないけど、ぼくらがデビューした新人賞の選考委員だった作家さん主催の会で、出席を断れなかったんです」
三界が続けた。
「ぼくと、重石も出ました。翌日重石は1人で朝から大阪に行きました。あいつは単独で画集を出してますが、大阪の書店で奴単独のサイン会が日曜昼にあるのでパーティーを早めに退席し、夜のうちに大阪へ行ったんです。ぼくと城間は主催の作家さんに、翌朝までつきあわされました。その後ぼくも城間も一旦帰宅し、別々に飛行機で沖縄に行きました」
「城間さんと一緒の飛行機に乗らなかったんですね」
「城間に同じ飛行機で行こうと誘われたんですが、日曜は恋人と会う約束をして時間が読めなかったんで、城間に先に飛行機を予約するよう言ったんです。結局城間が予約した時刻の2時間後の便で沖縄に行きました」
「恐縮ですが、その恋人の名前と電話と住所を教えてください」
「大丈夫ですよ」
三界は自分のスマホに登録された女性の名前と住所と電話番号をメモ紙に書き移して、日置に渡す。後で調査したが、日曜に三界が恋人と会っていたのは事実だった。
「沖縄からはご自分のモーターボートを操縦して、1人で丸島へ行かれたんですね」
「そうです。午前10時沖縄本島を出て、昼12時に丸島に着きました。西館で打ち合わせする手筈だったので西館に行きました。港から西館まではむきだしの地面で、前夜の雨でぬかるんでました。靴跡は2種類しかなく、当然ぼくは重石と城間の物だと思いました。実際沖縄県警さんが調べた結果それは立証されました。途中で城間が現れました」
「城間さんはどんな服でした?」
「白いTシャツに、同じ色の短パンです」
「洋服に血痕はなかったですか」
「なかったです。なのでその時はまさか、城間が重石を殺したとは思いませんでした。城間の話だと西館で重石が殺されてるというので、ぼく1人で行きました」
「1人で行ったのはなぜですか? 西館に犯人がいる可能性がありますよね。2人で行った方が安全だったのでは」
「何かの間違いかと思ったんです。そうでしょう? 平和な日本で殺人なんて、自分の周囲で起こるなんて、考えないですよ。しかも場所は離島ですし。転んで頭を打ったのを、殺されたのと勘違いしてると考えたんです」
三界はつばを飛ばしながら主張する。
「それに城間はびびってて、とてもじゃないけど連れてける状態ではなかったです。あいつ、小心者なんで」
三界は、肩をすくめてみせた。
「なんで1人で行ったら西館の玄関は開放状態で、強烈な悪臭がしました。玄関入ってすぐの応接室のドアも開放状態で、室内で重石がうつぶせに倒れてました。後頭部は血まみれで、ボールに当てる部分が血に染まったゴルフクラブがありました」
「城間さんは、ゴルフをおやりになるんですか?」
「やりません。ゴルフクラブは、城間が丸島に住む前からあったんです。島のオーナーが以前たまに丸島でゴルフの練習をしてたそうですから。城間が住んでからオーナーは来なくなりましたが、クラブは室内の誰もがわかる場所に置きっぱなしでした。遺体を確認した後ぼくは自分のボートに戻り無線で警察を呼んだんです」
「無線を入れたのは何時ですか?」
「昼の12時半を過ぎてました。警察の船が到着したのは午後2時40分です」
「仮に城間さんが犯人として、動機は何でしょう?」
「わかりませんが以前から、重石がイラストレーターとして独自の活躍をしてるのが気に入らないような事を城間が話してました」
「そんなのが、動機になりますか?」
「わからないです。今も城間が犯人と信じたくありません。ただ奴は友人が少ないせいか、重石が独自の活躍をして、他の業界にも友達がいるのが気にいらないふしはありました」
「もし城間さんが犯人なら、彼は自分で自分の首をしめるような行為をやってると思いませんか? 本来なら自分に容疑がかからないよう例えば防犯カメラを壊し、カメラの死角から別の人物が島に侵入したように見せかけるとかすればよかったですよね」
「計画的な犯行ではなかったんじゃないかと。西館に2人でいる時口論になり、重石が後ろを向いた時城間は反射的にゴルフクラブで重石を殺したがそれを認めたくないので『来た時殺されてた』と言いはってるんじゃないでしょうか。沖縄県警がそう判断したはずですが」
