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第六章 七星編
151話 強き愛の力
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「この人が……ミスト」
『ん? 大半ハ初メマしてカ。噂ハ聞いテいるぞ。〈魔狩りの雷鳴〉』
大男のシルエットに霧がまとわりついた様な姿をしたミストは、所々が曇ったような声で呟いた。手短にレオに事情を聞くと、どうやら俺達と合流する以前にミストと思わしき人物と遭遇していたらしい。
『アの辺りハ俺の居住区デナ。アまり争い事にもしタくナカっタのデ眠っテもラっタ』
「あまりいい思い出じゃないがな。手を貸すと言ったか。役に立つんだろうな?」
『少ナくとも、この二週間マスターボウに手を出サセナい程度マデにハ奴等を追い詰メタ』
「……ならいいが。話によればその三人組の中に剣士がいるらしいじゃねーか。そいつはおれがもらうぞ?」
『構ワん。マァ、剣士というよりハ斬レる竜巻のようナ男ダガナ』
戦力の心配も、ミストが手を貸してくれるなら少しは安心か。レオは言わずもがなオリハルコンと対等にやり合えるだけの実力はあるだろう。リンリも自覚は無いが、俺やレオに追いつかんとする勢いで成長している。ミストやシエラの手助けがあれば、十分オリハルコン級とも渡り合えるはずだ。
こっちの心配が無くなった以上、今度は俺達の方も考えないとな。準備を進めて、すぐに出発しよう。
「俺達は明日の朝にここを出発する。帰りはいつになるかわからないけど、とりあえずまたここに来るよ」
「アア。今日ハココニ泊マッテイクトイイ。何カ必要ナ物ガアレバ言ッテクレ」
「ありがとう、とりあえずは街を見て回るよ。もしかしたら目的の物もあるかもしれないし」
「ワカッタ」
その後、〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーと、意外に久しぶりだという話をしたり、シーゼロッタまでの道のりを確認して過ごした。
〈鬼帝殺し三極柱〉組は何やら作戦会議をしているらしく、ずっと引きこもっている。〈鬼帝殺し三極柱〉組とは言っても好戦的なレオとミストのほぼ二人なのだが。
雨刃とリンは己の実力不足を深く感じているらしく、あまり乗り気ではない。シエラは元々マスターボウを診るために残っているので可能であれば戦いには不参加。
リンリはどうにも不安があるようで、表情を曇らせている。
「まぁ、皆が生き残ってくれればそれでいいが……」
「相手が相手だもんね。でもレオも居るし、心配はいらないかも」
「確かにな」
少し時間が余ったので、予定通り街を見に来たわけだが、やはり賑わいがすごい。
エルトリア帝国城下町やセントレイシュタンとほぼ同じだけの賑わいがあり、アルバレス公爵領最大の都市というのも名前だけではないと言うわけだ。
リュウとサエはどこかに行ってしまったので別行動。なので例の如くエヴァと二人だ。
「えーっと、この通りは……」
「二番だって。あそこに書いてるよ!」
「お、本当だ」
二番通りには武具店が多くある印象。エヴァはそんなに楽しくなさそうだが、ここは我慢してもらおう。
「そう都合良くは無いよな~」
「ずっと気になってたんだけど、何を探してるの?」
「テンペスターと同等の剣、あとは追加で……一言では説明出来ないけど、サエの為にちょっとな」
「何に使うの?」
「リンリに合った剣を用意してやろうかと思ってな。魔力が乗りやすい鉱石は希少だから、そう簡単には見つからないと思うけど」
「そういえばテンペスター貸しっぱなしだもんね。サエの方はどういう?」
「液体金属みたいなものがあればいいなって。サエの力は触れた液体の自在な操作って言ってたろ? 本人が言ってたみたいに川や海、操る液体が豊富な場所なら無類の強さを誇るだろうけど、戦場が常にそうなるとは思えない。だから、持ち歩けて、サエの戦力を補強出来る何かがあればいいなって」
「なるほど……でも液体金属は扱いが難しいからね。常備出来て戦闘に応用できるものがあるかどうか……ん? あの人だかりはなんだろう?」
見れば、数十メートル先にエヴァの言った通り人だかりが出来ており、何やら騒がしい。
