最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第六章 七星編

155話 ぶつかるもの

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「な、なんだお前ら!」


 冒険者達が海賊団とぶつかる寸前で合間に入ったリュウとサエが三、四人の冒険者を吹き飛ばし、一先ず乱戦は避けられ、海賊側も冒険者側も動きを止める。


「〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉、〈海の現身〉サエよ!」

「〈凱龍〉のリュウだ!」


 どうやら俺達の話題を知っているらしく、名前を聞いて少しうろたえている。名前がこういう抑止力になるのであれば注目されるのも悪くない。


「エヴァ、行くぞ」

「うん!」


 エレルリーナさんをとりあえずは残してリュウ、サエに加わる。この冒険者達の撃退は問題にならないが、エレルリーナさんの様子はただ事では無い。今はそっちの方が重要だ。


「スーサ、エレルリーナさんの容体がおかしい。ここは俺達に任せて行ってくれ」

「何!? ……いや、私は残る。お前達クルー、行ってくれ」

「ただの病じゃないんだろ? お前も行け。縁起でもないことを言うが、何かあってからじゃ遅いんだ。全員行け」

「……分かった。すぐに戻る」

「それまでには終わってるさ」


 スーサに続き、団員達もエレルリーナさんのもとへ向かい、その場には冒険者のみが残る。


「〈雷撃ライトニングボルト〉も居るとは……」

「どうやら本物のようだ」

「なぁ、あんたらがレヴィアタンを倒しに行くんだろ? 俺達も連れて行ってくれよ、同じ冒険者のよしみだろ?」


 同じ立場の者には取り入る、か。賢い生き方なのかもしれない……が、俺は嫌いだ。


「いいぜ……お前ら程度で」

「私達に!」

「勝てるなら、ねっ」





「リ、リナ! 大丈夫か!」


 エレルリーナをテントの中に運び込み、スーサを始めとする団員達は一つのテントに集まっていた。とは言っても流石に入りきらず、半分以上は外に出てしまっているが。
 エレルリーナの病はそう軽くはなく、一日に外に出ていられる時間も数刻程度。いつ何時目覚めなくなってもおかしくは無い。


「ゴホッゴホッ……貴女達、皆様クロト達は?」

「外で冒険者達と戦ってる」

「駄目、よ……あの人たちに頼ってばかりでは……」

「あいつらが、私達をここに行かせてくれたんだ。それよりリナ、身体の方はどうなんだ」


 エレルリーナは大丈夫という風に笑うが、スーサ達団員の心配はぬぐえない。誰も口にこそ出さないが心の中では覚悟していた。


「大丈夫、レヴィアタンを倒すまでは死なないわ」

「リナッ! リナ……!!」





 戦闘が始まってすぐ俺達四人はバラバラに散ってそれぞれ冒険者を相手にする。
 俺が相手するのは冒険者達のリーダー格がいる集団だ。冒険者というだけあって、一人ひとりの練度は高いが……ウェヌス盗賊団と一戦交えた後じゃこれも大したことないな。


「いくらあんたでもこの数は相手できないだろ?」

「数は立派だけどな」

「よえーって言いたいのかッ!!」


 斬りかかってくるリーダーの剣をシュデュンヤーで受け止め、雷拳を顔面にお見舞いする。反撃を予想すらしていなかったのか防御されることも無く綺麗に決まり、リーダーはそのまま地面に倒れる。


「お前達の考え方は立派とは言えない」


 リーダーが呆気なくやられた事で残りの冒険者達は若干の動揺を見せている。地面に向かって斬撃を放ち、俺と冒険者達との間に一本の線を引く。


「このまま帰るなら俺も手は出さない。その線を越えた者から敵とみなす」





竜鎧装りゅうがいそう 全身フルメイル


 虚空から全身鎧を召喚し身に纏ったリュウが引きつけていた冒険者達に向き直り、拳を構える。その姿に一切怯む様子はなく、怒りに燃えている事が表面上に現れている。


「囲んでやっちまえ!」

「防御しろよ。命まで取る気はない」

「へっ、やれるもんなら……」


我龍殲滅弾カノン・オブ・ドラゴ


 リュウの右手から真上に放出されたエネルギー弾は空中で拡散し地上に降り注ぐ。リュウを囲もうとしていた冒険者達が逆に一網打尽となってしまう。


「忠告はしたぞ」





「追い詰めたぜぇ」


 数人の冒険者を引き連れて戦線を離脱したサエは、そのまま砂浜へ移動。海がすぐそこまで打ち寄せている。冒険者は半円形に広がり、サエを取り囲んでいる。


「フフッ」

「何笑ってやがる?」

「諦めたか?」


 向きを変えずにしゃがみこみ、足元まで満ちている海に右手を付ける。
 しばらくは何も起きなかったが、やがてブクブクと沸騰するように泡立ち、穏やかだった波が荒れ始める。


「追い詰めた? 違うわ。私のテリトリーへ貴方達がやってきたのよ! 〈海の現身〉を舐めないことね!」


 海上から水柱が立ち登り、アーチを型取りながら再び海に帰る。
 まさに荒れ狂う海を掌握していると思わせる演出に冒険者達もジリジリと後退りを始める。が、もう遅い。二本の水柱が螺旋を描くように組み合わさり、冒険者達に迫る。


激流龍咆哮カノン・オブ・レヴィアタン





「ラッキー、こっちはちっこい女の子だ」

「可愛い顔して、こりゃ楽勝だ」


 さっきは魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルスの名前に臆していたのに私一人になったらこの反応。数分前の事も覚えてないのかな。


