最弱属性魔剣士の雷鳴轟く

愛鶴ソウ

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第六章 七星編

161話 〈海の現身〉

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〈雷術 雷撃ライトニングボルト


 左手をシュデュンヤーから離し、シーサーペントの鼻先に付けて電撃を流し込む。
 シーサーペントは叫び声をあげながら海の中に潜る。だが一匹を撃退してもすぐに別の奴に狙われる。全方位を囲まれている以上一匹に集中するのは命取りだ。おまけに〈雷撃ライトニングボルト〉を使っても一撃では倒しきれない。


〈雷帝流 稲妻剣・獄〉


「からの……」


〈雷術 雷槍〉


 正面から来たシーサーペントをシュデュンヤーで受け止め、背後から来るシーサーペントに雷槍をぶつけて追い払う。


〈雷帝流 雷斬砲・獄〉


 シュデュンヤーで抑えていたシーサーペントを押し返して雷斬砲をぶつける。


「十匹どころじゃねーな。二十匹は軽く居るか……っと」


〈雷術 雷砲〉


 次はシーサーペントが動く前に雷砲をぶつけて退かせる。


「リュウ、ここで落として!」

「え、でも……」

「いいから!」


 少し離れた上空でサエが海に向かって落ちる。リュウは心配そうに見ていたが、すぐ状況を思い出して、こちらに戻ってくる。
 サエは海こそテリトリー。周囲のシーサーペントは任せて、船を守る方に集中しよう。


「リュウ! 散弾は打つな! 船が沈む!」

「り、了解!」


火竜砲カノン・オブ・サラマンダー


 凝縮された炎の塊がシーサーペントの頭頂部に当たり、激しく燃え上がる。が、海の魔物だからか、炎の効果は薄く、痛みに叫び声をあげるが、沈みはしない。


「ハァ!」


 頭部の痛みに藻掻いているシーサーペントの顎に、リュウは更に追撃を仕掛ける。下から竜牙閃デストリカオを振り上げ、シーサーペントは細長い体を仰け反らせ、水中に沈む。
 そこをすかさず、別のシーサーペントがリュウに突進し、リュウが吹き飛ぶ。


我龍弾カノン


 その勢いを逆に利用して別のシーサーペントにエネルギー弾をぶつけて一匹を海に沈める。


〈雷帝流 雷斬砲・獄〉


 リュウを突き飛ばしたシーサーペントに斬撃をぶつけ、続けざまにシュデュンヤーを甲板に刺し、両手を向かい合わせてリュウの居る方向へ伸ばす。
 丁度リュウを狙うように海面から三匹のシーサーペントが昇って来ている。


「リュウ! 何とか避けてくれ!」

「え、ええ!? 噓でしょ!?」


神鳴かみなり術 神鳴放電砲しんめいほうでんほう


 雷が一直線に迸り、シーサーペント三匹をまとめて爆撃する。三匹とも黒煙を上げながら海に沈んでいく。


「クロト! 危ない!」

「ああ、でも避けられたみたいで良かった!」

「違う! 後ろ!」


 リュウに言われてとっさに後ろを振り返ると、シーサーペントがすぐそこまで迫っており、食らえば俺ごと甲板を貫いてしまう。


「しまっ……」


〈黒氷術 黒き氷シュバルツ・アイス・は汝を串刺しドゥ・スティング・にせんシュピリス


 シーサーペントの鼻先が俺の体を貫こうとしたその刹那、視界の端から空を切って飛んできた氷柱がシーサーペントの横っ面を弾き飛ばし、シーサーペントの突進は不発に終わる。
 だが、気を抜いている暇はない。すぐにシュデュンヤーを甲板から抜き、両手で握る。


〈雷帝流 雷鋼剣・獄〉


 下から振り上げたシュデュンヤーがシーサーペントの顎を捉え、体を仰け反らせる。すぐさま地面を蹴り、上空に飛ぶ。拳を振り上げてシーサーペントの顔面を殴りつける。シーサーペントはそのまま海の中に倒れ、俺も甲板の上に着陸する。


「エヴァ! 大丈夫か!」

「う、うん……クロトこそ無事で、よかった……」

「ああ、助かった。ありがとう」


 船内に続くドアのそばで倒れているエヴァに駆け寄る。プリンセスコートを使っているわけじゃないから黒氷術の魔力消費も軽視は出来ない。酔いも相まって今の一撃が限界だろう。
 改めて甲板の様子を見るが全方位を囲まれ、その数も俺とリュウだけでは対処出来ない。