「行ってみよ!」
「あ、ああ」
エヴァに手を引かれ、近づくとどうやら人は冒険者ギルドの前に集まっているらしい。野次馬のように円形に広がった人々の中心に一人の女性が立っている。
遠目から見ても並々ならぬ美貌の持ち主だとわかる。ピンク色の髪をなびかせ、これまであったどの人よりも強く美のオーラを感じる。
「……っと、どうした?エヴァ」
気づくと足が勝手に動いており、エヴァにぎゅっと引っ張られて我に返る。
「い、いや、なんでもないんだけど……なんだか嫌な感じがして……」
エヴァの感はよく当たる。というよりもエヴァの体内にある魔力は人よりも多く、魔力に関連する事へのセンサーが敏感なのだ。
「確かに、只者ではなさそうだけど……」
キョロキョロと誰かを探すように首を振っていた女性と目が合い、女性がツカツカと歩み寄ってくる。今どき珍しいチャイナ服に身を包んだ女性は俺だけを捉えて近づいてくる。
エヴァの掴んだ腕から若干の冷気が俺を正常にしているが、これが無ければ見惚れてしまいそうだ。
「……貴方、〈魔狩りの雷鳴〉のリーダーでしょ。少しお話しましょ?」
「『STRONGER』の効果は絶大だな。あんたは誰だ?」
至って普通の返しだったと思うが、俺の返事を聞いた女性は驚いたように目を見開いた。
「私の術が効いてないのかしら?」
「術? 一体何の事だ」
まさに予想外。といった表情を浮かべた女性は、少し面白そうに口角を上げる。それよりもエヴァさん。そろそろ俺の右腕が氷漬けになりそうなんですが……
「なるほど、これだけ噂になるだけの事はあるのね、貴方。私の術は……説明するよりも見てもらった方が早いか……『貴方達、散りなさい』」
何か強い言霊の様なものが場に走り、周りにいた人だかりがまるで全員、同時に用事を思い出したように、各々がこの場を立ち去り始めた。蜘蛛の子を散らすとはまさにこの事だ。
「私が目を合わせ、魅了した者を自由に操る術。それが私の術よ」
「魅了……? だからこんなところで注目を集めていたのか?」
何やら同じような能力を持った冒険者の話を聞いたことがあるような……
「そういう事」
「何のために?」
「この街に居る〈シルク・ド・リベルター〉の事は知ってるでしょ? あれがもしかしたら私達に攻撃を仕掛けてくるかもしれないから、その準備ね」
魅了して操る。美貌。〈シルク・ド・リベルター〉と敵対関係。
……思い出した。人々を美貌で惑わせ自らの兵隊にする魔性の女。物量戦を得意とするオリハルコン級冒険者、〈女帝〉リエラ・アトラクス。
「へ、へぇ。じゃあ町の人を使って戦争でもするのか? 〈女帝〉は」
「それが私の戦い方だもの。貴方達が街に着いてすぐにサーキンが貴方達を調べ上げたわ。〈シルク・ド・リベルター〉に協力するつもりなのよね?」
「ああ、そのつもりだ」
「てことは私達と正面から戦うって事よ。いつまでも〈シルク・ド・リベルター〉の味方をしていると、大事なお仲間の一人や二人、死ぬわよ?」
ぞわぞわと威圧感が首筋を撫でる。即席に軍隊を作り上げることが〈女帝〉の脅威であるとは聞いていたがこの威圧感はそのまま戦っても強いんだろう。
「俺の仲間は、強いぞ」
「ふうん、そうね。でなければあんなに注目される事もないもの」
「それに、その自慢の魅了は俺達に効いていないみたいだが?」
「この術の発動条件は私に少しでも心を奪われること……女性でも例外なく、ね。貴方達に効かないのは恐らく、私の美貌では揺らがない強い愛があるから、ってところかしら」
効果を見たあとに言われると少し顔が熱くなる。そして右腕の氷が溶けていく。エヴァの言った悪い予感はこの事も含まれていたのかもしれない。
「それで? 町人を俺達にけしかけるか?」
「そうね。貴方達優しそうだからそれもいいけど……でも、やめておくわ。貴方達二人を相手に私一人じゃ厳しそう。それに久しぶりにいいものを見せてもらったもの。この術は私の意思とは関係なく発動して魅了してしまうから、どんなに仲の良い男女を見ても所詮は私の美貌で揺らいでしまう程度と思っちゃうのよね」
飽き飽きするように言ったリエラからは悲しさの雰囲気が漂ってきた。過去に何かあったのだろうか?確かにどんな男女も無意識のうちに破局させてしまうというのは中々精神に来そうだし、恋愛というものに対する不信感は募りそうだ。
