最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第四章 傷痕編

105話 雷神襲来

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「おー、やってんなー」


 ブルーバードから出ると、アジェンダとレオが激しく暴れまわっていた。レオの小手先から繰り出される細かい技を巨斧で捌くアジェンダ。どう考えても質量を無視しているように見えるが……
 アジェンダは細身なのでそこまで筋肉があるようには見えないし、普通無理だと思うんだが、それを可能にしてしまう何かがアジェンダがオリハルコン級に認定された理由なんだろうな。


「あ、起きたんだ」

「ナイアリスか。なんだか久しぶりな気もするな」

「約一日会ってなかったからね。昨日は大活躍だったって聞いたよ」

「そんな事ねーよ。結局雨刃に助けられなかったらやばかったしな」

「レオが話を聞いた時、『俺じゃそいつには勝てそうにないな』って珍しく褒めてたよ」


 似てるのか似ていないのか微妙なラインのレオの真似でナイアリスが教えてくれる。


「確かに相性は悪いかもな」


 単純な斬撃じゃアンノウンの再生速度が速すぎてジリ貧になる。でもレオなら硬い筋肉ごと核を斬り裂けそうだけどな。


「もう修行?」

「ああ、こういうのは継続が一番大事だからな。レオが終わったら俺もアジェンダに模擬戦してもらうかな」

「あんた達そういうの好きね~」


 ナイアリスは半分呆れながらも、レオとアジェンダの戦いを真剣に見つめている。レオが終わったタイミングで俺もアジェンダに模擬戦を頼んだ。結果は惨敗したが、それでも着実に修行の成果を実感出来る良い機会だった。





「サテ、一日ブリダナ」


 その夜。珍しくブルーバードは閉まっており、店内には普段のメンバーしかいない。
 椅子に縛り付けられ、マスターボウの風の結界で力を封じられた色彩魔女をみんなで囲っている。
 あの時は気づかなかったが、エヴァと同じ金髪で顔立ちも整っている。これからなんの目的で魔族がこの大陸にいるのかを聞き出すわけだが、直感ではあまり喋ってくれなさそうな気がする。


「…………」

「正直ニ答エロヨ。オ前ラハ何ダ? 何ノ目的デ来タ?」

「…………」


 色彩魔女はそっぽを向いたまま喋る様子はない。雨刃のマントから片手剣が離れ、何十本もの剣先が色彩魔女を向く。
 加えて交代するようにマスターボウが前に出て色彩魔女の顔を覗き込み、ニッコリと笑う。


「貴女が寝てる時、『計画のために……私は帰らねば……計画に……』って呟いてたけど、生きて帰りたいんだったらここで素直に喋ったほうがいいわよ~? 忘れたわけじゃないと思うけど、貴女の仲間であろう真っ白な魔族は殺しちゃってるのよん」


 この寝言は事実言っていた。が、逆にそこまで決意が固ければ喋るぐらいなら死を、とか言いそうだが。


「……! わかったわ」


 少し驚いたような素振りを見せた後、諦めたように肩を下げた。


「んん~いい子ね。貴女の名前は?」

「ラプツェラ」

「ラプツェラね、いい名前だわ」





 魔族領。大魔人達の根城では大魔人と四魔王のリヴァが机を囲んでいた。そこへ来客が現れる。


「ジガルゼルド」

「その声はフランケンポールか。ここまで来るとは珍しい」

「待っていても君は来なさそうだからね」

「こ、これはフランケンポール様」


 四魔王のうち、唯一その場にいるリヴァが慌てて頭を下げる。
 フランケンポールは相変わらずの白衣メガネスタイルで、いつの間にか後ろに控えているレイヴンも相変わらず神出鬼没だ。


「例の作戦だが、アリゲインが上手くやったようだ。あとはその時を待つだけ」

「加勢は?」

「必要ないよ。ただ、少し貸してほしい物と最後の調整がしたい」

「わかった、あとで行こう。俺からも少し話があったところだ」

「へぇ、何だい?」

「“正体不明”と“赤鬼”が死んだ。“色彩魔女”も捕らわれたらしい」

「大変じゃないか。前者の二人は補充出来るとしても彼女は計画の要だろう?」

「ああ、あいつを失えば根本から計画を変えなければならない。来たる第二次魔人大戦のな」

「す、少しいいでしょうか。大魔人様、フランケンポール様」

「君も確か計画の要だったよね」

「なんだ、リヴァ」

「その、“正体不明”や“色彩魔女”とは誰の事でしょうか? そしてその計画というのは……」

「ああ、話していなかったな。“正体不明”、“色彩魔女”、“赤鬼”は第一次魔人大戦、つまり数十年前にお前達が全てを奪われた戦いで生き残った八人の魔族、そのうちの三人だ。そして作戦というのは……」





