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第四章 傷痕編
97話 獅子と舞姫
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「ふぅ……来てくれて助かった。ナイアリス」
「べ、別に良いわよ。それぐらい」
夜もすっかり更け、森の中で修行していたレオは胡座で座りながら助っ人に礼を言う。
マーダラービーとのエンドレス回避修行を終わるに終われなかったレオを助けたのは、先日のゴブリン事件でクロトや雨刃と共に名乗りを上げた冒険者〈舞姫〉のナイアリスだった。
アイゼンウルブスを拠点として活動している彼女だが、一言で言うなら「レオに付いて来た」のである。だが、極度の方向音痴であるナイアリスがレオに気付かれない距離でレオに着いて行く事など不可能に近い。
魔王との激戦が繰り広げられていた時にはアイゼンウルブスの周りを何周も何周もぐるぐると彷徨っていた。
そして今日の昼間、やっとこさブルーバードにたどり着いたのである。その時丁度レオは森に入る途中で、当然の如く着いて行ったわけだが、そこでも迷った。
「どんなけ道に迷うんだよ……ブッ! ハッハッハッ」
「そんなに笑わなくてもいいでしょっ!」
「……そういえばお前、また喋り方変わったな」
「そ、そう?」
「ああ、でも……自然でいいと思うぞ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「褒めてない。……で、森に入った後はどうしたんだよ。まさかこの時間まで見て放置してたのか?」
「そんなわけ……レオをまっすぐ追いかけてたけど見失ったのよ」
「ブッ……どうやったら見失うんだよ……」
「そ、それは……」
「あーやめてくれやめてくれ。腹がよじれて死にそうだ」
頬を膨らませてプンスカ怒っているナイアリスの隣でレオはゲラゲラ笑い転げている。
クロトやシエラが今のレオを見れば別人かと疑うだろう。それだけナイアリスにはレオの素を出させる何かがあり、レオも不思議のうちに心を開いてしまっていた。
「大変だったんだからね! 何故か森の中で〈紅の伝説〉に会うし……まぁそれに驚いて逃げた先にレオが居たわけだから、半分〈紅の伝説〉のお陰でもあるけど」
「紅の伝説か……」
「勝負は私も見てたわよ」
「そうか……」
じーっと一点を見つめ、考えているレオ。チラチラ見ながらナイアリス。
遂に我慢出来なくなったのか、大きく身を乗り出してレオの視界に無理矢理入る。だがそれでもレオを思考の中から呼び戻す事は出来ない。
そんな状態が十分は続いただろうか……
「おい……」
「くぴー」
「寝たのか?」
「…………ぐぅ」
「しゃーねーな」
木にもたれかかったまま寝てしまったナイアリスを唯一銀月と共に持って来ていた毛布で包み、レオ自身は銀月を地面に突き刺し仁王立ちで構える。
魔物は夜、活発になる奴も多いからだ。
「これはこれで修行になりそうだ」
◇
「ふぁ~」
そして朝、目覚めたナイアリスがグーッと伸びをしながら目を開けると、緑が青々と茂る森の風景……ではなく、周囲一面が赤く染まった殺人現場の様な風景が飛び込んで来る。
「え……なにこれ……」
巨大な蜂やら熊やらの死体が何十体も転がり、地面はそいつらの血で真っ赤。その中で立つレオに、ナイアリスはすぐに駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
「起きたか。もう少し寝てても良かったぜ」
