43 / 43

第43話 闇勇者ハヤトとの再戦

しおりを挟む
 俺は剣を構え、闇勇者ハヤトと向き合った。不思議だった。闇勇者ハヤトが放っている不気味なオーラは以前と変わっていない。

 しかし、俺自身が今までの闘いの中で成長(レベルアップ)してきた。その為だろうか。一対一で向き合っているというのに、かつて程の威圧感を感じていない自分に気が付いた。

「生意気なんだよ……カゲト君。モブキャラでしかない君の分際で、何を余裕を持った表情をしているんだ」

 闇勇者ハヤトはその整った表情を歪ませる。奴からすれば他者など虫のように踏みにじるだけの存在でしかない。その虫が歯向かおうとしてきているのだから、気に入らないのであろう。

「ハヤト……これ以上の凶行はやめるんだ」

 俺は無駄だとわかりつつもそう言うのであった。

「何を言っているんだ、カゲト君。そんな事言ってきても無駄だって事、自分でも何となくわかってるんじゃないかな」

 闇勇者ハヤトは嘲るような笑みを浮かべる。

「僕はもう、魔王軍の側の人間だ。説得しようとしても無駄だよ。言葉なんてもはや不要さ。相手を従わせたかったら、力で証明するしかないんだ」

「……そうか。俺達はもう、闘うしかないんだな」

 俺達は剣を構え、向き合う。

「それじゃあ、僕の方から行かせて貰うよ。カゲト君」

 闇勇者ハヤトが斬りかかってきた。一気に踏み込んでくる。その動きは尋常ではない程に速いものであった。

 普通であるならば、一瞬で相手の首を刎ねてしまえるであろう。それほどの速さ。目にも止まらぬ攻撃とはこの事だった。

 ――だが。

 キィン!

 甲高い音が響く。俺は闇勇者ハヤトの攻撃を剣で受け止めたのだ。

「なっ!?」

 闇勇者ハヤトが目を大きく見開き、驚いたような表情になる。見える。闇勇者ハヤトの攻撃が。かつての俺だったら見えなかった事だろう。しかし、いくつもの闘いをクリアしてきて、俺は成長(レベルアップ)をしてきた。今の俺だったのならば、闇勇者ハヤトの攻撃だって対応する事が出来た。

「ふざけるなっ!」

 しかし、それが闇勇者ハヤトにとっては不服だったようだ。それも当然の事だ。奴にとっては俺なんてただの格下。それどころか虫のように踏みにじる対象でしかない。少なくとも闇勇者ハヤトはそう思っているはずだ。

 だから、そんな俺に攻撃をまともに受け止められて奴にとっては面白いはずがなかったのだ。

「ふけるなよっ! お前のような奴に、なんで僕の攻撃を受け止められなきゃなんだ!」

  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン! キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン! キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン! キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!  キィン!

 闇勇者ハヤトは激昂して、俺に襲い掛かってくる。その攻撃は速くはあったのだが、直線的で読みやすかった。怒った人間の行動というのは至極単純で、思慮が足りないものだ。

 普通の人間には無理でも、今までの闘いで成長(レベルアップ)してきた俺ならば見切れない程の攻撃ではなかった。

「くそっ! ふざけるなよっ! お前程度の奴が、なんで僕の攻撃を受け止められるんだ!」

 闇勇者ハヤトは激昂していた。幾多もの攻撃を繰り返した後、闇勇者ハヤトは大きく後ろに跳んだ。

 距離を取ったようだ。当然のように、今回は逃げるつもりはないようだった。今のこいつは決して前のように慢心してかかってきているわけではない。本気で俺達を倒そうとしているのだ。

「もういい……もういい……飽きたよ、カゲト君。君との闘いは。君とまるで互角の闘いを演じているというだけで、僕は不愉快だ。もう君の顔を見たくもないよ……いいよ。死んじゃえよ、カゲト君」

 闇勇者ハヤトは大きく剣を振りかぶった。魔剣『ダークエクスカリバー』。その魔剣を大きく振りかぶったのである。そして、暗黒のエネルギーが天高くまで伸びていくのであった。そのエネルギーの強さは前の時よりもずっと強大であった。

