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第四章

第177話『第二十五階層』

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 ────それから第二十二~第二十四階層まで駆け抜けた私達は、第二十五階層まで来ていた。
辺りに漂うじめじめとした空気を前に、私達は武器を構える。

 第二十五階層の魔物モンスターは────セイレーン。
鳥の姿をした魔物モンスターで、首元に魚のようなうろこが付いている。
主な攻撃手段は、水の咆哮と体当たりだ。

「防御班、気ぃ引き締めや!セイレーンの水の咆哮は岩をも砕く威力やからな!」

「盾使いは列の外に移動してください!結界師は出来るだけ、広範囲に結界を展開!」

「「「はい!」」」

 防御班はアヤさんの指示に従って、急いで守りを固める。
────と、ここでセイレーンが水の咆哮を発動させた。
物凄い速さで迫ってくるソレは結界へぶち当たり、何枚か破損させる。

「セイレーンの水の咆哮、予想以上の威力とスピードですね……」

「え、そーお?あのくらい、普通じゃなーい?」

「……シムナさんに共感を求めた私が、間違ってました」

 自分基準で物事を判断するシムナさんにほとほと呆れ返り、私は一つ息を吐く。
その瞬間、

「おい!そこ、危ないぞ!」

 と、誰かに声を掛けられた。
ハッとして顔を上げると、破壊された結界からこちらへ向かってくるセイレーンの姿が目に入る。
『グギャァァァァ!』という汚い鳴き声を前に、私はギョッとした。

「し、シムナさん!セイレーンが……!」

「ん?あぁ、あの汚い鳥のことー?なんか、こっちに向かってきてるねー」

 いや、『こっちに向かってきてるねー』って、それだけ!?
もっと、何かないの!?

「あの汚い鳥、引く気はないみたいだねー。仕方ないなぁ……あんまり気乗りしないけど、僕が相手してあげるー!」

 そう宣言するや否や、シムナさんはアイテムボックスから金と銀の斧を取り出した。
かと思えば、トンッと地面を蹴り上げる。
そして、セイレーンの前に躍り出た。

「え、おい!あれは大丈夫なのか!?」

「いくら、シムナさんでもあれは無茶があるんじゃ……」

「おい!誰かシムナさんを魔法で援護しろ!」

「今からじゃ、間に合わないよ!私達が詠唱を終える前に、セイレーンの水の咆哮が飛び出すわ!」

 ワーワー!と言い合いを繰り広げる攻略メンバーに、私は小さく肩を竦める。

「シムナさんに援護なんて、必要ありませんよ」

 『むしろ、邪魔になっちゃう』と思案する中、セイレーンはシムナさん目掛けて水の咆哮を放った。
その途端、女性陣は悲鳴を上げる。
だが、しかし……シムナさんは余裕の笑みで、攻撃を────真っ二つに切り裂いた。

「あははははっ!!ねぇーねぇー!君の攻撃って、その程度なのー?弱すぎて、話にならないんだけどー!」

『グギャァァァァ!!』

「えー?なんて言ってるか、分かんなーい!僕、鳥語とか知らないしー」

『グギャギャ、グギャァァァァ!』

「はははっ!やっぱ、何回聞いても分かんないやー!ていうか……」

 シムナさんはそこで言葉を区切ると、空中に浮いたまま斧を構えた。
かと思えば、思い切り投げつける。
『落下しながら物を投げるだなんて、器用な人だな』と感心する中、二本の斧はセイレーンの口内と脳天にそれぞれ刺さった。

「グキャグギャうるさいから、早く死んでー!僕の耳が腐るー!」

『ぐ、ぐっ……ぎぃ……』

 口内に突き刺さった斧のせいで上手く喋れないセイレーンは悲鳴に満たない声を漏らし、光の粒子へ変わる。
淡い光が上空を浮遊する中、刺さる場所を無くした斧が降ってきた。
ソレを、着地と共にキャッチしたシムナさんは軽く伸びをする。

「おお!!さすがシムナさん!!」

「セイレーンをあっという間に倒してしまわれた!」

「俺達も負けてられない!行くぞ!!」

「「おー!」」

 シムナさんの無双劇に心打たれた戦闘班のメンバーは、我先にと結界外へ飛び出していく。
常識が欠落しているシムナさんにも、人を突き動かす力があったらしい。

 意外なところで、カリスマ性発揮かな?

「ラミエル、ただいまー!汚い鳥は駆除しておいたよー!」

「おかえりなさい、シムナさん。セイレーンの駆除、お疲れ様でした」

 『格好良かったですよ』と手放しで褒めると、シムナさんは機嫌よく笑う。
が、何かに気づいたように周囲を見回した。

「あれー?そういえば、なんか人少なくなーい?もっと、居なかったっけー?」

「戦闘班の皆さんなら、セイレーンを倒すため結界の外に出て行かれましたよ。シムナさんの戦いぶりに感銘を受けたようです」

「感銘ー?ただの駆除作業なのにー?」

「シムナさんの圧倒的強さに、きっと胸を打たれたんですよ」

 肩を竦めながらそう答えると、シムナさんは『ふーん?』と相槌を打つ。

 周りの変化に気づけるようにはなったけど、まだ興味を持てない感じかな?
まあ、変化に気づけるようになっただけまだマシか。

「……及第点と言ったところでしょうか」

「ん?ラミエル、なんか言ったー?」 

「あぁ、いえ……何でもありません。それより、お怪我はありませんでしたか?」

 話を誤魔化すようにニッコリ笑いかければ、単純な彼は『えへへ』と笑い返してくれる。
『大丈夫だよー!』と元気よく答えながら。
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