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本編
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リアム国王陛下が死んだことで、残りはノア様だけとなった。
陛下の亡骸を闇に沈めたサナトスは自身の唇に二回触れ、ノア様に掛けた魔法を解く。
口の自由が効くようになったノア様だったが、彼が言葉を発すことはなかった。
「ノア・アレクサンダー、魔法は解いたからもう喋れるよ。君の叔父みたいに喚き声の一つでも上げてみたら、どうだい?」
「········」
「無視とはいいご身分だね。君はそんなに早く死にたいのかい?」
「········」
サナトスの問い掛けにノア様は頑として答えない。
黙りを決め込む彼の顔には生気がなく、もはや話を聞いているのかさえ分からなかった。
愛する女に裏切られた上、慕っていた叔父にも見捨てられれば、さすがのノア様も心が壊れるか······。
ノア様は正真正銘のクズだけど、クレア様を思う気持ちや陛下を慕う気持ちに嘘はない筈だから······。
まあ、私からすれば『いい気味』としか思えないけど·······。
「まだ完全に気が晴れた訳じゃないけど、話しかけても無駄みたいだし、さっさと終わらせ······」
「────何でこうなったんだ······?」
今までずっと無言だったノア様が突然私の声を遮り、大きな一人言を零した。
私とサナトスは顔を合わせると、金髪碧眼の美青年を横目で捉える。
「私はただ愛する者と共になりたかっただけだ。それ以上のことは何も望んでいない。なのに何故こんな目に遭う······?」
ノア様は本当に何も分かっていないのか、『何故』と繰り返した。
「何故、私の手には何も残っていないのだ?愛する者と結ばれることがそんなに悪いことなのか?私は神の逆鱗に触れるような事をしたのか?」
違う·······違うわ。そうじゃない。
貴方が間違っていたのは目的じゃなくて·····。
「────やり方よ。やり方が間違っていたの」
「!?」
私が口にした答えに、ノア様は大きく目を見開く。
迷子になった子供のように、ゆらゆら揺れていた海色の瞳が真っ直ぐこちらを見つめていた。
この男はただのクズなのに·······どうして、こんなに目が綺麗なのかしらね。
「『愛する者と結ばれたい』という願いは決して間違ったことじゃないわ。でも、愛する者と結ばれるために何をやってもいい訳じゃない。貴方の選んだやり方が他人を傷つけるものであれば、報復を覚悟しないといけないわ」
「·······じゃあ、私は今その報復を受けているのか?」
「結論から言うと、そうなるわね」
思いのほか飲み込みが早いノア様はクシャッと顔を歪め、『そうか·····』と呟く。
ここでようやく、ノア様は自分が犯した罪と私の気持ちに気がついた。
全てが真っ白で、純粋な子だからこそ招いてしまった悲劇。
彼にほんの少しでも常識があれば、結果は違ったかもしれない······。
「·······アリス、最期にこれだけ言わせてくれ」
「何かしら?」
「────アリスの名誉と心を傷つけて、本当に悪かった」
驚くほど、すんなり出てきた謝罪の言葉。
その言葉は私の胸にストンと落ちてきた。
謝られたからと言って、彼への殺意が薄れる訳じゃないが·······ほんの少しだけ同情してしまった。
「·······サナトス、直ぐに終わらせて」
「おや?良いのかい?さんざん痛めつけてから、殺すんじゃなかった?」
「気が変わったのよ。血生臭いのはあまり得意じゃないし、早く終わらせて」
「ふふっ。分かったよ」
最後の最後で情けを与える私に、サナトスはクスリと笑みを零すと、グッと手を握り締めた。
すると、会場を覆っていた大きな闇が一斉に動き出す。
まるで引き寄せられるみたいに、ノア様の周りに集まり始めた。
「アリスを傷つけた君のことはどう頑張っても好きになれないけど、その白い心は嫌いじゃないよ」
サナトスのその言葉を最後に、ノア様の体は深い闇に包み込まれる。
金髪碧眼の美青年を閉じ込めた闇は球体に変化した。
真っ黒なボールの中から、うっすらとノア様の姿が見える。
「─────ノア・アレクサンダー、闇の中で静かに······そして、ゆっくり死んでいくがいい」
“死”を持って終了する、その罰の名は────“孤独”。