「リュウ! 降りてこい!」

「あ、ああ!」


 リュウが甲板に降り、俺もエヴァをその場に寝かせて甲板に転がり込む。大技を使えば突破は可能だが、それでは船が耐えられない。


「リュウ、俺と合わせられるか? この船にダメージが出ない程度の技をぶつけて切り抜け……うおっ」


 突然船が大きく揺れ、俺もリュウも大きくバランスを崩す。この船は帆とかいうのに風を受けて進むらしい。このタイミングでの突風だとしたら運が悪い。
 船はクルクルとその場を回り続ける。エヴァじゃなくても酔いそうだ。


「こんな時に風か!」

「いや、違う! 帆は畳まれてる。多分サエちゃんの力だ!」


 リュウの言葉の通り、直後海から吹き上げられた水柱がシーサーペントを捉え、船を囲んでいた数十匹を海に引きずり込む。
 それと同時に船が回転を止め、すごいスピードで動き出す。シーサーペント達は大渦に揉まれ、お互いに体を打ち付けながら海の底に沈んでいく。


「す、すげぇ」


 これがサエの本領発揮。水の豊富な場所での本当の力か。シーサーペントが海流に流され、海に引きずり込まれている様子が殆ど見えなくなった頃、船は徐々に速度を落とし、水柱に乗ったサエが海から帰ってくる。


「ま、こんなもんよ!」


 自慢げな顔をしているが、息は切れて肩が上下している。あれだけの水を操るのはとてつもない魔力消費と疲れを生じるのだろう。


「皆様、さすがのお手並みです」


 しばらくシーサーペントの動向を伺っていたが、周辺にその気配はなく、ようやくエレルリーナさんたちに終わったと伝えた。
 エヴァは先程の部屋に寝かせ、俺達はその隣の部屋で作戦会議の続きをしていた。


「いえ、不意を突かれたとはいえ正直舐めてました。海上の戦闘は陸地とはまるで違う 何より船という生命線を守りながら戦うとなると……」

「……お帰りになられますか?」

「いえ、まだこの程度で帰るわけにはいきません。さっきの戦いで海上の戦闘はある程度把握出来ました。後はうちの智将が作戦を講じてくれるはずです」


 不安そうに見るエレルリーナさんをその意思はないと伝え、安心させる。舐めていたのは事実だが、だからと言って討伐が不可能なわけではない。
 船の防衛、地の利、数的不利。単に戦うといっても考慮しなければならない点は多いが、逆にそれさえどうにかすれば単純な戦闘力ではシーサーペントなど敵にならない。


「わかりました。こちらも気になることがいくつかあります。まず、レヴィアタンの縄張りにはまだ入っていないはずです。しかし、これまでも縄張り外でレヴィアタンが出現した事はあるので、今回も想定外に縄張り外に出ていたシーサーペントに遭遇したと思われます」


 エレルリーナさんの推測では周囲の偵察の出ていたシーサーペントの群れに遭遇しただけで、レヴィアタンは未だ縄張りの中に居るだろうとの事。つまり、想定外にレヴィアタンに遭遇する事はとりあえずはかなり低い確率だそうだ。


「これまで調べていた縄張りの範囲から推察するに、レヴィアタンが居る住処まではまだ一日分の距離があります。ただ、一つだけ問題があります。シーサーペントが襲ってきたという事です」

「たまたま近くに居たって話じゃなかったか?」


 先程エレルリーナさん自身がそう言っていたはずだ。


「ええ、遭遇した理由はそうです。しかし、シーサーペントは本来温厚な魔物。攻撃されたならまだしも、自分から攻撃して来る事など……それこそ女王の命令がなければ」

「てことは、レヴィアタンが既に我々に気付いている、と……」

「かなりまずい状況です。レヴィアタンは頭も切れますから、我々の隙をついた攻撃を仕掛けてくるはずです。先程かなり低い確率だと言いましたが、それはあちらがこちらに気付いていない通常時の話です。今回は異常事態。十分に警戒する必要があります」