レオも返り血でほぼ全身真っ赤だが、ナイアリスに笑いかけた。レオにとってどういう意味の笑顔かはナイアリスには推し量れなかったが、少なくともナイアリスににこやかに笑いかけたわけではなく、戦闘本能から来る笑みだという事は理解出来た。
一晩中戦い続けていたレオだが、幸いにも外傷は負っておらず、疲労でフラフラしてはいるが、命に別状は無さそうだ。
「もしかして……私が寝てからずっと戦ってたの!?」
「ん? まぁな」
「ば……バカじゃないの!」
「なに、誰が馬鹿だと」
「なんで、私は起きなかったんだ……」
ナイアリスは祖父に厳しく鍛えられたおかげもあり、戦闘センスや野生の勘は普通の人よりも鋭い。逆に言えば、そのナイアリスが気づかなかったほど夜の戦闘は静かに行われていた。
「起こしたら悪いと思ってな」
「……もぅ」
「とは言え流石に疲れた。ブルーバードに帰る。お前も来るか?」
「……も、もちろんよ! 一人で行かせられないわ」
「そうか」
ナイアリスはフラフラと歩くレオに駆けていき、肩を貸す。
「そういえばお前、その剣珍しいよな」
レオはナイアリスの腰に三本付けられている三日月刀をちらりと見ながら言う。
「まぁね、おじいちゃんが使ってたの」
「へぇ、でも使うのは二本だろ? なんで三本も……」
「おじいちゃんの教えで、剣が折れても戦えるようにって」
「ならもっと持ってた方がいいんじゃないか?」
「いや、それが『折れても三本目まででケリをつけろ!』って……」
「へぇ……強かったのか? そのおじいちゃんってのは」
「四十年前になるけど、帝国で将軍をしていたのよ」
「何?」
「華将軍サルバンザ・レヴァン……帝国の軍事体制が大きく変わった丁度その時期の将軍なのよ」
「それは……一度戦いたいもんだ」
「残念ながらおじいちゃんは……」
「……悪い」
「農業にハマっちゃって、野菜を育てることに余生を注いでるわ」
「……悪い」
「そろそろ見えてきたわよ」
「随分久しぶりな気がするな」
「一夜明けてるわけだしね……」
無事に森から抜け出したレオとナイアリスは丁度ブルーバードから出てきたクロトとばったり出会い、少しだけ話の花を咲かせた。
◇
「ア? 修行?」
「ああ」
リンリとの話を終えた次の日。俺は雨刃に修行相手をお願いした。
今日は朝から血まみれのレオと何故か一緒に居た〈舞姫〉と会ったりで朝から忙しかったが、昼頃やっと雨刃を捕まえた。
「ナンデ俺ガソンナ事……」
「頼む! お前ほどスピードに特化した強さを持つ奴を俺は見た事がない」
「ン? ソウカ?……仕方ネェナ」
渋々椅子から立ち上がった雨刃はボリボリと頭を掻きながらブルーバードを出た。頭と言っても包帯でぐるぐる巻になっているのでボリボリという効果音は間違ってるかもしれないが。
因みに普段のブルーバードなら昼間は無人だが、〈シルク・ド・リベルター〉が滞在しているおかげで昼間も賑わいがある。
「雨刃が人と訓練? 面白そうだボーン」
「そうだね、僕達も見に行こう」
シルクハットを被った長身のボーンマン。そしてすらっとした爽やか系イケメンの……誰だこいつ。
「その顔は誰だこいつって感じだね」
「その声……もしかして」
「グラブスだよ」
ま、まじかよ。
だって、グラブスってピエロでメタボで……とても同一人物には見えない。
「はははっ、初めての人にはよく驚かれるよ。仕事の時は特殊なマスクや衣装を着ているんだよ」
「へぇ……そうだったのか」
「うん、改めてよろしくね」
「あ、ああ……」
ピエロメイクぽっちゃり優男が爽やかイケメンだったとは……っと、そんな事より修行だ。
「デ? 何ヲスルンダ?」
