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第五章
第245話『私達のターン』
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「────やっちゃってください!二人とも!」
薄緑色の目ん玉を指さし、そう叫べば遠距離攻撃部隊の二人がゆるりと口角を上げる。
「「ラジャー」」
ファフニールの右目に一瞬で標準を定めたリアムさんと徳正さんは一斉に攻撃を放つ。
彼らの手元から離れた弓矢と手裏剣は真っ直ぐに飛んで行った。
『っ……!?何……!?』
視界の端に異物を発見したのか、ファフニールは直前になって我々の攻撃に気づくが……時すでに遅し!空中を駆け抜ける弓矢と手裏剣はもう目と鼻の先まで差し迫っていた。
瞼を閉じる暇さえ与えられず、青緑色のドラゴンはそのまま右目を射抜かれる。
タラリと白い液体と赤黒い血が薄緑色の目ん玉から流れ出た。
『ぎゃぁぁぁあああああ!?』
左目のみならず、右目も潰されたファフニールは悲鳴を上げながら、両目を押さえる。
奪われた視界と激痛の中で、奴は苦しそうに呻き声を上げた。
感情に揺れる尻尾が床や壁にぶち当たり、砂埃を巻いあげる。
「やったね、ラーちゃん。作戦成功だよ~!」
「タイミングもばっちりだった。セト達の誘導も上手かったぞ」
「さすがはラミエルだね☆」
口々に褒め称える彼らに、『皆さんのおかげです』と笑って返事する。
正直なところ、ここまで皆の動きが噛み合うとは思っていなかった。
ファフニールに大ダメージを与えてくれたリーダー達はもちろん、私を信じて指示に従ってくれたセト達や寸分の狂いもなく右目を射抜いてくれた徳正さん達のおかげだ。
私はただタイミングを指示したに過ぎない。
「とりあえず、これでファフニールの視界を完全に奪うことが出来ました。バハムート並の反射神経と危機察知能力がなければ、私達の攻撃や位置を把握することは出来ないでしょう」
そう言って、私はあまりの痛みにのたうち回るファフニールを真っ直ぐに見据えた。
まだ油断は出来ないと自分に言い聞かせ、スッと表情を引き締める。
「────ここから一気に畳み掛けます!セトの聖魔法と我々の火力で押し切りましょう!」
『全力で叩き潰す』と宣言すれば、誰もがニヤリと口角を上げた。
もう『待て』をする必要は無いのだと悟り、それぞれ愛用の武器を握り直す。
獲物を狙うような目はギラついており、獣のように鋭かった。
もうファフニールに動きを制限されることも、後手に回ることもない。魔力を温存しておく必要だって、無かった。
「ここからは私達のターンです!」
青緑色のドラゴンをビシッと指さしてそう叫べば、ラルカさんが真っ先に動き出した。
ちょっとへっぴり腰になる紺髪の美丈夫を連れて、天井ギリギリの高さまで舞い上がる。
両目を押さえて蹲るファフニールを見下ろし、クマの着ぐるみは『さあ、やれ!』と言わんばかりに武器を構えた。
言葉がなくとも意思は伝わったのか、セトは既に光を宿しているガラハドの盾を前へ突き出す。
「神の祝福に感謝し、恩に報いよ────|《プリフィケーション》!」
力強い声と共に発動した聖魔法は、ガラハドの盾から放たれた。
盾の効果で威力が跳ね上がったそれは眩い光を放ち、ファフニールに急接近する。そして────奴の首下辺りに直撃した。
衝突と共に光は弾け、青緑色の鱗をドロリと溶かす。マグマに似たその液体はポタリと床に落ち、水溜まりを作った。
『ぐぎゃぁぁぁあああ……!?何じゃ……!?何が起きておる……!?』
奇襲に等しい突然の攻撃に動揺するファフニールは胸元辺りを押さえる。
だが、ドロリとした液体に触れるなり、『ひぃっ!?』と小さな悲鳴を上げて手を離した。
