ブラック・バニーズ

Kyrie

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本編

第16話

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美崎が桐谷を抱きしめ、余韻に浸り心地よいだるさを感じながら目を閉じていたが、急に桐谷が動き出し、「えっ」と思う間もなく自分からじゅるりと抜けていってしまった。
急に襲った喪失感に美崎はひどく寂しく不安になった。
桐谷はベッドの上で胡坐をかき一息つくと、額に手をやり前髪をかきあげた。
それから泣いて目を真っ赤にしている優也を見た。

「おいで」

優也は弾かれたよくに桐谷に駆け寄った。
桐谷は優也を抱き寄せ、まるでダンスでもするように綺麗に優也をベッドに押し倒し、バスローブの前を優雅に開いた。

「どうだった?
私のことをちゃんと見ていてくれたかい?」

今は自分だけを見ている。

優也のそれまでのどろどろした感情は霧散してしまった。

「仁はとてもセクシーでした」

「ありがとう」

桐谷は優也に優しくキスをした。
優也は震えた。
あんなにいやらしくひどい光景を見せてつけられていたはずなのに、桐谷の目に自分が写っていることでこれまでのことがどうでもよくなった。

優也は夢中で桐谷に抱きついた。
やっと自分の腕の中に桐谷がいることで安堵した。
愛おしくてたまらなくなって、桐谷が与える以上に優也はキスをし、桐谷を愛撫した。
桐谷はそれを慣れたように受け入れ、優也が好きなところばかりを選んで優しくふれた。
優也はもどかしくなって、桐谷を下にしてするりとバスローブを落とし、存分に桐谷にさわり始めた。
桐谷は面白そうに笑いながら、優也の髪をなでた。






美崎は隣でそれを見ていた。
何が起こっているのかわからなかった。
さっきまで、「自分のことだけを見ている」と感じていた人が別の男とむつみ合っている。
まだ余韻に浸っていたかった。
できれば、あのまま朝まで甘い空気の中一緒に眠りたかった。

桐谷の「一度だけ抱く」は、厳しいものを示していたのだと美崎は知った。
自分が優也にどれほどの感情をいだかせていたのかも知ったが、桐谷の残酷さも思い知らされた。

優也の愛撫を受ける桐谷と目が合った。
桐谷はにやりと笑った。
それはブラック・バニーズでよく見た笑いだった。
さっきまで、自分にかわいいと囁いていた桐谷ではなかった。




優也は積極的に桐谷を求め、手淫を始めた。
桐谷も美崎とのときには探りながらだったが、相手が優也だと慣れたように手をなめらかに滑らせ優也を喘がせる。
優也は気持ちよさそうに小さく声をあげ、指を巧みに動かした。
手の中の桐谷が十分硬くなり、優也が濡れた声で「欲しい」と囁いた。

「いい…よ」

桐谷が掠れた声で答え、体勢を入れ替えようとしたとき、美崎が起き上がった。

「だ、だめっ!」

思考より先に身体が動いていた。
桐谷の上にいた優也に体当たりして、自分が桐谷の上に覆いかぶさった。
勢いで優也がベッドから落ち、ふらつきながら起き上がったときに見たものは。

「仁……」

美崎が桐谷をそう呼び、またがると桐谷の起立を自分のアナルに当て、ゆっくりと身体を落としている姿だった。

「止めてーーーっ!」

優也が叫ぶ。
思わず美崎に襲い掛かろうかとしたが、優也は動けなかった。
気がつくと、佐伯が後ろから優也を柔らかく拘束していた。
佐伯の腕は優也をきつく抱きしめもせず、むしろ隙間があいていた。
それなのにこの腕は頑丈な檻のように、優也がいくら暴れてもほどけることはなかった。


美崎は頭をのけぞらせて、白い首筋を桐谷に見せながら身体を沈めていく。
美崎のアナルは桐谷のペニスをちゃんと覚えていて、ゆっくりだが確実に呑み込んでいった。
途中、こりりと前立腺をなぞった。

「あっ、そこっ、仁、仁、気持ちいいっ」

後ろ手に手をついて、美崎は腰を上下に動かし、自分が気持ちいいところに当てた。

仁が、また、俺の中に……

喪失感がまた充実感に変わった。

ほんとに、このままでいたい…
仁……

美崎は切なくて涙を浮かべながらも、激しく身体を揺する。




「やめてっやめてっ!
その名前で呼ばないでーーーーっ!!」

優也は荒れ狂いながら、叫ぶ。
一方で、美崎と自分を哀れに思った。

仁はこういう残酷な人…
わかっていたのに、どうしても魅かれてしまう…
抗えない。
火の粉が降りかかるまえに美崎も俺も逃げてしまえばよかったのに。
ばかな俺たち。
仁は何度も逃げ道を用意してくれていたのに…