「そうだな……最初はアップがてら、十本程度の片手剣で俺を攻撃し続けてくれ。ある程度スピードは落としてくれると助かる」
俺はテンペスターとシュデュンヤーを抜き、雨刃に頼む。雨刃はすぐに了解し、片手剣を十本浮遊させて構える。
「行クゼ」
雨刃の掛け声と共に十本の剣が一斉に迫る。
流石に致命傷は狙ってこないと思うが、雨刃は顔が片目以外隠れているので表情は読みづらい。その上こいつもレオと同じ人種だ。訓練で楽しくなって平気で殺しに来ても、あまり不思議はない。
「ッ……!」
「ホゥ?」
先行してきた二本の剣を両手の剣でそれぞれ弾き、次にまとめて飛んでくる四本をシュデュンヤーで牽制しつつ、テンペスターで叩き落とす。
「反応速度ガ上ガッテルナ」
残り四本が視界の斜め右上左上右下左下から迫ってくるのを瞬動術で後ろへ下がって回避する。
四本の片手剣は虚空を斬り裂いてお互いにぶつかり、空中衝突を起こす。だが休む間は無い。既に六本の片手剣が後ろから迫っているからだ。
「おらぁ!」
シュデュンヤーとテンペスターをスピード任せに振り、なんとか片手剣を防ぐ。
俺に今に足りないのは雷化・天装衣を発動した時、持続させる体力。あとは雷の速度についていける目と体。
根本的にパワーアップしなければ地獄で技を身に着けても活かせていない。
「おお、これはすごいボーン」
「クロト君と雨刃君、ほぼ互角じゃないか」
互角じゃねぇ!
外野の声を聞きながら心の中で叫ぶ。
確かに俺が十本の片手剣を防いでいるように見えるかもしれないが実際は違う。同時に攻めてくるのは必ず六本以下だし、残りの四本はいつでも急所を刺せるのに様子を見ている。
それだけじゃない。俺は六本ですら防ぎ切れず腕や足に被弾している。
「単純な剣じゃこの程度か……」
「五本追加ナ」
更に激動を増す剣撃に俺も全力の全力で応える。が、やはり圧倒的にスピード不足。
「こうなりゃ……」
〈雷化・天装衣〉
雷化し戦線を離脱。直後雨刃の側面に回り込んで斬りかかる。だが、当然の如くそれはマントにくっついている片手剣に防がれる。マントから離れた片手剣の数は五本。これで総数は二十本。
「まだまだァ!!」
俺は雷速で雨刃の周りを円形に駆け抜け全身に斬撃を放つ。だが、片手剣に軽く防がれ、本体に当たる様子は無い。
獄化・地装衣を使えばこの片手剣を砕き、雨刃にダメージを与える事は出来るだろうがそれはダメだ。
それで解決すればこれからも獄化・地装衣に頼ってしまう。そこまでして雨刃を倒したいわけでもないし。
そもそも雷化・天装衣を使った時点でこの修行は破綻してるわけで……つい熱くなって使っちまったがこれじゃ意味がないよな。
「俺モ技名トカ欲シイナ」
全身から高速連撃を浴びつつも雨刃は呑気にそんな事を考えている。だが雨刃の戦闘スタイル上、そもそも“技”という概念があるのかどうか……
俺は最後に数回斬撃を放って動きを止めた。
「ふぅ……」
雨刃が鉄壁の守りに切り替えた時点で俺の勝ち目はほぼ無くなってるし、これ以上雷化・天装衣を使ったままの修行は意味が無い。基礎的な訓練もしなきゃいけないしな。
雷化・天装衣を解除し、地面に座り込む。短期間ではあるがやはり雷化はかなりの疲労を伴う。
「なかなか面白かったボーン」
「クロト、良かったら僕達も協力しようか? 色んなタイプと戦った方が、経験になると思うんだ」
「ああ、それはありがたい……けど、お前ら戦えるのか?」
「任せるボーン」
俺はボーンマンとグラブスに礼を言いながら少し考える。
身体能力を向上させるついでに、基礎の技を見直した方が良いかもな……雨刃の技云々の時に急に思い立った。