「一先ずいつでもレヴィアタンといつでも戦えるようにしておきましょう。俺達が交代で見張りに立ちます」

「わかりました。こちらでも調べられる範囲で調べてみます」


 作戦会議を一旦終え、俺達も見張りの順番を確認する。


「そういえばサエの魔術はどういう理屈なんだ? 水がある場所では絶対負けないと自負してたけど、実際に見るのはこれが初めてだ」

「この眼よ」


 自分の両手で目を広げて綺麗な青色の目をぎょろぎょろと動かす。


「この眼、確か海神の万操眼ポセイドン・オール・オペレーション・アイって名前で、右が『操作』の力を持ってて、左が『万物』の力を持ってる。で、普段使ってるのは『操作』の方ね! 海神の操作ポセイドン・オペレーションっていう海術が使えるわ」

「海術って言えば水属性の最上位の魔術だろ!? すごいな」

「それで触れた液体を操れるんだ!」

「その通り! まぁ本気を出せば触れてなくても操れるんだけど……」


 人差し指を突き出し、嬉しそうにフフンと鼻を鳴らす。多少の液体を操るだけならまだしも、海のような大規模な液体も自在に操れるとすると、確かにこの海と言う環境では無類の強さを誇るわけだ。


「左の力は? 万物って言ったっけ」

「それが私も数回しか使ったことないのよ。説明も難しいわ……なんかドーンとなって、ギュルンってなるのよ!」


 なるほど、わからん。
 だがまぁ、頼れる力がまだあるのはこちらにとってはメリットしかない。


「わかった。今回の戦いではサエの力が鍵になる。さっきの戦いで魔力も消費してるだろうし、しっかり休んでいてくれ。……とりあえず俺は、見張りも兼ねてエヴァを連れて外に行くよ」

「はーい」

「了解」


 二人をその場に残して俺は隣の部屋で寝ているエヴァの様子を見に行く。どうやら起きていたらしく、俺が入ると体を起こした。


「どうだ? 様子は」

「うん、今はちょっとマシかな」

「そうか、とりあえず外の空気でも吸おうぜ」


 そう言ってエヴァを外に連れ出し、甲板に出た。先程と違って海は穏やかで、当然シーサーペントも居ない。


「う、やっぱり気持ち悪い……きゃっ!」


 雷化し、エヴァを抱えて一気に空へ飛びあがる。船から出れば酔いも治まるだろう。


「ちょっと楽かも……」

「しばらく空を飛んでよう」

「うん! ありがとう、クロト」


 空から見た海はまた綺麗で、どこまでも続く海と空の境目には何があるんだろうとつい好奇心に駆られてしまう。見張りも兼ねているので船から離れることは出来ないが、それがなければ飛んで見に行きたい気分だ。


「クロトのそんな顔、久々に見たよ」


 不意にエヴァがそんな事を言う。


「そうか?」

「うん、今までは敵だ、魔族だ、戦いだーってなんか切羽詰まってるような雰囲気があった。皆と居る時も、笑顔の裏で別の事を考えてるみたいで……でも今のクロトは出会った時みたい! 好奇心が強い、少年の頃のクロト」


 確かにあの頃の俺とは変わったのかもしれない。リブ村で過ごしていた時は漠然とした夢を見ていて……でもあの日、すべてが俺の前から消えた日。そして最愛の師を亡くしたあの日。
 そこから少しずつ、仇を取る事に囚われて、夢なんてとっくに忘れていた。俺って昔は、純粋に強くなって、手柄を立てて、リブ村を無法から救うんだって、そんな事をリックとよく話してたっけ。


「なんか……ありがとうな、エヴァ」


 エヴァの言葉で、少しだけ精神的な余裕が出来た。
 魔族も、リブ村の仇も、帝国の打倒も……俺にとっては人生をかけて完遂しなければならない目標だ。そしてそんな私怨に仲間を巻き込んで、皆を守る事と、敵を屠る事と……少し背負い過ぎていた部分はあったのかもしれない。
 エヴァの何気ない言葉が、それを認識させてくれた。きっと、エヴァも皆も、俺に背負われる為に一緒に来てくれるわけじゃない。もっと頼っても、いいのかな。


「……どういたしまして。でも、こちらこそだよ! ありがとう」


 エヴァの笑顔が、俺の悩みを消し去ってくれるようだった。
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