何とも情けない姿だが、何も見えない状態で攻撃されれば誰でもそうなるだろう。
私の読み通り、ファフニールの直感はバハムートほど優れていない。いや、むしろ『無い』に等しい。
セトの聖魔法に対処出来ないどころか、気づくことすら出来なかったのだから。これなら、確実に押し切れる。
────と、勝利を確信した瞬間……命の危険を察知したファフニールがバサリと翼を広げ、宙に舞い上がった。
それと同時にラルカさんが床に着地し、ファフニールに斬り掛かったレオンさんの剣が空を切る。
『このっ……!!よくもワシをこんな目に遭わせてくれたな……!?死して、償え……!!』
逆ギレとも悪足掻きとも取れるセリフを吐き、ファフニールは『すぅー』と思い切り息を吸い込んだ。
まさか、当てずっぽう同然の状態であれをやるつもり……?物理攻撃より効果範囲が広いとはいえ、なんて無謀な……まあ、脅威であることは確かだけど。
「皆さん、防御態勢を整えて下さい────ブレスが来ます」
宙を舞うファフニールを見上げ、私は極自然な動作で徳正さんに手を伸ばす。
嬉しそうに私の手を掴んだ黒衣の忍びはスッと目を細め、ヘラリと笑った。
手慣れた様子で私を抱き上げる徳正さんは空いている方の手でニールさんを担ぐ。
「悪いんだけど、君は俺っちの背中に乗っかってくれな~い?」
「了解したよ☆」
両手が塞がってしまった徳正さんはリアムさんに背中を向け、上に乗るよう促す。
大して驚く様子もなく、頷いた白髪アシメの美男子は軽い助走をつけて彼の背中に乗っかった。
徳正さんの首に腕を回し、ひっつき虫のようにしっかり密着する。
さすがは“影の疾走者”とでも言うべきか、彼は三人のプレイヤーを担いでも微動だにしなかった。
す、凄いな……全員細身のキャラクターデザインをしているとはいえ、結構重い筈なのに。
まあ、面と向かって『重い』って言われたら絶対に殴り飛ばすけど……。
「三人ともちゃんと掴まっててね~。振り落とされないように注意して~」
徳正さんの腕に腰掛ける私はバランスを保つため、彼の肩にちょこんっと手を置いた。
ニールさんとリアムさんも徳正さんの腕や首に必死に掴まる。
『首、絞まってない?』と心配する私を他所に────ブレスの準備を整えたファフニールがパカッと口を開けた。
「移動するよ~ん」
危機感なんて微塵も感じさせない陽気な声が聞こえたかと思えば、首がもげそうなほどの暴風が吹き荒れた。
瞬きの間に景色は変わり、私達はファフニールの真下に立っている。
『お荷物を三つ抱えていて、このスピードか』と少し呆れてしまった。
鱗に覆われたファフニールのお腹を見上げ、溜め息を零していれば、不意にリーダーの姿が目に入る。
レオンさんを小脇に担ぐ彼は片手に大剣を持ち、ファフニールへと近づいた。
当てずっぽう同然の黒いブレスは見当違いなところに向けられており、彼らを阻むものは何も無い。少しずつブレスを横にズラして、我々の位置を探るファフニールに、私は苦笑を浮かべた。
飛んでいる状態で真っ直ぐブレスを吐いても私達には当たらないって……まず、高さが違うもん。まあ、たとえ角度を変えたとしてもファフニールの真下に居る私達には当たらないでしょうけど。
冷静さを失うあまり、こんな簡単なミスにも気づけないファフニールは何も無いところにひたすらブレスを吐きまくる。
無駄遣い以外の何ものでもないブレスに呆れていれば、銀髪の美丈夫がトンッと地面を蹴り上げた。
ふわりと宙に浮く彼の体はファフニールの首元辺りまで上昇すると────剣を振り上げる。
脇に担がれた茶髪の美丈夫も同様に剣を構えた。
「狂戦士化10%……|《狂乱剣舞》」
「狂戦士化5%……|《狂剣斬撃》」
