怠惰な悪役貴族は変わらず怠惰に過ごしたい。死亡フラグを回避する為に【闇魔法】を極めてたら正ヒロインに好意を持たれたのだが。

つくも/九十九弐式

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第32話 アリシアとエリスに対する懲罰

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 それは理事長室でその後に起こった出来事である。

「……さて。アーサーの問題は片付いたが」

 理事長室にいたのは俺とフィオナと、理事長であるカレン。

 それから裏で糸を引いていたアリシアと、実行犯であるエリスであった。

「何の用ですか!? 叔母様。私が何をしたと言うのです!?」

 アリシアはそう叫ぶ。

「しらばっくれても無駄だぞ。アリシア。もう裏は取れている。後、叔母様ではない。ここでは理事長と呼べ」

 カレンはそう言うのであった。

「エリス。あなた、喋ったわね。喋らないように厳命しておいたはずでしょう」

「す、すみません。お姉様。もはやこれ以上、しらばっくれるのは無理な様子でした。その上、私に対する刑罰を軽くするという司法取引を提案され、つ、つい」

「くっ。後で見ておきなさいよ」

 アリシアはきつい目でエリスを睨んだ。

「こらこら。責任転嫁をするな。元はと言えば、お前が裏でこいつに命じたのがそもそもの問題ではないか」

 カレンは説教をする。

「さて、お前達に与える刑罰ではあるが、早く終わるのと、終わるまでに時間がかかるものどっちがいい?」

「そ、それはもう。早く終わるものに決まっておりますわ」

「……そうか。まあ、当然だな。それでは被害者であるフィオナ君に決めて貰おう。痛いのと、かなり痛いのと、すごく痛いの。どれがいいか?」

「あまり痛くしないであげてください。可哀想です」

 被害者だというのに、なんと慈愛に満ちた事を言うのか。流石は光属性の正ヒロインだ。加害者を前にして普通はそんな事は言えないであろう。

「そうか、ではまあ、普通程度の痛みにしておくか」

 カレンは魔法を発動させる。青色と緑色の光は水と風の精霊を使役している証拠だ。雷雲が頭上に立ち込めた。これから何が起こるのかは言うまでもない事である。

「くっ」

「言っておくがマジックウォールで防いだら罰としてノーカウントだからな。ちなみにゆっくりした罰だと三カ月の停学とトイレ掃除だ。それはそれで嫌だろう」

 カレンは指を指し示す。

「ライトニング!」

 水と風の二重魔法(ダブルマジック)である『ライトニング』。要するに雷を発生させ、相手を攻撃する魔法だ。

 その『ライトニング』にアリシアとエリスは貫かれ、悲鳴を上げるのであった。

「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!」」

 二人の断末魔のような悲鳴が理事長室に響き渡る。

「くっ……覚えておきなさいよ」

 捨て台詞のような台詞を吐いて、それでもアリシアは気を失ってはいなかった。エリスは完全に気を失ったのに対して、彼女は頑丈であった。 

「フィオナよ。どうか、愚かな姪っ子と手下の愚行を許しては頂けないだろうか?」

「ええ、許すもなにも別に私は何とも思っておりませんから」

フィオナはニコニコとした笑顔を浮かべて答える。

それはそれで、清らかな乙女の裸を男に見られた少女の対応としていかがなものか、と首を傾げざるを得ないものではあるが。

「アリシア。いい加減、フィオナが魔法学園に在籍する事を認めたらどうだ? 貴族第一主義、平民に対する蔑視思想は根強いものではあるが。彼女が魔法学園に在籍する事は王族も認めている事だ」

「……くっ。そ、そんな事。わかっていますわ。叔母様」

「理事長だ。理事長。毛嫌いする分には構わないが、直接的な危害を加えるとなれば話は別だ。アリシア、いくらお前が姪でもあまり特別扱いをして、庇い切れはしない」

「……くっ。そこの平民の女が大人しく我が学園から出て行けばいいというだけなのに。そう、思っている者は多くいます。決して私だけがそう思っているわけではない」

「思っているだけならいいが、行動に移していいわけがない事くらいはわかるだろう。それに、本来は我々貴族は有事の際は平民を守るべき存在なのだ。決して見下したり、虐げたりしていいわけがない」