「仮に城間さんが犯人じゃないとして、他に思い当たる人はいますか?」
「いませんね。重石は誰とでも仲良くなれる気さくな男で、敵がいたなんて想像つかないです。奥さんとの関係も良好でした」
「推理作家としての意見をお伺いしたいのですが、今回のような城間さん以外の犯人がありえない状況で別の人物が重石さんを殺せる方法を考えつきませんか」
「無理です。ぼくらの作品に出る探偵みたく名推理を披露したいですが、現実はそういきません」
三界は苦笑した。
「ちなみに失礼を承知で話しますが、亡くなった重石さんは重城三昧を解散して、あなたとは手を切ろうとしてたそうですね」
日置の言葉に、三界は頭を殴られたような顔をした。その目は鋭くこちらを睨む。警部補は、後を続ける。
「理由はあなたがプロットをなかなか出さないのと、元奥さんへのDVに怒っておられたとか」
「確かに元妻を殴ったのについては反省してます。百パーセントおれが悪かったです。なので彼女にも謝ったし、ツイッターでも公開で読者の方にも謝罪しました」
「週刊誌では殴った理由として、元夫人があなたの浮気を責めたからと書いてましたね。あなたは当時複数の愛人がいて、多額の金を愛人とギャンブルと株につぎこみ、投資は失敗し巨額の借金を抱えてましたね。そのせいで消費者ローンや複数の知人から金を借りてたのが、警察の調べでもわかってます」
先程までのさわやかな笑みはどこにいったのか、燃えるような目で、三界は日置を睨みつけたが、しばらくすると少し落ち着いたようで、重々しく口を開く。
「おっしゃる通りです。全ておれが悪かったです」
「数年前からプロットを書かず、重石さんと城間さんが代わりに書いていたそうですね。重城三昧に執筆を依頼してた複数の編集者から聞いてます」
「スランプです。本当に悪かったと反省してます。でも、借金は返せる目途がついたんです。今度別の作家とおれと2人で本を出すんです。その本を出すのと引き換えに瑞穂書房が借金を肩代わりしてくれます。この話は、重石が死ぬ前に出てます。有本さんも知ってます」
この件は後日確認したが、事実とわかった。
門の前に一旦正子が車を停車。運転席から降りてインターホンのボタンを彼女が押した。1分ぐらいしてから、年配の女の声が流れ出る。
「どなたです?」
「全国警察の研川です。三界学さんに、先日の事件でお話しを伺いに参ったのですが」
「それなら、こないだ別の刑事さんにお話しさせていただきましたわ」
「恐縮ですが亡くなられた重石さんも、容疑者の城間さんも大変有名な方ですので、所轄の警察だけでなく日本版FBIの全国警察でも、別の角度から捜査する話になったんです」
「ちょっとお待ちくださいね」
女の声がインターホンの向こうで、誰か男と話す声が聞こえてくる。しばらくすると、再び女が話しかけた。
「学はこちらでお話しします。門を開けますので車ごと中に入ってください。自動車は、空いてる所に止めてください」
正子はインターホンを離れ、運転席に戻った。やがて門がするすると横へ開いてゆく。正子は車を敷地内に入れ、中に駐車した。2人の刑事は車を降りる。見はからったように、ゲートが閉まりはじめた。
刑事達が玄関に向かうと高そうな着物を着た年配の女性が待ち受けている。
「ご苦労様です」
女性が深くお辞儀をして、刑事達をねぎらった。
「全国警察の日置です」
「日本版のFBIですってね。数年前創設されたのはテレビで観たけど、まさかうちにいらっしゃるなんて。いくら息子が推理小説を書いてるからって、こんな形で警察にご厄介になるなんて思いませんでしたわ。わたしは親友を殺された学が本当に不憫で不憫で……」
「失礼ですが、学さんのお母様ですか」
「そうですよ。三界京子(きょうこ)と申します」
京子は多分七〇代ぐらいである。育ちの良さそうな上品な雰囲気を醸しだしていた。
「ともかく入ってくださいまし。学が中で待ってますから」
二人は応接間に通された。そこにはすでに三界学の姿がある。
「三界です。本日は、遠くからお疲れ様です」
耳に心地よく響くやわらかな声で学がそう挨拶した。長身で、俳優のような美男子だ。
「全国警察の日置です」
手帳を見せながら、警部補があいさつした。