リーダーとレオンさんはそれぞれ狂戦士化とスキルを使用し────鱗の溶けた首下辺りに斬り掛かった。
薄緑色の目ん玉を指さし、そう叫べば遠距離攻撃部隊の二人がゆるりと口角を上げる。
「「ラジャー」」
ファフニールの右目に一瞬で標準を定めたリアムさんと徳正さんは一斉に攻撃を放つ。
彼らの手元から離れた弓矢と手裏剣は真っ直ぐに飛んで行った。
『っ……!?何……!?』
視界の端に異物を発見したのか、ファフニールは直前になって我々の攻撃に気づくが……時すでに遅し!空中を駆け抜ける弓矢と手裏剣はもう目と鼻の先まで差し迫っていた。
瞼を閉じる暇さえ与えられず、青緑色のドラゴンはそのまま右目を射抜かれる。
タラリと白い液体と赤黒い血が薄緑色の目ん玉から流れ出た。
『ぎゃぁぁぁあああああ!?』
左目のみならず、右目も潰されたファフニールは悲鳴を上げながら、両目を押さえる。
奪われた視界と激痛の中で、奴は苦しそうに呻き声を上げた。
感情に揺れる尻尾が床や壁にぶち当たり、砂埃を巻いあげる。
「やったね、ラーちゃん。作戦成功だよ~!」
「タイミングもばっちりだった。セト達の誘導も上手かったぞ」
「さすがはラミエルだね☆」
口々に褒め称える彼らに、『皆さんのおかげです』と笑って返事する。
正直なところ、ここまで皆の動きが噛み合うとは思っていなかった。
ファフニールに大ダメージを与えてくれたリーダー達はもちろん、私を信じて指示に従ってくれたセト達や寸分の狂いもなく右目を射抜いてくれた徳正さん達のおかげだ。
私はただタイミングを指示したに過ぎない。
「とりあえず、これでファフニールの視界を完全に奪うことが出来ました。バハムート並の反射神経と危機察知能力がなければ、私達の攻撃や位置を把握することは出来ないでしょう」
そう言って、私はあまりの痛みにのたうち回るファフニールを真っ直ぐに見据えた。
まだ油断は出来ないと自分に言い聞かせ、スッと表情を引き締める。
「────ここから一気に畳み掛けます!セトの聖魔法と我々の火力で押し切りましょう!」
『全力で叩き潰す』と宣言すれば、誰もがニヤリと口角を上げた。
もう『待て』をする必要は無いのだと悟り、それぞれ愛用の武器を握り直す。
獲物を狙うような目はギラついており、獣のように鋭かった。
もうファフニールに動きを制限されることも、後手に回ることもない。魔力を温存しておく必要だって、無かった。
「ここからは私達のターンです!」
青緑色のドラゴンをビシッと指さしてそう叫べば、ラルカさんが真っ先に動き出した。
ちょっとへっぴり腰になる紺髪の美丈夫を連れて、天井ギリギリの高さまで舞い上がる。
両目を押さえて蹲るファフニールを見下ろし、クマの着ぐるみは『さあ、やれ!』と言わんばかりに武器を構えた。
言葉がなくとも意思は伝わったのか、セトは既に光を宿しているガラハドの盾を前へ突き出す。
「神の祝福に感謝し、恩に報いよ────|《プリフィケーション》!」
力強い声と共に発動した聖魔法は、ガラハドの盾から放たれた。
盾の効果で威力が跳ね上がったそれは眩い光を放ち、ファフニールに急接近する。そして────奴の首下辺りに直撃した。
衝突と共に光は弾け、青緑色の鱗をドロリと溶かす。マグマに似たその液体はポタリと床に落ち、水溜まりを作った。
『ぐぎゃぁぁぁあああ……!?何じゃ……!?何が起きておる……!?』
奇襲に等しい突然の攻撃に動揺するファフニールは胸元辺りを押さえる。
だが、ドロリとした液体に触れるなり、『ひぃっ!?』と小さな悲鳴を上げて手を離した。
何とも情けない姿だが、何も見えない状態で攻撃されれば誰でもそうなるだろう。
私の読み通り、ファフニールの直感はバハムートほど優れていない。いや、むしろ『無い』に等しい。