優也の叫び声は美崎には聞こえなかった。
美崎は桐谷しか感じていない。
前立腺をあらかた刺激すると、今度はぐぐっと最後まで入れたくなり腰を落とす。

これで終わりなんでしょ。
優也さんしか見てないんでしょ。
でも、今は俺を見てて、仁。

「ぅうんっ」

根元までずっぽりと自分の中に収めた美崎はある種の満足感を得た。
いやらしく自分の下腹部をなでる。

「まったく、すべてを台無しにしてくれるね、美崎」

桐谷の声が響き、手が伸びてきて美崎の腰が固定された。

「さっさと逃げればよかったものを。
もう逃さないよ、美崎」

どぐっと下からの衝撃に美崎は驚いた。

「あっ、だ、いやっ、あああぁ」

がっちりと美崎の腰を掴んだ桐谷は、さきほどまでの優しい抱き方ではなく、グラインドしながら下から突きあげてくる。
かき回され、足の力が抜けると自重でより深く突き刺さる。

「あぅ、はげし……」

美崎が髪を振り乱し腰を振る。

「ここだったかな、美崎のイイところは」

桐谷は確実に美崎の弱いところを内側からなで、こすり、当ててくる。
もう探りながらの動きではなかった。

「ほら、もっと自分で動いてごらん。
美崎ならできるよ。
気持ちいいところはどこ?
綺麗な美崎を見せて」

「はぁぁぁっ」

美崎は前に手を突き、動き出した。
下からの衝撃は激しく、翻弄されていく。

「ひゃぁぁっ」

桐谷が片手を腰から離し、脇腹をなでる。
そして、愛おしそうに下腹をなで、すぐに真っ赤に腫れた乳首にふれた。

「あっ、だめっ。
イくっ、イっちゃうっ。
そんな…に、したら、だめ……」





桐谷が美崎の好きにさせていただけならよかったが、急に桐谷が下から突き上げ始めたのを見た優也はぼろぼろと泣いた。
美崎が勝手に襲っているわけではなく、桐谷が積極的に美崎を抱いている。
むっちりした太腿を抱き、二十歳そこそこの美しい美崎を悦ばせている桐谷は、完全に自分を支配していた頃の桐谷の顔をしていた。
野望でぎらつき、上に昇ることだけを目指していた抗えない男。
目の縁を赤く染め、欲情している桐谷をしばらく見たことがなかった。
再会して、何度か求められたがこんな激しさはなかった。

優也には泣くしかなかったが、見るのをやめなかった。
全部見てやろうと思った。
どの桐谷も全部、全部見て、自分の中に刻もうと思った。





汗と涙とで顔をぐちゃぐちゃにした美崎が追い詰められていく。
我を忘れて昇り詰めていく美崎は美しかった。
桐谷はそれを目を細めて見る。
美崎の腰の動きが一段と激しくなった。

「イけ、美崎」

「あっ、やっ、まだっ、まだイきたくない。
仁と…離れたくない……」

「見ててあげる。
綺麗な、美崎を見ていてあげる」

桐谷も奥の一番感じるところで激しく腰を動かす。

「は、はげし……んっ。
仁っ、仁っ、仁っ、仁っ、ぁは、あああああっっん」

美崎は桐谷の名前を呼び続け、そして白濁をまき散らしながらイった。
そのときの収縮で締め付けられ、桐谷も美崎の奥に再び欲を放った。
どくどくと何度か熱いものをたっぷり注がれ、美崎は満足した。
美崎は桐谷に熱い口づけをした。
そして、今度は自ら桐谷を抜き、隣に丸くなって横になり、ぜいぜいと整わない呼吸を続けていた。




美崎が背中を綺麗にしならせ達するのを見ると、優也は泣き崩れた。
佐伯の腕の檻はなくなり、肩にそっと新しいバスローブがかけられた。
一瞬のことだった。
優也は立ち上がると、桐谷に近づき、まだ呼吸が荒い桐谷の胸を拳でどんと叩いた。

「ひどい」

佐伯がやめさせようとしたが、桐谷が目で制した。
優也は桐谷のそばのベッドを何度も何度も叩きながら叫んだ。

「ひどいっひどいっ!
私の番だったのにっ!
名前も私だけが呼べたのにっ!」

そして大声をあげて、桐谷の胸に倒れ込んで泣き、またベッドを拳で叩いた。
桐谷はゆるゆると腕を上げ、優也の髪をなでた。





美崎の呼吸が整う頃、桐谷は身を起こし、泣きはらした優也の顔を見て、バスローブをきちんと着せた。
ベッドから下りると佐伯が新しいバスローブを羽織らせたので、桐谷はそれを着こんだ。