「そんな魔族の生き残りがどうして今更この大陸へ? しかも三人だけで」

「……少し鬱憤が溜まったから人間相手に発散しに来ただけよ」 

「少しいいか」

「どうしたのん? クロトちゃん」


 こいつは大魔人や四魔王にも近い魔族。もしかすればあの事について詳しいかもしれない。


「お前の知ってる魔族で魔物を操れる奴はいるか?」

「……いないわ」

「じゃあ五年前、俺の村が襲われた事を知ってるか?」

「なんて言う村かしら?」

「リブ村……東の地にあるそれなりに栄えていた村だ」

「残念ながら知らないわ」

「……そうか」

「尋問を続けるわね」





「そ、そんな計画をすでに練られていたのですね……」

「君達にもいずれ詳しく話す時が来るはずだよ。それよりジガルゼルド、どうする?」

「捕らわれたなら助けるしか無い。さっきも言ったがあいつは要。加えてあいつの調査結果も聞かなければならない」

「しかしなぜ捕まったとわかったのですか?」

「僕が作った意思送受石を持ってるからさ。対となる石を持っている者同士は簡単な会話ができるんだよ」

「なるほど……」

「しかし面倒だな。ラプツェラの情報が正しければオリハルコン級が二人、その他にも手練が勢揃いしている。助けるだけでもかなり激戦になる」

「僕達が数で攻めてもラプツェラが居なければ接近をすぐに気取られるからね。奇襲もほぼ意味をなさないだろう」

「アレを使うのはどうでしょうか? 数十年前から切り札としてずっと傍らに置いてきましたが、アレならば……」

「……今どこに置いている?」

「幸いにも大陸に置いてありますので、アレの速度を持ってすれば数分で辿り着けるかと」

「よし、それを使え。後はリヴァに任せる。俺はフランケンポールと共に一度ここを離れる」

「御意」





 時は深夜。ブルーバードの正面入口を睨みつけるように立っている一人の男がいた。距離にして五十メートル以上は離れている。男は上裸で、腰には二本の片手剣をさしている。
 年齢はその若々しい肉体から四十代にも見えるが、体に対し顔にはシワも多い。だが筋肉で盛り上がった体は老人のそれではない。
 白髪を後ろで一つ結びにしており、鋭い目付きは歴戦の戦士も怯むほどの眼光を放っている。


〈雷槍〉


 男の手の平から放電した雷は槍状に変化し、男の手に収まる。そのまま槍投げの構えを取り、ブルーバード目掛けて投げつける。
 雷槍は狙い通り正面入口に激突。入口を中心に爆発を引き起こし、ブルーバードが半壊するという圧倒的な威力を見せた。





 時は少し遡る。
 ラプツェラの尋問を終えた俺達は一つのテーブルを囲んでいた。メンバーは俺、リンリ、レオ、ナイアリス、マスターボウ、雨刃、アジェンダの計七人。シエラはまだ疲れが取れないらしく、下の部屋で寝ている。月之女神アルテミスしき魔法陣まほうじんはそれだけ体力と魔力を使うらしい。〈シルク・ド・リベルター〉の他メンバーはセントレイシュタンに張ってあるテントに居るので、ここには来ていない。
 カウンターにはレッグとヴァランがラプツェラを見張るついでに店内の掃除をしている。


