精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど

文字の大きさ
14 / 15
本編

13

しおりを挟む
 リアム国王陛下が死んだことで、残りはノア様だけとなった。
 陛下の亡骸を闇に沈めたサナトスは自身の唇に二回触れ、ノア様に掛けた魔法を解く。
口の自由が効くようになったノア様だったが、彼が言葉を発すことはなかった。

「ノア・アレクサンダー、魔法は解いたからもう喋れるよ。君の叔父みたいに喚き声の一つでも上げてみたら、どうだい?」

「········」

「無視とはいいご身分だね。君はそんなに早く死にたいのかい?」

「········」

 サナトスの問い掛けにノア様は頑として答えない。
黙りを決め込む彼の顔には生気がなく、もはや話を聞いているのかさえ分からなかった。

 愛する女に裏切られた上、慕っていた叔父にも見捨てられれば、さすがのノア様も心が壊れるか······。
ノア様は正真正銘のクズだけど、クレア様を思う気持ちや陛下を慕う気持ちに嘘はない筈だから······。
 まあ、私からすれば『いい気味』としか思えないけど·······。

「まだ完全に気が晴れた訳じゃないけど、話しかけても無駄みたいだし、さっさと終わらせ······」

「────何でこうなったんだ······?」

 今までずっと無言だったノア様が突然私の声を遮り、大きな一人言を零した。
私とサナトスは顔を合わせると、金髪碧眼の美青年を横目で捉える。

「私はただ愛する者と共になりたかっただけだ。それ以上のことは何も望んでいない。なのに何故こんな目に遭う······?」

 ノア様は本当に何も分かっていないのか、『何故』と繰り返した。

「何故、私の手には何も残っていないのだ?愛する者と結ばれることがそんなに悪いことなのか?私は神の逆鱗に触れるような事をしたのか?」

 違う·······違うわ。そうじゃない。
貴方が間違っていたのは目的じゃなくて·····。

「────やり方よ。やり方が間違っていたの」

「!?」

 私が口にした答えに、ノア様は大きく目を見開く。
 迷子になった子供のように、ゆらゆら揺れていた海色の瞳が真っ直ぐこちらを見つめていた。

 この男はただのクズなのに·······どうして、こんなに目が綺麗なのかしらね。

「『愛する者と結ばれたい』という願いは決して間違ったことじゃないわ。でも、愛する者と結ばれるために何をやってもいい訳じゃない。貴方の選んだやり方が他人を傷つけるものであれば、報復を覚悟しないといけないわ」

「·······じゃあ、私は今その報復を受けているのか?」

「結論から言うと、そうなるわね」

 思いのほか飲み込みが早いノア様はクシャッと顔を歪め、『そうか·····』と呟く。
ここでようやく、ノア様は自分が犯した罪と私の気持ちに気がついた。

 全てが真っ白で、純粋な子だからこそ招いてしまった悲劇。
彼にほんの少しでも常識があれば、結果は違ったかもしれない······。

「·······アリス、最期にこれだけ言わせてくれ」

「何かしら?」

「────アリスの名誉と心を傷つけて、本当に悪かった」

 驚くほど、すんなり出てきた謝罪の言葉。
その言葉は私の胸にストンと落ちてきた。

 謝られたからと言って、彼への殺意が薄れる訳じゃないが·······ほんの少しだけ同情してしまった。

「·······サナトス、直ぐに終わらせて」

「おや?良いのかい?さんざん痛めつけてから、殺すんじゃなかった?」

「気が変わったのよ。血生臭いのはあまり得意じゃないし、早く終わらせて」

「ふふっ。分かったよ」

 最後の最後で情けを与える私に、サナトスはクスリと笑みを零すと、グッと手を握り締めた。
すると、会場を覆っていた大きな闇が一斉に動き出す。
まるで引き寄せられるみたいに、ノア様の周りに集まり始めた。

「アリスを傷つけた君のことはどう頑張っても好きになれないけど、その白い心は嫌いじゃないよ」

 サナトスのその言葉を最後に、ノア様の体は深い闇に包み込まれる。
金髪碧眼の美青年を閉じ込めた闇は球体に変化した。
 真っ黒なボールの中から、うっすらとノア様の姿が見える。

「─────ノア・アレクサンダー、闇の中で静かに······そして、ゆっくり死んでいくがいい」

 “死”を持って終了する、その罰の名は────“孤独”。
 終焉を招く精霊王はノア・アレクサンダーに“孤独”という名の罰を与えた。
しおりを挟む
感想 116

あなたにおすすめの小説

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

今、目の前で娘が婚約破棄されていますが、夫が盛大にブチ切れているようです

シアノ
恋愛
「アンナレーナ・エリアルト公爵令嬢、僕は君との婚約を破棄する!」  卒業パーティーで王太子ソルタンからそう告げられたのは──わたくしの娘!?  娘のアンナレーナはとてもいい子で、婚約破棄されるような非などないはずだ。  しかし、ソルタンの意味ありげな視線が、何故かわたくしに向けられていて……。  婚約破棄されている令嬢のお母様視点。  サクッと読める短編です。細かいことは気にしない人向け。  過激なざまぁ描写はありません。因果応報レベルです。

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

異母妹に婚約者の王太子を奪われ追放されました。国の守護龍がついて来てくれました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「モドイド公爵家令嬢シャロン、不敬罪に婚約を破棄し追放刑とする」王太子は冷酷非情に言い放った。モドイド公爵家長女のシャロンは、半妹ジェスナに陥れられた。いや、家族全員に裏切られた。シャロンは先妻ロージーの子供だったが、ロージーはモドイド公爵の愛人だったイザベルに毒殺されていた。本当ならシャロンも殺されている所だったが、王家を乗っ取る心算だったモドイド公爵の手駒、道具として生かされていた。王太子だった第一王子ウイケルの婚約者にジェスナが、第二王子のエドワドにはシャロンが婚約者に選ばれていた。ウイケル王太子が毒殺されなければ、モドイド公爵の思い通りになっていた。だがウイケル王太子が毒殺されてしまった。どうしても王妃に成りたかったジェスナは、身体を張ってエドワドを籠絡し、エドワドにシャロンとの婚約を破棄させ、自分を婚約者に選ばせた。

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

王太子に婚約破棄されていたら「ずるいずるい」という妹が乱入してきました。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「お前との婚約を破棄する!」 「ずるいですわ、お姉さま!」

婚約破棄の上に家を追放された直後に聖女としての力に目覚めました。

三葉 空
恋愛
 ユリナはバラノン伯爵家の長女であり、公爵子息のブリックス・オメルダと婚約していた。しかし、ブリックスは身勝手な理由で彼女に婚約破棄を言い渡す。さらに、元から妹ばかり可愛がっていた両親にも愛想を尽かされ、家から追放されてしまう。ユリナは全てを失いショックを受けるが、直後に聖女としての力に目覚める。そして、神殿の神職たちだけでなく、王家からも丁重に扱われる。さらに、お祈りをするだけでたんまりと給料をもらえるチート職業、それが聖女。さらに、イケメン王子のレオルドに見初められて求愛を受ける。どん底から一転、一気に幸せを掴み取った。その事実を知った元婚約者と元家族は……

処理中です...