「貴方達に免じてここは退くわ。……それと、そうね。〈シルク・ド・リベルター〉との抗争にも参加しない。ほかの二人が敗れたら私も従うわ」
手をひらひらと振りながら去って行くリエラを見てどうにも聞いていた印象との違いが気になってしまう。時折見せる強者の風格は確かに本物だった。ハザック達の時も感じた本能的な危険。それと同等だった。
「でも、それ以上に……とても噂に聞いてた〈鬼帝殺し三極柱〉の一角とは思えない雰囲気だ」
「強い悲しさや虚しさが見えた。確かに威圧感はあったけど……そんなに怖い人じゃないのかも?」
リエラが術を解いたのか、さっきの命令を取り消したのかはわからないが次第に人も戻って来た。特に何か騒ぎになるわけでもなく、自然に戻って来ているところを見るにあの術のレベルの高さが伺える。
「とりあえずみんなのところに戻るか。一応報告を……どうした?」
引き返そうとすると、服の端をギュッとエヴァが引っ張る。
「もうちょっとだけ、見て回ろ?」
◇
リエラの一件の後、エヴァのショッピングに付き合い、〈シルク・ド・リベルター〉のテントに帰ってくる時にはすっかり夜になっていた。
「ナ、〈女帝〉ト一戦交エタダ!?」
「よく生きていたな。二人だけで」
テントの一角で俺とエヴァはレオ、リン、雨刃、ミストに今日の一件を報告していた。
「交えたって言っても殆ど私たちは何もしてないよ。強いて言うなら……」
「とりあえず〈女帝〉は〈シルク・ド・リベルター〉との抗争には参加しない。他の三極柱が敗れたら従うと約束してくれた。なかなかでかい収穫だろ」
何やら顔を赤らめているエヴァが変なことを言う前に話の流れを変えておく。
「デカイドコロジャナイ」
「ある意味最強の一角ともいえるからな」
『一番の不安要素ガ消エタ。後ハ単純ナ力比ベダ。しカし、アの男ハ一人デアのベンケイとヤり合エるのカ?』
「……ぐー……ぐー」
「まぁ……レオなら大丈夫でありんすよ」
「俺達は明日の朝一番に出発する。こっちは任せたぞ」
「ああ」
「任セロ」
『ん? 大半ハ初メマしてカ。噂ハ聞いテいるぞ。〈魔狩りの雷鳴〉』
大男のシルエットに霧がまとわりついた様な姿をしたミストは、所々が曇ったような声で呟いた。手短にレオに事情を聞くと、どうやら俺達と合流する以前にミストと思わしき人物と遭遇していたらしい。
『アの辺りハ俺の居住区デナ。アまり争い事にもしタくナカっタのデ眠っテもラっタ』
「あまりいい思い出じゃないがな。手を貸すと言ったか。役に立つんだろうな?」
『少ナくとも、この二週間マスターボウに手を出サセナい程度マデにハ奴等を追い詰メタ』
「……ならいいが。話によればその三人組の中に剣士がいるらしいじゃねーか。そいつはおれがもらうぞ?」
『構ワん。マァ、剣士というよりハ斬レる竜巻のようナ男ダガナ』
戦力の心配も、ミストが手を貸してくれるなら少しは安心か。レオは言わずもがなオリハルコンと対等にやり合えるだけの実力はあるだろう。リンリも自覚は無いが、俺やレオに追いつかんとする勢いで成長している。ミストやシエラの手助けがあれば、十分オリハルコン級とも渡り合えるはずだ。
こっちの心配が無くなった以上、今度は俺達の方も考えないとな。準備を進めて、すぐに出発しよう。
「俺達は明日の朝にここを出発する。帰りはいつになるかわからないけど、とりあえずまたここに来るよ」
「アア。今日ハココニ泊マッテイクトイイ。何カ必要ナ物ガアレバ言ッテクレ」
「ありがとう、とりあえずは街を見て回るよ。もしかしたら目的の物もあるかもしれないし」
「ワカッタ」
その後、〈シルク・ド・リベルター〉のメンバーと、意外に久しぶりだという話をしたり、シーゼロッタまでの道のりを確認して過ごした。
〈鬼帝殺し三極柱〉組は何やら作戦会議をしているらしく、ずっと引きこもっている。〈鬼帝殺し三極柱〉組とは言っても好戦的なレオとミストのほぼ二人なのだが。
雨刃とリンは己の実力不足を深く感じているらしく、あまり乗り気ではない。シエラは元々マスターボウを診るために残っているので可能であれば戦いには不参加。
リンリはどうにも不安があるようで、表情を曇らせている。