「こちらは同じく研川です」
正子も手帳を見せた。彼女の目は、明らかに学に見とれている。学がソファーを2人に勧める。刑事達は、その通りにした。
「単刀直入に伺います」
日置は話を切り出した。
「三界さんは、逮捕された城間さんが本当に犯人と考えてますか?」
三界は顔を固くして黙りこんでしまったが、やがて重々しく口を開いた。
「ぼくが丸島に行った時重石は殺されており、島には城間しかいませんでした。島にはカメラがあり、外から接近する船がいないか常時監視されてます。死角はありません。ぼくは城間と録画された動画を調べましたが重石が島に降り、その後城間がモーターボートを自分で操縦して島に来るまで、島への人の出入りは全くなかったんです」
「承知してます」
「そうですよね。その後沖縄県警さんも、動画を確認してますから。ぼくが呼んだので警察の方達が島中を調べましたが、ぼくと城間以外の人間は見つかりませんでした。警察が来るまでカメラのモニターを城間と一緒に観てましたが、誰かが丸島から出てく事はなかったです。なので重石が来る前に別の者が丸島に来たというのもありえないです」
「なるほどね」
「城間が東京へ行くため島を出て、3日後の月曜重石が丸島に来るまでの動画も調べましたが、侵入者は映ってませんでした。画像のデータは県警に提供して、そちらでも確認してます」
「沖縄県警にも質問されたと思いますが、当時の状況を最初からお話しいただきたいです。そもそもあなた方3人は、どうして丸島に集まったんです」
「次回作の打ち合わせです。執筆担当の城間は極端な人間嫌いで、以前は横浜の自宅で仕事してたんですが、たまに熱心なファンが家をつきとめて押しかけてくるのに嫌気がさし、都内のホテルで書くようになったんです。でもそれも不満で、突然離島に住むと言いだしたんです」
「城間さんは前々日の土曜開催されたパーティーに出るため東京に行ったんですよね?」
「普段あいつはその手の集まりに出ないけど、ぼくらがデビューした新人賞の選考委員だった作家さん主催の会で、出席を断れなかったんです」
三界が続けた。
「ぼくと、重石も出ました。翌日重石は1人で朝から大阪に行きました。あいつは単独で画集を出してますが、大阪の書店で奴単独のサイン会が日曜昼にあるのでパーティーを早めに退席し、夜のうちに大阪へ行ったんです。ぼくと城間は主催の作家さんに、翌朝までつきあわされました。その後ぼくも城間も一旦帰宅し、別々に飛行機で沖縄に行きました」
「城間さんと一緒の飛行機に乗らなかったんですね」
「城間に同じ飛行機で行こうと誘われたんですが、日曜は恋人と会う約束をして時間が読めなかったんで、城間に先に飛行機を予約するよう言ったんです。結局城間が予約した時刻の2時間後の便で沖縄に行きました」
「恐縮ですが、その恋人の名前と電話と住所を教えてください」
「大丈夫ですよ」
三界は自分のスマホに登録された女性の名前と住所と電話番号をメモ紙に書き移して、日置に渡す。後で調査したが、日曜に三界が恋人と会っていたのは事実だった。
「沖縄からはご自分のモーターボートを操縦して、1人で丸島へ行かれたんですね」
「そうです。午前10時沖縄本島を出て、昼12時に丸島に着きました。西館で打ち合わせする手筈だったので西館に行きました。港から西館まではむきだしの地面で、前夜の雨でぬかるんでました。靴跡は2種類しかなく、当然ぼくは重石と城間の物だと思いました。実際沖縄県警さんが調べた結果それは立証されました。途中で城間が現れました」
「城間さんはどんな服でした?」
「白いTシャツに、同じ色の短パンです」
「洋服に血痕はなかったですか」
「なかったです。なのでその時はまさか、城間が重石を殺したとは思いませんでした。城間の話だと西館で重石が殺されてるというので、ぼく1人で行きました」
「1人で行ったのはなぜですか? 西館に犯人がいる可能性がありますよね。2人で行った方が安全だったのでは」
「何かの間違いかと思ったんです。そうでしょう? 平和な日本で殺人なんて、自分の周囲で起こるなんて、考えないですよ。しかも場所は離島ですし。転んで頭を打ったのを、殺されたのと勘違いしてると考えたんです」
