未来の貴方にさよならの花束を

まったりさん

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おひるね

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「楽しみだね! 誠!」
「帰りたい……」
 宿泊先に向かうバス内で、小夜曲の言葉を無視しつつ僕はそんな独り言を呟いた。
 ちなみにバス内の席もこれまた自由らしく、景色を見たかった僕は窓際に座ったのだが、いつの間にか小夜曲が隣にいた。こいつ僕のこと好き過ぎか。
「あの委員長許さねぇ……」
「来ちゃったもんは仕方ないよ、諦めて宿泊研修を楽しもうよ」
「はぁ……地獄だ」
「どんだけ憂鬱なのさ」
 呆れた顔で小夜曲が見てくるが仕方ないだろう。行く気がなかったのに行かなくならねばならなくなった時の怠さは異常だ。例えを出すなら警報が出て休みかと思ってたけど全然休みでもなんでもなかった時のようなものだ。
「チョコ食べる?」
「……食べる」
 小夜曲がチョコを手渡してくれたので受け取って口に含む。
「お前意外とビターの方食べるんだな」
「甘ったるいのは少し苦手なんだよ、だから私が食べるのはビター」
「まぁぶっちゃけチョコなんてビターも甘いけどな」
「ほんのり苦みがあるからビターは美味しいんだよ。ん~、幸せ!」
 チョコを食べて幸せそうな顔をする小夜曲。
「なぁ小夜曲、この宿泊研修って何泊なんだ?」
「そんなことも知らなかったの? 二泊三日だよ、初日は集団練習、二日目は山に行って色々とするらしいよ」
「色々、ねぇ……」
「楽しみじゃない!? 私もうウキウキし過ぎて昨日眠れなかった!」
「多分このクラスの中でも楽しみにしてたのはお前くらい……いや、一彼方とお前くらいだよ」
 バス内のクラスメイトの顔を見るが、みんな怠そうだ。
「そういえばさ」
「ん? どうした?」
「今から行くとこって温泉があるらしいんだよ」
「で?」
「覗かないの?」
「興味ない」
「即答!?」
 驚いた顔をされる。そこまで驚くことだろうか。
「アニメや漫画の見過ぎだ。普通覗きなんてするわけがないだろ」
「えぇ~。私の裸、見たくないの?」
「お子様ボディには興味がないんでね」
「誰がお子様ボディだこのやろー!」
 横腹をつんつんされる。
「にしても何分くらいで旅館先につくんだ? 僕結構バス酔いする方なんだけど」
「一時間以上かかるって先生言ってたよ」
「うぇ……果てしないな」
 もうすでに酔いかけているというのにまだまだあるのか。
「私の肩、あいてるよ」
「……誰が頼るか……」
「そうやって頼らなくて吐かれる方が私としては嫌なんだけどねぇ……ガム食べる?」
「食べる……」
 ガムを口に含むと爽やかなミント味が口に中で広がった。少しだけ酔いが軽減されたような気がする。
「……ありがとう」
「誠って……ツンデレだよね」
「うるさい、せっかく人が超絶久しぶりに感謝の言葉を言ったってのに……」
「そーだねっ。ありがとうって言ってくれてありがとう!」
「なんじゃそりゃ」
 わけのわからない感謝の言葉を言われ、僕は困惑した。
「んで、肩いらないの? 肩乗っけるだけでも結構楽になると思うけど」
「……わかったよ」
 渋々僕は小夜曲の肩に頭を乗せた。その時ふわりと女の子の良い匂いがした。
「普通男の肩に女が頭を乗せるもんなんだけどねぇ」
「嫌ならやめるけど」
「別にいいよ、そのままゆっくりしといて。それとも寝る?」
「……酔うくらいなら寝た方がマシなのかな」
「マシだよ、着いたら起こしてあげるから寝ときなって」
 優しい声音でそう言われる。睡魔もあるし、酔いのせいで気持ち悪いしで寝た方がいいのだろうが、なんというかここで寝たら負けなような気がする。
「おやすみ~、誠」
 頭を撫でられる。それを跳ねのけるほどの元気がなかった僕はやられるがままに撫でられた。
 すると段々と睡魔が大きくなっていき、僕の意識は段々と落ちていくのだった……。
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