「まぁ、皆が生き残ってくれればそれでいいが……」
「相手が相手だもんね。でもレオも居るし、心配はいらないかも」
「確かにな」
少し時間が余ったので、予定通り街を見に来たわけだが、やはり賑わいがすごい。
エルトリア帝国城下町やセントレイシュタンとほぼ同じだけの賑わいがあり、アルバレス公爵領最大の都市というのも名前だけではないと言うわけだ。
リュウとサエはどこかに行ってしまったので別行動。なので例の如くエヴァと二人だ。
「えーっと、この通りは……」
「二番だって。あそこに書いてるよ!」
「お、本当だ」
二番通りには武具店が多くある印象。エヴァはそんなに楽しくなさそうだが、ここは我慢してもらおう。
「そう都合良くは無いよな~」
「ずっと気になってたんだけど、何を探してるの?」
「テンペスターと同等の剣、あとは追加で……一言では説明出来ないけど、サエの為にちょっとな」
「何に使うの?」
「リンリに合った剣を用意してやろうかと思ってな。魔力が乗りやすい鉱石は希少だから、そう簡単には見つからないと思うけど」
「そういえばテンペスター貸しっぱなしだもんね。サエの方はどういう?」
「液体金属みたいなものがあればいいなって。サエの力は触れた液体の自在な操作って言ってたろ? 本人が言ってたみたいに川や海、操る液体が豊富な場所なら無類の強さを誇るだろうけど、戦場が常にそうなるとは思えない。だから、持ち歩けて、サエの戦力を補強出来る何かがあればいいなって」
「なるほど……でも液体金属は扱いが難しいからね。常備出来て戦闘に応用できるものがあるかどうか……ん? あの人だかりはなんだろう?」
見れば、数十メートル先にエヴァの言った通り人だかりが出来ており、何やら騒がしい。
「行ってみよ!」
「あ、ああ」
エヴァに手を引かれ、近づくとどうやら人は冒険者ギルドの前に集まっているらしい。野次馬のように円形に広がった人々の中心に一人の女性が立っている。
遠目から見ても並々ならぬ美貌の持ち主だとわかる。ピンク色の髪をなびかせ、これまであったどの人よりも強く美のオーラを感じる。
「……っと、どうした?エヴァ」
気づくと足が勝手に動いており、エヴァにぎゅっと引っ張られて我に返る。
「い、いや、なんでもないんだけど……なんだか嫌な感じがして……」
エヴァの感はよく当たる。というよりもエヴァの体内にある魔力は人よりも多く、魔力に関連する事へのセンサーが敏感なのだ。
「確かに、只者ではなさそうだけど……」
キョロキョロと誰かを探すように首を振っていた女性と目が合い、女性がツカツカと歩み寄ってくる。今どき珍しいチャイナ服に身を包んだ女性は俺だけを捉えて近づいてくる。
エヴァの掴んだ腕から若干の冷気が俺を正常にしているが、これが無ければ見惚れてしまいそうだ。
「……貴方、〈魔狩りの雷鳴〉のリーダーでしょ。少しお話しましょ?」
「『STRONGER』の効果は絶大だな。あんたは誰だ?」
至って普通の返しだったと思うが、俺の返事を聞いた女性は驚いたように目を見開いた。
「私の術が効いてないのかしら?」
「術? 一体何の事だ」
まさに予想外。といった表情を浮かべた女性は、少し面白そうに口角を上げる。それよりもエヴァさん。そろそろ俺の右腕が氷漬けになりそうなんですが……
「なるほど、これだけ噂になるだけの事はあるのね、貴方。私の術は……説明するよりも見てもらった方が早いか……『貴方達、散りなさい』」
何か強い言霊の様なものが場に走り、周りにいた人だかりがまるで全員、同時に用事を思い出したように、各々がこの場を立ち去り始めた。蜘蛛の子を散らすとはまさにこの事だ。
「私が目を合わせ、魅了した者を自由に操る術。それが私の術よ」
「魅了……? だからこんなところで注目を集めていたのか?」
何やら同じような能力を持った冒険者の話を聞いたことがあるような……
「そういう事」
「何のために?」
「この街に居る〈シルク・ド・リベルター〉の事は知ってるでしょ? あれがもしかしたら私達に攻撃を仕掛けてくるかもしれないから、その準備ね」
魅了して操る。美貌。〈シルク・ド・リベルター〉と敵対関係。
……思い出した。人々を美貌で惑わせ自らの兵隊にする魔性の女。物量戦を得意とするオリハルコン級冒険者、〈女帝〉リエラ・アトラクス。