三界はつばを飛ばしながら主張する。
「それに城間はびびってて、とてもじゃないけど連れてける状態ではなかったです。あいつ、小心者なんで」
三界は、肩をすくめてみせた。
「なんで1人で行ったら西館の玄関は開放状態で、強烈な悪臭がしました。玄関入ってすぐの応接室のドアも開放状態で、室内で重石がうつぶせに倒れてました。後頭部は血まみれで、ボールに当てる部分が血に染まったゴルフクラブがありました」
「城間さんは、ゴルフをおやりになるんですか?」
「やりません。ゴルフクラブは、城間が丸島に住む前からあったんです。島のオーナーが以前たまに丸島でゴルフの練習をしてたそうですから。城間が住んでからオーナーは来なくなりましたが、クラブは室内の誰もがわかる場所に置きっぱなしでした。遺体を確認した後ぼくは自分のボートに戻り無線で警察を呼んだんです」
「無線を入れたのは何時ですか?」
「昼の12時半を過ぎてました。警察の船が到着したのは午後2時40分です」
「仮に城間さんが犯人として、動機は何でしょう?」
「わかりませんが以前から、重石がイラストレーターとして独自の活躍をしてるのが気に入らないような事を城間が話してました」
「そんなのが、動機になりますか?」
「わからないです。今も城間が犯人と信じたくありません。ただ奴は友人が少ないせいか、重石が独自の活躍をして、他の業界にも友達がいるのが気にいらないふしはありました」
「もし城間さんが犯人なら、彼は自分で自分の首をしめるような行為をやってると思いませんか? 本来なら自分に容疑がかからないよう例えば防犯カメラを壊し、カメラの死角から別の人物が島に侵入したように見せかけるとかすればよかったですよね」
「計画的な犯行ではなかったんじゃないかと。西館に2人でいる時口論になり、重石が後ろを向いた時城間は反射的にゴルフクラブで重石を殺したがそれを認めたくないので『来た時殺されてた』と言いはってるんじゃないでしょうか。沖縄県警がそう判断したはずですが」
「仮に城間さんが犯人じゃないとして、他に思い当たる人はいますか?」
「いませんね。重石は誰とでも仲良くなれる気さくな男で、敵がいたなんて想像つかないです。奥さんとの関係も良好でした」
「推理作家としての意見をお伺いしたいのですが、今回のような城間さん以外の犯人がありえない状況で別の人物が重石さんを殺せる方法を考えつきませんか」
「無理です。ぼくらの作品に出る探偵みたく名推理を披露したいですが、現実はそういきません」
三界は苦笑した。
「ちなみに失礼を承知で話しますが、亡くなった重石さんは重城三昧を解散して、あなたとは手を切ろうとしてたそうですね」
日置の言葉に、三界は頭を殴られたような顔をした。その目は鋭くこちらを睨む。警部補は、後を続ける。
「理由はあなたがプロットをなかなか出さないのと、元奥さんへのDVに怒っておられたとか」
「確かに元妻を殴ったのについては反省してます。百パーセントおれが悪かったです。なので彼女にも謝ったし、ツイッターでも公開で読者の方にも謝罪しました」
「週刊誌では殴った理由として、元夫人があなたの浮気を責めたからと書いてましたね。あなたは当時複数の愛人がいて、多額の金を愛人とギャンブルと株につぎこみ、投資は失敗し巨額の借金を抱えてましたね。そのせいで消費者ローンや複数の知人から金を借りてたのが、警察の調べでもわかってます」
先程までのさわやかな笑みはどこにいったのか、燃えるような目で、三界は日置を睨みつけたが、しばらくすると少し落ち着いたようで、重々しく口を開く。
「おっしゃる通りです。全ておれが悪かったです」
「数年前からプロットを書かず、重石さんと城間さんが代わりに書いていたそうですね。重城三昧に執筆を依頼してた複数の編集者から聞いてます」
「スランプです。本当に悪かったと反省してます。でも、借金は返せる目途がついたんです。今度別の作家とおれと2人で本を出すんです。その本を出すのと引き換えに瑞穂書房が借金を肩代わりしてくれます。この話は、重石が死ぬ前に出てます。有本さんも知ってます」
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