まぁ、雨刃本人は片手剣を回しながらブツブツ言ってるし、狙ったわけでもなさそうだが……というか真剣に技名考えてるのかよ。
「べ、別に良いわよ。それぐらい」
夜もすっかり更け、森の中で修行していたレオは胡座で座りながら助っ人に礼を言う。
マーダラービーとのエンドレス回避修行を終わるに終われなかったレオを助けたのは、先日のゴブリン事件でクロトや雨刃と共に名乗りを上げた冒険者〈舞姫〉のナイアリスだった。
アイゼンウルブスを拠点として活動している彼女だが、一言で言うなら「レオに付いて来た」のである。だが、極度の方向音痴であるナイアリスがレオに気付かれない距離でレオに着いて行く事など不可能に近い。
魔王との激戦が繰り広げられていた時にはアイゼンウルブスの周りを何周も何周もぐるぐると彷徨っていた。
そして今日の昼間、やっとこさブルーバードにたどり着いたのである。その時丁度レオは森に入る途中で、当然の如く着いて行ったわけだが、そこでも迷った。
「どんなけ道に迷うんだよ……ブッ! ハッハッハッ」
「そんなに笑わなくてもいいでしょっ!」
「……そういえばお前、また喋り方変わったな」
「そ、そう?」
「ああ、でも……自然でいいと思うぞ」
「ほ、褒めても何も出ないわよ!」
「褒めてない。……で、森に入った後はどうしたんだよ。まさかこの時間まで見て放置してたのか?」
「そんなわけ……レオをまっすぐ追いかけてたけど見失ったのよ」
「ブッ……どうやったら見失うんだよ……」
「そ、それは……」
「あーやめてくれやめてくれ。腹がよじれて死にそうだ」
頬を膨らませてプンスカ怒っているナイアリスの隣でレオはゲラゲラ笑い転げている。
クロトやシエラが今のレオを見れば別人かと疑うだろう。それだけナイアリスにはレオの素を出させる何かがあり、レオも不思議のうちに心を開いてしまっていた。
「大変だったんだからね! 何故か森の中で〈紅の伝説〉に会うし……まぁそれに驚いて逃げた先にレオが居たわけだから、半分〈紅の伝説〉のお陰でもあるけど」
「紅の伝説か……」
「勝負は私も見てたわよ」
「そうか……」
じーっと一点を見つめ、考えているレオ。チラチラ見ながらナイアリス。
遂に我慢出来なくなったのか、大きく身を乗り出してレオの視界に無理矢理入る。だがそれでもレオを思考の中から呼び戻す事は出来ない。
そんな状態が十分は続いただろうか……
「おい……」
「くぴー」
「寝たのか?」
「…………ぐぅ」
「しゃーねーな」
木にもたれかかったまま寝てしまったナイアリスを唯一銀月と共に持って来ていた毛布で包み、レオ自身は銀月を地面に突き刺し仁王立ちで構える。
魔物は夜、活発になる奴も多いからだ。
「これはこれで修行になりそうだ」
◇
「ふぁ~」
そして朝、目覚めたナイアリスがグーッと伸びをしながら目を開けると、緑が青々と茂る森の風景……ではなく、周囲一面が赤く染まった殺人現場の様な風景が飛び込んで来る。
「え……なにこれ……」
巨大な蜂やら熊やらの死体が何十体も転がり、地面はそいつらの血で真っ赤。その中で立つレオに、ナイアリスはすぐに駆け寄った。
「だ、大丈夫!?」
「起きたか。もう少し寝てても良かったぜ」
レオも返り血でほぼ全身真っ赤だが、ナイアリスに笑いかけた。レオにとってどういう意味の笑顔かはナイアリスには推し量れなかったが、少なくともナイアリスににこやかに笑いかけたわけではなく、戦闘本能から来る笑みだという事は理解出来た。
一晩中戦い続けていたレオだが、幸いにも外傷は負っておらず、疲労でフラフラしてはいるが、命に別状は無さそうだ。