 カレンはアリシアに対してそう断じた。

「……くっ」

 アリシアは表情を歪ませる。

「アリシアさん。どうしたら、私が魔法学園に通う事を認めてくれるのですか?」

 フィオナは問う。

「いくら私が平民だからと言って、こうも度々嫌がらせをされるのはあまり良い心地のするものではありません」

 とはいえ、アリシアは貴族であり、理事長の姪っ子とはいえ、一般生徒でしかない彼女の許しなど最初から乞う必要はない。

 妨害やら嫌がらせやはら単にアリシアの性格が悪いだけの事であり、そもそもフィオナに非などないのである。

「私があなたの事を認める事などありません。ですが、私があなたに危害を加える事をやめさせる事ならできます」

「そ、それはどんな方法で、でしょうか?」

「平民の娘よ。私と勝負をなさい」

「勝負? い、一体どんな勝負を」

「これから三カ月後に魔法武術大会が開催されます。その時に、私より上の順位だったら、あなたの事を認めましょう。ただし、あなたが私よりしたの順位だった場合、あなたには退学して貰います」

「アリシアよ。それでは勝負になっていないであろう? つり合いがとれてなさすぎる。フェアではない。賭けというものは対象が釣り合って初めて成立するものだ」

 俺はそう、口を挟む。

「そんな事もわかっております。愚弟に言われずとも。私があなたの在学を認めるのはおまけに過ぎません。平民の娘よ。もし、あなたが私を上回った暁にはあなたの言う事を何でも聞いてあげましょう」

「何でも?」

「ええ。何でもよ」

 アリシアは不敵に笑う。それだけの絶対的の自信があるという事だろう。元々、自信過剰で性格の悪いアリシアらしい、と言えばらしい事ではあった。

「あなたが死ねと命じれば死ぬし。退学しろと命じれば退学するわ。裸のまま学園内を一周しろと言われたらするわ」

「……いいでしょう。そのお話、お受けします。その代わり、約束はちゃんと守ってください」

「ふふっ……平民の分際で舐めた口を聞くじゃないわよ。貴族であるこの私が約束を破るわけがないじゃない」
 
 ここに、乙女同志の闘いの火蓋が切っておろされようとしていた。

「それじゃあ、私はこれで」

 アリシアは完全に気絶しているエリスの首根っこを引っ張り、引きずりながら。

 とても優雅とは言えない姿で理事長室を後にしたのであった。

「いいのか? フィオナ。あんな約束をして、もしアリシアに負けたらお前はこの学園を退学しなければならなくなるんだぞ?」

「い、いいんです。こちらが条件を飲まなければあの人が大人しくなるはずないですから」

「そ、それもそうだな……」

 俺はアリシアの性格を知っている。執念深く意地が悪い。だが、これから三カ月後に行われる魔術武闘会の結果次第ではフィオナを退学にできるのだから、その三カ月以内には直接的な危害を加えてくる事はないだろう。

 小細工もしてこなさそうだ。なぜならアリシアは自信過剰であり、相手を舐める癖があるのだから。

「ふぅ……色々あって疲れたな。俺達も寮に帰るとするか」

「そ、そうですね……そうしましょうか」

 一件落着とはいかない。一応の問題は解決したが、また新たな問題が生まれた。そんな感じだ。だが、目先の問題は一応は片付いたので一息つけるタイミングではあった。

「それじゃあ、カレン叔母さんもお疲れ様でした。じゃあ、俺達はこれで」

「叔母さんではない。理事長と呼べ、理事長を」

 カレンはいつものように叱責する。

 こうして用件が済んだ俺達は理事長室を後にし、寮の自室へと戻っていくのであった。
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