「ふふっ……カゲト君。この攻撃は前の君達に放ったものよりも、もっと強力なものなんだ。敵うわけないんだよ、君程度では」

「……そうかもしれない。だけど、やるしかないんだ。その攻撃を凌ぐ以外に活路がないんだったら、やるしかない」

 俺は勇者の剣を強く握りしめた。

「生意気なんだよ! カゲト君のくせに! もう死んじゃえよ! 『ダークエクスカリバーEX』!」

 そう言って、闇勇者ハヤトは『ダークエクスカリバー』を振り下ろしてきた。天から大量の暗黒のエネルギーが降り注いでくる。

 くそっ……そうは言ったものの、その攻撃は凄まじいものであった。レベルアップをした今の俺でも受け止められない程に。

 まずい……このまままともに受け止めてはやられてしまう。

 ――と、その時の事であった。

 エステルとレティシアが俺の元へと駆け付けてきた。

「カゲト様!」

「ふ、二人とも、アスタロトはどうしたんだ……」

「アスタロトは死霊術士(ネクロマンサー)です。召喚した不死者(アンデッド)を倒せば、本体自体はそう強くはありませんでした」

「……そうか」

 後ろを振り返ると、アスタロトの姿はなかった。劣勢を感じ、その場から逃げ出したのだろうか。

 ともかく、一対一では無理だとしても、三人でかかれば何とかなるかもしれない。

「虫ケラが三匹に増えた所で、何が変わるって言うんだ! 死んでしまえ!」

 圧倒的な暗黒のエネルギーが俺達に襲い掛かってくる。

「聖障壁(ホーリーウォール)!」

 レティシアは魔法スキルを発動した。聖なる光の壁が俺達を守るべく、展開される。

「くっ!」

 レティシアは表情を歪めた。

「ふっ! 無駄だって言っているだろう! そんな程度の護りで、僕の最大の攻撃を防ぎ切れるわけがないんだ!」

 実際、その言葉の言う通りであった。レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』を以てしてでも、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』は防ぎ切れなかった。

 パリン!

 まるでガラスが割れる時のような音を発して、レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』は四散した。

「あっ、ああ……」

 レティシアは項垂れる。

「諦めるのはまだ早いです! 聖光覇斬剣!」

 エステルはそう言って、技スキル『聖光覇斬剣』を放った。エステルの剣から、聖なる光が放たれ、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』と衝突する。

「くっ!」
 
 レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』と相殺して、威力が減退しているにも関わらず、その暗黒のエネルギーは凄まじいものもあった。

 エステルの『聖光覇斬剣』が押し負けている。

「ほら、だから言ったじゃないか! 無駄な抵抗だってさ! クックック!」

「そ、そんな……」

「諦めるのはまだ早い!」

 俺は剣を振りかぶる。俺にはまだ切り札があった。そう、最近レベルアップした事で習得する事ができた新しい技スキル『ロックブレイカー』だ。この技は単体攻撃の技スキルではあるが、今まで習得してきた技スキルの中で最も攻撃力が高い。

 今の状況におあつらえ向きの技だ。

「食らえっ! 『ロックブレイカー』!」

 無属性のエネルギーが剣から放たれる。

「な、なにっ!」

 レティシアの『聖障壁(ホーリーウォール)』。そして、エステルの『聖光覇斬剣』により、闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』の勢いは大分減退していた。それなりに威力が相殺されたのだ。
 
 その前提条件があれば、俺の『ロックブレイカー』は闇勇者ハヤトの『ダークエクスカリバーEX』を凌ぐ事ができる。そう、俺は思っていた。

『ロックブレイカー』と『ダークエクスカリバーEX』の力が押し合う。一瞬、拮抗状態になった。

 だが、拮抗していたのも一瞬だけだった。俺の『ロックブレイカー』が相手の攻撃に押し勝つ。

 ――そして。

「なっ!?」

 無防備な状態で闇勇者ハヤトへと襲い掛かっていったのだ。

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 闇勇者ハヤトは悲鳴を上げた。

「やったか……」

「く……くそ……この僕がこんな目に合うなんて」

 闇勇者ハヤトは大ダメージを負っていたが、健在だった。

「この僕が、相手を二度も見逃す事になるなんてな」

「くそ! ふざけるなよ! 逃がすかよ!」

「逃げるんじゃない! 見逃してやるんだ!」

 闇勇者ハヤトはアイテムを取り出した。クリスタルのようなアイテム。

「それは移動用の消費アイテム」

「そうだ。こいつを使用すれば、僕は本拠地にまで戻る事ができる。後、勘違いするなよ、僕はお前達を見逃してやるんだからな。決して逃げるわけじゃない」

「なんと見苦しい言い訳を」

「うるさい! 黙れっ! じゃあな。カゲト君。次に会った時は確実に君を殺す。絶対にだ」

 そう言って、闇勇者ハヤトはクリスタルを砕いた。

 そして、その場から逃走していったのだ。恐らくはアスタロトもそのアイテムを使用して逃走したのであろう。

「終わったか……」

 俺達はほっと胸を撫で下ろす。何にせよ、これで一応危機は去ったというわけだった。

 こうして俺達の闘いは一応の終わりを告げたのである。



しおりを挟む
感想 10

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(10件)

リュウ
2023.01.26 リュウ

何か本物の勇者が可哀想とか言ってる人いるけど元々闇勇者じゃん。女をモノとして見てるし。まぁ女神がゴミなのは認めるが。邪の女神と闇の女神ね。

解除
ヒロカレー
2022.11.18 ヒロカレー

主人公の子、街の酒場でオレンジジュースを口にしただけで
最初から水も食料もなしで国を跨いで旅を続けていたけど
太陽電池とかで動いてるのかな?
それに宿にも泊まらずに召喚から今までずっと寝ずに休まずいるようだけど・・・
ロボットとか?

解除
イリヤ
2022.10.27 イリヤ

レベル50の闇勇者が無双してたことから50もいけばかなり強いのかな?スキルもあるだろうけど。
そう考えると今回の泉の効果でのレベルアップ幅はデカいのかな?想像より控えめだったから安心もしつつ、拍子抜けもしつつ…?
バランスぶっ壊れるよりいいかもですね!

解除

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。