「もしかして……私が寝てからずっと戦ってたの!?」
「ん? まぁな」
「ば……バカじゃないの!」
「なに、誰が馬鹿だと」
「なんで、私は起きなかったんだ……」
ナイアリスは祖父に厳しく鍛えられたおかげもあり、戦闘センスや野生の勘は普通の人よりも鋭い。逆に言えば、そのナイアリスが気づかなかったほど夜の戦闘は静かに行われていた。
「起こしたら悪いと思ってな」
「……もぅ」
「とは言え流石に疲れた。ブルーバードに帰る。お前も来るか?」
「……も、もちろんよ! 一人で行かせられないわ」
「そうか」
ナイアリスはフラフラと歩くレオに駆けていき、肩を貸す。
「そういえばお前、その剣珍しいよな」
レオはナイアリスの腰に三本付けられている三日月刀をちらりと見ながら言う。
「まぁね、おじいちゃんが使ってたの」
「へぇ、でも使うのは二本だろ? なんで三本も……」
「おじいちゃんの教えで、剣が折れても戦えるようにって」
「ならもっと持ってた方がいいんじゃないか?」
「いや、それが『折れても三本目まででケリをつけろ!』って……」
「へぇ……強かったのか? そのおじいちゃんってのは」
「四十年前になるけど、帝国で将軍をしていたのよ」
「何?」
「華将軍サルバンザ・レヴァン……帝国の軍事体制が大きく変わった丁度その時期の将軍なのよ」
「それは……一度戦いたいもんだ」
「残念ながらおじいちゃんは……」
「……悪い」
「農業にハマっちゃって、野菜を育てることに余生を注いでるわ」
「……悪い」
「そろそろ見えてきたわよ」
「随分久しぶりな気がするな」
「一夜明けてるわけだしね……」
無事に森から抜け出したレオとナイアリスは丁度ブルーバードから出てきたクロトとばったり出会い、少しだけ話の花を咲かせた。
◇
「ア? 修行?」
「ああ」
リンリとの話を終えた次の日。俺は雨刃に修行相手をお願いした。
今日は朝から血まみれのレオと何故か一緒に居た〈舞姫〉と会ったりで朝から忙しかったが、昼頃やっと雨刃を捕まえた。
「ナンデ俺ガソンナ事……」
「頼む! お前ほどスピードに特化した強さを持つ奴を俺は見た事がない」
「ン? ソウカ?……仕方ネェナ」
渋々椅子から立ち上がった雨刃はボリボリと頭を掻きながらブルーバードを出た。頭と言っても包帯でぐるぐる巻になっているのでボリボリという効果音は間違ってるかもしれないが。
因みに普段のブルーバードなら昼間は無人だが、〈シルク・ド・リベルター〉が滞在しているおかげで昼間も賑わいがある。
「雨刃が人と訓練? 面白そうだボーン」
「そうだね、僕達も見に行こう」
シルクハットを被った長身のボーンマン。そしてすらっとした爽やか系イケメンの……誰だこいつ。
「その顔は誰だこいつって感じだね」
「その声……もしかして」
「グラブスだよ」
ま、まじかよ。
だって、グラブスってピエロでメタボで……とても同一人物には見えない。
「はははっ、初めての人にはよく驚かれるよ。仕事の時は特殊なマスクや衣装を着ているんだよ」
「へぇ……そうだったのか」
「うん、改めてよろしくね」
「あ、ああ……」
ピエロメイクぽっちゃり優男が爽やかイケメンだったとは……っと、そんな事より修行だ。
「デ? 何ヲスルンダ?」
「そうだな……最初はアップがてら、十本程度の片手剣で俺を攻撃し続けてくれ。ある程度スピードは落としてくれると助かる」
俺はテンペスターとシュデュンヤーを抜き、雨刃に頼む。雨刃はすぐに了解し、片手剣を十本浮遊させて構える。
「行クゼ」
雨刃の掛け声と共に十本の剣が一斉に迫る。