終焉を招く精霊王はノア・アレクサンダーに“孤独”という名の罰を与えた。
陛下の亡骸を闇に沈めたサナトスは自身の唇に二回触れ、ノア様に掛けた魔法を解く。
口の自由が効くようになったノア様だったが、彼が言葉を発すことはなかった。
「ノア・アレクサンダー、魔法は解いたからもう喋れるよ。君の叔父みたいに喚き声の一つでも上げてみたら、どうだい?」
「········」
「無視とはいいご身分だね。君はそんなに早く死にたいのかい?」
「········」
サナトスの問い掛けにノア様は頑として答えない。
黙りを決め込む彼の顔には生気がなく、もはや話を聞いているのかさえ分からなかった。
愛する女に裏切られた上、慕っていた叔父にも見捨てられれば、さすがのノア様も心が壊れるか······。
ノア様は正真正銘のクズだけど、クレア様を思う気持ちや陛下を慕う気持ちに嘘はない筈だから······。
まあ、私からすれば『いい気味』としか思えないけど·······。
「まだ完全に気が晴れた訳じゃないけど、話しかけても無駄みたいだし、さっさと終わらせ······」
「────何でこうなったんだ······?」
今までずっと無言だったノア様が突然私の声を遮り、大きな一人言を零した。
私とサナトスは顔を合わせると、金髪碧眼の美青年を横目で捉える。
「私はただ愛する者と共になりたかっただけだ。それ以上のことは何も望んでいない。なのに何故こんな目に遭う······?」
ノア様は本当に何も分かっていないのか、『何故』と繰り返した。
「何故、私の手には何も残っていないのだ?愛する者と結ばれることがそんなに悪いことなのか?私は神の逆鱗に触れるような事をしたのか?」
違う·······違うわ。そうじゃない。
貴方が間違っていたのは目的じゃなくて·····。
「────やり方よ。やり方が間違っていたの」
「!?」
私が口にした答えに、ノア様は大きく目を見開く。
迷子になった子供のように、ゆらゆら揺れていた海色の瞳が真っ直ぐこちらを見つめていた。
この男はただのクズなのに·······どうして、こんなに目が綺麗なのかしらね。
「『愛する者と結ばれたい』という願いは決して間違ったことじゃないわ。でも、愛する者と結ばれるために何をやってもいい訳じゃない。貴方の選んだやり方が他人を傷つけるものであれば、報復を覚悟しないといけないわ」
「·······じゃあ、私は今その報復を受けているのか?」
「結論から言うと、そうなるわね」
思いのほか飲み込みが早いノア様はクシャッと顔を歪め、『そうか·····』と呟く。
ここでようやく、ノア様は自分が犯した罪と私の気持ちに気がついた。
全てが真っ白で、純粋な子だからこそ招いてしまった悲劇。
彼にほんの少しでも常識があれば、結果は違ったかもしれない······。
「·······アリス、最期にこれだけ言わせてくれ」
「何かしら?」
「────アリスの名誉と心を傷つけて、本当に悪かった」
驚くほど、すんなり出てきた謝罪の言葉。
その言葉は私の胸にストンと落ちてきた。
謝られたからと言って、彼への殺意が薄れる訳じゃないが·······ほんの少しだけ同情してしまった。
「·······サナトス、直ぐに終わらせて」
「おや?良いのかい?さんざん痛めつけてから、殺すんじゃなかった?」
「気が変わったのよ。血生臭いのはあまり得意じゃないし、早く終わらせて」
「ふふっ。分かったよ」
最後の最後で情けを与える私に、サナトスはクスリと笑みを零すと、グッと手を握り締めた。
すると、会場を覆っていた大きな闇が一斉に動き出す。
まるで引き寄せられるみたいに、ノア様の周りに集まり始めた。
「アリスを傷つけた君のことはどう頑張っても好きになれないけど、その白い心は嫌いじゃないよ」
サナトスのその言葉を最後に、ノア様の体は深い闇に包み込まれる。
金髪碧眼の美青年を閉じ込めた闇は球体に変化した。
真っ黒なボールの中から、うっすらとノア様の姿が見える。
「─────ノア・アレクサンダー、闇の中で静かに······そして、ゆっくり死んでいくがいい」
“死”を持って終了する、その罰の名は────“孤独”。
終焉を招く精霊王はノア・アレクサンダーに“孤独”という名の罰を与えた。
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