騎士が花嫁

Kyrie

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番外編 騎士が花嫁こぼれ話

48. 約束や証

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結婚、ねぇ。

俺は自分の横で裸のままうつ伏せに寝そべっているテヴェを見た。
背中から腰へのカーブがとても色っぽい。
さっきまであの背中を見ながら、がんがん腰を振っていた。
今、背中に気だるさを残しながら、うまそうに煙管をくゆらせている。

「ん、なに?」

俺の視線に気がついてテヴェが聞く。

「なぁ、結婚、ってどう思う?」

「なに、突然。
したくなったの?」

「いや、今日の昼、リノとちょっと話したから」

「ああ、アイーニュは今、名誉な男と働いているんだっけ?」

テヴェはまだ名残の熱がちらりと見える裸体を惜しげもなく晒したまま、煙を吐き出す。
こちらを見るときに動いたせいで、ちらりと見えた尻の奥が俺の放ったものでぬらりと濡れ光っていた。


テヴェとは2年前、飲み屋で出会った。
庭師の師匠と仲間で飲みに行った時、師匠の友人の革職人の集団とそこで会い、一緒に飲むことになった。
その革職人集団の中にテヴェはいた。
その頃のテヴェはまだ見習いだったが、今では小物製作は任せてもらっているらしい。
テヴェも俺もその時は特定の相手もおらず、出会った適当な奴と欲を吐き出すだけの関りをそれぞれ持っていた。
その日も溜まっていた俺たちは少し会話をしただけで、特に考えることもせずにテヴェの部屋になだれ込み、抱き抱かれ、募る欲求を解消した。
ただそれだけだった。

それからもお互いに特定な相手を作ることなく、テヴェも俺もふらふらとその場限りの関係を何人もの間で持っていた。
そういう付き合いをする奴の中にテヴェもいて、気が向いたときにどちらかの部屋で寝るだけの関係がしばらく続いた。

いつぐらいからだっただろう。
気がついたら、俺はテヴェ以外とは寝なくなった。
特にそれについて話したことはないのに、テヴェも俺以外とは寝なくなっていた。
お互いにやることをやったらさっさと帰っていたのが、次第に朝まで同じベッドで眠ることも増え、休みならそのままだらだらと過ごし、飯を一緒に食うことも増えてきて、今に至る。

2年かあ。
改めて考えるとこんなに続いた相手はいなかったかもしれない。




「結婚、まだしなくてもいいんじゃない?」

テヴェは吸い終わった煙管の灰を落とすと、俺の横に頭の下に腕を組んで寝転んだ。

「俺たち、そんなに縛られた関係じゃないでしょ」

「そうだけど」

俺も真似をして腕を組んで頭の下に持っていき、仰向けになった。

「俺たちなにもないじゃん」

「ん?」

俺はリノとの会話のあと、ずっともやもやと気になっていたことを口にした。
一応、リノは「恋人」だと言ってくれたし、俺もなんとなくそう思っているけれどお互いにそうだと確認したわけでもないし、なにか約束をしたり、証になるようなものを持っているわけでもない。
そんな気軽な関係で不安に思ったことはなかったのに、リノとの会話のあとなんとなく不安になってきた。

「将来の約束とか、テヴェが俺とつきあっている証とか」

「どうしたの?
なにか不安?」

「いや、そうじゃないけどさ」

おまえは不安じゃないの?
このまま、俺が他の誰かを好きになったり、簡単に誰かと寝てもいいの?

テヴェはくすくすと面白そうに笑う。

「今までそんなこと一言も言ったことなかったじゃない」

「……」

「これまでもそんなもの俺たちにはいらなかったし、これからもいらないよ。
いるのは『今』だけ」

「そんなもん?」

「いくら約束や証があっても、そんなのとても脆いものだよ。
こうやって」

テヴェが起き上がり、俺の上にのしかかってきた。

「今、俺のそばにアイーニュがいる。
これが一番大事で、確実なこと」

そう言って、ちゅっと小さなキスをした。

「おまえ、煙草やめろよ。
俺、匂いが好きじゃない」

「仕事やセックスのあとの一服がおいしいのに」

「もうキスしない」

「あー、はいはい」

テヴェは俺の胸に頭を載せてつぶやいた。

「もう少し、こうしていない?」

「うん?
約束も証もなしで、ってこと?」

「ん、まだこのままがいい」

「テヴェは不安にならない?」

「ならない。
こうやって今、アイーニュを抱いている」

「ッ」

テヴェが俺の乳首を弄りだす。

「ね、今度は俺が抱く」

「ええ?
今晩はずっと俺がテヴェを抱くんだと思ってたのに」

「アイーニュの中に入れさせて」

「わ、わかったから、その手やめろって」

「ね、もっとさわっていい?」

「おまえ、俺の話聞いてた?」

「ここ、気持ちいい?」

「…っあ」

さっきまでさんざん俺の下で喘いでいたテヴェが妖しい手つきで俺の身体をまさぐっていく。



いくら約束や証があったって、それが破られていくカップルを何組も見てきた。
テヴェとは約束も証もないけれど、お互いが好きで相手を求めていて一緒にいるもんなぁ。
大事なのは、俺がテヴェを好きで、テヴェも俺が好きってことなのかな。





「アイーニュ、なに考えてるの?
俺に集中して」

「あ、そんなところ噛むなよ。
明日、仕事で服が脱げないじゃないか」

「ふふふ、それを印にしたらいいじゃない」

「いやだよ、恥ずかしいし」

「じゃ、見えないところに痕つけてもいい?」

「んあっ」

「印なんてなくたってそばにいることがとっても大切なんだってば。
こうやって俺がアイーニュのことが好きで、触れてセックスして、一緒にいるっていうだけで幸せなの。
それを教えてあげるね」

テヴェは身体をずらし、俺の下半身を弄り始めた。
こうなったらあとはテヴェが満足するまで、どうすることもできない。
俺はさんざん喘がされ、焦らされることになる。


結婚なんて考えたことがなかったけど、テヴェが安心するなら約束してもいいかな、と軽く考えていたら違ってた。
不安になってしまったのは、俺のほうかもしれない。
もうちょっと真面目に考えようか。
でも、今はダメ。
テヴェの手の動きに溺れていく。
もう、我慢できなくなる。
テヴェのを自分の身体の奥にいっぱい欲しくなる。
焦らされてドロドロになってそこにねじ込まれて。

俺たちには過去も未来も約束も証もなくなって、あるのは「今」だけ。
お互いが「今、相手が好き」っていう、それだけ。





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