「ちゃっちゃと終わらせて他の……」

「おい、足元!」

「な、なんだこりゃ!?」


〈氷術 雹絶世界シルバー


 氷が私の足から地面を伝って冒険者の足元を凍らせる。最近は魔力量も上がって、ちゃんと魔力を込めれば炎術であっても溶かせない。


「ちっちゃいの気にしてるんだから言わないでよね」


 パチンと指を鳴らすと同時に冒険者達は氷山に下から突き上げられ空を舞う。早くクロトの所に戻ろっと。





「スーサ、様子はどうだ?」


 テント群の最奥、エレルリーナさんのテントに入ると、団員達に囲まれるようにしてベッドに横たわるエレルリーナさんとそのすぐ近くに立つスーサの姿が目に入る。


「クロト、皆……奴らは?」

「街へ叩き返したわ! 身の程を弁えなさいって話よ!」

「そうか……すまない」

「気にするな。それで?」


 見たところエレルリーナさんの顔色はそう悪くはないように見える。少なくとも先程よりはかなり落ち着いている。


「発作が出ただけで、今は収まってる。絶対安全とは言えないけど、これまでの様子を見てもしばらくは大丈夫だと思う」


 それは良かった。しかし今度の問題は明日だな。エレルリーナさんの病状がここまで酷いとなると、とても航海は無理。
 スーサの言う通りここは待っていてもらうのが得策だろう。


「クロト、明日のことについてはこれから考えるとして、一つ頼みがある」


 スーサが振り返り、改まった様子で話す。


「レヴィアタンを倒すのではなく追い払ってくれないか?」


 スーサの言葉に周りの団員達もざわざわと顔を見合わせる。
 そりゃそうだ。街を困らせている元凶を追い払うだけではいつまた同じ状況に陥るかわかったもんじゃない。それに……リュウを振り返るとブンブンと顔を横に振っている。


「それは出来ない。こっちの都合で悪いがレヴィアタンは倒す」

「……そうか」


 あからさまに落胆した様子で呟く。初めてあった時に感じた覇気は殆ど無い。何か訳ありとは思っていたがここまでか……


「もし何か理由があるなら……」

「また明日、朝テントまで迎えに行く。今日はもう休め」


 有無を言わさぬその雰囲気に、続きを言えずに俺達はテントへと戻った。
 戻ってからサエに何で押し切って聞かなかったのかと責められたが、どうにも踏み入っちゃいけないような気がした。
 その場は何とかごまかしたが、サエもリュウも納得はしていないだろう。何も言わずに側に寄り添ってくれるエヴァが今はとても有り難かった。





 日が沈み、辺りが夜の吐息に包まれた頃。


『準備ハ整っタ』

「ああ、行くぞ」

「あ、あの……ここにきて言うのもなんですが、私なんかが本当に大丈夫なんでしょうか。オリハルコンとやりあうなんて……」


 まさに攻め込もうという時にリンリが申し訳なさそうに口を開く。


「どうしても不安ならここで待ってろ」

「それはそれで嫌です!」

「なら自分の事ぐらい自分が一番信じろ……もし、危なくなったらおれのところに来い。オリハルコン相手でも守り切ってやる」

『俺もいるしナ』

「……ありがとうございます!」

「お前なら大丈夫だろ」


 レオの最後の言葉も、リンリの背中を後押しした様で、少しは不安も払拭された表情へと変化する。
 最後の確認の為、それぞれが準備に移ったところでシエラがレオに近づく。


「珍しく、らしくない事を言ったでありんすね」

「クロトならそれぐらいは言うと思った。あいつもおれの超えなければならない壁だ。代わりぐらい出来ないとな」

「変わりんしたね」

「変わってはいない」


 何かに満足するようにニコッと笑った後、シエラはレオの元を離れ、リンリの元へ向かう。レオの言葉で多少の不安は払拭したとはいえやはりその動きはぎこちない。
 そんなリンリにシエラは後ろから抱きついた。


「シエラ?」

「信じているでありんす」

「……うん! 行ってくる、お姉ちゃん」


 完全に緊張が解けたのか先ほどと顔付きが変わった。目には闘志の炎が燃えている。


『行くぞ。相手ハ二人ダガ、〈女帝〉の動きにも注意しテおケ』

「おう」

「はい!」





 同時刻、旧冒険者ギルド跡地では……


「ザシャシャ、お前リエラの言う通り暫く身を潜めたが、意味あんのか?」

「意味ならあるわよ。少なくとも奴らは私達に接触するためにはここに直接来るしかない」

「つまり我々の方が遥かに有利。タイミングも場所も、全てを掌握出来るわけです」


 リエラとサーキンの言葉に理解と不可解という中途半端な顔をしていたが、戦えるなら何でもいいと聞き流す。


「で、どうするんだ?」

「私は戦いには参加しないわ。連中魔狩りの雷鳴と関わると自信喪失しちゃう」

「そんな相手が……いえ、それもそうですね。セカンドスペルならまだしも、こちらの情報が流れているならば魅了は無意味。それに、我々二人で手に負えない奴がいるかどうか……」

「で、誰とやれんだ?」

「階級はミスリル、刀使いのレオ、〈正体不明の霧〉、そして〈炎刀の巫女〉のリンリ。〈炎刀の巫女〉はともかくレオはかなりの強者と聞いています。私が行きましょうか」

「いや、オレが行く……久々に斬れそうだ」

「では私が残りの二人を」

「わざわざ来るのを待つ必要はないわよ。出てきたところを奇襲して〈風神〉諸共やっちゃった方が早い」

「ザシャシャ、そりゃいい」


 腰掛けていたベンケイも傍の水天一碧を掴み、歩き出す。サーキンもそれに習い、〈シルク・ド・リべルター〉の居る三番通りへ向かう。


「ごめんなさいね、〈魔狩りの雷鳴ディアブロ・トニトルス〉。確かに参戦はしないけど、負けるつもりもないのよ。私」
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