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第一章

取り引き《ヴィンセント side》①

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◇◆◇◆

 ────今から、約十年前……シエラ様の訃報を聞いて、数ヶ月経った頃。
僕はセシリアを守るために……そして、あの家から引き離すためにエーデル公爵家へ何度も縁談を持ち掛けていた。
が、返事は一貫してNO。
恐らく、将来のために……いや、アイリス嬢のためにセシリアを手放したくないのだろう。

「一生飼い殺しにするつもりか……」

 公爵家の実務を全てセシリアに押し付けることで、アイリス嬢は自由となる。
恋愛も、家門も、お金も全部……。
いつでも全てを投げ出して、いつでも全てを手に入れられる立場に居られるのだ。セシリアという犠牲を払って。

「まあ、思い通りにはさせないけどね……」

 目の前に聳え立つ大きな城を見上げ、僕はニヒルに笑う。
『我ながら、狂っている』と肩を竦めながら、城の中へ足を踏み入れた。
事前に話を通しておいたおかげか、すんなり応接室へ遠され────ロジャー皇帝陛下と対面する。
そこで簡単な挨拶を済ませ、僕は向かい側の席に腰掛ける茶髪の男性をじっと観察した。
彼の一挙一動を見逃さぬよう目を凝らしつつ、少しばかり身を乗り出す。

「陛下の貴重なお時間を割いていただいている訳ですから、無駄にしないよう率直に申し上げますね。本日、陛下の元へ参ったのは────僕ヴィンセント・アレス・クラインとセシリア・リゼ・エーデルの婚約及び結婚に手を貸していただけないか、相談するためです」

 早速本題を切り出すと、ロジャー皇帝陛下は明らかに難色を示した。
公爵家同士の問題に首を突っ込むなど、出来ればしたくないのだろう。
最悪、内戦の火種となるから。
『まあ、ここまでは織り込み済み』と考えながら、僕は一先ず事情を説明した。
難しい顔つきで黙り込むロジャー皇帝陛下を前に、僕はスッと目を細める。

「もちろん、『何の見返りもなく』という訳ではありません」

 『子供と言えど、それくらい心得ている』と示し、僕は頬杖をついた。
と同時に、エメラルドの瞳を真っ直ぐ見つめ返す。

「もし、陛下が僕の望みを叶えてくださるのなら────第三皇子ルパート・ロイ・イセリアル殿下をお守りしましょう」

 二年ほど前に戦場へ送られた紫髪の少年を話題に出し、僕は内心ほくそ笑んだ。
だって、ロジャー皇帝陛下の反応があまりにも分かりやすかったから。
『やはり、お気に入りは第三皇子か』と確信していると、ロジャー皇帝陛下が僅かに表情を険しくする。

「断る」
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