「へ、へぇ。じゃあ町の人を使って戦争でもするのか? 〈女帝〉は」
「それが私の戦い方だもの。貴方達が街に着いてすぐにサーキンが貴方達を調べ上げたわ。〈シルク・ド・リベルター〉に協力するつもりなのよね?」
「ああ、そのつもりだ」
「てことは私達と正面から戦うって事よ。いつまでも〈シルク・ド・リベルター〉の味方をしていると、大事なお仲間の一人や二人、死ぬわよ?」
ぞわぞわと威圧感が首筋を撫でる。即席に軍隊を作り上げることが〈女帝〉の脅威であるとは聞いていたがこの威圧感はそのまま戦っても強いんだろう。
「俺の仲間は、強いぞ」
「ふうん、そうね。でなければあんなに注目される事もないもの」
「それに、その自慢の魅了は俺達に効いていないみたいだが?」
「この術の発動条件は私に少しでも心を奪われること……女性でも例外なく、ね。貴方達に効かないのは恐らく、私の美貌では揺らがない強い愛があるから、ってところかしら」
効果を見たあとに言われると少し顔が熱くなる。そして右腕の氷が溶けていく。エヴァの言った悪い予感はこの事も含まれていたのかもしれない。
「それで? 町人を俺達にけしかけるか?」
「そうね。貴方達優しそうだからそれもいいけど……でも、やめておくわ。貴方達二人を相手に私一人じゃ厳しそう。それに久しぶりにいいものを見せてもらったもの。この術は私の意思とは関係なく発動して魅了してしまうから、どんなに仲の良い男女を見ても所詮は私の美貌で揺らいでしまう程度と思っちゃうのよね」
飽き飽きするように言ったリエラからは悲しさの雰囲気が漂ってきた。過去に何かあったのだろうか?確かにどんな男女も無意識のうちに破局させてしまうというのは中々精神に来そうだし、恋愛というものに対する不信感は募りそうだ。
「貴方達に免じてここは退くわ。……それと、そうね。〈シルク・ド・リベルター〉との抗争にも参加しない。ほかの二人が敗れたら私も従うわ」
手をひらひらと振りながら去って行くリエラを見てどうにも聞いていた印象との違いが気になってしまう。時折見せる強者の風格は確かに本物だった。ハザック達の時も感じた本能的な危険。それと同等だった。
「でも、それ以上に……とても噂に聞いてた〈鬼帝殺し三極柱〉の一角とは思えない雰囲気だ」
「強い悲しさや虚しさが見えた。確かに威圧感はあったけど……そんなに怖い人じゃないのかも?」
リエラが術を解いたのか、さっきの命令を取り消したのかはわからないが次第に人も戻って来た。特に何か騒ぎになるわけでもなく、自然に戻って来ているところを見るにあの術のレベルの高さが伺える。
「とりあえずみんなのところに戻るか。一応報告を……どうした?」
引き返そうとすると、服の端をギュッとエヴァが引っ張る。
「もうちょっとだけ、見て回ろ?」
◇
リエラの一件の後、エヴァのショッピングに付き合い、〈シルク・ド・リベルター〉のテントに帰ってくる時にはすっかり夜になっていた。
「ナ、〈女帝〉ト一戦交エタダ!?」
「よく生きていたな。二人だけで」
テントの一角で俺とエヴァはレオ、リン、雨刃、ミストに今日の一件を報告していた。
「交えたって言っても殆ど私たちは何もしてないよ。強いて言うなら……」
「とりあえず〈女帝〉は〈シルク・ド・リベルター〉との抗争には参加しない。他の三極柱が敗れたら従うと約束してくれた。なかなかでかい収穫だろ」
何やら顔を赤らめているエヴァが変なことを言う前に話の流れを変えておく。
「デカイドコロジャナイ」
「ある意味最強の一角ともいえるからな」
『一番の不安要素ガ消エタ。後ハ単純ナ力比ベダ。しカし、アの男ハ一人デアのベンケイとヤり合エるのカ?』
「……ぐー……ぐー」
「まぁ……レオなら大丈夫でありんすよ」
「俺達は明日の朝一番に出発する。こっちは任せたぞ」
「ああ」
「任セロ」
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最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
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