流石に致命傷は狙ってこないと思うが、雨刃は顔が片目以外隠れているので表情は読みづらい。その上こいつもレオと同じ人種だ。訓練で楽しくなって平気で殺しに来ても、あまり不思議はない。
「ッ……!」
「ホゥ?」
先行してきた二本の剣を両手の剣でそれぞれ弾き、次にまとめて飛んでくる四本をシュデュンヤーで牽制しつつ、テンペスターで叩き落とす。
「反応速度ガ上ガッテルナ」
残り四本が視界の斜め右上左上右下左下から迫ってくるのを瞬動術で後ろへ下がって回避する。
四本の片手剣は虚空を斬り裂いてお互いにぶつかり、空中衝突を起こす。だが休む間は無い。既に六本の片手剣が後ろから迫っているからだ。
「おらぁ!」
シュデュンヤーとテンペスターをスピード任せに振り、なんとか片手剣を防ぐ。
俺に今に足りないのは雷化・天装衣を発動した時、持続させる体力。あとは雷の速度についていける目と体。
根本的にパワーアップしなければ地獄で技を身に着けても活かせていない。
「おお、これはすごいボーン」
「クロト君と雨刃君、ほぼ互角じゃないか」
互角じゃねぇ!
外野の声を聞きながら心の中で叫ぶ。
確かに俺が十本の片手剣を防いでいるように見えるかもしれないが実際は違う。同時に攻めてくるのは必ず六本以下だし、残りの四本はいつでも急所を刺せるのに様子を見ている。
それだけじゃない。俺は六本ですら防ぎ切れず腕や足に被弾している。
「単純な剣じゃこの程度か……」
「五本追加ナ」
更に激動を増す剣撃に俺も全力の全力で応える。が、やはり圧倒的にスピード不足。
「こうなりゃ……」
〈雷化・天装衣〉
雷化し戦線を離脱。直後雨刃の側面に回り込んで斬りかかる。だが、当然の如くそれはマントにくっついている片手剣に防がれる。マントから離れた片手剣の数は五本。これで総数は二十本。
「まだまだァ!!」
俺は雷速で雨刃の周りを円形に駆け抜け全身に斬撃を放つ。だが、片手剣に軽く防がれ、本体に当たる様子は無い。
獄化・地装衣を使えばこの片手剣を砕き、雨刃にダメージを与える事は出来るだろうがそれはダメだ。
それで解決すればこれからも獄化・地装衣に頼ってしまう。そこまでして雨刃を倒したいわけでもないし。
そもそも雷化・天装衣を使った時点でこの修行は破綻してるわけで……つい熱くなって使っちまったがこれじゃ意味がないよな。
「俺モ技名トカ欲シイナ」
全身から高速連撃を浴びつつも雨刃は呑気にそんな事を考えている。だが雨刃の戦闘スタイル上、そもそも“技”という概念があるのかどうか……
俺は最後に数回斬撃を放って動きを止めた。
「ふぅ……」
雨刃が鉄壁の守りに切り替えた時点で俺の勝ち目はほぼ無くなってるし、これ以上雷化・天装衣を使ったままの修行は意味が無い。基礎的な訓練もしなきゃいけないしな。
雷化・天装衣を解除し、地面に座り込む。短期間ではあるがやはり雷化はかなりの疲労を伴う。
「なかなか面白かったボーン」
「クロト、良かったら僕達も協力しようか? 色んなタイプと戦った方が、経験になると思うんだ」
「ああ、それはありがたい……けど、お前ら戦えるのか?」
「任せるボーン」
俺はボーンマンとグラブスに礼を言いながら少し考える。
身体能力を向上させるついでに、基礎の技を見直した方が良いかもな……雨刃の技云々の時に急に思い立った。
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仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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