「ちょっと、いい加減縄をほどきなさいよ」


 尋問を終えて五分程度経った頃、ラプツェラが騒ぎ出したが、雨刃が片手剣一本を喉元に突き付け「黙ッテロ」で大人しくなった。


「皆はどこまでが本当だと思うのん?」

「“計画”トヤラノ為ニナントシテモ生キテ帰ルト誓ッテイル奴ガ本当ノ情報ヲペラペラ話ストモ思エン」

「俺も雨刃と同意見だ。ただ、ここへ来た三人の魔族については特徴が当てはまった、少なくともそこは本当だろう」


 アンノウンことジャエレダとラプツェラの他にももう一人エンデルという魔族が来ていたらしい。
 偶然だが、そのエンデルという男はレオ達が倒していたのだ。つまり生き残っているのは色彩魔女のみ。嘘をついてもバレないが、ここで嘘をついていないのなら多少は信じる余地がある。


「私は計画についてだんまりだった事からその他の情報は多少信じてもいいと思うわよん」

「アア、ダガソレニシタッテ不審ナ点ハ多イゼ?」

「周辺の調査と可能なら強力な冒険者の排除ってやつか」

「あいつが誰に従って動いてるのかはわからないが、魔族がそれをさせる目的ってのは……」

「マァ、戦争ダロウナ。特ニ大魔人ハ数十年前ノ戦争デ人間ヘノ強イ憎悪ヲ持ッテシマッテイル」

「今まで身を潜めてたのも戦力が揃うまでだとしたら、相手に有利な戦争が始まる」

「そもそも帝国で始まった心臓狩り、それに続くように各地の襲撃が始まったわ。それを全て戦争への準備だとしたらとっても厄介だわ~」

「アア、皇帝ニデモ報告スル……ン? 今何カ光ッ……」

「伏せろ!」


 直後、巨大な地響きと共に壁が吹き飛び、全員の体にビリビリと電流が流れる。
 ブルーバードの壁と屋根が半分以上吹き飛び、全員がその衝撃で店の奥へ投げ飛ばされる。
 テーブルは割れ、爆風でグラスもいくつか割れている。その場にいた九人は咄嗟に伏せた事である程度は防げたが、突然の事で頭が混乱している。


「皆、無事カ!」

「なんだ、何が起きた?」

「ゴミが目に入って目が開けられん」

「お、俺の店が……」


 煙の合間から見えた景色は光り輝く夜空と遠くに見える森、そして森の前に立っている一人の男。
 それがブルーバードの“中”から見えているのだ。
 壁は一面が吹き飛び、屋根も半分ほどなくなっている。周りのテーブルや椅子も壊れ、辺りには瓦礫が散っている。


「アレハ……俺ノ目ガ死ンデナイナラアレハ恐ラク……」

「誰だよ、あれ」

「ナンダ、知ラナイノカ?」

「あれは先代皇帝、デルダイン・エルトリア!?」

「あ、ありえねぇ」

「ヴァラン?」

「デルダイン皇帝は数十年前の戦争で死んだはず……正確には行方不明だが、生存している可能性は絶望的だと」

「実際目ノ前ニ居ルンダカラ仕方ネェ。問答無用デ攻撃シテ来ルッテ事ハ敵ダロウ……本来ナラ有リ得ナイ話ダガ、コウシテ襲ッテ来テル。考エルノハ後!」


 雨刃は既に片手剣を展開し、デルダインらしき男を見据えいる。
 マスターボウも落ちてしまったシルクハットを被り直し、服についた埃を払っているが、その目には闘志がみなぎっている。
 俺も立ち上がり、改めてデルダインを見る。確かに本で読んだ肖像画によく似ている。だけどその本が正しければ滅茶苦茶強いはず。本気で俺達を攻撃してきているのだとすればこんな強敵はいないぞ……


「痛……」

「どうした? ナイアリス」


 まだ仰向けに倒れているナイアリスが小さく悲鳴をあげる。レオが駆け寄ると、その脇腹に木片が刺さっており、血が滲んでいる。


「レッグ、その嬢ちゃんを連れて地下へ! ドクターなら治せる」

「ああ」

「クレセンティーヌを下に置いてきちゃったからこれしか無いけど……どう、マスターボウ。私達はアレに勝てる?」


 アジェンダが腰から片手サイズの斧を二本取り出し、両手に持つ。


「勝率は一割ってところかしら……いや、一割も無いと思ったほうがいいわよん」

「ほぼ負けね。でも、相手が殺しに来てるとしたら、ここで死ぬわけにはいかないわ」

「レオ、行けるか?」

「クロトこそ、休んでていいぞ。おれが殺る」
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