セトの聖魔法に対処出来ないどころか、気づくことすら出来なかったのだから。これなら、確実に押し切れる。
────と、勝利を確信した瞬間……命の危険を察知したファフニールがバサリと翼を広げ、宙に舞い上がった。
それと同時にラルカさんが床に着地し、ファフニールに斬り掛かったレオンさんの剣が空を切る。
『このっ……!!よくもワシをこんな目に遭わせてくれたな……!?死して、償え……!!』
逆ギレとも悪足掻きとも取れるセリフを吐き、ファフニールは『すぅー』と思い切り息を吸い込んだ。
まさか、当てずっぽう同然の状態であれをやるつもり……?物理攻撃より効果範囲が広いとはいえ、なんて無謀な……まあ、脅威であることは確かだけど。
「皆さん、防御態勢を整えて下さい────ブレスが来ます」
宙を舞うファフニールを見上げ、私は極自然な動作で徳正さんに手を伸ばす。
嬉しそうに私の手を掴んだ黒衣の忍びはスッと目を細め、ヘラリと笑った。
手慣れた様子で私を抱き上げる徳正さんは空いている方の手でニールさんを担ぐ。
「悪いんだけど、君は俺っちの背中に乗っかってくれな~い?」
「了解したよ☆」
両手が塞がってしまった徳正さんはリアムさんに背中を向け、上に乗るよう促す。
大して驚く様子もなく、頷いた白髪アシメの美男子は軽い助走をつけて彼の背中に乗っかった。
徳正さんの首に腕を回し、ひっつき虫のようにしっかり密着する。
さすがは“影の疾走者”とでも言うべきか、彼は三人のプレイヤーを担いでも微動だにしなかった。
す、凄いな……全員細身のキャラクターデザインをしているとはいえ、結構重い筈なのに。
まあ、面と向かって『重い』って言われたら絶対に殴り飛ばすけど……。
「三人ともちゃんと掴まっててね~。振り落とされないように注意して~」
徳正さんの腕に腰掛ける私はバランスを保つため、彼の肩にちょこんっと手を置いた。
ニールさんとリアムさんも徳正さんの腕や首に必死に掴まる。
『首、絞まってない?』と心配する私を他所に────ブレスの準備を整えたファフニールがパカッと口を開けた。
「移動するよ~ん」
危機感なんて微塵も感じさせない陽気な声が聞こえたかと思えば、首がもげそうなほどの暴風が吹き荒れた。
瞬きの間に景色は変わり、私達はファフニールの真下に立っている。
『お荷物を三つ抱えていて、このスピードか』と少し呆れてしまった。
鱗に覆われたファフニールのお腹を見上げ、溜め息を零していれば、不意にリーダーの姿が目に入る。
レオンさんを小脇に担ぐ彼は片手に大剣を持ち、ファフニールへと近づいた。
当てずっぽう同然の黒いブレスは見当違いなところに向けられており、彼らを阻むものは何も無い。少しずつブレスを横にズラして、我々の位置を探るファフニールに、私は苦笑を浮かべた。
飛んでいる状態で真っ直ぐブレスを吐いても私達には当たらないって……まず、高さが違うもん。まあ、たとえ角度を変えたとしてもファフニールの真下に居る私達には当たらないでしょうけど。
冷静さを失うあまり、こんな簡単なミスにも気づけないファフニールは何も無いところにひたすらブレスを吐きまくる。
無駄遣い以外の何ものでもないブレスに呆れていれば、銀髪の美丈夫がトンッと地面を蹴り上げた。
ふわりと宙に浮く彼の体はファフニールの首元辺りまで上昇すると────剣を振り上げる。
脇に担がれた茶髪の美丈夫も同様に剣を構えた。
「狂戦士化10%……|《狂乱剣舞》」
「狂戦士化5%……|《狂剣斬撃》」
リーダーとレオンさんはそれぞれ狂戦士化とスキルを使用し────鱗の溶けた首下辺りに斬り掛かった。
応援ありがとうございます!
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