「美崎」

桐谷は優しく囁いた。

「これでおしまいだ。
綺麗で素直な美崎を見せてくれてありがとう」

美崎はだるそうに身体を起こし、ベッドの上に膝立ちになると桐谷に抱きついた。

「抱いてくれてありがと、桐谷」

「もう大丈夫だね」

桐谷は美崎の額にキスをしようとしたが、美崎はそれを許さず桐谷の唇を奪った。
悪戯っぽそうな目で桐谷を見ながら、美崎は唇を離した。
桐谷も面白そうに笑った。

「じゃあ、また」

桐谷はこの部屋に来たときと同じように優也の肩を抱き、佐伯が開けたドアから出て行った。







残された全裸の美崎に佐伯がバスローブを羽織らせようとしたが、美崎はそれをするりと交わし、バスルームに向かった。
歩きながら、

「佐伯さん、いつまでここにいるの?」

と聞いた。

シャワーでも浴びるのかと思っていたが、水音が全然しない。
それでも佐伯が待っていると、美崎が桐谷の開襟シャツを羽織って現れた。
小柄に見える桐谷だが、実は割としっかりとした体躯で細い美崎にはだぶついていた。
夏でも冷房の風が苦手だと長袖のシャツを着ている。
それに身体を包み、美崎は嬉しそうにシャツを抱きしめなでていた。

「美崎がここにいるまで」

「ん?
どういうこと?」

美崎は見事な足を惜しげもなくさらし、見えるか見えないかの裾を気にすることもなく佐伯を見た。
そんな美崎に佐伯は反応することなく、淡々と答える。

「桐谷からは美崎がしたいようにしてやってほしい、と言われている。
今から帰りたいと言えばマンションまで送るし、この部屋にいたいと言われれば、明日の…、もう今日か、の夕方までここにいるし、食事がとりたいならルームサービスを頼む」

「ふうん」

佐伯は備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、綺麗なグラスに注いで美崎に渡した。
美崎はそれを素直に受け取ると、ごくごくと飲んだ。

「美崎が物足りなかったら抱くように、とも」

佐伯の言葉に美崎は噴き出した。

「桐谷、そんなこと言ってたの?!」

「回数が足りないのではないかと」

美崎はげらげら笑い出し、にんまりと表情を崩さない佐伯に言った。

「佐伯さんって、オトコ、抱けるの?」

「好んで抱くのは女だが、男も抱けなくはない」

「ふーん」

佐伯はソファに行き、そこに置いてあった鞄を開け、何かを取り出した。
まず、金属のものを美崎に渡した。

「鍵?」

三本の鍵だった。

「桐谷の指示で安全のため、美崎の部屋の鍵を取り替えた。
それが新しい鍵だ」

「そう、ありがと」

美崎はその中から一本を抜くと佐伯に渡した。

「桐谷に渡しといて。
持っててほしい」

佐伯はうなずき、次に黒い小さな箱を美崎に渡した。

「桐谷からだ」

ビロード張りの柔らかな箱だった。

「なんだろ」

美崎が箱の蓋を開け、はっと息を飲む。
そこには金色の王冠をモチーフにしたピアスが入っていた。

VIPルームでの桐谷とのやり取りを思い出す。
自分に誇りを持って、堂々と美しく背筋を伸ばしていなさい、と彼は言い、自分に王冠をかぶせるようにバニーのうさぎの耳のカチューシャを優しくつけてくれた。

「仁……」

桐谷の力強く優しい眼差しが見えた気がした。
美崎は声を上げず、はらはらと、はらはらと涙を流した。
そして幾つか開いているピアスホールの中で一番目立つ耳たぶに王冠をつけた。

「似合う?」

佐伯を見て言った。
佐伯は黙ってうなずいた。

「ねぇ、桐谷の秘書やってたら大変じゃない?
抱きたくもない人を抱かないといけないんだよ」

美崎は面白そうに佐伯に言った。

「私は桐谷の犬だ。
指示には忠実に従う」

「俺のこと、抱ける?」

「美崎が望むのなら」

「どうしよ」

気を抜いた隙に美崎の内腿を伝って白濁が伝い流れた。
美崎はそれを指ですくい取り、口に含んだ。

「仁……」

身体が疼く。
久々のセックスに2回で足りるはずもない。

このまま桐谷に包まれ過ごしたい気もあったが、もっと欲しいという気持ちもあった。

「ねぇ、このシャツ着たままでいい?
仁の匂いがするから」

「ああ」

美崎が佐伯の手を取った。

「ねぇ、仁、って呼んでもいい?」

「美崎は桐谷に抱かれたいのか」

「そ」

「わかった。
構わないよ」

美崎は幸せそうな顔をして佐伯の腕の中に飛び込んだ。
そして一晩中、桐谷の名前を呼び、桐谷に抱かれる夢を見ながら佐伯に抱かれた。













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